第百十七話 「流星、空を裂く」
ものすごくお久しぶりです。
ある日を境に急に書く気力がなくなりました…。
どうにか、少し戻りましたので、投稿です。
「…貴方が、この騒動の元凶のピッグレン、と?」
「ええ、そうですが?」
「…こいつが!」
違和感故に冷静な俺とは対照的に、レオンはその顔に怒りを滲ませ、それは今にも獲物に飛び掛かろうとする獅子のようでもあった。
「おお、怖い怖い」
そして、そんなレオンにピッグレンはおどけながら怖がったふりをする。
その様子からも、俺はどうにも外と内が噛み合っていない。それが何なのかを知るために、俺は指輪に魔力を流すと同時に先ほど壁に幾つか刺したクナイもどきを三本、頭、心臓、腹部へと投擲する。
が、それが届き事無く、ギャリンッ!と目に見えない硬質なものに弾かれ、それによって見えたのは、細い金属糸で。目を凝らさなければ見えないほどの微細な糸が張り巡らされていたという事だった。
「ふふ、いきなり投げ物とは。いやはや油断も隙も無いですね」
「その割には、警戒していたみたいだけど?」
「ええ、念の為というものですよ」
ピッグレンがそう言いながら手を振ると、張り巡らされていた糸がほどけるとそれらはまるで意思があるかのようにピッグレンの手のひらへと戻っていき、それは拳大の白銀の玉へと変化し、背中の辺りに某有名な遠隔操作兵器のようにその場に浮かぶ。
「う、浮いている…?」
その光景にレオンは驚いていたが、俺は油断なくピッグレン(?)の様子を伺う。
「それが、貴方の武器という事ね」
「ええ、ここまで侵入してきた貴女たちの褒美として、この子の真の姿を冥土の土産に教えてあげましょう」
「真の姿、だと?」
俺の言葉をよそに、ピッグレンは手を前に伸ばし、手のひらを上に向けると手の上に銀の玉が移動する。
「天に輝く双星の片割れたる星よ、偽りたるその姿を破り、真なる姿を我が前に示せ、目覚めよ。白銀の片翼」
ピッグレンの背後にあった白銀の玉。ピッグレンの手の上に移動し名を口にした瞬間、それは流体となったかと思うと徐々に形を変えていき、やがてピッグレンの手の上で形を成したのは、片手で持てる大きさだが、その表面には精巧な彫刻が施された、神秘的な空気を感じさせる白銀の竪琴があった。
「あれは…」
「銀の、竪琴?」
レオンが思わず素の言葉遣いに戻ってしまっている事に、俺はツッコミを入れることは出来なかった。何せ、レオンが素の言葉に戻ってしまうのも仕方がないくらいに、それには濃密なまでの魔力が宿っていた。
「ハープって‥‥あいつが持つアレの名前?」
「ええ。私の知る限りは、楽器の一つだよ」
「‥‥へえ、見たことはあったけど、そんな名前だったんだあの楽器」
何故、楽器? そう言いたげなレオンに対して俺は警戒度を上げる。この世界で何度か見たことのある弓を引いて奏でる楽器で、日本語では竪琴、海外ではハープと呼ばれるそれは、元は弓を原型にしたものだと言われている古くから存在する楽器の一つで、この世界にもありふれて存在する楽器の一つだ。
そんなありふれた物の形でありながら、神秘性を感じさせつつ濃密な魔力を持つ。その事に、俺は警戒のレベルを上げる。
「ふふ、まあ、ご存じですよね。ですが、どうです? 美しく、そして素晴らしいでしょう? これこそ、あの御方より私へと与えられた空に浮かぶとされる美しき白き星の名を与えられた龍を滅ぼすための龍滅具《白銀の片翼竪琴》です。そして…」
「ッ!?」
ごく自然な動作でピッグレンの手が竪琴の弓に触れた弾いた瞬間、俺は本能的に前に出ると手にしていた剣を振り上げると、剣が何もない空間にある何かとぶつかり、それを逸らすと大理石の床がまるで鋭利なモノで切り裂かれたかのような痕が出来上がった。
「おや、初見で防ぐとは、良い感覚をお持ちのようですね?」
「その竪琴を見た時から、嫌な予感がしてたからね…まあ、幸運なだけだね」
正直、防げたのは本能的な感覚に任せてだったので、二度目を防げる自信は無かった。何より、風を視る者で僅かな空気の揺れすら感じられず、まさに不可視の状態でいきなり死神の鎌が振るわれる。そんな感覚だった。
「ふふふっ、では、私の人形たちと同じように、死のダンスを踊っていただきましょうか」
そう笑いながらピッグレンの手が竪琴に触れる、その直前に一直線に突っ込む一つの影。
「はあああぁぁぁっ!!」
「ふふっ、勇ましい少女というのもまた良いものです」
「うるさ、がっ!?」
「レオン!…ッ!?」
レオンが声を上げながら全身強化を発動させた状態で風を切り突っ込んでいくが、ピッグレンは焦った様子もなく、指先が弓に触れた瞬間。レオンの進路はまさに直角に弾き飛ばされて壁に激突し、それを認識した直後に俺もレオンとは反対の壁へと吹き飛ばされて、壁へと激突した。
(くそ、やっぱり見えない!)
衝撃を受けた瞬間に感じたのは、大きな槌に弾き飛ばされたかのような感じで。咄嗟に受け身を同時に衝撃をある程度は流すことが出来たが。
(つっ!?)
それでも突然の衝撃に僅かに体が硬くなってしまった事に加え、慣れないヒールの靴を履いている影響か、右の足首に小さな痛みが走った。
(痛いけど、まだ平気だな。レオンは…どうやら、無事みたいだな‥‥目のやり場には少し困るが…)
恐らく固まったことで衝撃の一部が集中したことによる一種の打ち身で。だが、今はそんな事を考えている余裕は無く、俺は風を視る者でレオンを視ると無傷で、どうやら咄嗟に防御の構えをとったのだろう。立ち上がったが、身に着けていたドレスが少しばかり穴が出来ており、何となく、いけないモノを視てしまった。そんな気持ちを横に流しながら俺も立ち上がると、結ばれていた髪が解けたのか、背中に自分の髪の感触があった。
「おや、玩具にする為に加減していたとはいえ、それほど傷を負ってませんか」
「あたり、前だ!」
一方のピッグレンは、思った以上に俺とレオンが傷を負っていない事に少しばかり不思議そうにしながらも、その間に体勢を整えたレオンは拳を構えるとピッグレン目掛けて急激に加速する。
(あれって、もしかして…)
頭の中で思い出すのは、夏季休暇の間にふとした思い付きで実際に教えて、見せた一撃。それはまさに大気圏にて燃える炎を纏う星のように魔力を纏いながら突き進む。
「ほお!ではこれはどうでしょうか?」
先ほどと同じように余裕な表情でその場から動くことなく指が弓に触れるが、レオンの軌道が曲がる様子は、無かった。
「なんとっ!」
その様子にピッグレンは驚いた様子で回避をしようとするが、それよりもレオンの動きの方が遥かに早い。そして、レオンはピッグレンを確かに捉え。
「流星拳!」
その加速を乗せた強烈な一撃がピッグレンへと直撃して、ピッグレンはそのまま城の壁に直撃するだけでは止まらず、そのままピッグレンは壁を突き抜けてそのまま空気を裂きながら吹き飛ばされていったのだった。
次の投稿はまだ未定ですが、少しずつ書いていきます。
今は上げ下げの幅が大きすぎるので、ゆっくりとしたペースで再度頑張っていきます。
今年はあと少しですが、よろしくお願いします。




