第二十三話 「想いと予感」
2021年5月27日に大幅な改稿、修正をしました。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。
次話との繋がりがおかしくなっている場合があります。出来る限り早めに改稿していきたいと思いますので、少しお待ちいただければ幸いです。本当に申し訳ありません。
「す、すみません! シルヴァ・シュトゥルム様で間違いないでしょうか?」
冒険者ギルドで何度か見た、職員の服を身に着けた女性から突然声を掛けられ、その慌てようから、先ほど出会った謎の美女の言葉が頭を過ぎった。
「…何かありましたか?」
「すみません。ギルドマスターから、大事な話があるので至急来てほしい。との事です!」
ギルドマスターからの大事な話。その瞬間、頭の中に昨日会った女が言った事が頭を過ぎった。
「‥‥どう思う?」
「…私は、シンが想像している通りだと思う」
「私もです!」
「そうか…」
まだ幼いルヴィはともかく、エルが言った俺が想像していたこと。それは昨日の美女がこうなる事を既に知っていたという事は、何者なのかは置いておくとして、これを仕組んだ側の人間だという可能性が高い、そう思った瞬間だった。
「分かりました。直ぐに行きます!」
「すみません。着いてきてください!」
そう言うと女性職員は走り始め、俺たちはその背中を追うようにギルドへと向かって走り、そしてギルドに到着し、職員の人はそのまま止まる事無く、奥へ。一直線にギルドマスターの部屋へと歩いていく。
「さっきの所、やけに出入りが激しいですね?」
ルヴィの言う通り、先ほど見た受付があるフロアでは、何人もの冒険者ギルドの職員と冒険者たちが忙しなく動き、何かしらの話をしている様子から、朝の町の雰囲気からして、何かしらの事があったのだと、一目で分かった。
「恐らく、あの女が言っていた災厄ってのが、関係しているんだろうな」
「…十中八九、そう」
「取り敢えず、このままゲンドゥさんの所に行こう」
そして、俺たちはギルドマスターの部屋の前へと到着し、職員の人がドアをノックする。
「ギルドマスター! シルヴァ・シュトゥルム様をお連れしました!」
「…うむ。入ってくれ!」
ゲンドゥさんの返事が聞こえ、職員の人が扉を開けてくれたので俺たちは会釈をしつつ部屋の中に入ると、ゲンドゥさんの執務机の上に、何かの報告書が左右に一つずつ、山のように積み上がっており、その間にゲンドゥさんが座っていた。
「あの、その書類は一体‥‥?」
急いで呼ばれたという事もあり、突っ込むか否か迷ったが、我慢できずに俺が突っ込むと、ゲンドゥさんは重々しく頷いた。
「うむ。これは昨日の夜、この町の南にある森にて、突如姿を表した、謎の龍に関する報告書だよ」
「まあ、これだけ溜まっているのは、まだギルドマスターが読み切れてないから、ですけどね」
ゲンドゥさんのすぐ横に居たミランダさんはそう、ごく自然に言葉の槍での指摘にゲンドゥさんは、困り顔を浮かべた。
「…ミランダ君? そこは何も言わない約束では?」
「働かない人との約束は守るに値しません。それと、話を詰めるために五分以内に読み切ってくださいね? もちろん、出来ない。というのは聞きませんので」
「‥‥あはは」
非常事態という焦るべきはずなのに、恐らく、普段と変わらないゲンドゥさんとミランダさんのやり取り、そして左右共に厚さ数センチの紙が一メートルの高さまである書類の山を五分で読み切る。
無茶というべき要求に、ゲンドゥさんが絶望の表情を浮かべながら、それでもかなりの速さで読み始めたのを見て、最初からすればいいのに。俺はそう思い、苦笑い、エルは無表情、ルヴィは不思議にその様子を見守る他なかった。
…あれからゲンドゥさんは本当に五分以内に読み切ることは出来たが。
「ほら、やれば出来るじゃないですか」
「‥‥‥‥‥」
「あの、ミランダさん。ゲンドゥさん、白目を剝いてますけど? というか、死んでません?」
「ああ、大丈夫ですよ」
まるで、全集中力と体力を使い切り、死んだ魚のようにソファに身を預けていたゲンドゥさんの後ろに回り、ミランダさんはそのまま五センチはありそうな本を構えると。
「せいっ!」
垂直に振り下ろすとゴツンッ! と鈍く重い音がゲンドゥさんの頭から聞こえ。
「…はっ!?」
痛みによるショック療法かのように、厚い本によるチョップをされてゲンドゥさんは復活した。
「えぇ…」
エルは相変わらず無表情、ルヴィは面白そうな、俺はもはや、苦笑と呆れが入り混じった表情を浮かべるほかなかった。
「おや、どうかしたのか?」
「いえ、何でもないです」
「ギルドマスター。 ご説明を」
「おおっ! そうだった!」
恐らく、ミランダさんに頭を叩かれた当たりの所は一切覚えていない感じだったので、突っ込まずに、突如現れた謎の龍に関する情報を聞くことにした。
「まず、この龍が目撃されたのは、昨日の深夜で、場所は南方の森だ」
そう言ってゲンドゥさんのミランダさんが用意してくれた地図で、この町から南方の森がある場所を差した。
「この森に、龍が?」
「ああ。深い、と言っても光が差さないほどの深い森ではなく、魔物もいるが、ごく普通の森でね。よく冒険者たちが野営をしたりするんだ」
「という事は、その目撃したというのは」
「ああ。その森で野営をしていた冒険者たちだ。野営をしていると不気味な鳴き声と共に突如、姿を現した龍は、地龍と同じく翼を持っていない龍だったが、頭部が九つあった。そう言っていたそうだ」
「頭が、九つ…」
蛇型か、爬虫類型か。それらの違いこそありが、話を聞いて頭に浮かんだのは、日本の伝承に登場する。九つ頭を持つ龍と言えば、知っている中で、一つだけ該当するモノがあった。
(九頭龍、か)
九頭龍。それは日本武尊と呼ばれる、日本古代の伝説的英雄と呼ばれる人物によって倒された龍の名前で、スサノヲが倒し、俺が持っている天叢雲剣を見つけた八岐大蛇に似ている。そう思って無意識のうちに覚えていたものだった。
「そして、彼らは急いでこの町に来て、その報告を受けて、現在も監視を継続している。が不思議なことに、その龍はまだ動いていないんだ」
「動いて、いない?」
てっきり、既に動いているのかと思っていたが為に、少々肩透かしを食らったが、別にそれは悪い事ではなく、寧ろ良い事だった。
「ああ、ゆえに現在。間に合うかは分からないが、近くの冒険者ギルドに応援の要請をし、近辺に居る冒険者たちを呼び寄せ、町も防衛の準備に取り掛かっている所だ」
「なるほど。確かに何が起こるか分かりませんからね」
災害などに際しても、もしもを想定していれば被害が少なくなるが、逆に何もしなければ被害は増す。シンプルな摂理だった。
「それで、俺たちを呼んだという事は、町の防衛に加わってほしい。そういう事ですね?」
「…ああ。今のこの町で、龍相手に現状戦えるのは、君たちしかない。私はそう思っている」
そう言葉を絞り出すゲンドゥさんの表情は、苦渋に満ちたものだった。そして、その理由を想像するのは容易だった。
何故なら、これは、戦えるからと言って幼い子供を戦場に出す。という事と同義だった。
「すまない。いくら強いとはいえ、君たちの力に縋るしかない私を幾ら攻めてくれて構わない。だが我儘だと知りながら、お願いしたい!」
そう言うと、ゲンドゥさんはソファから立ち上がると、ソファの横に移動するとそのまま膝を就き、その隣にミランダさんも同様に膝を就くと深々と頭を下げる。
「「どうか、この町を救うために、力を貸してほしい(ください)!」」
「‥‥‥」
今も頭を下げ続けるゲンドゥさんたちから一旦視線を切り、隣を見るとエルは頷き、反対を見るとルヴィも頷いたのを確認し、俺は立ち上がりそのままゲンドゥさん達の前に移動し、膝を就く。
「この町は、母さん。リリフィア・シュトゥルムが納める領地の町で、俺はその息子で、次期領主です。ですので、町を守る。そんな当たり前の事に俺たちに頭を下げないでください」
「し、しかし…」
「ゲンドゥさん。貴方が何を思って頭を下げたのか。凡その予想は出来ていますが、気にしてくれているだけで十分です。だから、今は頭を上げて一言、こう言ってください。「共に戦ってほしい」と」
「…ああ、どうか、この町を守るために共に戦ってほしい。シルヴァ・シュトゥルム殿、エル殿、ルヴィ殿」
「どうか、よろしくお願いします」
顔を上げたゲンドゥさん、そしてミランダさんに対しての俺の、いや俺たちの答えは既に決まっていた。
「分かりました。絶対に守ってみせましょう」
こうして、まだどうなるかは分からないが、町の防衛に参加する事が決まった。




