第百十二話 「あっ…お邪魔しました」
…皆様、お久し振りです…|д゜)チラッ
しばらく(2ヶ月間)、現実逃避などをしていたのですが、ふと書きたいという衝動湧き起こり、完成しましたので投稿します。少しでも楽しんで貰えると幸いです。
やっぱり、勢いと衝動任せで書くと波に乗れますね…。
森を走る事、凡そ三十分。木々の合間を走り抜けるように走り続けていると、やがて開けた場所へと出る。
「…見えたな」
森を抜けたその先には、まだ幾分か距離があるが見慣れたエクセリーナ王国の王都が広がっていた。そして、僅かな時間差で後ろの全員が森から抜け出す。
「周囲の警戒を頼む」
「分かった」
エルの返事を背中越し聞きつつ、俺は一呼吸置き、深く吸った息の半分ほどを静かに吐き出し、その風に意識を集中させる。そして、辺りの風へと意識を溶け込ませ拡散を繰り返し、王都全体を覆うような風の繭を形成する。
名付けるのであれば「風の糸籠」といった所で、現状の制限である三キロ以上の距離を索敵するために編み出したもので、自分の息によって作り出した風に意識を集中させ、そこから蜘蛛の糸のように拡散、包み込むようにして視るそれが「風の糸籠」だった。
(王都は‥‥視た感じはそこまで変わっていないようだが、兵士がちらほら見えるな)
王都全体を俯瞰するように見つつ、そこまで変化が無いことに安堵しつつ視点を学院へと切り変える。
(‥‥こっちは少数だが見張りがいるな。‥‥だが、それ以上に動いている人間が多いな)
見張りがいる可能性は想定していたが、それ以上にまるで何か、恐らく件の第一王女を探していると思われたが、その表情には何処か焦りが混じっているようにも見えた。
(まだ見つかっていないのか?)
ざっと見た感じ、かなりの数を動員して探しているようだが、それでも見つかっていないのだとすると、王女は既に単独で王都を離れたというよりは潜伏している可能性が高いと感じた。
(今は、こんな所か)
大まかな情報の収集を終え、俺は閉じていた目を開けると、ティアが驚きと不思議さが混じった表情で俺を見ていた。
「…取り敢えず、王都の様子はまだこれといって変化は無いようだ。けど、兵士の数が多い。だからまだ王女は見つかっていないのかもしれないな」
「ふぇ~。シルヴァって、まだかなり距離があるのに今ので分かったの?」
「ああ。まあ、大体だけどな」
「凄いなぁ。シルヴァが相手に居たら逃げたり隠れたりするのは出来なそうだね」
「いや、まだそこまで使いこなせてないからな、流石に全部を視るのは無理だぞ?」
まだ、習熟しきれていないだけに、細かい所までを把握するのはまだ難しく、ウソ偽りのない本音だった。
「それでも、離れたところから一方的に知れるっていうのは、かなり有利がとれるでしょ?」
「まあ、確かにそうだが…まだまださ」
そう言いつつ、俺は振り返り、告げた。
「今から、王都に潜入するぞ」
「って言っても、どうやって入るの?」
俺の宣言にフェイからの問い。確かに正面から堂々と、と言うのは敵が俺を狙っての事だと考えると下策も下策だが。
それに対して俺は既に答えを用意していた。
「正面、下が駄目なら。後は一つしかないだろ?」
そう言って俺はある場所へと指で示す。
「え、それって‥‥」
そして、フェイを含めた全員がその指が示す先、即ち空へと向く。
「ああ。飛んで直接学院の、男子寮の近くに降りるんだ」
「「えええええええええぇぇぇぇっ!!!??? 空を飛ぶぅぅ!?」」
と、フェイとティアは驚きの声を上げるが、二人以外は冷静に頷いていた。
「確かに、その方が何かといいけど。でも義兄さん、これだけの人数を一気には無理なんじゃ?」
「ああ、そこはエルに協力してもらえれば解決するはずだ」
「エルさんに、ですか?」
リリィからの質問に俺は答えではなく、ヒントを出してリリィに考えさせるように仕向け、笑うと、それに気が付いたリリィは少しむくれながらもヒントを元に少し考え。
「‥‥あ、そうか!エルさんのふむぐっ!」
「リリィ、俺が教えるから。今はまだ秘密な?」
俺の考えが分かったリリィはその答えを口にしようとしたが、それは直前まで秘密にしておきたいことなので、リリィの両頬をむぎゅっと押さえる事で誤魔化す。
「ふぃいから、ふぁやくふぇをのふぇてくらしゃい!(いいから、はやく手をのけてください!)」
「はいはい。皆も頼むな?」
「はい!((分かりました))」
抗議されたので、モチモチと柔らかいリリィの頬から手を離すと、リリィは恨まし気に俺を睨んでくるが俺は特に気にせずにルヴィ達に声をお願いし、ルヴィ達は了承してくれた。
「さて、取り敢えず空を飛んでいくが。その前にティアとフェイにお願いがある」
「へぇ」
「あの、それって一体?」
ティアは少し面白げに、一方のフェイは少し警戒した感じで聞き返してきた。
「ああ。今後ちゃんとした場が整うまでの間、秘密にしておいて欲しい事だ」
「という事は、かなり大事な事っていう事だよね? 私たちに教えてもいいの?」
「ああ。黙っていてくれると思ってなければ、こんな事は言わないさ」
「あら、結構信用してくれているのね?」
試すかのようにティアはそう言ってきたが、俺からの答えは既に決まっていた。
「じゃなきゃ、ここまで連れて来ることも無かったさ」
「…なるほどね。まあ、私はいいけど、フェイはどうする?」
「……僕も、大丈夫です」
「なら、教える。他言は無用だからな?」
ティアからのパスにフェイは少し考えた後、そう答えたので。俺はもう一度だけ念を押した後。
「じゃあ、教えるぞ‥‥‥」
そして、少しして俺が言ったことが冗談ではなかった事を知った二人が大いに驚いたのは、想像に難くなかった。
(アレ、どうして俺、眠っているんだ…?)
それは、意識が覚醒と未覚醒の狭間をさまよう、寝ているようで起きている。起きているようで眠っている。そんな状況にレオンは混乱していた。
「‥‥か」
そんな中、途切れながらの、誰かが呼びかけている。そんな声が聞こえ、暗闇に飲まれていたレオンの意識は徐々に浮上し、覚醒へと至ろうとしていた。
「大……夫‥‥か?」
「‥‥‥‥‥ッ」
そして、途切れ途切れの声が無くなっていき、音を耳が拾い始めると、レオンの意識はより鮮明に目覚めていき。
「‥‥痛っ…!」
意識が覚醒すると同時に、腹部を含めた全身。主に背中に走る痛みにレオンの意識と頭は瞬時に覚醒する。
(くそ、なんで体がこんなに痛いんだ…!?)
訳が分からずに、それでも走る痛みを我慢してレオンは体を起こす為に手を動かそうとしたが、それは出来ず。しかしその理由は直ぐに分かった。
(え、俺‥‥自分の部屋なのに縛られている…のか?)
手に触れた感触からして、掛け布団のようだった。しかし体を動かそうにも、一切の余裕がなく思った以上にしっかりと縛られていた。そして、思い出した。気を失う前に何があったのかを。
(そうだ! 俺がこうなっているんなら、こうした張本人が居るはず!)
体は動かないが、頭は動く。急いで自分をこのような状態にした女の姿を探すために辺りを見回すと、部屋の奥の方の影で動く影があり、そこを注視するとより輪郭がはっきりした。
(…え‥‥えっ…!?)
そして見た光景にレオンは言葉にならないほどに驚いた。何故ならそこには、近くに先ほどまで着ていたであろうドレスを脱ぎ去り、一切の衣類を纏わず、レオンが仕舞っていた服。その中で着られそうな服をどうにか身に着けようとしている格闘している少女の姿だった。
「‥‥大きい」
思わず口から小さく漏れ出た、少女のある部位を指してのレオンの言葉だったが。
「‥‥‥見たな?」
「ひっ!?」
直後、その瞬間、レオンは生命の危機を知らせる悪寒を感じ、見るといつの間に移動したのか。レオンの腹部に先ほど気絶したのと同じほどの威力の拳が突き刺さり。
(て、天国と地獄‥‥)
レオンの意識は再び闇へと飲まれることとなった。そしてこの時のレオンは知らなかった。地獄にはまだ続きがあるという事を。
そして、レオンの意識が戻ったのは、それから数十分後が経過してからだった。
「おい、起きろ」
「‥‥…」
レオンの意識を覚醒させたのは、一つの足蹴りだった。
「それで、貴方は誰ですか、 それにここは何処です?」
「‥‥それ、助けた恩人を殴って二回も気絶させて、人の服を勝手に着てる奴が初めにいう事か?」
「知りませんね。そもそも二回とも貴方が悪いのであって、私は悪くありません。 まあ、服は無かったので借りましたが」
「‥‥はぁ‥‥取り敢えず、これを解いてもらえないか?」
取り敢えず、先ほどのように気絶させられる事は無さそうだったので、レオンは拘束を解くようにお願いするが。
「嫌」
「え」
と、二言で断られてしまった。
「え、いや、流石にこのままって言うのは流石に‥‥」
「私の唇を奪おうとするのみならず、裸を見た貴方を自由にすれば、私の貞操が脅かされるかもしれないでしょ?」
確かに少女の言葉は第三者から見れば間違いはない。だが、本人からすればそれは誤解もいいところだった。
「いや、ちょっ!? 確かにしそうになったかもしれないが、あれは気になることがあったからで! それに裸を見たのは完全に事故だって!」
「やっぱり、見たのね?」
「あ」
思わず口から出てしまった言葉を取り消すことは出来ず、それを聞いた少女は座っていた椅子からゆっくりと立ち上がり、微かに笑いながら近づいてくるその様はまさに、ホラーだった。
「い、いや、見てない、見てないぞ!? 何がとは言わないが!?」
「自分から白状して置いて、誤魔化せるとでも? 王族、それも未婚である女の裸を見たその罪、万死に値します。よって」
シャランと、何処から取り出したのか、一振りの剣をすっと腰だめに構え。
「死ね!」
「おわっ!?」
首目掛けて迷いなく振り下ろされた刃に対し、レオンは咄嗟に横に転がることによって凶刃から逃れる。
「ちぃ、逃げるな!」
「ちょ、明らかにさっきと口調が違うじゃ危ねぇ!?」
転がる先を読んで振るわれる凶刃に対し、全身の筋肉を総動員して起き上がることでどうにか躱し、それを何度か繰り返しているとレオンは部屋の前に足音が聞こえた、気がした直後。
「レオン、居るか?」
「シルヴァ!?」
ノックと同時に聞こえてきたのは、学院に居ないはずのシルヴァの声で。それはレオンにとってまさに地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸のようだった。
(このままじゃ、死ぬ!? ならっ!)
正直、この格好で女の子に襲われているという意味の分からない状況がどう作用するかは分からないが、助かるためにレオンは賭けることにした。
「鍵は開いてる! だからシルヴァ、頼む助けてくれ!?」
「‥‥は、え?」
「頼む、早く扉を開けてくれ!?」
「逃がさない!」
シルヴァが困惑するのは、決しておかしくはない。何せ、レオンの部屋で助けを求められるなど誰も想像できない事だ。だがレオンは必死だった。如何にか凶刃を躱しながら扉が開くことを願うしかできない。
「頼む! 早く!?」
「わ、分かった!」
ガチャ。と扉が開く音が聞こえ、レオンの生存へと繋がる道を角兎のように跳ねながら進み。
「逃がさない!」
必死に背後から迫る死神から逃げる。そして、生存へと繋がる扉が開き、シルヴァの姿が見えた僅か一秒。
「‥‥‥あ、失礼しました」
まるで、音を超えたかのような速さでありながらも、音を立てずに扉が閉じられ。
「ちょ、おまっ!?」
「死ねえぇぇぇっ!」
「ぎゃああああああっ!!!!」
レオンは勢いのまま扉にぶつかり、少女の声とレオンの悲鳴が木霊し、シルヴァはどうしていいのかわからず、取り敢えず合掌した。
そして、後にレオンはこう語った。
「あれは、今後の人生の中で最も死を実感した時だった」
と。
今話は、まあ、レオンが天国と地獄を味わった回といった感じです。何故か、唐突にこの話が頭に浮かんだ時はまあ、笑いましたね。
そして、次話は…相変わらず形がありませんが、こんな感じといった感じで試し書きを繰り返して形にして行こうと思います。早ければ今月中にもう一話投稿するかもですが、お待ちいただけると幸いです。評価、感想など頂けるととても励みになりますので、出来れば宜しくお願いします。
長くなりましたが、今回はこれにて失礼します。近頃は急に寒くなり、私自身も現在風邪を引き全力で治していますが、風邪を引かれないように皆様も体調に気を付けてください。それでは皆様、また次話で。




