第十六話 「遺されていたモノ」
二〇二一年、四月二十五日に改稿しました。おそらく、次話との繋がりがおかしくなっているかもしれません。出来る限り改稿をしますので、少し待っていただけると幸いです。
冒険者ギルドを出た後。俺とエルは、ゲンドゥさんに教えてもらった店へと歩いて向かっていた。
「…人が多い」
「まあ、宿を出た時はまだ朝が早かったからな」
目的の店のある場所。それは、朝は職人や弟子たちが、そして現在は鍛冶屋を訪れる客や、露店で売り出されている果物や野菜、食べ物や飲み物を販売し、活気に満ち、その合間に金属を鍛える音が響く、商業区画で。
辺りを二人で物珍しそうにしていると。
「ほらほら!安いよ安いよ! 果樹園で今朝取れた新鮮なバリナだよ! 熟れて甘いよ!二つ買えば半額だよ!」
「バリナか」
バリナ、それは見た目はバナナの様に皮を剥いて食べるのだが。皮の色は赤く、実の触感と香り、そして味はリンゴで、バナナの形をしたリンゴ、それがバリナだった。
「そういえば、少し小腹が空いてきたな。エル、どうする?」
「食べる」
「じゃあ、一緒に行こう」
エルに尋ねると、即答してきたので、俺はエルを伴ってバリナを売っている、先ほど声を上げていた女性の店へと近づいていく。
「すみません、バリナを二本ください」
「毎度! おや、まだ小さいのに、礼儀がいいね。それに隣の綺麗な子は彼女かい?」
「ええ、まあ、…そんなところです」
「へぇ、そうなのかい! 初々しいねぇ」
流石に、これだけの人がいる前で彼女です。と明言するのは恥ずかしく。濁すように答えつつ、バリナ二本分のお金、五円玉ほどの大きさの小銅貨を私、おばちゃんから差し出されたバリナは三本あった。
「え、あの、一本多いですけど?」
「初々しい二人を見て、オマケをしてあげたくなっただけさ!」
「え、ですが…」
「なに、気にしないでいいよ! 二人で半分ずつ食べな!」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「はいよ! 気を付けてね!」
改めてお礼を言って、俺とエルは店から離れ、目的の場所に着くまでに、それぞれ一本ずつ食べたが、もうそろそろお昼が近くなってきてもいたので、おまけでもらった一本は、取り敢えず取っておくことにして、持っていた袋の中に入れ、歩いている中で、俺はエルに気になって事を尋ねる。
「決めた後に言うのはあれだけど、エル。本当に良かったのか?火龍は、エルと同じ龍なんだぞ?」
「確かに、そう。だけど、私は大丈夫だと信じてる。だって、シルヴァは、殺そうと思ってない。あの時、明確に言葉にしなかったのは、そういう事、でしょ?」
「…まあ、そうだけどな。でももしもあるだろ? 状況によっては殺さなければいけなくなる。そうなる可能性があるんだぞ?」
「そうなれば、仕方がない。けど、出来ることはしてくれるんでしょ?」
「‥‥はぁ。信じるのもいいが、出来ない事だって俺にはたくさんあるんだからな」
エルから向けられる真っ直ぐな信頼。その純真さに思わず照れ隠しで、少々ぶっきらぼうに言ってしまったが、エルは俺は照れていたのが分かっているのか、そのまま俺の腕に抱きついてきた。そして、無自覚なのか、腕に柔らかい感触を感じる。
「エル‥‥歩きにくいんだけど?」
「これがいい」
柔らかい感触の正体が、エルの胸だと分かっていた俺は、ドキドキを抑えるために離れてほしかったけれど、エルは一向に離そうとせず。結局、俺はエルに腕を離してもらえず。結果、奇数を数えることでどうにか誤魔化し、その状態は目的の場所に着くまで続いたのだった。
商業区画。その内部を通り抜け、僅かに湿気を感じる、町の最も外、外壁に近い場所に、目的の店はあった。
「…寂れてるな」
「ボロボロ?」
最低限の清掃はされていたが、それ以外は手つかずで、店の看板などは文字がかすれており、屋根も掃除されておらずで、明らかに繁盛してない、煙突から煙が出ている事から営業しているのは分かったが、それが無ければとても営業しているとは思えない状態だった。
「まあ。取り敢えず入ってみるか」
意を決して、俺とエルは店の中へと足を踏み入れると、印象は一気に変化した。
「…凄いな」
雲泥の差とは、まさにこのことで。外観とは違い、中は隅々まで掃除されており、壁に掛けられている武器のそのどれもが、素人から見ても業物だと思わせる雰囲気があった。
そして、思わず壁に掛けられている武器を見ていると、扉が開く音が聞こえ、視線を向けると、そこには、俺より少し上、恐らく十四歳ほどの、手には槌、エプロンを掛けた、淡い茶色の髪と同色の瞳の、しかし何より目を引くのは左目に着けた黒い眼帯を付けた少女が出てきたところだった。
「ふ~、疲れた‥‥って。お、お、お客様!?」
少女の反応からして、滅多と客が来ないのだろう事が伺えたが、逆にテンパる少女に俺は温かい眼を向けていると、立ち直った少女が服装と乱れていた髪を整えて、仕切り直しとばかりに口を開く。
「【ヘーパイストス】へ、ようこそ~! この店の店主をしています、イシュラです。お客様はどのような商品をお探しでいらしたのでしょうか?」
「‥‥ええっと。町長に教えてもらってきたんですけど。【ヘーパイストス】って、ルフタって人はいますか?」
ゲンドゥさんから聞いた話では、この店はルフタという、この町で一番の腕を持つ鍛冶師だったが、数年前に病を患い、町の中央から離れた場所に居を移した。そう聞いていたのだが。
「ルフタは私の父で、二年前に亡くなりました。以降は私が【ヘーパイストス】の店主をしています」
「そうだったんですか‥‥え、という事は、今ここにある武器は?」
「こんな場所でも、父が作ったものを買いに来られる方が居て、父が作ったのは数点のみで、今ここに置いてあるのは、未熟ながら私が腕を磨き、製作って、これは!というものです」
「‥‥凄いですね」
「いえいえ、まだ父の領域に届いていない、若輩者ですよ」
あまり褒められた事がないのか。照れながらもイシュラは謙遜するが、俺からすれば、どれがルフタさんので、どれが少女、イシュラが鍛えた物か分からないほどに、恐らくイシュラという少女の腕は卓越しているのかもしれなかった。
「それで、お客様。どのような用件で来られたのでしょうか?」
「あ、そうだった。実は、この店に剣が預けられていませんか?」
「はい、確かにございますが。お客様は、その話をどこで知られたんですか?」
「俺の父親からです」
「父親、ですか?」
イシュラの表情に僅かに疑いの色が宿る。イシュラの反応からこの話はおそらくあまり外の人間には知られていない、ごく少数の人間しか知らない事で、疑いがあるのは、噂を聞いた輩が何度か来たのかもしれなかった。
「分かりました。持ってまいりますので、少々お待ちください」
イシュラはそう言うと、そのまま店の奥へと行き、その間、再び俺とエルの二人だけになる。
「本当に、遺してたんだな」
「スサノヲは、ちゃんと生まれてくる子供の事を心配してた」
「そうだな。とっても、母さんを置いて好きなことをしているのは、気に食わないけどな」
「何か、理由があるのかも?」
「さてねぇ。まあ、会えた時にでも聞いてみるかな」
エルとそんなことを話していると、再び扉が開き、イシュラは布が被された何かを持っており、店のカウンターの上へとそれを置く。
「お待たせしました。こちらです」
イシュラはそう言い、被せてあった布を取り払うと、置台の上にあったのは、石の剣のような何か、だった。
「これが‥‥親父、スサノヲが遺したモノなのか?」
「はい。ですが、もちろんこのままじゃないです。今この剣は封印状態、即ち眠りに就いて、真の所有者であれば、封印は解けるはずです」
「これは、預かった時から?」
「はい。私も父から教えてもらったんですけど、預かった時からこうだったそうです」
「‥‥‥」
スサノヲが預けた、当時生まれてすらいなかった俺は、全く知らないはずの剣。だというのに、俺の視線は石の剣に吸い寄せられていた。まるで、早く取れ。そう急かされているかのように、俺は近づき、柄の部分に触れて分かった。
(そうか、こいつは…)
ピキッ!
それが何か。理解した瞬間、触れた場所に亀裂が生じる。
「えっ?」
そして、三人が見る中でその亀裂は見る見るうちに全体へと波及していく。
「まさか、本当に…」
イシュラのつぶやきが聞こえた気がしたが、そうしている間も罅割れていき、やがて全体へと及ぶと、パラパラと崩れ落ち、その中に眠りし姿を現した。
「これが‥‥」
姿を現したのは、漆黒の鞘に納刀された状態の剣。だが、鞘に収まっている状態であっても、この店に掛けられているどの剣よりも圧倒する存在感があり、俺は自然と剣と取り、抜けないようにする為だろう、鞘にあった留め具を外し、握ると一息に抜き放つ。
剣としては直剣。握りには何のものかは不明だが、皮が巻かれており、刀身はガラスのように澄んでいながらもまるで光を飲み込んでいると思わせる漆黒の刃で、今の部屋の灯りを吸い込んでいるかのようだった。
「…綺麗」
本当の姿を現した剣。その姿にイシュラは一瞬たりとも目が離せないとばかり見る。その一方で、エルは何か知っているのか、小さくつぶやいた。
「‥‥龍殺しの剣」
こうして、スサノヲが預けられ、眠りに就いていた剣が、かつての使い手から息子の手に渡り、眼を覚ました瞬間だった。
仕事中に内容が出来上がり早急に書き出した結果、四時間格闘しましたが書き出すことが出来ました。
いよいよ主人公のメイン武器が登場しました。さていよいよ次は武器の名前と鉱山へと出発します。それともう一つスサノヲはシルバーにあるモノを遺しています。その正体は恐らく次話で登場する(予定です…
次の話はようやくバトルシーンを書くことが出来そうです。(予定では‥
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