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第三十三話 「リリィの才能」

思いついたので書きました。内容がおかしければに報告をしていただけると嬉しいです。‥…やっと寝れる。

 屋敷に戻ろうと、丁度を下山している時だった。無意識に感じる風からある匂いをかぎ取った。それは少し離れた所から魔物が居る、魔物特有の匂いだった。


「お?」


 魔物の気配に気が付いた俺はそのまま風に意識を集中させた。どうやらここから少し離れた、木々が生えている場所があり、その森の中に居た魔物を存在を風伝いに俺は気が付いた、そしてその魔物の正体も。


「なあ、リリィ、少しばかり腕試しをしてみないか?」


「え?」


 驚いた表情を浮かべたリリィに俺は少し離れた所にある森にある魔物がいる事を皆に伝えるとエルも気が付いていたのかそして声を掛けた理由を感づいたのか頷き、ルヴィもなるほどと俺がリリィに声を掛けた理由に頷いていた。


「リリィ、腕試しに魔物と戦ってみないか、「森の暴君」と」


 ~~~~~~~~~~~~~~


「いや~~~~~~~!」


 そして現在、リリィは森の暴君と呼ばれている熊に追いかけられていた。それも木々をへし折りながら追いかけてくるタイラントベアにリリィは万歳状態で猛ダッシュをしてその目尻に光るものを湛えて逃げていた。そしてその口から出る悪口は必然的にある人物に向けての言葉だった。


「義兄さんの、馬鹿~~!」


 そしてそれはリリィが居る森の中心から少し離れた、森の入り口に居た俺に届いていた。いや厳密に言えば風は俺にとって身近な存在故にその声も容易く拾う事も出来た、そしてそれはリリィへの援護も出来るという事だった。だが俺は援護をすること無く見物することにしていた。今は手を出す時では無かったからだ。


 話は変わるがこの力はここ最近、いや、体が成長して力の許容量(キャパシティ)が増えた事があったの故か、一年ほど前、九才の頃から風伝いに見る事は出来なくても、いや風がそこにあれば、そこに何があるかなどを知る事が出来る様になっていた。そして分かったが、これは一種の異能、いや権能というべき能力(モノ)だった。名前は「風を視る者(シュトゥム)」と勝手に名前を付けた。なぜシュトゥムも名付けたのかは何となくだった。

 そして俺がそうこうしながらしている間リリィは全力で、身体強化魔法「ボディエンチャント」を施した状態で遁走していた。そして今、リリィが身を隠していた木が森の暴君「タイラントベア」にへし折られ、そこからリリィが涙目で再び逃げだしていた。


「あ~、こりゃなかなかに」


 困ったなとばかりに頭を掻いた俺を見てリリィの今の様子が気になったのか、


「今どういう状況?」


 そう隣でリリィの様子をエルが尋ねてきた。そして聞いてはこなかったが同じく気になっている様子だったルヴィにも今のリリィの様子を伝えるとエルは困ったと、ルヴィは訳が分からないとばかりに首をかしげていた。

 これは別にリリィが弱いから逃げているという事に対しての事では無い。寧ろ逆で、リリィ俺達に匹敵するほどの力を持っていた。そしてその力は全体的に見れば俺より汎用性が高かった。そう、ここまで言えばお分かりだろう、リリィは強い。だがなぜか自分より格下の相手から全力で逃げている。それはどうしてか、その答えを俺達は既に知っていた。リリィは、怖いのだ。生き物を、命あるモノを殺すという事が。

 確かに前世での地球、とりわけ日本は平和な国で食料品があり、自分達で直接生きているものの命を刈り取るという行為をしていない。いや、本来、日本であればまずそのような体験をする事は一部を除きまず無い。だがこの世界は命に対して厳しい世界だ。


 何時狩る側から狩られる側になるか分からない命が、軽い世界だ。しかし、同じ世界で生きていたからこそ俺もリリィの思いは理解できる。確かに生き物を容易く、意味もなく殺すのは悪い事だと俺も思っている。だがそれを糧に強くなって生きていけるのであれば俺としては必要な事では無いかと思っていた。


 そしてリリィが未だに遁走しているのは、生き物を殺すことに対しての拒否があるからだろうと俺達は気が付いていた。そして今のこれはその優しさが命取りになる危険という事を教えるためでもあった。だが、


「あ~、これ絶対リリィ逃げる気満々だよ‥‥大丈夫かな?」


 そう、リリィは今現在も必死で走って逃げていた。


 ~~~~~~~~~~~~~~


「はあ、はあ、はあ、ま、まだ追いかけて来るの…?」


 一体どれだけの森の中を走ったのかリリィは分からなかったが、それでもなおタイラントベアがこちらを追い掛けて来ている音をその耳で捉えていた。

 生き物が動くものを追い掛けるのは自然だ、そしてそれが例え力を持った者だとしても、これほど容易に背中を見せれば弱者とみられて追い掛けられるのは仕方がなかった。だがそれでは意味がないという事を、そして義兄であるシルバーが何の意味もなく腕試しに行こうなどと言わない事をリリィは知っていて、その意味にも気が付いていた。


(義兄さんは私に教えたい事、それは、この世界では弱肉強食で、生きるには時に生き物を殺す覚悟を持たないといけないっていう事、だよね。でも‥‥)


 それでも踏ん切りがつかないでいた。リリィは基本的に、いや人間的に血を見るのが、そして争いが苦手な平凡な人間だ。前世でも血を見るだけで気絶したり、喧嘩を見たくない平和な女の子であった。因みに、前世でのリリィの、いや龍宮明音の年齢は二十二歳で、前世での地球では義兄であるシルバー、いや隼人が死んだとき(二十歳)から止まっているとし二つ年上であったのを換算してトントンで、更にこの世界での年齢を合わせても未だに一つほど隼人の方が年上であった。


 そして隼人、シルバーは前世の義妹であった自分に対して最初は驚きはしたものの打ち明けた以降は前世の家族の様に接してくれ、この世界での自分にとってのもうひとり母であり、義兄であるシルバーの実の母親でありリリフィアのおかげもあり、リリィ、いや明音はシルバーの婚約者となっていた。

 それだけでリリィは涙を流すほどに嬉しかった。何せ前世では断られてもいいと、告白しようと思っていた矢先に義兄である兄は死んでしまい、その後高校を卒業し短大に入った後はその地域の職場で働いていたが、義兄が死んで凡そ一年が経った頃に残ったのは明音だけだった。引き取ってくれた義両親は交通事故で、祖母は義兄が死んだショックで義両親が無くなる半年前に静かに死んだ。


 そして、一人孤独に仕事をし、夜は一人で泣いていたある日の夜、いつもの様にお風呂などを終えて眠りに就いた時、一人の巫女服を身に纏った幼女が夢の中に現れた。

 そしてそしてその幼女は明音に尋ねた。「今の人生を、この世界での幸福を捨てても、叶えたい願いはありますか?」と。

 明音は夢ならばと叶わないかもしれない望みだったが、その幼女に言った。「あの人の、義兄と一緒に暮らしたい」と。明音がそう言うと目の前の幼女はこう言った「分かりました。それでは貴女の望んだ、義兄が居る世界へとご案内しましょう。ちょうどその世界に私も用があるのです。ええ、駄目な愚弟を迎えに行かなくては行けないのです」

 と言いながらその幼女は消えていき夢から覚めたと思ったら、気が付けば明音は赤ん坊になっていた。


(ううん、今はそんな事は関係ない。今は、)


 そう、現在も確実にタイラントベアはリリィの元へと近づいてきていた。それにこの世界で生きる為には生き物を殺さなければ自分の身を守る事は出来ない、それならばとリリィは一度深く息を吸いながら目を閉じ、息を全て吐きだすと、目を開け、覚悟を、決めた。そしてリリィは姿を隠していた木陰から出てこちらの位置を探っていたタイラントベアの前に立った。そしてその眼には確かな覚悟が宿っていた。


「もう、一人は嫌だ。私は‥‥義兄さん達と一緒に居たい。だから、決めた」


 リリィはそう言ってこの森に入る前にシルバーから貰っていた剣を、白い鞘に納まっていたシルバーが『クレール・フィーユ』と名付けた剣の柄に手を当てると一息に抜き放った。

 剣の作りは西洋剣で、刀身はほんのりと赤みがかっており、それ自体が仄かに光っているかのようだった。そして鍔の部分にはには青と金色の見事な装飾が施されていた。そしてその剣『クレール・フィーユ』をリリィは両手で構え、タイラントベアと初めて相対した。


「私の障害となるなら、それは敵、私はそれを超えて、義兄さんと、皆と一緒に居たいから、だから」


 それが聞こえた訳ではないだろうが、まるで出来るモノならやってみろとばかりにタイラントベアは雄たけびを上げながらリリィへと突進していった。しかしリリィは動かなかった。


「いや、動く必要がないだけだ」


 そしてなぜリリィがその場から動かないのかを「風を視る者」で視ていたシルバーは気づいており、そして見る事は出来なくても、何となくシルバーの言葉尻からリリィが何をしようとしているのかに気が付いたエルとルヴィはシルバーの言葉に頷いた。

 リリィに向かってタイラントベアは勢いを止める事無く、走り両者の距離は急速に縮っていくがそれでもリリィがその場から動くことは無く、やがて両者は正面から激突した。そして両者が激突し辺りにその威力を物語る衝撃が走り、しかし吹き飛ばされたのはタイラントベアの方だった。そしてリリィの方はただその場に立っていた、いや、変化があるとすれば剣の位置が変わっている事だった。そしてその剣は何かを払ったかのように振られていた。


 傍から見れば何が起きていたのかが分からないだろうこの状況だが、シルバーのその表情にはやっぱりなとばかりの確信の笑みが浮かんでいた。


「やっぱり使ったか、相手の力をそのまま利用して、相手に返す技柔にして剛の「反射」を」


 リリィが行ったのは至って単純な事だった。それは相手の力をいったん受け止め、そのまま返すというカウンターの一種だった。だがこの技は見ている以上にリスクが伴っていた。それは受けるタイミング、力加減を少しでも間違えれば受け止める事は出来てもその衝撃を上手く留めれなれば内から破壊されるという一種の自爆技に近い技だった。だがリリィに関してはこの技、いや受けから攻撃に転ずるカウンターのこの技に対して天性の才能を持っていた。恐らく前世では目覚めていなかった、本人の気が付いていなかった才能だった。


 そして、自身の突進の威力をそのまま返され吹き飛ばされたタイラントベアだったが、のっそりとその体を起こし、その眼は明らかにリリィに対して警戒をしていた。

 そしてそんな警戒心をむき出しのタイラントベアに向かってリリィは「ボディエンチャント」で強化した足で地面を蹴るとまるでミサイルの様に接近して行く。一方のタイラントベアもただ茫然と見ていた訳ではなく、リリィを迎い撃つかのように鉤爪をリリィへと振りかぶっていた。だがリリィは止まる事も臆する事もなく向かって行き、タイラントベアが爪を振るった瞬間、リリィもその鉤爪に合わせる様に剣を振り、剣と爪がぶつかった瞬間、再びタイラントベアが競り負け、一瞬競り合ったその爪は斬り飛ばされた。


「私は負けない。今度こそ、義兄さんと皆と一緒に生きる。だから」


 その言葉を皮切りにリリィの体から深紅色の魔力が溢れ出した。そしてリリィは己の覚悟を決めた。


「私は、あなたの屍を越えていく!」


 覚悟を言葉にしリリィは再びタイラントベアに接近戦を挑んだ。


「やああああ!」


「GURRAA!」


 一方のタイラントベアは残ったもう片側の鉤爪で向かう撃った。そして剣と爪がぶつかり合う瞬間、タイラントベアが一瞬爪を振る動きを止めた。


「え?‥‥っ!」


 そして気が付くとリリィは吹き飛ばされ、その背を木へとぶつけた。そして今度は吹き飛んでいなかったタイラントベアを見てリリィどういう事なのかと困惑した。そして気が付いた、先程、自分に衝撃が来なかったことに、いや来たがそれがほんの少し遅れてきたという事に。そしてなぜリリィが吹き飛ばされたのかを視ていた俺とエルすぐにいや、以前の模擬戦をした時から気づいていた。因みにルヴィは散歩してくると少し前からここから離れて別行動をとっていた。


「どうやら、タイラントベアは本能的に一瞬だけ爪を振るタイミングを遅らせたんだろうな。そしてタイミングをズラされ、カウンターが失敗したタイミングで剣に爪が当たった、結果リリィが吹き飛ばされたんだろうな」


「うん、リリィのアレは確かに強い。でも失敗すればリスクも大きい」


 そしてその一瞬のズレはリリィのシビアなタイミングの「反射」に対しての有効な手段だった。もちろんタイラントベアも狙ったわけではないだろうが、野生の本能というべきモノで咄嗟に行ったものだったのだろう、しかしそれによって確実にリリィへとダメージが入っていた。


「う、くっ」


 背中に鈍い痛みを感じながらも立ち上がり、タイラントベアと相対した。ダメージでみればタイラントベアの方が重い。だがそれでも心のダメージにおいてはリリィの方がはるかに重かった。そして相手の野生故に迷いを読む事に長けていた。


「GURRAA!」


「くっ!」


 攻めと受けが入れ替わった。リリィはタイラントベアは鉤爪と噛みつきの攻撃を鍛えられた反射神経と身体能力でどうにか躱しながらもその頭の中には先ほどの攻撃がなぜ反射出来なかったのかという疑問で埋め尽くされていた。


(一体どういう事なの、どうして私の反射が効かなかったの‥‥‥‥‥あっ)


 思考に意識が向いたせいだろう、リリィの回避の動きが明らかに落ち、そのタイミングでリリィの顔目掛けてタイラントベアの鉤爪が迫っている事に気が付いたリリィは咄嗟に頭を傾ける事によって回避することは出来、一端後ろへと下がった。見た感じでは回避は出来ていた、が完全な無傷とはいかなかった。その頬には一筋の赤い線が浮かび上がっていた。


(いけない、考えに意識が向くと危ない。でもさっきの真相が分からないとあれが使えない)


 リリィがそう考えている間に再びタイラントベアは近づいて来ており、その鉤爪が迫ってきていた。しかし自身を傷つける鉤爪が迫る中でリリィが思い出したのは模擬戦での義兄からのアドバイスだった。


『う~ん、何て言うかな、リリィは反射を使う時はもっとこう、力を抜いてもいいと思うぞ?』


『どういう意味ですか?』


 義兄からのアドバイスなのだろうがリリィは良く分からなかったのでどういう意味かと尋ねた。すると義兄は困ったような表情を浮かべながら答えてくれた。


『何となくだけど、リリィは反射を使う時、体が少し強張っていて、視界が狭まっている気がするんだよ。だから反射を使う時はもう少し肩の力を抜いて、もう少し周りを見てみるのもいいんじゃないか?』


 そのアドバイスを思い出した時、リリィは咄嗟に先ほどと同じくその鉤爪へと剣を打ち合うだろうその瞬間に意識を向けた。


 タイラントベアは学習していた。先程目の前の獲物が最初このような動きをしてきたとき自身は吹き飛ばされた、二度目も同じく。だが三度目の時、なぜか分からないが少し腕を振る速さがズレただけで先ほどは自身が吹き飛ばされたと言うのに自分ではなく獲物が吹き飛ぶのを。

 そして理解した。目の前の獲物がその動きをした時、動きを一瞬だけでも遅らせればいいのだと。そして、今回も同じように獲物が持つ剣とぶつかるタイミングを僅かにズラした。そして獲物が吹っ飛ぶだろう方向に向けて足の力を込めた瞬間、獲物が遠ざかった。いや遠ざかったのではない、自分が吹き飛ばされているのだとタイラントベアは背を地面に打ち付けて理解した。しかしまだ起き上がれると体を起こそうとした瞬間、胸から何やら温かいモノの感触があり、そしてそれ消えていくと同時にタイラントベアの意識も薄れていき、良く分からないが最後の力を振り絞った爪の一撃も弾き返され、最後に見えたのは、自分を見下ろす赤い瞳の人間だった。


「はあ、はあ、はあ‥‥‥…ごめんなさい」


 完全に息絶えたのを確認してリリィはタイラントベアの胸に突き立てた剣を引き抜いた。剣を引き抜く際赤い雫が目に入ったが、リリィはそれを見て罪悪感と胸の中に酸っぱさが湧きあがて来るのを感じていた。


「うっ」


 そのままリリィは近くの木陰に駆け込むと上がってきた酸っぱい物を吐き出した。


「‥‥よくやったな」


 覚悟を以て命を絶ったリリィを俺は素直にその言葉が出て来ていた。個人的な理想で言えばタイラントベアを迎撃、追い払えれば良いと思っていた。だがリリィはシルバーの予想以上の事をやってのけた。


「こりゃ、久々に帰ってご馳走でも作ってやるかな。あ、エルはここでルヴィを待っていてくれ」


「うん、分かった」


 そう言って俺は立ち上がるとリリィの元に向かって歩き始めた。

どうにか、書けました。今話は家に戻ってからの話にしようと思ったのですが、その前にリリィの力の一端でも見せればと思ってしまい、この話を書くことにしました。そして次こそは家での話を書きたいと思います(…思いつけば)修正などおかしい所があれば報告お願いします。

それでは、また二週間ほどの間に投稿が出来ればと思います。それでは

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