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第二十六話  「暴走魔女」 

2021年6月5日に大幅改稿、改修をしました。

また、次話に関しても改稿作業をしておりますので、少しお待ちください。

ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。

「あの‥‥どなたでしょうか?」


「ええっ!覚えてないの!?」


  少々鼻息荒げに話しかけてきた髪と同色の、赤のローブ、そして装飾が施された杖を持つ魔法使いの女性冒険者は、ショックを受けたのか後ろに仰け反るなか、念のため、目の前の女性と会ったかと記憶を探りなおす。


(う~ん、やっぱり会ってないような気がするなぁ)


 俺は、もともと然程記憶力がいい方ではなく、よほど印象になるか、気になった相手でなければ顔を覚えることが出来ない。もちろん、例外は存在するが。

 しかし。そうであれば、目の前の女性の勘違いという事になるが…。と、そうしている間に衝撃から復活したのか、女性は再び話しかけてきた。


「あの、本当に覚えていないんですか? 一応、初対面じゃないんですよ?」


「え、そうですか?」


 正直、勘違いではないか。俺はそう思っていただけに初対面ではないと言われて、素直に驚き、もう一度記憶を探るために、女性の顔を見つつ、ここ数日の記憶を漁る。


(う~ん。ここ数日であったのは、確か果物屋のおばちゃん。それとゲンドゥさんとミランダさんだけど、この人には会ってない気がするんだが…)


 少々不躾だとは思ったが、俺は女性を上から下まで見る。


(赤いローブに、装飾された杖。明らかに中級か上級レベルの実力を持っている魔法使い‥‥あ)


 そこまで考えた時、ふと記憶に引っかかった人物が居た。確かにその人は目の前の人と同じローブを身に着けていたが、その時は確かローブについていたフードを被っていたはずの人物で。


「ええっと、もしかして。昨日のアルスっていう人とパーティーを組んでいた、魔法使いの方ですか?」


「あ、そうです! それが私です!」


 どうやら正解だったようで、女性は子供のように嬉しそうに笑うと、少し距離を取る。


「では、自己紹介をさせていただきますね。私はロート。見た目通りの魔法使いで、後方からの支援や援護をしてるの。ちなみに、昨日貴方に声を掛けたアルスは私の幼馴染なの」


「という事は、幼馴染でパーティーを組まれているんですか?」


「ええ。かなり有名になっているんだけど。私たちもまだまだってことだね、ね? アルス?」


「言うなよ。こちとら、昨日の自分が恥かしんだからよ」


 そう言って近づいてきたのは昨日、俺たちに声を掛けてきた「蒼焔剣」という二つ名持ちの二十代前半の青髪の冒険者、アルスだった。


「そうそう、しっかり反省してよね? リリフィア様の息子さんにあんな事を言ったんだから」


「それは、お前も同じだろ?」


「うっ…そ、そうだけど」


 アルスからの反撃に、女性は言葉を詰まらせ、視線を横に逸らした時、俺は口を開いた。


「…貴女は火と水属性の魔法が扱えますね」


「‥‥え、どうして私が水も扱えるって分かったの?」


  火と水を扱えると俺が言うと鼻高々の表情だったロートさんの顔が驚きに変わった。しかしそれは仕方がない事かもしれなかった。何せ俺はまだ明かしてもいない属性を当てたのだ、寧ろ驚かない方がおかしいモノだった。しかしいつまでもネタバレをしないのも悪いと俺はどうしてロートさんの魔法属性を知り得ることが出来たのかを教えることにした。


「簡単な予想ですよ。魔法にも種類はありますけど、二人パーティーで、支援や援護を担うには二つの属性が必要。そう思っただけです。もちろん、一属性であったとしても、魔法陣を描くなどありますけど。どうですか?」


「凄い‥‥流石はリリフィア様の息子さん!いてっ!?」


「落ち着け」


 俺の話を聞き、先ほどよりも更に興奮しだした女性の後頭部に、アルスはチョップを入れ、一方の女性は恨みがましく見たが、アルスが堪えた様子はなく、寧ろ慣れているようにも感じられ、やがて女性の方が折れた。


「もう‥‥それにしても、あれだけの情報で私の属性を当てられるなんて、流石は

 あいたっ!?」


「何度も言わなくていい」


 今度は、先ほどよりも強かったのか、女性はそのまま地面に屈み、一方のアルスはと言えばため息を吐いていた。


「すまないな。こいつはリリフィアさんに憧れていてな。少々暴走するときもあるが、悪いう奴じゃなんだ」


「ええ、それはなんとなく分かります‥‥ご苦労されてますね?」


「惚れた弱みだ。もう慣れたよ」


 そこには、もはや諦めを越え、諦観に似た境地へと至っている男の姿があった。


「それにしても、確かにアレだけでよくこいつの属性を当てれたもんだな」


「実を言えば、なんとなく火は分かったんですけど、水は半ば感でしたよ」


「へぇ。という事は、お前さんは火属性が使えるのか?」


「はい。火だけじゃなく、もう一つ。風も使えますよ」


「へぇ、それじゃあ、こいつと同じ二属性デュアル使いって訳か」


「へっ!?」


 話を聞いていたのか、蹲っていたロートが勢いよく顔を上げ、その表情はとても驚いたものだった。


「良かったな。リリフィアさんと同じ一属性シングルじゃなくても、その息子と同じ二属性デュアルで」


「うん」


 と、再び俯いたロートさんにアルスがそう声を掛ける様子から、付き合いの長い二人にしか分からない会話だったが、なんとなく声を掛けるのが憚られたので、少しの間待っているとロートさんは立ち上がったが、その際、僅かに目元が赤かったような気がしたのは、見なかった事にしつつ、俺は気になっていた事を尋ねた。


「あの、そう言えばロートさんは、母さんが冒険者をしていた時の事を知ってるんですか?」


「もちろん!なんたって、私が冒険者を志したのは、リリフィア様みたいになりたかったからだもの!」


「そ、そうなんですね。知りませんでした」


 ロートさんの熱気に少々気圧されていると、アルスさんが申し訳なさそうに眼を伏せる。


「それにしても、驚きだなぁ。てっきり知っているかと思ったのに。でもいいわよ。知らないなら私が教えてあげる! まず!火属性の扱いに関しては大陸随一で、更に優れた剣の腕を持っていて、更に龍を撃退したことから【煉獄の女王クイーン・オブ・フェニックス】って呼ばれていたの! だから冒険者に限らず、この話を知っている人は少なからず、火属性に、そして何よりもリリフィア様に憧れを抱いているのよ!」


「そ、そうなんですか‥…」



  俺はロートさんの熱い(暑苦しい?)話を聞きながら内心で母さんが俺に冒険者時代の事を話さなかった訳を理解できた気がした。


  (母さんが俺に冒険者時代の事をあんまり話さないのは、驕らせない為以外に、恥ずかしかったから教えなかった、のかもしれないな)


 そんなことを内心で思っている間に、ロートさんの話は進む。


「そして! もちろんリリフィア様が龍を撃退したのは有名ですけど、もう一つありまして。それは古代より伝わる、誰も解読できなかった炎の魔法を解読して、実際にその魔法「荘厳なる聖炎羽フェニックス」を使われて! いてっ!」


「はい、そこまでにしておけ」


 熱が入り、暴走の気があったロートさんの頭にチョップを入れることで、話を区切り、そのお陰でロートさんの話から解放された。


「もう~、折角いいところだったのに~!!」


「お前の場合は、暴走の間違いだろ? 憧れの人の子供って事で興奮するのは分かるが、流石に度を越えてると思うぞ?」


「え~…そんなことはない「ある」うう~」


 まさに、暴走しようとする機関車を制御する運転手。ゲンドゥさんとミランダさんとは真逆の状態に、俺は思わず小さく笑みを浮かべた時だった。


「…気を付けて、呪いの風が吹く」


 エルからの突然の忠告。それがどういう意味なのか尋ねようとした瞬間、全身の毛が総立つような感覚を感じた直後、辺りが薄暗くなり。


  「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!」


 この世のモノと思えないような咆哮が辺り一帯に響き渡り、それは音だけ言うのに、まるで冷気を纏っているかのように冷たく、そして重かった。


「…なんだ。この身の毛も立つような雄叫びは‥‥っ!」


「なんて…重たい咆哮なの…」


 近くにいたアレスとロートさんは顔を顰め、 周りで作業していた人たちは突然の咆哮に腰を抜かしている人もおり、この場に居た冒険者たちは腰を抜かすことはなかったが、それでもその表情は一様に硬かった。中には青を通り越して白い顔の人までいた。

 そんな中、一人の冒険者がギルドへと駆け込んできた。


「ド、ドラゴン《龍》が、こっちに向かって動き始めた!また、それに呼応するかのように多数の魔物も向かってきている!」


 その場に嫌に静かな沈黙が下りる中、足音が聞こえ、やがて扉が開くと、そこにはミランダさんを連れたゲンドゥさんの姿があり、視線が集まる。


「聞こう。どのような状況だ?」


「は、はい! 現在、南方の森に居たドラゴン《龍》が移動を開始、進行方向はこの町へと向かって来ていると思われます!そして、ドラゴン《龍》より逃げるようにして、多数の魔物が迫ってきています!」


「なるほど、報告ご苦労。 少し休んだのち、偵察の継続を頼む」


「は、はい!」


 ゲンドゥさんの言葉に、冒険者は頭を下げ、その間にゲンドゥさんが職員に目配し、駆け込んできた冒険者は職員の人に案内されて建物の奥へと向かい、その姿が見えなくなったのを見計らい、口を開いた。


「冒険者諸君。聞いた通りだ。まだ時間があるとはいえ、災厄たる龍がこの町を襲おうとしている。今、この場に集っている諸君の勇気を称える。がこれからの戦いは、正直どうなるか予想もつかない。故に、今この場から去るものが居れば、責めはしない。己が命は大切だ。

 今すぐに去れ」


 その言葉に、冒険者たちは大小あれ驚きの声が上がる。が、それは少数で、その他はむしろ好戦的とも言える笑みを浮かべており、結果、この場に居る冒険者、およそ百人以上の人間がギルドを出る者は、居なかった。


「…馬鹿どもが」


 小さく、ゲンドゥさんのため息を吐きつつ、小さく愚痴ったのが俺には聞こえたが、小さい声だったので、恐らく聞こえたのは、近くにいたミランダさんだけだと思われた。


「お前たちの覚悟。確かに受け取った。なれば私からはもはや何も言わん。故に、この町を守るための盾に、そして刃となってくれ!」


「「「「「おおおおおぉぉぉっ!!!!!」」」」」


 ゲンドゥさんの激に、冒険者たちは雄叫びと拳を突き上げる事で答え、その熱気は先ほどの咆哮による恐怖を拭い去るほどの熱気を秘めていた。


「では、それぞれの配置を教える!」


 ゲンドゥさんの手には紙があり、恐らくそれはミランダさんから渡された、冒険者たちの情報と指示をはじめ、何処に配置するかといった事が書かれているようで、指示を聞いた冒険者たちはそれぞれの配置へと移動していき。最後に、俺達だけが残された。


「シルヴァ・シュトゥルム殿、エル殿、ルヴィ殿には、申し訳ないが、龍が近づくまでは魔物ではなく龍をお願いしたい」


「ああ。最善を尽くす」


「頼む。後、無理をしないでくれ。そうでなければ、もしもの時に、彼女に顔を合わせられない」


「努力するよ」


「それと、これがそれぞれの配置だ」


 差し出された紙を受け取り、見るとそこには大まかだが配置が記されており、俺はそれを綺麗に巻き、腰のポーチへと入れる。


「ありがとう。それじゃあ」


「ああ」


「お気をつけて」


 ゲンドゥさんにそう言うと、俺はエルとルヴィと一緒にギルドの外へと出ると、時間的には、そろそろ夕方に差し掛かる時間帯だが、辺り一帯の空は分厚い暗雲に覆われ、一切の日が差し込む様子はなかった。


「取り敢えず、まずは少しでも被害を抑える為に、前線に行こうと思う。もちろん、休憩も挟んでだ」


「分かった」


「ルヴィ。俺たちの本当の相手は龍だ。けどその前に魔物との戦闘も大事だが、全力で戦わないように。直ぐにバテるからな?」


「分かりました!」


「よし、じゃあ行くぞ!」


 念のための意味を込めてルヴィに注意をし終えると少しでも被害を抑えるために、俺たちは前線へと向けて走った。


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