第二十四話 「装備を整えましょう」
2021年5月31日に大幅改稿、編集をしました。ご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願いします。
次話も、現在改稿中ですので、今しばらくお待ちください。
そして、もう一つ、ご報告が。第一章を区切りとしまして、最新話の更新をしていこうと思っています。ですが、その際は現在の改稿後の書き方となりますので、引き続き二章、三章に関しても少しづつ改稿していきます。
本当に、申し訳ありませんが、どうか、よろしくお願いします。
ゲンドゥさんとの話を終え、一息つくためにギルド内にある食堂で、それぞれ飲み物を頼み、一息ついていると。
「あれ、シルヴァ? どうしているの?」
知った声に名前を呼ばれ、そちらを見ると。
「イシュラ…?」
そこには、【ヘーパイストス】の若き女主人であるイシュラが立っており、危うく、さんと付けそうになったのをどうにか飲み込んでいると、イシュラが近づいてきた。
「どうしたの?予定じゃあもう発ったと思って、これを送るつもりだったんだけど…」
そう言うイシュラを見ると、確かに右手には木の箱を持っており、俺はその中身が何なのか、知っていた。故に、素直に驚いた。
「もう完成したのか…?」
「うん。初めての事でだいぶ苦戦したけど、取り敢えず試作品と二個だけだけど、一先ず出来上がったよ。はい」
「あ、ありがとう」
イシュラから木箱を受け取り、中を確認するとそこには確かに頼んだものが形を成して入っており、頼んだ翌日にある程度の情報を教えて作製を依頼したとはいえ、余りの速さに俺はイシュラの腕に驚くことしか出来なかった。
「凄いな、拙いの情報で、良くここまで…」
「ふふ~ん! 父さんと比べれば劣るけど。私の腕は一流だからね!…ふあぁ」
「なんとなく、そうだと思ったけど。イシュラ、寝てないだろ?」
「あははは、夢中になって、つい寝る間も惜しんじゃった…ふあ、ああぁぁ」
会話をしている間も、小さい欠伸をかみ殺していたが、一際は大きな欠伸をした様子から、今も既に眠い事が伺えた。
「ほどほどにしてくれよ? けど助かった。ありがとう」
「ううん。最初はああ言ったけど、今の状況は、なんとなく分かってるつもり。私は鍛冶師だから、戦えない。けど、その代わりに、それを役立ててほしいの」
「ああ、確かに受け取った」
「うん。それじゃあ、頑張ってね‥‥私は、帰って寝るからぁ…」
「いや、送っていくぞ?」
「いや、シルヴァは、これから、だから、私は、一人で…」
そう言っている間も、イシュラの体はふらふらとふらつき、瞼も既に半分閉じており、とてもではないが一人で帰らせるには怖い状態だった。
「エル」
「分かった。何かあったら伝える」
「頼む」
余りにも主語を省き過ぎた会話。だがエルとなら主語が無くても通じ合う。その様子に半分眠りつつあるイシュラが付いて行けるはずもなく驚いている間に会話は終わり。俺は立ち上がり、イシュラを支える。
「ほら、家まで送ってやる」
「え、え?」
「いってらっしゃい」
「お気をつけて!」
驚いているイシュラの手を取ると、エル、ルヴィに見送られるようにして、俺はイシュラを先導するようにギルドを出てイシュラの家へと向かう。
「やっぱり、昨日と比べて圧倒的に少ないな…」
「‥‥‥」
町はやはり物々しい雰囲気で、何も話さないよりはと話題を振ったがイシュラが反応せず、結果的に独り言になってしまったが特に気にするようなこともなく進んでいき、そして、イシュラの家の前へと到着したのだが、家に着くまで、イシュラは一言も喋る事なかった。
「着いたぞ‥‥イシュラ、おい、大丈夫か…?」
「‥‥‥えっ?」
「いや、家に着いたぞ?」
「あれ…ホントだ…」
周りを見て間違いではないことに対して、まるで、知らない間に着いたとばかりに、イシュラは驚きの表情を浮かべており、そんなイシュラを見て、俺はやれやれとばかりに小さく苦笑を浮かべた。
「こりゃ、送っておいて正解だったな」
俺も実際に一睡もせずにゲームをしたことがあったが、その日は今のイシュラのような状態になったことがあった。
恐らく、一睡もしなかったせいで、頭が上手く回らなくなっていて。その結果、時間があっと言う間に過ぎてしまった。今のイシュラも恐らくそんな状態なのだろう。
そう思っていると。
「シルヴァは、死なないよね?」
「なんだ、藪から棒に?」
「聞かせて。絶対に、死なないよね…?」
そう言ってくるイシュラは、まだ数度しかあっていないが、何処となく子供っぽい雰囲気を纏っていた。
恐らく、睡眠不足によって感情が一時的に不安定になり、表に出やすくなっているのかもしれなかった。そして、そんなイシュラの質問に対する答えは、決まっていた。
「世の中に、絶対なんてものは、存在しない。俺はそれを知ってる」
「えっ? それじゃあ」
恐らく、絶対に死なない。そう言葉が返ってくると思っていたのか、イシュラは驚きの表情を浮かべた後、その表情に不安が過ぎり掛けたが、俺の言葉はまだ、終わってなかった。
「けど、だからこそ死ぬ気はないし、死なない為に頑張るんだ。イシュラが徹夜で作ってくれた、アレもあるからな」
正直、アレが出来上がったことで、切り札を一つ増やすことが出来たのは、かなり大きい。何せ、予測ができない事態になった時に使える切り札は多いに越したことはない。
「だから、絶対なんて約束はできない。けど、出来ることをやる。それだけだ。まあ、死ぬ気はサラサラないがな?」
「もう、紛らわしいことを言わないで」
そう言うイシュラの表情は、先ほどとは違い、明らかに安心した表情で、そのまま右手を差し出してきた。
「それじゃあ、死なないように頑張って。じゃないと、常連が抜けるのは、お店的に痛いからね」
「ああ、頑張るよ」
そう言って、差し出されたイシュラの手を握り返し、握手を交わした時だった。
「あ! ちょっと待ってて!」
「え、あ、ああ」
そう言うと、イシュラは店の中へと消えていき、しかし直ぐに店から出てきたが、その手には、一組の赤い籠手を持っていた。
「これ、ルヴィって子に渡してあげて。あの子は多分、拳で戦いそうだから」
「…いいのか?」
イシュラが差し出してきた赤い籠手。見た感じそれは無骨という言葉が似合う、装飾品などは一切なく、強度と扱いやすさを重視した一品に思えた。
「いいの。元々、後日に渡そうと思って、アレと並行して作ったものだから」
「…ありがとう。ルヴィに渡すよ」
アレと並行して、籠手も作った。それを事もなげに言うイシュラに凄い、を通り越して、呆れに似た笑いを思わず浮かびそうになるのをどうにか抑えつつ、赤い籠手を受け取ると、ずっしりとした重みと同時に、信頼できる雰囲気を籠手から感じた。
「それじゃあ、いってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
最後に短い言葉を交わし、イシュラは店の中へと入っていき、俺は来た道を戻るように、しかし気持ちは先ほどよりも強く、固まった。
シルヴァと別れて、私は疲れた体を引きずるように自室のベッドにたどり着くと、脱ぐのが億劫だけど、どうにか身に着けていた服を脱ぐことは出来たけど、寝巻を着ることは出来ずに、そのままベッドへと倒れ込み、最後の力を振り絞ってベッドに潜る込む。
「はぁ。私、どうしたんだろ…?」
横になれば、直ぐに睡魔が襲い来るものだと思っていたけど、直ぐには来ず、代わりに上手く回らない頭に浮かんだのは、着くまで握っていたシルヴァの手だった。
「大きかったなぁ…」
年下のシルヴァの手は、まだ私よりも小さい。けれど、剣を振っているせいかゴツゴツしていた。けど私はそのゴツゴツした手が大きいと感じると同時に、ある懐かしい事を思い出した。
「‥‥似てたなぁ。あの手の感じ…」
それは、病気で亡くなってしまった父さんが私の頭を撫でてくれた時の手と似ていて。正直、もう二度とあの感じには会えないと思っていたけれど。
そう思っていると、眠気の大波が押し寄せてきて。
「…シルヴァ‥‥死なない、ように‥‥がんば…って‥‥」
最後に、もう一度会えることを願って、私は深い眠りへと就いた。




