第十話 「パーティー」
二〇二一年、三月三十日に前話を改稿し、繋がりを作るために内容を大幅に改稿しました。
また今後の活動に関すること等をお知らせするために活動報告を更新しました。お手間かもしれませんが、出来れば、見ていただけると幸いです。
※2022年十月五日にタイトル本編を書き直しました。
エルと一緒という事もあり静かに入るべきか迷ったが。別に変な思惑は無かったから、俺は堂々と家の敷地に入ると、直ぐ近くに人の気配を感じ。
「あら、お帰りなさい、シルヴァ」
声が聞こえた先を見ると玄関から少し離れた場所に生えている木に背中を預け、木陰で本を読んでいた母さんの姿があった。
「ただいま、母さん」
「ええ、お帰りなさい。ところで、もうお昼だったかしら?」
母さんは不思議そうに首を傾げるのも無理は無かった。何せ、俺が普段帰ってくるのはお昼丁度に帰ってくることが多く、いつの間にやら俺が帰ってくればお昼時。そうなってしまっていたのかもしれなかった。
「違うよ。今日はちょっと、ね」
俺は視線を僅かに後ろに向け。
「‥‥ああ、そういう事ね」
俺の視線を追った母さんも、何故俺がいつもよりも早く帰っていたのか。その理由を察した様で、本を閉じて立ち上がるとそのまま俺の横を通り過ぎ、エルの前に立つと、膝を折りエルと目線を合わせる。
「初めまして、貴女が「永遠の星龍」ですか?」
「そう。でも今の私の名前はエル。そして、シルヴァの花嫁」
「あらあら」
エルの言葉に母さんは驚いた後、母さんが何故かやるじゃない、といった感じの笑顔で俺の事を見てきたが、俺にはその笑みの意味が全く分からなかった。
「そう、貴女が‥‥」
そして、小さく母さんが何か呟いたのは分かったが、それが何かまでは聞き取る事は出来ず、母さんの前のエルも小さく小首を傾げていると。
「ふふっ、気にしないでいいわ。それより、今日はお祝いね! シュメル!」
「はっ」
「!?」
一体、どこに潜んでいたのか。思わずそう思ってしまうほどに音も、気配もなく俺の後ろに立っていたシュメルさんに俺は驚くも、母さんは当たり前のように告げる。
「今日の夜はシルヴァとエル、二人が出会った記念のパーティーを開くわ! 貴女とメイド達の本気、見せてみなさい!」
「はい、分かりました」
母さんの言葉に対してはいつも通り静かに、けどその身から感じたオーラのようなものから、シュメルさんの本気度を感じ取るには十分すぎるものだった。
そして、シュメルさんの気配は出てきた時と同じように唐突に消えており、先ほどのは幻と思うほどに影も形もなかった。
(この世界にも、忍者はいるのかもしれない)
と的外れのような事を俺は考えることで突然の事に対する考えを放棄していると。
「それじゃあ、今日は皆で騒ぐわよ!」
楽し気に母さんはそう宣言して、俺の耳に届き。それから間もなくしてシュメルさんが指示したのだろう、屋敷全体が騒がしくなり始めた。
「さて、それじゃあ私も休憩を切り上げてまずはお昼ご飯にしましょうか。あ、エルちゃんもちゃんと連れて来るのよ?」
そう言うと母さんは屋敷へと戻っていき、この場には俺とエルだけが残された。
「シルヴァのお母さんも、他の人も元気?」
「あはは‥‥まあ、うん。そうだね」
俺とエルがその嵐の渦中の中心であるが故にエルの言葉に俺は曖昧に答えるしかなかった。
そして、昼食はまあ、流石はドラゴンというべきか。エルは軽く十人前の量をぺろりと完食し、それを見たメイド達が恐怖と同時に奮起するという事態も並行して起きながらも平和に終わり。
「そう、じゃああの人とあったのは、このエクスカーナの北の地。ボルバレス帝国内で会った、というわけね?」
「国は分からないけど、恐らく、そう」
「なるほどね~」
そして昼食後の一休みの現在。母さんはエルとお茶を飲みながらエルがどういう経緯で、母さんの夫であり、俺の父であるスサノヲに出会ったかを聞いていた。
「ごめん、ボルバレス帝国って、この国の北にある国、だったけ?」
母さんが口にしたボルバレス帝国。それは俺と母さんが暮らす国であるエクスカーナ魔法王国の北に位置する国だという事は知っていたが、その国については全く知らず。母さんに尋ねると。
「ええ。私たちの居るエクスカーナ魔法王国の北に位置する帝国よ。いい機会だし、少し教えてあげる」
そういうと母さんは手にしていたカップを置くと説明を始めた。
「ボルバレス帝国。その起源は現皇帝の先々代である初代皇帝であるアルクティク・A・ボルバレスが興した国なの」
「先々代…という事は、国自としては、そんなに歴史的には長くない?」
この世界の平均寿命は分からないが、それでも皇帝の寿命が凡そ60~70代後半としても百年と凡そ五十ほどで。他の国は知らないがエクスカーナ魔法王国は興って三百年ほどなのでそれと比べるとおよそ半分で。
そんな俺の言葉を肯定するように母さんも頷く。
「ええ。国として若いのも帝国が興る以前はイーウェア連合商国っていう複数の小国が寄り集まりだったの。その時期は盟主が亡くなってピリピリしていたらしくてね。恐らくエルがあったのはその頃でしょうね」
それ、百五十年前の事だよね。と俺の中は内心で思いながら、父親が本当に人間ではなく、人の領域の外に居る存在なのか。とその思いが強くなるのを感じながら母さんの話を聞く。
「それと。突然だけど、イーウェア連合商国を成り立たせていたものは、何だと思う?」
「え‥‥農作物や布とか?」
「?」
母さんからの唐突の質問に驚きながらも答え、エルは首を傾げるがそれは予想していたようで、母さんは笑いながら、俺の答えを否定した。
「ふふ、残念。商業として成り立たせていた物は、遺跡から発掘された古代の遺産だったの」
「古代の‥‥遺産?」
古代の遺産。それを聞いた瞬間に俺の頭に浮かんだのは、ファンタジーにありがちな滅んだ超高度文明の遺産というもので。それを知らずに母さんは続きを話す。
「ええ。その遺産にも幾つか種類が存在して、この国にも幾つか保管されているのだけれど。その中である人物が遺産の中で最も強力なモノを発掘したの。その名前を自動人形」
「自動人形‥‥」
『自動人形』それを聞き最初に浮かんだのは、言わずと知れた人にそっくりのロボットが主人公を助ける為に贈られる某有名なSF映画のアレだった。
それがこの世界では現在ボルバレスと呼ばれる国で一人が見つけたのであればそれは、もはや誰も手が付けれないほどの存在になったのは難くないものだった。
「そして、たった一体の自動人形を発見した男。ボルバレス帝国の初代皇帝となるアルクティクはその力を使い連合商国の盟主となり、それによって得た財産をもって傭兵を雇い、更に自動人形の力で連合の全ての国を飲み込み、イーウェア連合商国から名前をボルバレス帝国へと変え、初代皇帝となった。それが、ボルバレス帝国の始まりなの」
そう説明を終えると母さんがカップに残っていたお茶を飲み終えると立ち上がる。
「さて、それじゃあこの話はまた今度。そろそろ仕事に戻って夜のパーティーに間に合うようにしないとね?」
「あ、ごめん。エルと話してたのに」
話に割り込み、更に説明に時間を割いてもらった事に申し訳なく謝ると、母さんは笑顔で顔を横に振った。
「気にしないで。それに、エルちゃんはこの家にいるつもりでしょ?」
「シルヴァと一緒に居る」
「ふふふっ。なら、シルヴァが気にする必要はないわ。話だって、また出来るんだから。夜を楽しみにしてて?」
意味深な言葉を最後に、母さんはそのまま食堂から出ていったのだった。
それから時間が経ち、その日の夜。俺はタキシードを、エルは純白のドレスを身に着け、扉のまで待機していた。
「どうして、こうなった…?」
そこに至るには、三十分ほど前に遡る。あの後、俺は午後の鍛練を取り止めて寛ぐことにして部屋で本を読んでいた。
「‥‥ふぅ~」
本を閉じて外を見ると外は夕日で、太陽は山に隠れるように沈みつつあり。思っていた以上に本を読んでいたようで固まった体を解すように伸びをしていると、ドアがノックされた。
「はい?」
「シルヴァさま、お部屋に入らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ?」
扉の向こうから聞こえてきた声は珍しい事にノウェルさんで、一体何の用事だろうと俺は許可を出した。
「失礼します」
その言葉と同時に扉が開き、部屋に入ってきたのはノウェルさん、だけではなくノウェルさんを含めた五名ほどのメイド達で。彼女たちはベットに腰かけていた俺を取り囲む。
「‥‥‥‥ええっと?」
そこはかとなく、嫌な予感を感じていると。
「シルヴァ様、少々失礼致します! 皆さん!」
「「「「はい!」」」」
「え、ちょっ!?」
言うが早いか、連携の取れた動きで動きあっと言う間に目隠しをされ、視界を。そして縄?のような物で拘束されるとそのまま抱え上げられる。
「さあ、皆!行きますよ!」
「「「「お~!」」」」
(え、ええぇぇ~~~~!!??)
突然の事態を飲み込めない間にノウェルさんの号令に合わせ、俺は何処かの部屋へと連行されていき、扉が閉まる音が聞こえた後、俺は降ろされて拘束を解かれるとあっと言う間に着ていた服を脱がされて。
「おお~っ!?流石私の弟分!引き締まっていながらも無駄を感じさせない筋肉、凄い!」
「‥‥あの、早く終わらせてくれませんか?」
と、ズボンの着替えだけは死守とそんなことがありながら、別の服へと着替えさせられ。その間も視界は閉ざされたままで。
「では、移動しましょう!」
「「「「はいっ!」」」」
再びノウェルさんの指示の元、メイド達に囲まれるように俺はそのまま何処かへと連れていかれるも特に抵抗することもなく歩く。危険な気配はなく、寧ろとノウェルさんが上機嫌である事から今日のパーティーに関係する事柄だと予想できたからだ。
(にしても、一体どんな格好をしているんだろうな、今の俺は…)
さっきのズボンを触った感じではかなりいい生地のものという事は分かったので。恐らく今身に着けているのも同じものだろう。そんな事を思いながら移動していき、あるところで止まり。
「では‥‥どうぞ!」
「…っ!」
ノウェルさんの掛け声と同時に目元を覆っていた布が外され、差し込む光に目が少しずつ慣れて見えてくると、その先には‥‥。
「シルヴァ?」
純白のドレスに身を包み、まるで雪の妖精のようなエルが、そこに居た。そして、その隣には自慢げなノウェルさんが立っており。
「うん、いい仕事」
「ふふっ、そうでしょ、そうでしょあぁぁぁっ!?」
「けど、もう少し空気を読もうか?」
いい仕事をしていることは素直に感謝はする。だが、これ以上エルの姿に見惚れているのを見られるのも癪だったので、アイアンクローにて気絶させ。
それを他のメイド達は慣れたように介抱して離れていき、やがて玄関の前には俺とエルの二人だけとなった。
「その服、良く似合ってるけど、エルはどうしてその恰好になっているんだ?」
「お披露目会って言われて、着替えた」
「なるほど」
今の俺が知る限りでは、エルは考える事も出来るが基本は純真無垢の子供の様で。恐らくパーティーの為に着替えてと言われて何の違和感を抱くこともなく着替えたのだろう‥‥、めっちゃ似合っているけどな!
「というか、パーティーって名目のお披露目会だったのか…」
「嫌だった?」
「いや、ただ盛大にし過ぎだと思ってね」
知る限りで、この屋敷で働くメイド達が一致団結した本気を実際に目にし、俺は賞賛と同時に僅かな苦笑が混じった表情を浮かべていると、玄関の扉がノックされる。
「シルヴァ様、エル様。 お二方、ご準備はよろしいでしょうか?」
聞こえてきたのはシュメルさんの声で。それを聞いて俺はエルを見るとエルも俺の事を見て来ていて。
「‥‥行くか」
「‥‥(こくり)」
俺の言葉にエルは頷いたの確認して。
「大丈夫だ」
「では、開きます」
シュメルさんが返事をした後、扉はゆっくりと開いていき。
開いた扉の先には辺りを照らすランタン、幾つものテーブルに料理や飲み物が置かれており、拍手で俺とエルを出迎える母さんとシュメル、そしてメイド達の姿があった。
「…エル」
そう言って、俺はエルに右手を差し出すとエルは何度か俺と手を交互に見る。
「なに?」
「一緒に行くぞ」
そう言って、俺はもう一度手を差し出し。
「‥‥わかった」
エルと俺の手に左手を重ね、俺はエルを導く様にエルの一歩前を歩きながら、母さん達の前へと歩いていく。
「良く似合ってるわ、二人とも!」
「ありがとう、母さん」
今の俺はエルと同じ白のタキシードのような服を着ており、正直服に着せられた感が強い気がしていたが、変に見えてないようで一安心した。
「エルちゃんも、とても似合ってるわ」
「‥‥ありがとう」
「ふふふっ。それじゃあさっそく始めましょう!」
母さんがそう言うとシュメルさんがそっとグラスを渡していて、その動きはまさに熟練のメイドの動きだった。そして、俺とエルにも近くに居たメイドからグラスを受け取る。
「グラスは持ったわね? それじゃあ、シルヴァとエル。二人の出会いとこの先に光がある事を祈って、今宵は楽しみましょう! 乾杯!」
「「「「乾杯!!!」」」」
グラスを持っている事を確認した後、母さんはそう宣言してグラスを掲げ。俺とエル、メイド達も手にしていたグラスを掲げた。
そしてその日は、夜が更けるまでパーティーは続いた。
寝静まり闇夜が深まった深夜。シルヴァとエルが出会ったジルガ山の開けた高地にて、全身を覆う黒衣のマントを身に着けた人影があった。
「‥‥ふむ。やはり報告の通りか」
黒衣を身に纏う男。それ以外の一切が分からない男は、地面に膝をつき、抉れた地面に手を当てる。まるで、そこに存在していた何かを感じ取るかのように。
「幻、実在しないと言われていた伝説の龍は、あの方の思し召し通り存在していた。だが、何故このような土地に姿を現したのか…」
不可解だ。黒衣の男はそう呟きながら立ち上がる。
「だがまあ、いい。俺のやることは変わらぬ。待っていろ、お前を必ず…」
次の瞬間、男の声をかき消す強烈な風が吹き抜け、風がやんだ時には、黒衣の男は忽然と、まるで初めから亡霊のような存在だったかのように消え去っていた。
ふあ~、修正はすぐに済んだけど、加筆が滅茶苦茶時間がかかった。どうしても書いていると次々に内容が浮かんできて‥‥。
今日の投稿はこの一話です。申し訳ありません。出来れば明日も投稿したいと思います。(できれば)
それにしてもやっていて気づけば三千時超の増量してた。…驚きです。次話は出来ればエルsideを書けたらいいなと思います。これは元がないので少々投稿が遅くなるかもしれません。後今話は何回か更に修正をする予定です。言っておきますがあくまで予定です。
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