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第十四話 「【シュルト】の代表」

二〇二一年、4月22日に改稿しました。いろいろと変更した個所などございます。また次話との繋がりがおかしくなってしまっているかもしれませんが、次話も改稿しますので、少しお待ちください。

ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。

 翌日、俺とエルは宿の食堂で朝食を食べていた。


「ふあぁぁ‥‥」


「シン、眠たい?」


 思わず欠伸が出てしまい、それを見たエルが訊ねてきた。


「いや、大丈夫だ。あの後ぐっすり眠れたからな」


「そう、なら良かった」


 周りにまだ誰もいない静かな食堂で、そんな話をしつつ、俺はナイフで目玉焼きの白身を、エルはパンをそれぞれ口へと運ぶ。

 朝食のメニューはパンと塩、香辛料で味を調え野菜のスープ。そしてベーコンエッグとサラダだった。


「うん。外で食べるのも悪くないな」


「美味しい」


 パンを一旦置き、エルは目玉焼きを口に運んでおり。そのナイフとフォークの扱いも俺より完璧だった。


「そういえば、それ、いつ覚えたんだ?」


「お母さんに一度教えてもらって、覚えた」


「‥‥はははっ」


 一度で覚えた。俺は前世から扱いを知っていたからというズルだが、エルはそんなズルもなく、一発で覚えたというから恐れ入りつつ食べ進め、一足先に食べ終えた俺は口直しに水を飲み、少し遅れてエルも朝食を完食し、先に重ねていた二枚の皿の上に重ねる。


  「よし、じゃあこの町の代表に会いに行くか」


  「…ん、大丈夫」


 俺とエルは手を合わせ、立ち上がるとそのまま食堂からそのまま宿の外へ出るとまず最初に目につくものがあった。


「やっぱり、間近で見ると大きいなぁ」


 見えたのは、赤色の山肌で、その上である山の頂からは絶えず白い蒸気が吹き上がり、山肌が赤く炎のように見えることから【フレイムベルク】。そう名付けられた活火山で、この鍛冶師の町とも呼ばれる【シュルト】を支える膨大な鉱石を貯蔵している鉱山でもあった。

 しかし、感動している俺の横で、エルは僅かに顔をしかめていた。


「‥‥うるさい」


 エルの言う通りで、まだ朝日が昇って然程時間が経っていないが、それでも既に道には弟子と思しき人たちが走り、既に仕事を始めているところもあるのか、既に煙突から煙を上げ、金属を鍛える音があちらこちらから聞こえ始めていた。



「ま、まぁ、確かにうるさいけど、それはこの町が栄えているってことの裏返しだし、鍛冶の町の醍醐味って事で‥‥」


「‥シンは、五月蝿いと思わないの?」


「いや、思うけど‥‥」


 実際、耳が良い影響で、かなりうるさいと感じていたが、町が栄えているならこの程度の事は我慢しないと自分自身を、そしてエルを慰める。


「俺も我慢してるから、エルも我慢してくれ。な?」


「…分かった。シンのお願いだから、我慢する」


「すまんな。よし、じゃあ昨日できなかった町を散策しよう」


「うん」


 それでも、やはりうるさいのだろう、エルは顔を顰めており、昨日からの目的。町の散策へと繰り出すことにした。


「そういえば、シン。私たちが行く冒険者ギルドって、どんなところなの?」


「あれ? エルは母さんから教えてもらってないの?」


「『シルヴァに聞いたら大丈夫よ!』って言われた」


「あはは、そう‥‥じゃあ、この町の説明も兼ねての散策がてら教えようかな」


 そう言い、俺は町を一周することにした。まず目指すのは町の中心から北東にむかう。


「シュルトは、東西南北にそれぞれ門があって、門と門は一直線の道で繋がっているんだ。そして町の中心部で混じっていて、その十字路を中心に大まかに四つの区画に分類されているんだ」



 そう説明しつつ最初にむかったのは十字路の中心部より北東に当たる部分、先ほどまで俺とエルが居た場所で雑貨屋や食料品などを売る商会、武器防具を作り売る鍛治屋、そして宿が多く存在する商業区画が北西に当たる部分。


 そして現在向かっているのは北東にはある目玉にして、この町の根幹を支えていると言えるものがあった。


「それが、この巨大な泉だ」


「綺麗」


 到着した場所は先ほどの商業区画の騒々しさから一転して緑が広がり、主に酪農や果樹園などの農業などを主体とし、シュルトの半分の食料を生産しているが、何よりこの巨大な泉で朝日が水面に反射し、輝いており、エルはじっと光る湖を見ていた。


「この湖が、この町を支える水源なんだ」


 この泉の水は全て地下からの湧水で、町全体に張り巡らされた水源として最も大事な場所だ。


「…美味しい」


「ああ、地下水だけあって、ほのかに甘いな」


 飲んだ水はスッキリしていて、ほのかに甘みがあった。また活火山である【フレイムベルク】の近くのお陰か土に栄養があり、先ほど朝市をちらっと見たがそこで売り出されている魚は湖で取れたもので魚も丸く太っているものが多かった。


「よし、それじゃあ次はこの町の人が住んでいる居住区だな」


 居住区は南東、つまり商業区画とは真反対にあり、そこにシュルトに住むほとんどの人たちが暮らしている。


「いい匂い」


「まあ、今の時間帯がちょうど朝食の時間だろうからな」


 歩きながら、各家庭ごとの様々な匂いが鼻をくすぐる中、俺とエルはそのまま次の場所へと向かう。


「そして最後、ここは主に行政機関や、一部貴族の別荘が集まっていて、その中の一つが、用事がある冒険者ギルドだ」


 冒険者ギルト。それはよくある様々な依頼、魔物の討伐、薬草の採取。荷物の配送といった何でも屋といった仕事を統括、管理する組合の総称で。

 その組合が出来た経緯が、【冒険者】という荒くれ者がなる職業といったイメージを払拭、更に箔をつけるという意味もあるが、本命は冒険者になるものの多くが田舎から出てきた者が多く、字が書けない事で、口約束だと信用できない。そういった個人間での契約が円滑に進まず、また暴利的な金銭を要求するといった輩が出たため、そういった事態を無くすためにこの国。

 エクスカーナ王国の首都にて結成され、以降は各町に支部を作り今では王国各地の情報網といった側面を持つようになった。それこそが冒険者ギルトの起源だった。


 そして、説明をしながら来たお陰で人通りは朝とは比べられないほどに増えており、目的地である冒険者ギルドも空いており、俺とエルはそのまま巨大な建物。

 冒険者ギルドシュルト支部へとその足を向けた。


 冒険者ギルドシュルト支部の外観は、鉱山で取れる大理石を使って作られていたが、内部は床や天井などに木をふんだんに使われており、外とは打って違い、温かみがある。


「おおっ」


「凄い人」


 しかし、今は多数の冒険者たちによる熱気があり、こうしている間も兜こそ脱いでいるが全身鎧と背中に盾、そして腰に剣を佩いた肌が黒く焼けた玄人思しき人や、ローブと杖という動きやすさと如何にも魔法に特化した服装の人もいたり、更には軽装鎧を身に着けた二人組の女性冒険者が掲示板に張り出された依頼を見ていた。

 更にギルド内には食事場があり、依頼を達成したのか。朝から酒盛りをしている人や朝食として料理を注文している人と様々だった。しかし、やはり子供が来るのが珍しく、更に黒髪黒眼という事と、銀髪に金色の瞳の美少女であるエルも居る事が合わさり必然的に多数の視線を感じたが、気にしないことにする。


「さて、取り敢えず受付の人に聞けばいいかな?」


 俺はエルと一緒に一直線に受付へと向かい、視線も俺とエルを追従するが、直ぐに足止めを喰う羽目になった。


「おやおや、ここは子供が来るところじゃないですが?その子の自慢に来たのなら、さっさとお帰り願いたいですね」


「ええ、子供の自慢に付き合ってられませんよ。ねぇ?」


「ああ、まったくだね」


 そう声を掛けてきたのは、軽装の鎧を身に着けた、二十代前半ほどの青髪の男で、その仲間なのか同じく二十台前半ほどの、こちらは赤い髪と同色のローブに赤い宝石を埋め込んだ木の杖を持った女性と、もう一人も女性だがこちらオレンジ色の短髪、男と同じ軽装鎧に加え、左腕に丸盾、腰に剣を佩いていた。


「おい、あいつ【蒼焔剣】のアルスじゃないかっ!?」


「本当だ。なんでこの町に…」


 俺達に声を掛けてきたパーティーのリーダーを見た周囲の冒険者は驚いた表情を浮かべている事に加え、二つ名とぼしき名前からしてかなり名前が通っているらしく、眼を見たがそこに嫉妬や邪魔だという煩わしさからの怒りなどはなく。それは女性二人も同様で、厄介連中に絡まれないようにという本当に良心から声を掛けてきたのだと、分かったので、答えることにした。


「確かに、彼女の事を自慢したくはありますが、今日ここに来たのはこの町の代表に用があってきたんです」


「ギルドマスターに?」


 ギルドマスターに直接の用で尋ねてきた。そう答えると、様子を伺っていた冒険者の内のおよそ半分は嘘だと思ったのか小さく笑い、残りの半分はやや困惑した表情を浮かべる。そんな中アルスは口を開く。


「すまないが、一体どういう用件でだい?」


「顔見せです」


「顔見せか‥‥え、顔見せ?」


「はい、そうですが?」


 顔見せ。その言葉を聞き、思わず聞き返されたが間違いではないので俺は再度同じことを伝えると、僅かに顔が強張った気がした。


「ね、念のために確認するけど‥‥君の名前は?」


「名前はシルヴァ・シュトゥルム。この地を納める領主であるリリフィア・シュトゥルムの息子です」


 俺が名乗り、母さんの名前を口にした瞬間、ギルド内の時間が止まった。そう錯覚させるほどの静寂が支配した。


「は、ははは、じょ、冗談だよね?」


「いえ、事実ですよ。これが証拠です」


 証拠とし母さんから預かったシュトゥルムの印が施された封蝋を見せると、目に見えてアルスと、その仲間である女性二人の顔色が悪くなり、小さく震えていた。


「どうかしたんですか?」


「い、いや、何でもないよ…」


 アルスは青い顔でそう言いつつも視線を逸らし、周りを見ると先ほど小さく笑っていた冒険者たちを含めた全員から視線を逸らされる。


(母さん。一体何をしたんだろ?)


 恐らく冒険者時代の事が関係しているんだろうな。そう思っていると、奥から一人の男が姿を現した。

 男は動きやすい麻製の服とベストを身に着けた白いひげの老人というにはやや若い男性で、しかしその肉体はその上からでもわかるほど鍛えられ、がっしりしており、袖を折ったことによって見える腕には、幾つかの古傷があり歴戦の強者、そんな雰囲気を纏っていた。


  「おやおや、何をそんなに騒いでいるのかね?」


  「ギ、ギルドマスター!? ど、どうしてこちらに?」


 男の突然の登場。ギルドマスターが現れたことでアルスを含めたこの場に居る冒険者、その全員が驚いていた。


「なに、そろそろ【煉獄の剣姫】とその名を轟かせ、現在この辺りを納めるリリフィア・シュトゥルムの息子が来ると思ってね」


 そう言うと、ギルドマスターと呼ばれた男は俺の前に来た。


「まずは、初めまして。私はシュルトの町長、そしてギルドマスターを任されているゲンドゥだ。君が彼女の息子、でいいのかな?」


  「初めてお会いしますね。リリフィア・シュトゥルムの息子。シルヴァー・シュトゥムです」


 相手が礼をしてくるのであれば、それに合わせるべきかと俺も丁寧に自己紹介をする。


「ほっほっほ。あの子も凄かったが。なんとまあ、とんでもない息子じゃな」


「そうですか?」


「うむ。あの子も凄かったが、お主はそれを遥かに凌ぐ。いやはや、鳶が鷹を生むとはいうが、これは鷹がドラゴンを生んだというべきなのかの」


 ゲンドゥさんの言葉に俺自身は然程ピンとくることはなかったが、それでも、母さんの事を褒められたことは、素直に嬉しかった。


「さて、さっそく話をしたいが、ここでは喋れぬ話じゃ。わしの部屋で話すとしよう」


 付いてきなさい。そういうとゲンドゥさんは歩き始め、俺とエルは少しの間、互いを見た後。ゲンドゥさんの後を付いて行った。 

 

ふう、次回の投稿はもう一つの作品が出来た後に作成・投稿する予定です。

時間が空いてしまうかもしれませんが、少しの間お待ちしていただければ嬉しいです。

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