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第二十七話 「戦う者」

遅くなりました。2021年6月11日に大幅な改稿、改修をしました。また本話のタイトルも変更しました。そして今回の改稿でが‥‥文字の量が増えてしまいました。

( ゜Д゜)←改稿が終わり、確認した時の投稿者の顔。

その際、気持ちがプッチンしてしまい、少々危ない精神状態に落ちましたが、休んだおかげで本日復活しましたので、改稿を続けていきます。ご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願いします。

 ~アルス~~


 龍から逃げるように町に向かってくる、数えるのも嫌になるほどの魔物。それらに向かって魔法、矢が斉射され複数の魔物を吹き飛ばし、倒すことによって僅かに動きが鈍るも、動きの鈍った魔物は後続に潰され、飲み込まれる。それはまさに濁流の様だった。


「はぁ、やれやれ、豪勢な事だな…」


「そうだね」


 俺の愚痴にロートも同意とばかりにうなずく。

 そして、思わず俺がそう愚痴りたくなる要因がもう一つ。それは普段は姿を見せない中級、果ては上級に属する魔物も混じっており、それらが頭となり町へと迫る。


「魔法士隊、初級魔法詠唱やめ! 第一隊は中級、または上級魔法の詠唱を開始! 第二隊は前衛に支援魔法、防御じゃなく、力と敏捷性上昇を優先!第三隊は回復魔法に専念!」


「第一弓隊、魔法士隊の負担軽減の為に、矢の弾幕を増やせ! 第二隊は弩による精密狙撃を優先。第三隊は適宜第一、または第二隊の者と適宜入れ替われ!」


 後衛。町の城壁に居るのは弓、または魔法を得意とする冒険者のほかに、無駄に死者を増やさない為にEランク以下の冒険者が配置されており、指揮するのはBランクである俺達よりも上、二人のAランク冒険者で【閃弓】と呼ばれる弓士にして、並の人間で到底引けない剛弓を意図も容易く扱い、閃光の一射で魔物を仕留める冒険者、ガート。


 そしてもう一人は、ガートと同じパーティーの魔法担当、使える魔法属性は水の一属性シングルだが、そこから繰り出される多様な水属性魔法によって【水精】の二つ名で呼ばれる女魔法士ウェリエラ。この二人によって後衛は指揮されていた。


「中衛、前衛より抜けてきた魔物は一人ではなく、二、三人で対応しろ。決して焦るな。最悪弱らせればそれでいい。怪我を負う事の方が問題だ。抜けた魔物は後衛が倒す。また後衛からの支援魔法があるとはいえ、決して奢るな。死ぬぞ」


 そして、前衛と後衛の間。即ち町の最終防衛線を担う中衛を指揮するのは、【城楯】の二つ名で呼ばれる、全身鎧を身に纏い、片手にて一メートルを超える大きさの盾を持つ性別不明の盾士、ビリア。


 そして、最前線こと前衛の指揮を執るのは、何故か、俺になっていた。


「あの~、やっぱり貴方の方がいいのでは?」


「そうですよ。なぜ私たちなんですか?


 改めて、荷が重すぎるので変わってください。そんな願いと共に俺は前に立つ腰に二振りの剣を佩く女冒険者に声を掛けるが。


「あ~、無理無理。 私、戦うことは出来るけど、頭を使うのって全然だめなのよね」


 と笑顔で否定したが、言葉が足らなかったとばかりに再び口を開く。


「でもまあ、まったくじゃないけど、慣れてないのよ。それに、私は前で戦うことを、貴方は知っているでしょ?」


「はい。二つ名。【血塗れの双剣士(ブラッディ・ダンサー)】がそれを見事に表してますね。メアリーさん」


「あはは、そうだねぇ。名は体を表すって、良く言ったもんだよねぇ」


 今は、明るい姉御肌のような女性、メアリー。されど戦いとなればそれはまさに命を刈る死の刃と化し、魔物の血に塗れる様子から、そんな物騒な二つ名が付けられたAランク冒険者にして、【閃弓】ガート。【水精】ウェリエラ。【城楯】ビリアが所属するパーティー、【全装者(オール・アルグン)】のマスター。それが目の前のメアリーだった。


「それと、もう一つ。君たちを指揮を任せるのは、私たちはこの辺りに詳しくない。なら、前衛の指揮はこの辺りを知っていて、尚且つ戦えて指示を出せると思える存在である、君たちが適任だ。違うかな?」


「いえ、間違ってはいません」


 メアリーさんの言葉を、ロートが肯定し、俺も頷く。


 確かに。その地を知っている冒険者が指揮した方が、慣れていない冒険者が指揮した場合と比べて被害も、そして何より冒険者たちからも理解も得やすい。

 メアリーさんは、恐らくそれを理解して、俺たちに前衛の指揮を任せたのだと、分かってはいるが、それでもどうしてもメアリーさんの方がいいのではないかという思いは燻る中、シャランっと音と共に、メアリーさんは腰の鞘から二振りの剣。片や深い蒼色の刀身、片や僅かに赤の混じるまるでマグマを固めたかのような赤と黒が入り混じった剣を抜いていた。


(あれが、メアリーさんの愛剣【吞み込む者(スワロウ)】と【喰らう者(ブラッティ・イーター)】か)


 その二つは、まるで意思があるかのように仄かに光を発しているかのように見えた。


「さて、それじゃあ、始めようか!」


 そう言うと、メアリーさんは駆け出し。


「全員武器を構えろ! 突撃!」


 メアリーさんを追うように俺は武器を構える指示を出し、魔法攻撃と弓による攻撃で幾らか散った魔物の群れへと突撃した。



 ~シルヴァ~


 俺たちは、念の為に即座に前衛に向かうのではなく、後衛で【風を視る者(テンペスタ)】を使って、戦況を見ていた。


(戦況は‥‥少し、押され気味か)


 見た限り、戦略としてはそこまで数が多くないが、実力上位者であるA~Cランクの冒険者で構成された前衛で出来るだけ数を減らし、Dランク冒険者で構成された中衛では、前衛の援護兼抜けてきた魔物を複数人で倒し、後衛は魔法による前衛の支援と援護。そして中衛

 より抜けた、しかし弱った魔物を確実に倒すが、やはり徐々にだが中衛を抜ける魔物が増えていた。

 その原因は、前衛が上級、または中級に属する魔物と戦っており、結果それ以外の魔物が中衛に流れ、中衛が対応しきれなかった魔物を後衛が対処するという状況になっていた。



「シルヴァ、これは駄目じゃない?」


「ああ、これは拙い感じだな」


 今の状況はじり貧と言った所で、恐らくこのままいけば、まず後衛が疲れ、それによって前衛の援護が滞り、結果中衛の負担が掛かり、最終的には壊滅。凡そ起こりうる最悪の事態が頭の中で容易に想像できた。

 だが、まだそうなっていないのは、単に前衛でやたら血塗れになりながら双剣を振るう、一人の女と、それを援護しつつ、別の魔物と戦う男女の姿があった。


「負傷をしたものは、中衛の奴と入れ替われ! また、一人で戦わず、一体一体確実に倒していこう!」


「「「「「おおおおおぉぉぉ!!!!!」」」」」


 アルスの言葉に、前衛の冒険者達は声を上げ、確実に魔物を倒していく。もちろん、その影響で中衛、後衛に負担が増すが、俺としては別に悪い判断だとは思えなかったが、それでもじり貧であることに変わりはなかった。ゆえに。


「エル、ルヴィ。前衛に行ってある魔物を倒すぞ」


 正直、龍を相手にするのでそこまでの疲労する戦いは出来ない。けど、みすみす死なせるというのも業腹だった。ゆえに決めた。


「分かった」


「了解です!」


 そして、俺の決定にエルとルヴィは頷き、それを見た俺は無属性魔法、全身強化ベルガを発動させ、エルとルヴィも同様に発動させ、前衛の居る最前線へと駆け出した。



 ~アルス~


「くそっ! 多すぎる!?」


 当初の予想していた数よりも魔物の数も多く、更にCランク冒険者が三人で対応する強さの中級の魔物が二十体。更にCランク冒険者が十人は必要な上級の魔物が五体と、圧倒的に手が足りない状況に前衛は陥りつつあり、お陰で他の魔物を対処する余裕は無くなってしまった。そして、現在、五体いる上級魔物の内の一体である双頭の毒蛇(ツヴィズ・スネーク)と戦っていた。


「くっ!」


「紅蓮の炎、縛り、焼き払う糸となり、紡げ!炎覆網(ヴェイラ)!」


 双頭の内、片方の頭からの毒液を回避したが、疲労が溜まっていたのか足がガクついた、そのタイミングで残ったもう一つの頭が迫った時、ロートの火属性魔法「火覆網(ヴェイラ)」によってその体は炎の網に絡めとられ、その身を炎に焼かれ、死に絶え、辺りに魔物の気配が無いのを確認し、ようやく一息つくことが出来た。


「すまん、助かった!」


「思った以上に疲れがきてる、気を付けて!」


「…ああ」


 後衛からの支援魔法のお陰で幾分か体は軽い。だが肉体的疲労は別なので、忘れかけていたそれを改めて思い出しながら、体に活を入れるように足に向けて拳を振り下ろすと、鈍い痛みと共に、僅かに足の疲れを誤魔化せた、気がした。


「もう、そんなんじゃ駄目だよ。治癒(ヒーリング)


 その様子を見ていたロートは呆れた表情を浮かべながら水属性回復魔法「治癒(ヒーリング)」を掛けてくれたことで、足の鈍くなっていた感覚が幾分か戻ったようだった。


「悪いな。魔力だってそんなに残ってないのに」


「うんん。私が出来るのは魔法だから。それにアルスが居なきゃ戦えないからね」


「お、おう‥‥そ、それより、早くメアリーさんの所に…」


 そこにあったのは、戦友であると同時に幼馴染であるアルスにだけしか見せない、そんな信頼の籠った笑顔で、アルスは思わず顔が赤くなった気がして顔を横に向けたお陰で、近づいてくる三つの影に気が付いた。



 ~シルヴァ~


 門からの最短ルートである最前線にたどり着く方法。それはいたって単純で一直線に走って行くことで、途中魔物を倒しながら突き進み、そろそろ最前線に着くという時だった。


「あれって、アルスって人とロートって人じゃないですか?」


「…本当だ」


 ルヴィの言う通り、少し先にアルスさんとロートさんの二人が立っており、どうやらアルスさんも気づいたようで、こちらに手を上げていたので、俺たちは一旦寄ることにした。


「どうも。あれ、もう一人の人はどうしたんですか?」


「ああ。あいつは依頼のためにパーティーを組んだ奴でな、依頼を終えた後に別れたよ」


「そうなんですね」


 どうやら、一時的なパーティーだったようで、冒険者のパーティーってそんなものなのか。と内心で思いながら、俺は気になったことを尋ねる。


「ところで、その魔物はお二人が?」


「ああ。だが、こいつ一体でかなり消耗してしまったがな」


 アルスさんが指さした場所には、こんがりと焼かれ息絶えている双頭蛇の魔物の姿があった。


「こいつは確か、Bランク冒険者でも苦戦する双頭の毒蛇(ツヴィズ・スネーク)じゃないですか。良く倒せましたね」


「ああ。正直、ロートが居なければ俺は死んでいたな」


「でも、アルスが全力を出したら、倒せてたでしょ?」


「今は持久戦だ。魔力を大量に消費するアレは使えないさ」


 アルスさんのいうアレというのは、恐らく二つ名の由来となっている【蒼焔剣】。それは今の話を聞く限りアルスは火属性魔法が使え、それを剣に宿すみたいなのが出来るのかもしれないが、どうやら見る機会は無さそうだった。

 それより、先ほどから気になっている事を尋ねた。


「ところで、この先に一人で魔物三体と戦っている人が居るんですけど、知ってますか?」


「そうだ、メアリーさんと合流しないと!」


「メアリーさん?」


 聞いたことのない名前で、思わず俺たちは首をかしげると、知らないことに驚きながらも、取り敢えずメアリーさんの所への移動がてらアルスさんが教えてくれた。


「ここに来るまで、多分見たと思うが、町の城壁に弓と魔法士の隊が居なかったか?」


「見ました。即席にしては結構連携が取れてましたね」


「その隊を指揮しているAランクの冒険者二人と、もう一人中衛で全身鎧と大きな盾を持った人も同じAランクでな。その三人を束ねるパーティーのマスターが、今向かっているメアリーさんって人なんだ」


「という事は、かなりの実力者なんですね」


「ああ、一人で上級の魔物三体を相手取って戦っているのが、いい証拠だ。聞いた話じゃ、近々Aランクの上、最強位の冒険者に与えられるSランクに昇格するって話もあるくらいだからな」


「Sランクですか」


 冒険者のランクは、その活動年数ではなく、どんな魔物を倒したか、どんな事をしたかなどによって評価され、中でもSランクは極僅かな実力者のみがなれる人外にして最高にして最強の称号を与えられるのと同意義のランクだった。


(そら、そんな人なら圧倒的不利な数でもやられずに反撃も出来るわけだよ)


 移動している間も風を視る者(テンペスタ)で見ていたが、その動き一つ一つに無駄がなく、先ほど二つ名の方も聞いたが、まさに剣という表現があっているなと感じたほどだった。


 そして、辿り着いた先では。


「はっはっはっ! それそれ、そんなんじゃあ私を捉えられないよ!」


 三対の魔物を速さで翻弄しつつ、繰り出される斬撃によって魔物は血しぶきを上げるなか、笑顔で戦う戦闘狂の女がそこに居た。


「えっと、アレがメアリーさんですか?」


「ああ。戦っている姿は、初めて見るけどな」


「私も」


「凄いですね!」


 ルヴィのシンプルな感想だが、それに俺は全面同意だった。支援魔法の効果があるとはいえ、遠目でも追うのが大変なほどに一瞬にして急加速、急停止をしているので、相対している魔物からすれば一瞬にして移動されて困惑してしまい、その隙に攻撃されるという流れが出来ているように思えた。


「行きますか」


「ああ」


「そうだね」



「行く」


「行きましょ~!」


 しかし、いつまでも見ているというのは現状において悪手なので、一斉にそれぞれの魔物、メアリーさんが相手をしている、口から強酸性の唾液を吐きだす巨大蜥蜴アシッド・サンデクセン以外の魔物。

 俺たちは森の暴君とも呼ばれる大爪熊(タイラントベア)へ。もう一体である紫の水晶に似た角を持つ人食い馬である晶角馬(ディーア)をアルスさんとロートさんが立つ。


「さて、それじゃあ、早めに倒していくぞ!」


「分かった」


「了解です!」


 その掛け声と同時に、俺とルヴィは一息に大爪熊(タイラントベア)へと距離を詰め、後方からエルが火属性魔法「火槍(イギアス)」を放つ。

 が、「火槍イギアス」は爪によって切り裂かれ、消滅してしまうが。それは注意を向けさせる為の、エルの誘いだった。


「せああぁぁぁ!」


 一足先に距離を詰め、剣を振り切るがその感触は何処か浅いもので、違和感を感じた。


(これは、毛と脂肪で斬撃を吸収されたか)


 違和感の正体、それは大爪熊(タイラントベア)の毛と脂肪によって斬撃を減衰させられたのだ。


「やああぁっ!」


 そして、遅れて時間差で距離を詰めてきたルヴィの一撃を受けて、大爪熊(タイラントベア)は五メートルほど吹き飛ばされたが、即座に起き上がる。


「グルルルルッ!」


「むぅ、柔らかくて殴りにくいです!」


「これは、ちょっと面倒くさいな」


 長時間の戦闘になれば、この後の戦いに響く。なら、短期決戦。一撃を以て終わらせる。


「ルヴィ、悪いが少しだけ時間を稼いでくれ。エル、出来れば奴に出来るだけ深い傷をつけてくれ」


「はい!」


「分かった」


 俺は、肩幅に足を開いた後、左足を一歩後ろに下げ、僅かに腰を下ろした状態で全身強化(ベルガ)を発動させ、納刀した剣を構える。


「グラアアアッッ!」


 そうしている間に四足歩行にて突進してくる大爪熊(タラントベア)に、ルヴィは正面から突っ込み、受け止める。


「この程度の力に負ける程、私は弱くありません!」


 ルヴィは受け止めるだけではなく、更に左の拳を引くと、大爪熊タラントベアの眉間に叩き込み、再び吹き飛ばし。


風羅斬(ギルア)


 追い打ちにエルは風の刃を放つ風属性中級魔法「風羅斬ギルア」を複数放ち、大爪熊タラントベアの毛と脂肪の防御を潜り抜け、明確な傷を与える。


「ギャアッ!」


 そのタイミングで、倒す算段は整った。


「重閃、参」


全身強化ベルガ」によって強化された足で、一瞬にして大爪熊タラントベアとの距離を零とした瞬間、納刀していた剣を抜刀し、先ほどエルが付けた傷にぴったりと添える重ねると同時に「魔刃強化(ゼル)」を発動し、剣は途端に一切の重みが無くなり。

 ザシュウッ!

 そんな音と共に、大爪熊(タイラントベア)の胴体の半分以上が切断された。


「グル‥‥ガアァァァァッ!」


 が、それでもまだ生きていた大爪熊(タイラントベア)は最後の力で両の爪を振り下ろすが、その爪が俺に届く前にエルの「風羅斬(ギルア)」によって落とされ。


「これで、トドメです!」


 頭上に飛び上がったルヴィの、脳天へと放った一撃によって、大爪熊(タラントベア)の体は力なく倒れ、起き上がることはなかった。


「ふぅ…ッ!」


 一息吐きつつ、剣を納めた時、背筋に悪寒を感じ、俺とルヴィはその場を即座に離脱した直後。風の衝撃はとしか言えない見えない何かが通り過ぎたが、通り過ぎた地面は抉られており、風が来た方角を見るとまだ遠く小さいが。


「…アレか」


 そこには、本命というべき、九つの頭を持つドラゴンが悠然と立っていた。それはまるで、誘っているかのようだった。


「どうする?」


「下手にさっきみたいなのが来るのは避けたからな。行くしかないだろ」


 正直、相手の誘いだと分かっているのに、乗らないといけないのは気に食わないが、下手に被害が広がるよりは、マシだった。


「エル、ルヴィ。大丈夫と思うが、最大限の警戒をしていくぞ」


「うん」


「了解です」


 走って行くのを考えたが、不測の事態を想定して俺は風魔法「風翼(カルム)」を発動させる。まず背中に風を圧縮した見えない鳥を模した翼を構成すると同時に、見せない卵状の風の膜が包む。

 そして、翼の角度を調整し、両翼から周囲の空気を取り込むと同時に瞬時に圧縮。圧縮した空気を一気に放出し、俺は地上から空へと飛び立ち、そのまま九頭龍の所へと飛翔し、俺を追うようにエルとルヴィも同様に「龍翼(カルム)」を展開し、飛翔した。


 ~アルス~


「すげぇ」


「あれ、飛んでるの…?」


 戦闘の最中だというのに、俺たちは目にしたものが信じられなかった。何せ、空を飛ぶのは風属性が使える中でも、かなりの制御能力が必要とされていて、まず空を飛ぶのは不可能と言われていると、聞いたことがあったからだった。


「なんというかっ!‥‥‥流石はお前が憧れる人の息子だな!」


水穿弾(ヴィゼ)! そうでしょ!」


 空を飛んで行った場所は分からないが、恐らく遠目でも分かった、見えない何かを放ったところ、考えられるとすればこの事態を引き起こした存在。天災たる存在、龍。

 そして、恐らくあいつらはそこへと向かったのだと、予想できた。晶角馬(ディーア)の突進と、角の攻撃を搔い潜りつつ、信じると決め、決断する。


「ロート。あれを使うから、時間稼ぎを頼む!」


「…分かった!」


 俺の言葉の意図を理解したロートは、即座に魔法を攻撃系から、拘束系の魔法に切り替える。


「癒しの水、されど今は身を縛り、動を禁ずる鎖となれ! 【水陣拘鎖(ヴィ・ラビス)!】


 ロートが発動させた、周囲に水の陣を構成、対象を陣の中心にて鎖で縛り上げる【水陣拘鎖】によって、晶角馬(ディーア)の動きが、止まった時。俺の準備も整った。


「我が焔は剣、触れたものを焼き灰燼と化す」


 突き出した両手に全魔力を集中し、まずは炎を作り出し、それを徐々に剣へと形を変えていく。


「自らの炎、鍛えに至は蒼き焔、蒼焔の刃」


 剣の形成が終わり、そして、赤い焔は根元より蒼い焔へと塗り替えられていき、やがて全てが蒼い焔へと変わり、俺はそれを両手で掴む。


「【蒼焔剣(オウガ)】、ここに在り!」


 自分で編み出した、武器を失った際に備え、魔法で焔の剣を作るという無茶な発想の元、幾度の失敗と怪我の果てに完成させた、自分の二つ名となっている火属性上級魔法剣【蒼焔剣】を、構える。


「アルス、お願い!」


 ロートがそう言った瞬間、晶角馬(ディーア)の動きを止めていた【水陣拘鎖】が破壊される。


「ブルルアアアァァァっ!」


「さあ、死に様に受けるがいい、俺が鍛えた蒼刃をなぁ!」


【蒼焔剣】を発動させたせいで、残り僅かな魔力で全身強化ベルガを発動させると、晶角馬(ディーア)へと走りだした。



 ~シルヴァ~


「こいつは一体、どういうことだ?」


 俺は、思わず目の前の状況に困惑するほかなかった。

 九頭のドラゴンに着くまでにかかった時間は、およそ二十秒にも満たない時間だった。そして、飛ぶ間も注意深く視ていたのだが、俺たちがドラゴンに着く直前、九つあった首の内、中央の一つを残し、それ以外の全ての頭が一瞬にして切断され、血しぶきをあげ、崩れ落ちたのが少し前。


「一体、誰が…!?」


 突如として背中に悪寒に似た何かを感じ、俺はもう一つの剣【天叢雲剣】を振るうと、一本の朱槍を弾き飛ばすも、槍はまるで意思があるかのように地に落ちることなく、主の元へと戻る。


「ふふふ、必ず来ると思ってたよ」


「お前は、昨日の!」


「にゃははっ!覚えていてくれたんだね。嬉しいよ」


 倒れたドラゴンの背中から降りてきたのは。昨日、町中で意味深な言葉を残して消えた、あの女性だった。


「それじゃあ、まずは…」


 自然流れで構えを取ったと認識した俺は咄嗟に全身強化(ベルガ)を最大まで強化し剣を振ると、重く硬いもの同士がぶつかった音と共に、火花を散らす。


「「シン!」」


 エルとルヴィの声が聞こえたが、振り返る余裕はなかった。


「うん。まだまだだけど、これを防げるなら、合格かな?」


 そう言うと、女はまるで今の攻撃が嘘のようにあっさりと距離を取った。


「どういうつもりだ?」


「いや、君が私の望みに答えられる人か、試しただけ。結果は合格。だから、私の名前を教えてあげるよ。私の名前はカルアス。以後お見知りおきを」


 今の動きで、俺は全身に嫌な汗に加え、右腕の中から幾つもの釘が突き出す、恐らく骨折しているが故の痛みを我慢しつつ、視線は女、カルアスから外さなかった。いや、外せなかった。


「後ろのドラゴンと言い、お前の目的はなんだ?」


「あら、私と後ろの龍の関係は気づいているね。それと目的、ね。それを言うのはまだ早いかな?っとその前に」


 軽い口調、されど体から髪と同じ濃密な紅い魔力が溢れ、カルアスは振り向くと同時に槍を投擲し、投擲された槍は朱い軌道を空に残し、ドラゴンの胴体を抉るように突き刺さった。

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