第十二話 「鍛錬と出発」
二〇二一年 四月十一日に色々と改稿しました。ご迷惑をおかけしますが、どうか、よろしくお願いします。
エルと出会って二週間が経過した。
と言っても、日常が急激に変わるという事はなく、俺はいつも通りに過ごし、エルはその間メイド達がすることを見ていたり、木の下で横になっていたり、書庫の本を読んでいたりと過ごしていたが、今日は違った。
いつも通り、朝日が昇るくらいの時間に目を覚ますと、顔を洗い、うがいを済ませると自室へと引き返し寝巻から動きやすい服装に着替えると俺は外へと出るためにそのまま一階に降りて玄関へ向かう。とそこには、珍しく先客がいた。
「おはよう、エル」
「おはよう」
そこには、この一週間はこの時間帯では眠っているはずのエルが、出会った時と同じ白い着物を見つけて立っていた。
「珍しいな。エルってこの時間帯は寝てなかったか?」
「昨日まではそう。だけどシルヴァに着いて行こうと思って、起きた」
「マジか、毎日してるから別に今日、無理に起きなくても良かったんだぞ?」
「大丈夫。気にしないで」
「そうか?」
この二週間を一緒に過ごして、ある程度だが俺もエルの事が分かってきていた。今の気にしないという言葉をとっても、不愛想に感じるかもれしないが、言葉になっていないだけで「ありがとう」という意味が含まれている事が分かっているので、俺はそのまま靴を履いて外に出るとそのまま柔軟体操をしつつ尋ねる。
「っと。そういえば、エルはどうやって着いてくるんだ?」
「途中、龍の姿になって、飛んでいく」
「そうか、じゃあ、少しだけ待ってくれ」
「分かった」
エルに待ってもらいつつ準備体操をし終え、体の調子を確かめる。
(よし。良い感じだな)
体を温めつつ、前日の疲労が残っていないのを確認し終えると、俺は立ち上がる。
「すまん。待たせた」
「ううん。じゃあ、行く?」
「ああ。行こう」
俺とエルは、並走するように走り始め、家からある程度離れた場所の森を通るにエルは俺から距離を取ると、その体が光に包まれ、龍の姿へと変わると翼を動かしその体は空へと昇っていくのを確認して、俺も「全身強化」を発動させると、風を切るようにそのままジルガ山へと走って行った。
そして、体を動かす鍛錬が終わり、いよいよ自分との戦いの為に地面に座った時、人化した状態でずっと俺を見ていただけだったエルが話しかけてきた。
「そういえば、今日はお母さんから一緒に町に行きなさいって言われた。覚えてる?」
「うん? ああ。シュルドに顔見せをするんだろ? ちゃんと覚えているよ」
エルの言葉で、俺の頭には昨日の事を思いだす。昨日の夜。母さんから執務室来るように言われて行った時だった。
『シン、明日の午後からエルちゃんと一緒にシュルドの町に行ってきて欲しいの』
『シュルドに?』
母さんの突然の言葉に、俺は首を傾げた。
シュルド。それは母さんが納める領地に存在する幾つかの町の中で最大の町で、その町近くに活火山がある影響か、良質な鉱石が多く取れ、鍛冶師が多く日々腕を磨き競う様子から別名、鍛冶の町とも言われ、王都へ武器を卸していたりもする。
そして、町の中心部には冒険者ギルドの支部もある。なぜそんな町に行かなければいけないのか、そう思っていたのが顔に出ていたのか、母さんは小さく笑って、その答えを教えてくれえた。
「実はね、次期領主となる子は十歳になると自分が治めることになる町代表に顔を見せに行くのよ」
「へえ、確かに、それは良いことだね」
内容としては、顔見せ。十歳になった次期領主。すなわち現当主の娘、息子の顔を覚えてもらう。
そういう名目だが、同時に俺は実際は後継者を見定める、そういった側面を持つものだと予想していた。
「うん、俺はいいけど、エルも一緒なのは?」
「それは、二人で仲良く行ってほしいからよ」
母さんはそう言い、確かにそれは本心だとは思ったけれど。
(多分、親の眼がないところで楽しんでほしい。そう思ってるのかもな…)
それと同時に、その眼で町を見てきてほしいという思いがあるのだと、俺は思っていた。
(母さんの顔に、絶対に泥を塗るわけにはいかない!)
まだ早いとは自覚していたが内心で決心を十分に固めて終えると、この二週間の間、気になっていたことをエルへと尋ねることにした。
「そういえば、エル。聞きたかったんだが、そろそろ俺の事をシルヴァじゃなくて、シンって呼んでくれないか?」
「? でも、シルヴァは、シルヴァだよ?」
「あ~、なんて言えばいいのかな。その、シルヴァは確かに俺の名前だけど、なんて言うかな、その…壁っていうか、余所余所しさみたいなのを感じちまうんだ」
「私は別に、そんな事は」
エルは相変わらず無表情だったが、その瞳は何処か悲しさが見えて、俺は急いで続きを離していく。
「ああ、それは分かっている。でも、上手く言えないが、エルとの間に壁みたいなのがあるのが、俺はなんか嫌なんだ。俺の我儘だって分かってる。けど、出来れば、シン。そう呼んでほしい」
「‥‥‥」
「ま、まあ。いきなりは無理でも、追々「シン」…え?」
急な俺の提案にエルは何も言葉を返さず、しかしその反応が普通だと思っていた俺は確かに聞こえた、しかし気のせいかもしれないと声が聞こえた方向、エルの方を向く。
「シン? 何かおかしかった」
「あ、い、いや、その…いきなり名前を呼ばれたから、その、びっくりしちゃって、な?」
「そうなの?」
「ああ。けど、気にしないでくれ。ただ単に慣れてないだけだからな」
「そう?」
エルは、不思議そうに首を傾げた後、納得したのか再びじっと俺を見始め、俺は内心の動揺を隠すために目を閉じて自分との勝負を始めようとしたが、動揺したことで上手く集中することが出来ずに、ただ時間が過ぎてしまったのだった。
そして、いつもの鍛錬を終えて帰り道は、相変わらず走って、エルは空を飛んでと、行きと同様で家へと戻り、エルには先に食堂へと行ってもらい、一旦汗などを拭いて部屋で着替えた後、食堂に行き朝食を食べ終えて、俺は母さんの執務室へと行く。
「はい、これが宿代を含めたお金ね。それと、これが町の代表に会うための書状よ」
「ありがとう、母さん」
そう言って母さんはお金が入った袋と、封蠟が施された手紙を差し出してきて、それを受け取り、落とさないように腰のポーチの中に入れて、しっかりと止める。
「それじゃあ、母さん。行ってきます」
「ええ。気を付けて行ってらっしゃい」
母さんに、そう言うと母さんは少しばかり寂しそうな表情を浮かべながらも引き留めることはなく、俺はそのまま執務室から直接玄関へと向かい、玄関には俺の剣を持ったエルが待っていた。
「悪い、待たせたか?」
「ううん。大丈夫」
「そっか。じゃあ、行くか」
「うん」
エルと一緒に、扉を開き。俺とエルはシュルドの向かい、家を出発した。
???
「ふむ、よもやあのような場所に居たとはな‥‥」
黒いマントを身に着けた男は、閉じていた眼を開くと、そこは灯光石にて照らされた、洞窟の最奥の開けた場所で、男は座っていた場所から地面へと飛び降りる。
「まあいい。網を張っていればあちらから掛かって来るというものだろう。‥‥さあ、来るがいい「永遠なる星龍! 貴様を殺す私が待っているぞ!」
洞窟の最奥にて。背後に大量の血を流し、鱗は剥がれ、割られ、今にも消えそうな弱弱しく、僅かに息をする龍を背景に、黒のマントを身に纏った男の高笑いが坑道に反響して消えた。
ふう、最近内容が全く浮かばない症状にあってしまいなかなかこの作品以外のアイデアとストーリーが浮かびません。ですが今日はどうにか先ほどこれが浮かんだので勢いに任せて書いてみました。
おかしい箇所があるかもしれませんが…お願いします。
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戦闘はもう少し待ってください。




