第百十四話 「いざ、パーティーへ!」
新年入って、前回投稿から珍しいくらいの早さでの2本目投稿です。
エクスカーナ王国、その中で国の指導者である国王が座す王城、しかし現在は貴族立達による反乱軍が占拠するその場所が、今宵パーティーの舞台だった。
「…よし」
覚悟を決めるように姿見の鏡の前に立ち、俺は身に付けていた服を脱ぎ身に付けていた男物の下着を含め、全てを脱いでいき、最後に髪を纏めていた紐を外し、一糸纏わない裸となる。
そして、鏡に写るのは自分とは思えない凛々しさと美しさが両立した顔立ちに黒い瞳、背中の中ほどまで伸びた黒髪、肢体に関しては掌には収まらない程の大きさの胸に加え、そこから下のお腹から腰、お尻から足にかけてしっかりと引き締まりながらも柔らかさを両立した、まさに十人中9人は同意するであろう、クールビューティーな美少女がそこに居た。
「…自分とは思えないほど可愛いがうん。やっぱり違和感しかない…そう言えば、何処と無く母さんぽいな」
鏡に写るのは全裸の自分に露になる女の自分に綺麗だと思うと同時に、今更ながらそんな事を思いながら、女を楽しむのもありだと自分を納得させて、リリィ達が用意した下着を手に取ると、まず下のパンツ、もといショーツを穿き、後ろのくい込みを直す。そして次はブラジャーで、これも教えてもらった通りに、両肩にストラップを掛けて、前屈みになり胸の下に合わせ、そのまま後ろのフックを留め、体を起こすと胸の微調整をし、体を軽く動かし違和感がなく、しっかりと付けられている事を確認する。
「…よし。次は…」
一周して違和感がないかの確認をした時、ふと数時間前の事だが初めてブラとショーツを付ける為に裸になったとき、羨ましいとばかりリリィに揉まれた事を思い出してしまったが、軽く頭を振ることで追い出し、そのまま今夜の為にレティスとティアが選び買って来たのは、赤と黒を基調にしたドレスを着ていく。
まず、このドレスだが両肩は完全に出ているが、胸元は見えない作りだ。
そして、上が見えないのとは反対に裾は膝下、脛が隠れない程度の長さしかなかった。買って来たレティス曰く。
「シルヴァは、一目見ても身長も高く胸があるのが分かるので、上半身は敢えて隠して、変わりにスラッとした足を出した方が良いと思いましたので」
とのことらしく、詳しくない俺はそれに納得するほかなかった。
「…こんな感じか…?」
リリィ達からの徹底指導のお陰で、特に苦労することなくドレスを身に付ける事が出来たが。股下のスウスウ感に恥ずかしい感覚を覚え、それを誤魔化すようにしてドア越しに声を掛ける。
「出来たぞ?」
そう声を掛けるとドアが開き、リリィとレティス、そしてエルが入ってきた。そして、ドレスを身に着けた俺を見てリリィ達は感嘆に似た息を吐いた。
「やっぱり、私の見立て通りです! 可愛くて凛々しい感じ、良い感じですよ義兄さん!」
「はい、私の目に狂いはありませんでした」
「シン、綺麗」
「そ、そうか‥‥?」
口々にそう言われ、嬉しさと気恥ずかしさ、そして若干の羞恥心を感じながら、俺はそのまま近くにあった椅子に座り、レティスが俺の前に、リリィは俺の後ろに。そしてエルは少し離れてその様子を立つ。
「レオンは終わったか?」
「いえ、流石にちょっと苦戦しているみたいなので、この後に行きます」
「そうか」
女になった事に関して、俺自身は達観に似た感情と、もともと女性の体はどんな感じなのかという疑問を抱いていただけに楽しむことにして多少のもやもやあるが、それらを受け入れるつもりで問題はそこまで無いが、そもそもそんな考えの方の俺が稀で、レオンの方が正常だなと思いながら俺は、目を閉じる。
「それじゃあ、頼む」
「はい、任せてください」
「うん、それじゃあ義兄さんは少し目を閉じていて下さい」
そう言うと、正面からはレティスが動き、後ろではリリィと二人がそれぞれの役目を果たすために動く。そして、時間にして十分と掛からずにそれは終わった。
「はい、出来ました」
「こっちも出来ました!」
二人からの出来たという言葉を聞き、閉じた目を開けると目の前には移動させた鏡が置かれており、そこに映っていたのは軽い化粧を施されただけだが、先ほどの印象よりも圧倒的に綺麗になった俺が映っており、髪型も変わっていた。
「凄いな‥‥」
「元が良いので化粧は最小限しかしてませんよ」
「マジか…」
最小限の化粧。たったそれだけでここまで変わるのか、そんな驚きがあった。そして化粧と同じように驚いたのは後ろの髪だった。
「リリィ、これは?」
「義兄さんの髪はそこまで癖が無かったので編み込んで、後ろでハーフアップしてます。これでうなじが見えてより凛々しさの中に女性らしさが出ます!」
「そ、そうか。ありがとう」
何やら少々鼻息が荒い気がしたが、それでも似合っていると俺自身も感じていたので素直にお礼を言い、椅子から立ち上がりエルの方へと体の向きを変える。
「どうかな?」
「うん、可愛いくて、かっこいい」
「…ありがとう」
何故か、新郎から可愛いと言われる新婦は嬉しさと恥ずかしさが混じったこんな気持ちなのかなと考えながら、俺はリリィ達に声を掛ける。
「俺はもういいから、レティスとリリィはレオンの方に行ってくれ」
「はっ! そうですね、行きましょう、レティスさん!」
「はい、では私たちは失礼します」
そう言うと二人は部屋を後にし、残ったのは俺とエルの二人きりとなり、俺は気になっていたある心配事をエルに尋ねる。
「そう言えば、エル。この【変化】だけど、ちゃんと元に戻れるよな?」
「大丈夫。特異魔法である【変化】の効果は永続する。それが影響してとても長い時間を過ごせば自分の元の輪郭が崩れて戻れなくなる危険はある。でもラミリアがしたように、解除も出来るし、この程度の魔法でシルヴァが戻れなくなることは、絶対にないって、私は思っている。もちろん、女の子のままがいいのなら、それでも私は良いよ?」
「いや、その気持ちは嬉しいし、偶にならいいかもだけど、ずっとは勘弁だな。俺は男としてしっかりとエルを、いや皆を花嫁として迎えて守りたいからな」
俺の中で、もともとハーレムという事に対してエルの一夫多妻の許可もあるとはいえ、ずっとみんなを幸せにするのであれば良いという気持ちと、一人を選べない優柔不断だとする二つの気持ちがあった。もちろん今もそれは存在するが、俺は女の体になった今、不思議な事に覚悟が決まった。俺を好きで、一緒に居てくれるのであれば、離れない限り守ると。
「そう、なら花嫁はもっと増えそうだね?」
「え? なんでそうなるんだ…?っと」
まるで未来を予知するかのようなエルの言葉に俺は思わず戸惑うっていると、エルが正面から抱き着いてきた。
「‥‥これ、邪魔」
「仕方ないだろ、勝手に出来たんだから」
しかし、身長差があり胸がある現状ではエルの前に胸があるのでエルは何処となく不機嫌そうにそういうが俺でもこれはまったくもってどうしようもない事だった。
「早く解決して、元に戻って」
「ああ、そうだな。俺もいつまでも女でいるつもりはないさ」
と、レオンの準備が終わったリリィ達から声が掛かるまでの間、俺とエルはただ無言で抱き合った。
「‥‥二人とも、変わったねぇ…」
エルたちに見送られて寮を出た俺とレオンは学院長と合流する学院の門へと歩いて向かうとそこには既にディアネルが待っていた。
「お、やっときた‥‥ね?」
目の前の光景が信じられないとばかりにディアネルは本気で驚いており、それを見て幾分か気分がスッキリした半面、知った相手とは言え男から向けられる視線は上手く言えない恥ずかしさと少しの気持ち悪さがあった。
「シルヴァ君、あ、いやシルフィ君はお嬢様みたいな上品で凛々しくありながらも女性らしい高嶺で、レオ、いやリオン君は道端に咲いている花ような素朴さがありながらも芯がしっかりとした感じッといった感じだね」
俺とレオンの格好を見てディアネルはそう評価したが、俺自身の事はよく分からないがレオンの事を表すのであれば確かにそれは間違ってはいないと感じた。そして、事前の打ち合わせで俺とレオンの名前は少しもじったシルフィとリオンという学院に通うう貴族の子女という事になっている。
そして、部屋を出て初めてレオンを見たのだが。
まずレオンのドレスは俺と同じように装飾が施されているが、色は真逆のオレンジと黄色を基調とした明るく、肩は出てない代わりに胸元が開いておりそこからは平均かそれより少し小さい胸元が僅かに見え、それがどことなく背伸びをしているようで子供っぽさがあるが、代わりに丈が足が見えないようになっており子供っぽさと大人っぽさを程よく両立しており、バランスを取るのに施された俺と同じく薄化粧だが薄っすらと塗られた口紅などの化粧がいい仕事をしていた。
「なあ、シルヴァ、学院長がとてつもなく気持ち悪いんだが?」
「気にしないようにするか慣れる他ないだろうな、何せパーティーだとあんな風に不特定多数の人間に見られるんだ」
「シルヴァは慣れれるのか? というか俺よりもシルヴァの方が見られるんじゃないか?俺から見てもシルヴァは美少女でまさに高嶺の花って感じだしな。落ち着いている雰囲気から俺よりも年上って思っちまうよ」
「まあ、それを言えばレオンは何処となく幼さを醸し出してけど、元気いっぱいといった感じだと思うし。それぞれ一長一短だと思うぞ?」
「君たち~、もうすぐ馬車が来たぞ~?」
と思わず足が止まっていたようで、少し急ぎ足でディアネルに所に着く少しして学院の前に一台の馬車が止まった。
「ヴァルプルギス魔法学院の学院長であるディアネル・シルクード様ですね?御付きの方はそちらのお二人ですか?」
「ええ。私一人では心細かったので、幸い学院に居た貴族の子女である二人に声を掛けて着いてきてくれるようにお願いしたのですよ。ああ、一つ忠告を。この二人を不躾に見ると後で家族からひどい目に遭いますよ」
「‥‥分かりました。ではこちらの馬車に乗車ください。城までお送りいたします」
御者の男からの遠慮が一切ない、欲望交じりの視線に俺とレオンは思わず身を引き、それを見たディアネルのフォローによって視線が途切れ、俺とレオンはそっと息を吐く。
「それでは、御手を」
「ありがとうごさいます」
一足に先に馬車に乗り込んだディアネルの手を借りて慣れないヒールで乗り込み、レオンも俺と同じように手を借りて馬車へと乗り込む。
そして、ディアネルが扉を閉めると馬の嘶きと共に馬車は動き始めた。
「さて、では城に着くまでの間、ゆっくりとしましょうか」
と、ディアネルの言葉に従い俺とレオンは城に着くまでの間、その体を休める。そしてしばらくすると馬車はゆっくりと動きが止まり、外から扉が開かれるとそこは王城の前で、そこには何台もの馬車と、そこから降りる招待客とぼしき人が多くいた。
「さて、ここからが本番ですよ」
とディアネルが一足先に馬車から降りる。と、周りの人間の視線が向いた。
「…おい、あいつって」
「ああ、ヴァルプルギス魔法学院長のディアネルだ」
「招待されているとは聞いていたが、本当にくるとは」
と、降りた瞬間から周囲から向けられるが、ディアネルは特に気にしたという事もなく馬車の内部、降りようとしていた俺に手を差し伸べその手を取って馬車を降りると途端にディアネルに向いていた視線に加え、先ほどは気にした風でもなかった者たちの視線まで一気に集中し。
「うわっ!」
「おっと、気を付けてくださいね」
「あ、ありがとう」
思わず階段を踏み外したがディアネルが支えた事で事なきを得て降りれたが、結果的にそれは更に視線を集めてしまった。
「おい、誰なんだ、あの子は!?」
「ああ、めっちゃ可愛いじゃねえか! 何処か貴族の子か?」
「それにあのドレス、まさにあの子にぴったりだ。まるで可憐な妖精のようだ…」
「見た目はクール、だが先ほどの咄嗟に出る女の子っぽさ、いいな」
と、中には見惚れている者たちもおり、俺は視線に堪え切れずに顔を下に向けるが、逆にそれによってさらに悶える者が増えたと無意識に発動させてしまった「風を視る者」で伝わってしまった。
(うううっ、早く逃げたい‥‥! それと、俺は男だ!)
女性はこんな視線にさらされているのかと、実感しながら逃げ出したい衝動をどうにか堪えていると、視線が幾分か俺から外れたことに気が付き、それがレオンに向いていると分かりレオンを見るとレオンもいきなり多数の視線を受けて恥ずかしそうにドレスの裾を握る。
「おお、先ほどの子ほどではないが、純朴そうで可愛い子だ!」
「ああ、さっきの子が大輪とするならこの子は小さいけど可愛い花だな」
と、徐々に俺達の視線とは違う憎悪と嫉妬交じりの視線が集まり始めたディアネルは少し冷や汗を流しながら飄々と言った感じで歩き始め、俺とレオンはその後ろをリリィ達から指導されたお陰で覚え込ませた女性特有の歩き方でついていく。
「ヴァルプルギスにはあんなかわいい子が居たとは‥‥」
「くそ、両手に花とは羨ましい!」
小さく聞こえている俺とレオンを褒める言葉とディアネルへの嫉妬の目線の中、広間を進み受付へと辿り着くとディアネルの少し後ろに俺とレオンは控える。今回はあくまで俺たちは付き添いという立ち位置だからだ。
「ヴァルプルギス魔法学院が長ディアネル・シルクード、それと付き添いのシルフィとリオンだ。進んで問題ないかな?」
「…はい。では会場こちらの奥のとなっています。ですが、間違っても上には上がらないでくださいね。」
「分かった。ありがとう」
と、受付の人は一瞬こちらを見た後はディアネルに会場を教え、お礼を言ってディアネルは歩き始め、俺たちもディアネルに着い歩く。
広間の左右からは湾曲した階段があるがそこには武装した者が数人立っており上には上がれないようになっていた。
(ラミリアから教えられた通りで、上の警戒は厳重みたいだな)
と確認しながらも歩いていくとやがて目の前には開かれた扉があり、俺たちはそこに入る。
「さあ、ここが今宵の会場だ」
そこは幾つものテーブルに料理が並べられ商人とそれ以外の今回の反乱を起こした側話の貴族たちも談笑をしているそここそ、今宵のパーティーの会場となる手入れされた木々と中央に水が湧き出る噴水がある広い庭園だった。
今話は如何でしたでしょうか?次話の構想は考え中ですので、楽しみに待って頂けると幸いです。
それでは皆様、また次話で。




