第十九話 「魂魄転生」
2021年5月9日に改稿させていただきました。ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願いします。
フリーズし、少し時間を置いて復帰した俺は思わず聞き返す。
「エル、その、どういう事なんだ?」
「この子の魂は肉体に縛られている。ならまずは解放するために、シンにこの子の肉体を、そして魂魄を殺してもらう」
「…つまり、捕らえている檻と、その中に囚われている魂魄を斬れ、ってことか?」
「うん、そういう事」
正解とばかりに、僅かに首をかしげるエルに、俺は思わず頭を抱えたくなった。
「いや、俺。魂魄なんて斬ったことないんだけど? それに、そんなことして大丈夫なのか?」
「普通は、大丈夫じゃない。シンが持つその剣「天叢雲剣」は、龍の全てを斬ることが出来る、恐らく「最強の龍殺しの剣」。普通は、すぐに死んでしまう。けどシンが振るうなら、大丈夫と思う」
「…何かあるんだな?」
俺を信じてくれているとはいえ、危険がある事に対してエルが、何も考えずにこんなことを言うはずがない。その事を知っている俺は、尋ねると、エルは【死竜】へと眼を向ける。
「今のこの子は、二つのモノに蝕まれてる。一つは毒。もう一つは魂を縛り、従わせる禁忌魔法と呼ばれる「魂魄縛従」」
「魂を縛り、従わせる禁じられ忌まれし魔法…」
禁忌。その言葉は文字通り禁じられ、忌むべき魔法とされることは、字面から推測することは出来たが、引っ掛かりがあった。
「けど、エル、毒とその禁忌魔法が「天叢雲剣」とどう関係するんだ?」
「「天叢雲剣」は、恐らく神剣と呼ばれる、浄化の力を宿す剣のはず。なら、毒と「魂魄縛従を、切り裂くことが出来るはず」
「この剣に、そんな力が…エルは、その事を知っていたのか?」
「‥‥分からない、けど、そんな気がした…」
俺の問いに、エル自身も知らないはずの事を、なぜ知っているのか。不思議そうに首をかしげており、俺も深く気にしないことにした。
「分かった、俺が出来る事をする。けど、その後はどうするんだ?」
「転生魔法「魂魄転生」を使う。この魔法で両断された魂魄を接着、修復して、魂魄の情報をもとに肉体を創って、その中に魂を転生させる魔法」
「…つまり、新しく体を創って、そこに魂を入れる魔法、ってことか?」
「うん」
「凄いな…」
傷ついた魂魄を修復し、更にそこからの情報を元に新たな肉体を想像する。聞いただけでは突拍子がなく、嘘だと思えることだが、エルなら、それが為せる。それはそう信じることにした。
「でも、問題がある。肉体から解放されても、傷ついた魂は、僅かな時間で崩れる」
「つまり、肉体を殺してからは時間との勝負、更に一回きりという事か」
俺の言葉に、頷くエルだが、その眼には僅かな不安が見え隠れしていたが、それを見て俺は覚悟を決めた。
「わかった。俺も最善を尽くす。だから、エルも頼むぞ?」
「…任せて」
俺を信頼しての、エルが力強く頷くのを見た後、俺は「天叢雲剣」を鞘ごと抜くと、火龍の前に立つ。
「キュルルルルッ!」
エルでは無いが【死竜】、いや、幼い火龍が何と言ったのか、なんとなくわかった。
「心配しなくても大丈夫だ。絶対に助けてやる…どうだ?」
「大丈夫」
エルの返事を聞きつつ、俺は居合の構えを取る。
「行くぞ、雷閃飛燕!」
繰り出すは、一振り。しかしその速度は雷にして、空を駆ける燕の如く鋭い斬撃。そして、早く鋭い斬撃は、肉体が痛みを自覚するまでの時間を生む。
「エル!」
「生命の理、命は全てが世を循環せしもの」
エルの詠唱が始まると同時に、辺り一帯が温かい光が生まれ、包み込まれる。そんな中で、祝福の歌を歌うかのようにエルの詠唱が続く。
「されど、今この時、再び循環の環より出で、その魂に新たな肉体を与え、世へと羽ばたかせん!」
詠唱が進むと、エルと同様に【死竜】の肉体も温かい光に包まれ、傷ついていた肉体が崩れていく。その様子を見るエルの姿は、まるで、新たな生命が生まれる瞬間を見る慈しむ聖母の様で。
「魂魄転生!」
エルが最後の詠唱を口にし、魔法が完成した瞬間。暖かな光が強まり【死竜】を包み込み、辺り一面を白い世界へと変え、光が収まると、そこには、ひとが一人が入れるほどの、白い球体があった。
「エル、どうなったんだ?」
「魔法は成功した。後は、魂魄を接着して、魂魄に刻まれた情報を元に肉体を創って、そこに魂が転生すればあの球体が割れる」
「…どのくらいかかるんだ?」
「そんなに掛からない。もう、終わる」
エルがそう言った瞬間、白い球体からピキッピキッと、まるで卵を割ったかのような音が聞こえ、亀裂が生じる。そして全体へと波及し、崩壊していき姿を現したのは、眼は青く、瞳は紅玉色、そして肩に掛かるほどの紅蓮の髪。
身長は俺より少し小さいほどで、年齢的には俺より少し年下何より目を引いたのは、淡い色の乳首と僅かな膨らみから柔らかさを感じさせる胸で‥‥。
「って、全裸!?」
思わず、生まれたままの姿を全部を見てしまった後だが、俺は咄嗟に眼を閉じる。が、瞼を閉じたことによって、より鮮明に、まるで、大人へと成長している少女の肢体が浮かんでしまう自分に若干、嫌気がさしていると、目の前に誰かが立っている気配がしたと思おうと。
「やっと、抱き着くことが出来ます」
そのまま、正面から抱き着いてきた。
「え…ちょ…え!?」
状況が呑み込めず、思わず眼を開けると、視界に赤い髪と、透き通った白い肌が見えた。
「エ、エル。この子って、もしかして…」
「うん。その子が、さっきの火龍の子だよ」
「ですよね~…」
自分で言いながら、見たのだから間違いはないだろうが、自分で信じられずに尋ねたが、エルに言われたことで、俺は目の前の事実を認識するほかなくなったのだった。
「それと、その子。さっきシンに告白してたよ?」
「…え?」
「エル姉さまと一緒に、お願い致しますね、ご主人様?」
何やら、トンデモナイ事を聞かされた、言われたけれど、その前に、未だに抱き着く彼女に言うことがあった。
「頼むから、服を着てくれ~!」
そんな切実な願いがこもった声が、坑道へと反響したのだった。
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