第百十三話 「何事も、経験です」
明けましておめでとうございます!本年も宜しくお願い致します
新年一本目、少しでも楽しんで貰えると幸いです!
※1月5日に文書を書き足しました。
ヴァルプルギス魔法学院。その学院の長であるディアネル・シルクードが座す部屋であり、俺達がその部屋の扉の近づいたときだった。
「では、お互いのため、よくよく考えられます様に」
そう言って扉から出てきたのは、そこそこ豪奢な服を身に付けた男で、男はそのまま俺達を視界に入れることなくすれ違い去っていき、入れ違うように俺達はドアをノックする。
「はい、誰ですか?」
「シルヴァです。ディアネル学院長に相談があって来ました」
「そうですか…。どうぞ、入ってください」
少しの間の後に了承の声が聞こえ、ドアを開けると部屋の中央にある応接用のソファにディアネルの姿があり、テーブルにはカップが2つ置かれていた。
「やあ、随分と早いお帰りだね? それと、見たことないけど、彼は?」
「ああ。こいつはラヴィだ。それより、あんたも知ってるはずだろ? それにさっきのは反乱を起こした貴族からの使いか?」
「ええ。「我々に協力すればお前の地位と学院には手を出さない」と相変わらずの上から目線で言ってきましたよ」
面倒な連中です。とでも言わんばかりにその表情には多分の飽きれと侮蔑が混じっており、それを見て俺は思わず笑った。
「そいつはお疲れさまだな」
「他人事みたいに言ってくれていますが、ここに来たからには何かを理由があるのでしょ?」
流石は学院の長にして長命なエルフと言うべきか既に俺が何故ここに来たか。その理由に大まかな予想が出来ているようだった。
「ああ。だから単刀直入に言えば、城を奪還するから、力を貸せ」
「やっぱり、そう言うことですか」
予想はできていたが、それでもあまりにも直球な俺の要求にディアネルは苦笑を浮かべ、エル達はまたか、といった表情で、レオン達は学院のトップにそう言った俺を見てその表情が強張っていた。
「ですが、その要望を叶えることは出来ません」
だが、ディアネルから返ってきた返事は否定だった。そして、その理由に俺も予想が出来ていた。
「学院の戦場にしないために、中立を取るため、か?」
「そうです。今現在、町に不安を感じて逃げ込んでくる方がかなり居まして。さらに戦いを知らない学生が居る。その現状を考えれば中立を取るのも頷けるでしょ?」
ディアネルの言うとおりで、確かに夏期休暇でまだそれほど多くはないが、早く戻ってきた者やそもそも帰らずに学院に居た生徒も存在するが故にその判断は間違ってはいない。
「だが、こちらには国王という大義名分がある。それに俺達の内の何人かを残せば学院は守れるはずだ」
「ええ。貴方達の実力は十分理解してます。それぞれが一騎当千か、それに迫る実力を持つことを。ですが、彼らはこうも言ってきました。「王女はこちらが確保していると」」
「「「「「「「!!!!」」」」」」
「…ほう?」
まさか、そう言ってきていたとは。流石に予想はしていたが、本当にしてくるとは思わなかった。
(まあ、虚勢で相手の動きを鈍くするってのは有効な手段だな。だが)
今回はそれの手段は無意味だった。
俺は、後ろを見て頷くと、一人の男子生徒、ラヴィが前に出る。
「よもや、そのような偽の情報で座すと言うことはないだろうな、ディアネル・シルクード?」
「ほほう? 生徒を守るのが学院長の責務。更に情報が確かになってないいま動くのは愚策と思うけど?」
「なに、ならば正しき情報をその眼で見て動けば良い。 変化解除」
その瞬間、ラヴィが光が包まれ、弾けるとそこに居たのは女子の制服を身に付けたラヴィ、いやラミリア王女の姿だった。
「…おやおや」
一瞬、ディアネルは眼を見開いた後、なるほど、と言わんばかりに頷くとソファより立ち上がり、膝をつき臣下の礼を取る。
「王女殿下と知らずとは言え、無礼なる言葉。誠に申し訳ございません。罰であれば、なんなりと」
「よい。私も姿を偽っていたのだ。このような状況で罰を与えようとは思わぬし、そうでなくとても、私が姿を偽っていたのだ。それなのに罰を与えるのは理不尽というものだ」
「感謝いたします。王女殿下」
そう言ってき ディアネルは立ち上がると俺へと視線を向ける。
「しかし、全く君という人間は。これではどちらに付くか明確になってしまったではないですか」
本当に困った。そう言わんばかりにディアネルはため息を吐く。
「まあ、知らない方が相手に色々と仕掛けることも出来ただろうが。こっちは短期に決着をつけるつもりだ」
「頭を取る。それは、王国軍としての意見ですか?」
「いや、俺達の意見だ。元は俺へと恨みらしいからな」
「君への恨みですか。それにしてはなんとも大胆な事をやったものですね」
私でも絶対にやらないですよ。と暗にそれ以外ならやると受け取られる様な言葉を聞いてもラミリアは特に気にするようなことはなく流していた。
「まあ、それにしても、タイミングが良かったです」
「どう言うことだ?」
「いえ、実は今夜反乱軍が主要な者達を集めてパーティーを行うそうで、私も呼ばれたのですよ」
「「なに(なんだと)!?」
予想外の情報に俺だけでなくラミリアも声を出して驚き、声には出さなかったがエル達も驚いてた。
「ええ。私も驚きましたよ。まさか反乱を起こして直ぐにパーティーを開くとはね。確かに有力者を取り込むのであれば良いと思いますが」
流石に早すぎますね。言葉ではなかったがそれはしっかりと伝わった。
そして、パーティーがあるのであればそれはむしろ好都合と言えた。
「なら。そのパーティーに乗じて潜り込むか」
ディアネル達が入るタイミングで別途で入り込めれば、首魁を倒すことが出来ると考えていたが。
「それは難しいだろう」
と、俺の考えを否定したのはディアネルだった
「城は恐らく警戒を厳にしているはず。そうやすやすと侵入は難しい。魔法に関しても王城内では魔法を構築すると破却する陣が王城全域にあるが、それも敵の手の中にあると考えた方がいい。魔法という強力な手段に対抗できる手で、王城に来る貴族であれば少なからず知っていてもおかしくはない。そして最後に、城に詳しいとしてもラミリア王女を連れていく訳にはいかないだろ?」
「‥‥‥」
ディアネルの言葉に俺は黙るしかなかった。がディアネルはまだ隠しだねがあると言わんばかりに言葉を紡ぐ。
「だが、魔法を破却される陣も弱点がないことも、そして抜け道がない訳でもない」
「抜け道、ですか?」
ディアネルの言葉に何かを感じ取ったリリィが尋ね、なんとくディアネルが意地の悪い笑みを浮かべた気がした。
「ああ。そこでこれが本題だ。潜入に困っているこの場での提案なんだが、今回のパーティー、実は女性なら二人までなら付き添いに出来るんだよ。だから」
その瞬間、嫌な予感がして俺はその場から反転し部屋の外へと思わず逃げようとしたが、ディアネルがそれを言う方が早かった。
「彼女が使える特異魔法【変化】で女性になって一緒に着いてきてもらえるかな、シルヴァ君 レオン君?」
「は?」
「‥‥」
急展開ともいえる事態にレオンは呆けたが、俺はそのまま逃げようとしたが。それを察していたリリィの動きは早かった。
「レティスさん、ルヴィさん、ティアさん!」
「はい!」
「はいっ!」
「は~い!」
「ちょまっ!?」
正面からティアが、その左右からはレティスとルヴィによる包囲網が作られ、そして俺は三人を吹き飛ばしたり怪我をさせるわけにはいかず、あっけなく捕まってしまった。そして、俺と同様にレオンはラミリア王女にしっかりと拘束されていた。
「は、離せっ!」
「な、なんで俺まで、というか嫌な予感がするんだが!?」
如何にか逃げようと『全身強化』を発動させようとした時、俺とレオンの前にエルが立つ。
「エ、エル…?」
「私も、女の子のシルヴァが見たい。だから、ごめん」
「‥‥‥‥はぁ~‥‥分かった。もう逃げないから、一思いにやってくれ」
「ちょ、シルヴァ!?」
先ほどまでの俺であればもっと抵抗してくれるはずと思っていたのか、レオンは驚きの表情で俺を見てきたが、俺はそんなレオンに諦めの混じった口調で言った。
「仕方ないだろ、正面からお願いされたら断れねぇよ」
「いや、確かにそうかもしれないけど!」
「それじゃあ、やる【変化】」
レオンと話している間に【変化】が発動し、俺とレオンの体に明確な変化が起き始めた。感覚で分かったが、そこまで長くない髪が伸び、鍛えて引き締まった手足は女性らしい柔らかさが。しかし体の中でもこっちの方が最も変化が顕著で、男にはない女性の象徴ともいえる胸がしっかりと形成されていき、股に関しても息子の感覚がなくなり何処か寂しい感覚があり、手を当てるとそこには何もなかった。
「出来た」
そして、エルのその宣言と共に俺は改めて認識した。自分の体が女の子になったのだという事を。そして。
「ほう、中々、いやシルヴァ君に関してはかなりのびじっ!?」
「お返しだ」
その中で本当に面白そうに笑いながら感想を口にしようとしたディアネルには、俺は本気でレバーに一撃を叩き込み、攻撃されると思わずに無防備にくらったディアネルはその場に前のめりに倒れ、それを見て俺の中の鬱憤が多少スッキリしたのだった。
「‥‥マジか‥‥」
そして、そんな中。体が女になったことを受け入れきれずに呆然とするレオンの姿があり。こうして、俺とレオンは女の子になった。
「それじゃあ、義兄さん、レオンさん、まずは着替えましょうか?」
「「…はぁ?」」
リリィの言葉の意味が分からずに、俺とレオンは同じような反応をするがその時に出たのは女性特有の高い声音で、改めて女になってしまったのだと自覚させられる。
しかし、そんなことは関係ないとばかりに、リリィが俺の手を取り我に返る。
「な、なんで着替えないといけないんだ…、このままでいいだろ?」
別に、肉体は確かに女の子になったとはいえ、着替える必要を俺は特に感じなかった。服装は精々学院の制服に着替える程度にして後は、俺っ娘で通せば大丈夫だと思っていたが。それをリリィは強く否定した。
「それは絶対にダメです! それにこれだけ可愛いのにそれを活かさないと!だから、これから全部を着替えますよ!」
「ぜ、全部って‥‥まさか‥‥下着も…?」
「当たり前です! 男ならまだしも、女の子がその下着をつけてるのはおかしいです! 女の子なら下着にも気を配らないとですよ!」
「‥‥‥はい」
嘘であってくれ。そう思いながら尋ねるも嘘ではなく、更に逃げられないようにリリィはしっかりと俺の手を掴み、逃げようと思えば逃げられるはずなのに、俺は猫に睨まれる鼠のように、ただ従う他なかった。
「レオンさん、逃げようとして駄目ですよ」
「バ、バレた!?」
俺を囮にして廊下へと逃走を図ろうとしていたがその事に気づかれたレオンは咄嗟に走るが。
「ティ、ティア、フェイ…」
「いいじゃない、面白そうだし!」
「良くない! 俺は男なんだぞ!」
「でも、今は女の子でしょ? それに何回も経験できない事なんだし、楽しめばいいのよ」
「た、他人事だからって!」
「実際、他人事でしょ?」
ぐうの音も出ない正論に、レオンはティアの隣で同じく扉の前に立ちふさがるフェイを見るが。
「その、ごめん…」
レオンからの視線に申し訳なさそうにフェイは謝り、レオンは背後からラミリア王女によって逃げられないように抱きしめられる。
「それじゃあ、まずは私の部屋に行きましょう。ですが時間があまりないので、お金はこれを使ってレティスさんとティアさんは服屋で二人に似合いそうなドレスと下着一式を買いに行ってください!他の皆さんは私の部屋に。それでは、ドレスアップ作戦、開始です!」
「「「「お~~~~!!!!」」」」
徐々に楽しくなってきたのか、リリィの指示と号令に従い皆も嬉々として従い、レティスとティアはリリィからお金を受け取るとそのまま買い出しに、残ったメンバーに加え俺とレオンは連行されるかのように学院長室を後にし、誰一人に心配されることなくディアネルは倒れ伏したままだった。
そして、その後下着の付け方や歩き方、仕草などを時間が無いとの事だったが、リリィ達から徹底的に叩き込まれ、しかしその忙しさお陰で俺とレオンは女性らしい動きを体に覚え込ませるのに必死で。結果、最も抵抗感を抱くべき女性の下着を身に着け、更にレティスとティアが勝ってきたドレスを身に着けるという最も羞恥心を覚えるはずが、そんな暇すらなかった事は不幸中の幸いだったりした。
そして、そんなこんなで時間は進み、パーティーの夜はすぐそこまで迫っていた。
今話は、いわばTSみたいな話しになりました。正直、私自身もなんでだ?と思いましたが、まあ、なるようになるでしょう……。
さて、次話はいよいよ潜入することになりますが、2人の格好はどんな感じなのか。正直描写に自信がないので怖いですが、頑張りますので、本年も宜しくお願い致します!
では、また次話で。




