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第二十一話 「困惑と嬉しさと」

2021年5月15日に改稿しました。ご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願いします。

また次話に関しても出来る限り早く改稿しますので、お待ちいただけると幸いです。

…裏話をしますと、この話は違和感に気づき、新たに執筆した話です。

「むぅ‥‥‥」


シュトルの町長にして、シュトル冒険者支部のギルドマスターでもあるゲンドゥは、少し前に聞かされた話を思い出し、思わず顔に皺が寄っていると、目の前にお茶が置かれ。

視線を上げるとそこには秘書であるミランダの姿があった。


「少し、休まれてはいかがですか?」


「ははは、まさか、君に休んではどうかと言われたのは、久々だな?」


「それは、貴方が仕事をしないからです」


違いますか? ゲンドゥの言葉にミランダは視線でそう訴えると、ゲンドゥは分が悪いと判断し、話題を変えることにした。


「おお、このお茶はいつものと香りが違うな」


「アルーメ茶です。口に含むと甘い香りが口に広がり、その後は鼻に抜けるので、心を落ち着かせてくれます」


「ああ、いい香りだ。いただこう」


テーブルに置かれたカップを手に取り、一口飲むと。ミランダの説明の通りにまず口の中に砂糖とは違う、しかし、確かに甘い味と香りが口に広がりそのまま鼻へと突き抜け、飲み、口を開き一息吐くと残っていた香りと甘みが余韻として残る。


「どうですか、少しは、普段の私の苦労が分かりましたか?」


「ははは、相変わらず容赦がないね、ミランダ君は」


そう言いつつ、ゲンドゥはもう一口飲むと、カップを受け皿へと置く。


「それで、彼が話したことですが、事実だと思いますか?」


「ああ、紛れもなく事実だろう。その証拠に、君も見ただろ?」


「はい。確かにこの目で見ました」


二人がシルヴァから聞いた話。それは坑道に居たはずの幼い火龍アルシアが、【龍裁者

】と名乗った黒衣の何者かに殺されており、その者が更に死した龍を【死竜】として操る術を持っており、それと戦い撃退。更には死んだ火龍アルシアを転生させ、人の型にした。

それが、シルヴァが二人に明かした出来事だった。

当初は、二人も半信半疑だった。何せ、幼いとはいえ火龍。すなわち力の塊で、天災である龍を撃退こそ可能だとして、殺すなど不可能だと思っていた。

だがゲンドゥとミランダの常識を壊し、信じざるを得なくしたのは、彼と共にいた二人の少女。

一人は彼の未来の花嫁であるエル、そしてもう一人は彼、シルヴァ、そして先ほどのエルという少女に甘えていた紅蓮の髪の少女で、シルヴァはこう告げた。


『エルはドラゴンです。そして、人の形にした火龍アルシアが、この子です』


その言葉を聞いた当初は、そんな馬鹿なという思いがゲンドゥとミランダの感想だったが。


「‥‥‥頼む」


「うん」


「分かりました!」


シルヴァが二人に目配せをし、二人が見えるようにそれぞれ腕を伸ばし、目の前で大きさはそのままだが、龍の腕へと変化させたことで、二人は事実だと受け入れるほかなかった。

まあ、紅蓮の髪の少女が制御がまだ上手にできないのか、反対の腕も龍の腕となってしまう出来事があったが、それは些細な出来事だった。


本題は、人に化けれる龍が居る、その事実で。それによって必然的に【龍裁者】と名乗る龍を殺す者、そして龍を人の姿になれるように生まれ直させた。その事実だった。


「はぁ、まったく。頭が痛くなるねぇ」


長年の固定概念が崩された衝撃は破壊しれず、ゲンドゥも現実を受けるのに数十秒を要し、ミランダに至っては、一分以上の時間を要した。それほどまでに、今回、シルヴァから明かされた事実は驚愕に値し、困る情報だったが更にもう一つ。

シルヴァが【天災】たる龍を二体(二人)もの従えている、本人はそうでなくとも周りから見ればそう見えるというのも問題で、ゲンドゥの中で明確な答えは出なかった。



ゲンドゥが頭を悩ませているその頃、シルヴァたちはルヴィを連れて現在は町の産業ともいえる商業区画を案内していた。


「へぇ、こんな所で人間達の武器って、こんな風に作られていたんですね」


「ああ。大体の町に大小あれど、こういった鍛冶の店はあると思うぞ」


「なるほど」


今も、剣を打つのを離れて観ながらだったが、この場に居る三人とも視力は良いので全く問題がなく、次に移るために歩き始める。


「ところで、さっき言った名前だけど、大丈夫か?」


「はい! ルヴィですよね?」


「ああ」


ルヴィ。それが紅蓮の髪と同色の瞳の少女に俺が付けた名前だった。名前の由来は安直だが、彼女の髪と眼の色が紅蓮色。すなわち赤で宝石のルビーに見えたことからつけた名前だった。


「そう言えば、エル姉さんの名前も?」


「うん。私も自分の名前はなかった。だからシンが付けてくれた」


「えへへ、そうなんですね。それじゃあ、同じ人に名前を付けてもらったんですね」


エルの言葉が嬉しかったのか、ルヴィは本当に嬉しそうに笑みを浮かべつつ歩き、それにつられてエルも小さな笑みを浮かべ、二人が仲良く歩く様子は、髪の色や身長などの違いこそあれど、一緒に歩く様は仲の良い姉妹と呼べるものだった。


(二人とも、仲がいいな)


同じ種族という事もあるのだろうが、単純にルヴィがエルに憧れを抱いているというのも関係しているのかもしれなかった。

であるならば、ルヴィが俺に抱いているのも恋心ではなく、エルと同様の憧れを恋だと勘違いしている。

そうでなければ嬉しいという思いとまだ、幼いから違うんじゃないか。エルという花嫁が居るのに恋心を抱いてほしいと思っているのか。そんな風に思考が傾きかけ、俺はそのことに対する思考を意図的に止めた。


(我ながら、欲の深いことだな‥‥)


エル以外にも、そう思っているそんな自分に自嘲じみた笑みを思わず浮かべていると、先を歩いていたエルとルヴィが足を止め、こちらを見ていた。


「シン、どうかした?」


「急に止まられて、どうしたんですか?」


「うん? ああ、少し考え事をしていてな」


「考え事、ですか?」


「‥‥‥‥」


近づきつつ、答えた俺の言葉に、ルヴィは頭をかしげていたが、エルは何か察することがあったのか、そのまま俺の手を握ってきた。


「エル?」


「大丈夫」


「いや、その、よくわからないんだが?」


「龍は一夫多妻。シンが他に女の子を囲ってもいい」


「えっと‥‥」


まるで、俺の思考を読んだのかと思わず尋ねたくなるほどに正確な言葉に、俺は思わず言葉を詰まらせていると。


「シンの一番は、私だから」


白昼堂々と、そう告白してきて俺は思考を読んだのかという思いすら吹き飛ぶほどに驚いた。何せ、エルがここまで明確にシンの一番は自分。そう明確にエルが言葉にしたことは今までになかった事だったからだ。


「私は、別に一番じゃなくていいです。けどあなたの隣には居たいです」


エルに感化されたのかは分からないが、ルヴィも一切の羞恥心なく真っ直ぐな眼で俺を見つつ言ってきた、それはまさに真っすぐという他なかった。

だが、ここで一つ忘れてはならないことがあった。それは、ここが商業区画で人通りが多いという事で、周りから「あの子、どっちを選ぶのかしら?」 「うちの息子にあんな真っ直ぐな子が来てくれたら」などほほえましさと面白さで見ている人たちが居る事に、俺は気づいていた。


「‥‥取り敢えず、移動しないか?」


「あ、そうですね! まだまだお二人にこの町を案内してほしいですからね!」


「うん。それじゃあ、次は農業区画に行こう」


俺の提案を受け入れてくれたエルとルヴィは特に周りの眼を気にした様子もなく歩き始め、一方の俺はと言えば、周りからの視線に恥ずかしさを感じながらも、同時にエルとルヴィ。二人の気持ちを言葉として聞くことが出来たことを、内心で嬉しくも思っていたのだった。


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