第百十六話 「急がば回れ」
三回目の副反応で全身の鈍痛と発熱によって頭が回らずボーッとしているなかで浮かんだのを、どうにかこうにかして書き上げました。
そして、今回、ずっと悩んでいたタイトルを変えさせて頂きました。ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、新たなタイトルを宜しくお願いします。
それでは、どうぞ。
「それじゃあ、まずは地図を頼りに上に行くための階段を見てみよう」
「うん。それじゃあ早速行こう!」
地図には上に上がるための階段は広間以外に城の裏側に2つあるとの事で、その階段を確認することにして、俺たちはトイレから出て辺りを警戒しながら地図に記された上へと上がる階段の所へと歩いて向かい、壁際からこっそりと様子を伺うと、そこには武装した二人一組の兵士が階段の前に立っていた。
「…やっぱり、見張りが立っている」
「けど、二人だけなら行けるんじゃない?」
「そうだといいけど…っ! レオン、こっち!」
「えっ、なに!?」
突然手を引っ張られたレオンは驚くのも気にせずに、俺は少し戻り道すがらにあった部屋のドアを素早く開け、急いで中に入り鍵を閉め、レオンを抱き締めるように身を隠す。
「ねえ、一体どうしたの?」
「静かにっ!」
小さく、だが緊迫感が混じった俺の言葉にレオンは不思議そうにしながらも口を閉じる。そうして静かになったところに耳を澄ませると扉越しに複数の足音が聞こえ、扉の近くで止まり、扉に手を掛けて近くにあった部屋が開く音がし、それは徐々に近付いてくる。
「「……」」
呼吸を忘れるほどの緊張感の中に、レオンはシルヴァの行動の意味をようやく理解した。
(凄い、シルヴァは気付いてたんだ…)
自分は一切気がつかなかった中で周囲の状況を判断し移動したシルヴァに頼もしさを感じながらレオンとシルヴァはいつでも動けるように固唾を見守るように扉越しに聞こえてる音に耳を澄ます中で、俺は自分の思い込みを後悔していた。
(くそ、まさか二人一組じゃなくて、三人一組だったことに、どうして気付けなかった!)
シルヴァがもう一人の存在に気が付いたのは辺りを視るために風を視る者で索敵をしたお陰で、それをしていなければそうそうに見つかってしまっていたかも知れなかった。
(もっと、警戒しないといけなかったのに!)
と内心で緩んでいた自分を攻めながらドア越しの足音に耳を澄ます。
そんなシルヴァとは対照的にレオンは密かし焦っていた。
(せ、背中のこ、これって胸、だよなっ!?)
男だと分かっていても、背中に感じる柔らかな膨らみによる感触にレオンは必死に男だと思うことで意識を逸らしていると、シルヴァ達の部屋の前に足音は近付いてきて、ドアの前で止まった。
「「……」」
この時ばかりはレオンの雑念は消えて息を潜めるなか、鍵が開く音がして扉が開き廊下の松明の光が差し込むなか、その足音は部屋の中を歩き周り、部屋の中を確認していき。
やがて何もない事を確認したのかそのまま部屋を出ると再び鍵が閉まる音の後にその足音は離れていき。
「「はぁぁぁぁ~~」」
それを確認して俺とレオンはそれぞれが安堵のため息を吐いた。
「あ、危なかった…」
「そうだね。見つかったかと思ったよ…」
互いに少し疲れが混じった笑みを交わし、俺は無意識の内に抱き締めていたレオンから体を離して立ち上がり、レオンへと手を差し伸べる。
「立てる?」
「…う、うん!」
少しの間と、何処と無く顔が赤い気がしたがレオンは手を取り立ち上がると捲し立てるように口を開く。
「そ、そう言えば、この部屋って服が一杯あるよね!?」
「え?うん、そうだね」
レオンの言うとおりで、俺たちが隠れる為に入った部屋はどうやら衣装を保管する部屋のようで、メイドの服から高そうなローブやドレスなどが綺麗に掛けられていた。
「城だから当たり前だけど、色々と凄いね」
「うん。でもそのお陰で見つからずに済んだんだけど、あっ!」
部屋の中を見回していると、俺はガラス張りの扉を見つけ、外のテラスへと出る前に風を視る者で周囲を確認して外に出て上を確認するも、裏側ということもあり辺りに人影はなかった。
「流石に裏にまでは人を配置していなかったみたいだね」
今宵はパーティー。それ故に裏まで人を回さなかったのか、はたまた。
(そうなっても大丈夫とする何かがあるか、か)
としても、問題があることには変わりはない状況だった。
「それにしても、階段は使えないと考えた方が良さそうだね?」
「うん。それのあの兵士、様子もおかしかったしね」
「…そうだね。人形みたいだった」
レオンの言葉通り、鍵を開けて部屋を確認する様子を見ていたが、表情があまり変わらずに淡々と探す様子は人形という言葉が一番適していた。
「それより、どうしようか」
現状の解決すべき課題。それは如何にして玉座の間に辿り着くかと言うことだ。
「そうだね。中は難しそうだし、と言っても外も壁を登っていくわけにはいかないし。そもそも魔法が使えないのも、かなりの痛手だし」
「そうだね…って、そう言えば魔法は魔法でも身体強化魔法ってどうなんだろ?」
ふと、俺の中に浮かんだ疑問。魔法を使えなくする陣があるとは言っていたけど、一言も身体強化魔法が使えないと言っていなかったように思えた。
「それは魔法だから使えないんじゃないかな?」
「ふむ。じゃあ、試してみるかな」
使えなければそれはそれで考えるつもりだったので、使えればラッキーの軽い感覚で全身に魔力を循環させ『全身強化』を発動させると。
「…出来ちゃった」
「ええっ、うそ!?」
使レオンも驚いたが使ええるとは思っていなかった俺も十分に驚いていた。
そんな中、レオンも試しに身体強化魔法『全身強化』を発動させようとして。
「ごめん…出来ちゃった」
どうやらレオンも問題なく発動させることが出来たことから身体強化魔法が使えることは証明された。
「でしょ? なら、『火炎』!…こっちは駄目っぽいね」
試しに火属性中級魔法『火炎』を使ってみたが発動することはなかった。2つの魔法の違い、それが使える、使えないを分けるものだと考えると、ある予想が浮かぶ。
「もしかしてだけど、身体強化魔法は体の内を循環させて身体能力を上げる魔法だから影響がなくて。それ以外の魔法は魔力を放出してその魔力で事象を改変して現象を起こす。その際に必要な放出される魔力を拡散させるから魔法が使えないって事かな?」
「えーと、…どう言うこと?」
「簡単に言えば、魔力を放出しない身体強化魔法は使えるってことだよ」
予想混じりだが、こう言うことだと思う。そうでなければ強化と言えど魔法である身体強化魔法が使えることに説明がつかない。
「まあ、考察は一旦置いておいて。これは僥倖だよ」
実際、素の身体能力も鍛えているお陰でかなり高い方だと思ってはいるが、壁を登るなどはかなり難しく、レオンがいる状況では尚更だ。
だが、身体強化魔法が使えるのであれば、その枷は無くなる。
「となると、壁を登っていくのが早いかな。でも、この格好だと少し難しいし…そうだ」
確かあれがあったはず。と俺は右手の中指に嵌めていた指輪に魔力を流し込み、取り出したい物を思い浮かべると、空間が歪み現れたのは大きさは五センチ程の先端が鋭く尖ったクナイのようなものだった。
「? それをどうするの?」
「こうする、のっ!」
瞬間、手に持っていた十本を一定の感覚で石壁の隙間へと投擲して差し込み、即席の足場を形成する。
「これで、問題なく上がれるでしょ」
「相変わらず、無茶苦茶するなぁ」
占拠されているとはいえ、城の壁に金属片を刺して登ろうなど思い付かない。思い付いてもまずしないことをやってのけたシルヴァにレオンは感心と呆れの入り交じった微妙な表情を浮かべる。それに気付かなかった俺はそのまま壁に近付き『全身強化』を発動させる。
「それじゃあ、先に行くから!」
レオンにそう言って俺は跳躍し、宙で体の向きを変えて一つ目の足場であるクナイ(?)に片足で着地、からの再び跳躍し体の向きを変えて着地を繰り返して屋上を目指してと登っていく。そして、髪を靡かせながら身軽に登っていくシルヴァを端から見れば妖精と宙を舞う妖精のようでもあった。
「…って、見惚れてる場合じゃなかった!?」
シルヴァに置いていかれている事を思い出したレオンは端から見てもシルヴァほど上手い訳でも、身軽というわけでもないが自然と微笑ましさを感じさせつつ登っていき
「着いた!」
シルヴァに遅れること十数秒。慣れないながらも無事レオンも王城の屋上へと辿り着く。
「大丈夫だった?」
「うん。ちょっと怖かったけど」
「なら良かった。ああ、そこの辺り多分罠があると思うから…」
「え?」
気をつけてね。と俺が言いきる前に、何もないことをその場所を踏むと同時に屋上全体に魔方陣が展開される。
「ご、ごめん!」
「それより、気を引き締めて!」
謝るレオンに声を掛けながら身構え、やがて姿を表したのは剣や槍。戦斧や斧槍に弓矢など様々な武具を持つ全身鎧を身に付けた存在だぅった。
「これは、魔災鎧!?」
魔災鎧。それは魔力、または生物の怨念などによって命を持った鎧の怪物の名前だった。
そして、そうして命を持った鎧に知性はなく、近くに居る者を攻撃する習性があり。更にそれぞれが武具の使い手で、下手な兵士よりも手強いと有名でもあった。
(でも、問題はない!)
数は凡そ五十前後。俺は右手の人差し指に嵌めている指輪に魔力を流し込み剣を取り出し構え、反対側では同じ様に無手の状態でレオンも構える。
「取り敢えず、まずは全滅させよう!」
「ええ!」
剣の柄を握り直して俺は駆け出し、手近に居た一体を一振で倒し、流れるようにもう一体を切り伏せる。その中で反対側からは硬い物を壊す音を耳に捉えながら、放たれた弓を剣で払う。
一方、無手のレオンは身体強化魔法『全身強化』を発動させその拳を魔災鎧へと振るい、鎧と武器を破壊する。
「はああぁぁっ!」
踏み込みその勢いのまま更に弓使いの弓を壊しながら殴り飛ばし、薙ぎ払わんと振るわれた斧槍を跳躍することで回避し、首へと蹴りを叩き込み頭部を粉砕する。
言葉を交わさずとも、連携を取らずとも、自然と互いの穴を埋めるように立ち回り戦う二人の様はまさに戦場に舞い踊る二輪の華のようだった。
「これで」
「最後!」
やがて。二輪の華が動きを止めたのと湧いていた生ける鎧の最後の二体が消滅し、それを吐き出し続けた転移の陣も呼び出す存在が居なくなったことで光を失い、消え去る。それを確認して俺は剣を指輪に納め、レオンも構えを解いて一息をつく。
「ふぅ、何かしらの罠があるかもと警戒はしてたけど。まさか感知型の召喚陣とは思わなかったよ」
「その、ごめんなさい!」
「ん? そこは気にしてないから大丈夫。けど、急がなくちゃ行けないかな」
レオンが魔方陣を起動させてしまい、戦闘になってしまったことは済んだことなので気にしてはないが。これを仕掛けた存在に気付かれた可能性が高い。そしてここで時間を使えば使うほどに相手に次の手を打たせる時間を与えてしまう事に繋がる。なら取る手段は一つ。幸い近くに窓もあり、地図も頭の中にあるので後は相手が手を打つ前に本丸へと突き進むだけだ。その為に下を見て窓を確認し、指輪から小さな金属片を取り出すと。
「リオン、私が先行するから呼んだら来て」
「えっ、ちょっとシルフィ!?」
足を何もない空間に進め、途端に始まる落下。が地面まで落ちること無くその手が窓の縁へと掛かり、体を引き上げ反対の手に持っていた金属片で鍵を開け、玉座の間がある三階の廊下へと入る。
「リオン、いいよ」
そう窓から身を乗り出して声を掛けると、流石に怖いようで足から順に胴体、そして最後に顔が見え、そこからは勢いをつけて廊下へと着地する。
「もう、いきなりだから驚いたよ!」
「けど、これが一番だったからね。それより行くよ!」
レオンの小言を流しながら俺は走り始め、その後をレオンが随行する。
そこから先は三階全部がそうなのか、明かりこそあるも一切の邪魔も見張りもなく、ただ記憶にある地図を頼りに走り、幾つかの角を曲がり、やがて大きな木製の扉の前に辿り着いた。
「なんか、空気が重くない?」
「…そうだね」
レオンの感覚は間違っていない。確かにこの場の空気は他と違い明らかに重い。
だが、これと似たように感覚を俺は既に知っていた。故に厳戒の黒幕についても大まか予想があった。
その中で、扉に手を当てる。
「開けるよ」
「…」
無言だが、頷いたのを見て俺は扉を開き、中へと入り続くようにレオンも中へと入ると玉座に座るそれに直ぐに気が付いた。
「おやおや、まさか可愛らしい女の子二人だけで、魔災鎧の群れを倒してここに来られるとは、正直驚きましたよ」
そう言いながら拍手をすると共に玉座から立ち上がる中、俺は強烈な違和感を感じていた。例えるなら外と内が噛み合っていないそんな感じだった。
「ここまで来た貴女達の為に名乗っておきましょうか。私が反乱軍の指導者にして、選ばれた【龍裁者】であるピッグレン・アルフレッドが貴女達の相手をしてあげましょう」
男は自らをそう名乗った。
皆様、もしコロナ予防接種の三回目を受ける方がいるのであれば、家にしっかりと水分と簡単に栄養が取れるものを準備しておいた方がいいですよ。後、体に走る鈍痛は本当に辛いですので。
(本当の経験談
さて、今話ではいよいよ首魁との邂逅を果たしましたので、いよいよ苦手な戦闘へと移ってまいります。
どうにかこうにか話が浮かべば書き出しますので、今回は気長にお待ち下さい。それでは今回はこれにて失礼します。寒くなっていますので、こちらでも体調を崩さないようにお気をつけください。
では、また次話で。




