第百六話 「楽しみます」
うう。間に合わなかった…投稿です。
三本投稿出来ず、本当に申し訳ありません。
今現在、俺の目の前では水着を身に着け、湖で戯れる美少女たちの姿があった。
「水よ、集いて玉となり、疾く征け! 水球!」
「甘い風の守りよ、我が障壁へと姿を成せ! 風障壁!」
リリィは発動させた水魔法【水球】で湖の水を利用して一メートルほどの大きさの【水球】を作り出しルヴィへと撃ち放ち、対抗するようにルヴィは風魔法【風障壁】を展開し、迫りくる【水球】を下から。水ごとぶち上げることで無効化する。
「螺旋を以て、吹き穿て、嵐矢!」
「うええ!? へぶっ!?」
その直後、リリィのいる場所の手前部分にルヴィが放った極小の螺旋状に渦を巻く風の矢が水面へと直撃し、起こった水を受けてリリィはバランスを崩しそのまま後ろへと倒れてしまい、それによって生じた小さな波が湖畔に座っていた俺の足元まで水を運んできた。
「‥‥‥平和だなぁ」
魔法を使っている時点で、戯れている? と言っていいものなのかは正直疑問が浮かぶが、別に威力を極限まで落としているので命の危険はないので、戯れているというのは間違った表現ではない‥‥はずだ。
それに、視線を横に移動すればそこではエル、レティス、ティアたちが平和にボールを使った遊び、バレーをしており、その楽し気な様子を少し見た後、俺はまるで砂のように柔らかい地面へと仰向けに寝っ転がると暖かな、いや熱くて眩しい太陽の光が目に入る。
そんな中、俺の隣で、同じく湖で遊ぶ様子を見ていたフェイが話しかけてきた。
「ふふふ、みんな元気だね?」
「ああ。そうだな…」
そう言いつつ、俺は視線をフェイへと向ける。着替えの際はあれほど恥ずかしがっていたのだがフェイが身に着けているのはごく普通の、俺が身に着けているのと同じトランクスタイプの水着だ。もしかしたら着替えを見られるのが恥ずかしかっただけなのかもしれない。
男子でも同性に見られるのが恥ずかしいという感情があるのは、別におかしなことではない。
「ところで、俺はエルたちの所に行くが、フェイはどうする?」
実は、先ほどまで俺とフェイも湖で遊んで(もちろん、リリィ達がしていた魔法を使ったものではない)いたのだが、少し体が冷えてきたので体を温めるために湖から上がり、湖畔で陽の光を浴びて体を温めていたのだった。
「う~ん…先に行ってて。僕はもう少しここで体を温めてから行くよ」
「そうか。じゃあ先に行ってるな」
「うん。また後で~」
まだうつ伏せ状態になっているフェイに断りを言って俺はエルたちの所に行くために歩き始め、途中白熱し始めたのか、魔法が行き交うリリィ対ルヴィによる魔法大戦をできるだけ視界に入れないようにしつつ、平和的に遊んでいるエルたちがいる方へと向かった時、レティスからエルに向かってボールが打ち上げたられた。
「行きます、それ!」
レティスが打ち上げ空を舞ったボールが、まるで大地に引かれるかのように私めがけて落下してくるなか、私はその場で手を上げて。
「えいっ!」
両手の指で、一瞬。まるで包み込むように持った後、普段は抑えている龍としての力をわずかに解放し、ボールを十メートル以上打ち上げつつティアの方へと飛ばす。
「ふふっ」
そして、ティアは高く打ち上げられいずれ自分に落下してくるはずのボールを、まるで獲物を捉えた肉食獣のように、一瞬目を細めた直後、細かな砂の地面を踏みしめると同時に、この夏の鍛錬で使えるのようになった新たな身体強化魔法を発動させる。
(範囲指定、両膝から足先!)
範囲は全身ではなく下半身、いや、両の膝から足先に掛けての限られた範囲にのみに施し、跳躍する。シルバーが見たその様子は、まるで水の中から水上へと飛び出すイルカのようにきれいで。
そうした跳躍により、一秒に満たない時間の間にボールの高さへと到達すると、左手を前に、そしてまるで弓のように右手を引き絞る。
「せいっ!」
掛け声と同時に、引き絞っていた弦を離したかのようにティアの手がひらめいた直後、パアァンッ!といった快音を響かせ、ボールは地上へ、レティス目掛けて一直線に時速150キロに及ぶ速さで落ちていく。
本来であれば、まだ体が成長しきっていないのでティアの素の腕の力だけでは幾ら鍛え始めたとはいえ、先ほどのような快音、そして威力は到底出せない。しかし快音、威力が出たという事はティアは強化の度合いを最小にした身体強化魔法を腕に発動したのだと、推測された。だが、ここで疑問が浮かぶ。
直前まで、ティアは身体強化魔法を発動していなかった。なのに、ボールの速さから考えられる限り、身体強化魔法を発動させたとみるべきだ。
(…なるほど。今のは無意識だな)
上を視れば、半ば無意識に近い感覚で使ったのだろう、ティアは驚いた表情で自分の右手を見ていた。
俺も使っている身体強化魔法は他の魔法と比べ、身体強化魔法の燃費は悪い。何せ車でいえば、燃料タンクに穴が開いてガソリンが漏れ出ているようなものだからだ。そして、実はそれによってある副産物が生まれるのだが、それは今はわきに置いておくとして。
身体強化魔法は発動中は常に魔力を外へ放出している。だがまだ体が成長しきっていない子供が戦うには身体強化魔法は必要だ。
故に、俺はティアに少しでも魔力の消耗を抑えるすべとして今日までの鍛錬で身体強化魔法を部分的に発動させる練習をさせていたのだが、今回のティアがしたのはそれの更に上のティクニックで、俺も五割に届かない割合でしかできない、一瞬だけ身体強化魔法を発動させる「瞬間強化」と言える超高等技術だった。
(凄いな…)
やはり、ティアと身体強化魔法は最も適性が高い、いや。合っている魔法だなと関している間にもレティスとティアが無意識に、瞬間的に発動させた身体強化魔法状態で撃ったボールが迫る。球の速さに、レティスは最初こそ慌てていたが、すぐに落ち着きを取り戻すと、両の手を組み合わせ足を肩幅に開き、僅かに腰を落とし落ちてくるボールを待つ 。
やがて、ボールは空を裂き待ち構えていたレティスと衝突、同時に衝撃が発生するかと思えたが、落下の衝撃をうまく逃したのか、あれだけ勢いのあったボールは優しくポーンと上り、今度は柔らかく落ちてきたボールはレティスの手の中へ納まると、長い滞空時間を終えたティアも地上に無事着地すると急いでレティスの所に走っていくのを確認した俺は止めていた足を動かし始めると。
「あ、シン!」
音に気が付き振り返り、俺だとわかるとエルが小走りで近づいてきた。その際に揺れるフリルに加え、やはり水着を身に着けたエルは、可愛かった。
そしてエルの声から俺が来たのが分かったのだろう、レティスが尋ねてきた。
「シルバー。もういいの?」
「ああ。日に当たって体もちゃんと温もったからな」
「そう。良かった」
「あ、シルバー。やっほー!」
レティスと話をし終わったタイミングで、ティアも合流してきたので、先ほどの事実を確かめることにした。
「ティア、さっきのは偶然か?」
「う、み、見てたの?」
「ああ。それで、どうなんだ?」
正直、意図的ではないのは分かっている。がそれでももしもの可能性、故意であるのならそれは教え、鍛えた師としてそれは直させなければならない。故に俺はティアを視た。いつでも動けるようにと。
「ワザとじゃないの‥‥けど、ごめんなさい」
「そうだな。レティス、もしくはエルじゃなければ大小なりとも怪我をしていたかもしれない。だから、今後はちゃんと気を付けること。いいな?」
「はい‥‥」
危ないことをしたという自覚がしっかりとあったのは、良くわかったのでティアへの説教は終わりにして俺はティアにとっては気分転換を兼ねて泳ぎに誘う事にした。
「よし、なら話はこれで終わりにして。ティア、一緒に泳がないか?もちろんエルとレティスも」
「え?」
「うん、いいよ」
「そうですね‥‥わかりました」
「みんな…」
俺の提案に、その意図も感づいているのか、エルとレティスは直ぐに乗ってきて、少し遅れて理解したのだろう、ティアは少し下を向いたかと思うといの一番に湖へと駆け出し始めた。
「えへへ~、それじゃあここから湖の端まで競争しようか! 早く来ないと、私が勝っちゃうよ~?」
「ちょ、ティアさん、いきなりはズルいですよ!」
「えへへ、早い者勝ちだよ~!」
「待ちなさい~!」
「はぁ、やれやれ」
「うん。仕方がない」
ティアを追いかけるレティスを追うように俺は苦笑いを浮かべつつ、エルは無表情ではあったが、それでも小さく笑いながらいつの間にか競泳となってしまったので、少なくとも負けないためにもティアを追いかけるように湖へと飛び込んだのだった。
予定では、次話でこの夏期休暇編を終わります。
そして、ようやく本編が動き始めます。長かった…。正直、今回のような話は全ての話を書き終えた後に書き出そうと心の底から思いましたので、もし、今後、今回のような話を楽しみにしている方などいらっしゃいましたら、本当に申し訳ありません。
その代わり、ストーリーで少しばかりそういう場面を書き出せればと思っています。長くなりましたが、今話も少しでも楽しんで貰えると嬉しいです。また評価や感想などを頂けるとても嬉しいです。では、今回はこれにて失礼します。皆様、また次話で。




