第二十五話 「待機中です」
2021年6月2日に改稿しました。ご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願いします。
次話に関しても、改稿をしてきますので、少々お待ちください。
イシュラを送った後、俺はごく普通に歩きつつ冒険者ギルドへと向けて戻っていた。【ヘーパイストス】へと向かっている間、エルから特に連絡がないという事は、急ぐ要件は無いという事で、これから守る、母が納める町を見つつ歩を進めるが、そのどれもが閉まっており、代わりに、槌の音がいつも以上に響いており、武器を急ピッチで鍛え、作っているのかもしれなかった。
「まあ、そうだろうな」
災厄ともいえる龍が、近くに現れた。それだけで十分な恐怖となる。そんな町の様子を見ながら俺はギルドへと帰り着き、見てみると先ほどよりも冒険者たちの姿が増えている。そんなことを確認しつつ、俺は先ほどのテーブルへと戻ると。
「ただいま」
「ん、お帰り(なさいです!)」
二人仲良く、小腹でも空いて注文したのだろう、果実を絞ったジュースとテーブルにはパンに新鮮な果物を挟んだ、フルーツサンドが乗っている皿と、二皿ほど重ねられている皿があり、それを見た俺も何か頼むことにした。
「すみません。ラッテを一つお願いします」
「分かりました」
エルたちの所に向かいながら、近くにいた職員の人に声を掛け注文をし、俺はそのまま椅子へと腰かけ、手に持っていた木箱を脇に置く。
「あれ、それはなんですか?」
すると、つい今まで新鮮なフルーツの甘みに頬を緩めていたルヴィが、興味津々といった感じでテーブルから身を乗り出した。
「ああ、イシュラからの預かりモノだよ…と、その前にルヴィ、一旦座ってくれるか?」
「あ、は~い」
ルヴィはそう言うと直ぐに椅子へと座りなおした。
正直、身を乗り出したことでルヴィの二つの果物が服越しでも分かるように強調されており、少々目に毒という事と、何より、頼んでいた飲み物が届きそうだったからだ。
「お待たせいたしました」
そう言って俺の前に置くと、職員の人はそのまま離れていき、俺はカップを手に取ると、甘い匂いが鼻腔を刺激し、そのまま一口飲む。
(…甘いなぁ)
想像以上に甘いこのお茶。これは温めたミルクにほんのりとシナモンに似た甘い香りがする茶葉、クェルスを淹れて煮だしたお茶で、何よりの特徴が甘い事だった。
「ルヴィ。ちゃんと教えるから、まずそれを食べ終えてからにしないか?」
「あ、じゃあそうします!」
そう言うとルヴィはまだ残っていたフルーツサンドを美味しそうに食べ始め、様子を伺っていたエルもフルーツサンドを口へと運び、俺は頼んだお茶を更に一口飲む。
そして。
「「ごちそうさま(でした!)」」
「ふぅ…」
時間を掛けて俺がお茶を飲み終えるまでに、エルたちは更に追加して、合計十皿以上を食べた二人は、とても満足そうだった。そして、そうしている間に、応援として呼んだとぼしき冒険者たちが、結構な人数集まってきていた。
「それで、それは、なに?」
「ああ、これはイシュラから、ルヴィにだって」
「私ですか?」
食べ終えたので、俺は脇に置いていた箱をテーブルの上に置き、蓋を開ける。
「これは…」
「籠手」
「ああ、イシュラがルヴィの為に作ってくれた籠手だ」
箱から取り出し、ルヴィに手渡すと、ルヴィは籠手を見る。おそらく、籠手というものを見たことがないゆえの、物珍しさからだった。
「あの、どうすればいいんですか?」
「ああ、指先とは逆の根元から手を入れてみてくれ。取り敢えず、一番奥に当たるまでな」
「こうですか…?」
入れ方が分からないルヴィに教え、ルヴィはその通りに手を入れていき、やがて最奥に到達したのか、指先を動かすと五指がちゃんと動いていた。
「それじゃあ、反対も同じようにして手を入れてくれ」
「はい!」
コツを掴んだのか、先ほどよりも圧倒的に早く籠手に腕を通し終える。
「サイズはどうだ?」
「はい、ピッタリです!」
「動かしにくくないか?」
「いえ、さっきと同じ感じで動かせそうです」
そう言って指を開いたり閉じたり、軽く腕を動かす様子から思いっきり振ったらスポンッ!といった感じで籠手が飛ぶ様子もなく、本当にピッタリなのが伝わってきた。
「凄いですね! これ、かなり使いやすいですよ! 思ってた以上に硬いですし!」
そう言うとルヴィは拳通しをぶつけると小さいが火花が散った。
「流石、イシュラが作った籠手だな…」
正直、これだけの籠手を一日も掛からずに完成させる、イシュラのその手腕に思わず感嘆しつつ、ゲンドゥさんから話があるかもしれないという事で、そのまま飲み物を頼むなりとギルドに待機しているが、正直、暇だった。そんな時だった。
「シンは、あの女が出てくると思う?」
「出てくる、俺はそう思ってる」
エルからの唐突な話題に、しかし俺も同様の懸念を抱いていたので、直ぐに答えることが出来た。
「あの女の目的は分からない。もしかしたらあの黒衣の男の仲間かもしれない。けど、なんとなくだけど、それ以外の目的で関わってきそうな気がするんだ」
と、そんなことを話していると、一組の冒険者が入ってきた。それは別に良かったが、そのうちの一人が、遠めだがじっと俺を見ていた。そして、見ていたかと思うと、興奮した面持ちで小走りで近づいてきて。
「あ、貴方は、リリフィア・シュトゥルム様の、む、息子さんでしょうか!?」
唐突に、母さんの名前を出した、少々ハァハァと息を荒げる杖とローブを身に着けた、女性冒険者が話しかけてきた。




