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羨望のアトラス  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第1章 アトラスへの挑戦
8/19

上陸

 海岸が近づくにつれ肉眼でも陸地の全貌を知る事ができる。小さな砂浜があり、その奥には数張のテントのような簡素な建物と木々が立ち並んでいる。人影はなく、ゴブリンのような生き物も見当たらない。


「座礁するぞ!何かに掴まれ!」


 ウッズの声が響く。船はゆっくりと砂浜に近づき船底を砂に埋もれさせる。勢いはないため激しい衝撃でははないものの浮力を失ったせいで傾く。

 船体が歪んでいくような嫌な音を立てるが、転覆する事はなく、僅かな傾きだけで停止する。船同士の衝突と幾度かの座礁を経ても親父達の船は浸水する事はなかった。


「止まったみたいだな。ウッズ、戦闘ができそうな船乗りを集めてくれないか?上陸する」


「おぅ!ちょっと待ってろ!」


 ウッズが数人の船乗りに声をかける。集まったのはウッズを含めて3人。みな、斧や剣で武装している。


「俺達4人はハシゴを降ろして上陸する。俺達が降りたらハシゴはすぐに戻してくれ。1時間ほどで戻ってくる」


「ちょっと!私を置いて行く気!?」


 アリスが心外とばかりに抗議してくるが、連れて行く訳にはいかない。


「こんなデカイ船が座礁したのに誰も出てこないんだ。無人かもしれないが、隠れている場合もある。そうなれば、不期遭遇戦だ。魔術士のアリスじゃ分が悪いよ。それに、お前がいなければプリシラを守れないじゃないか」


 頬を膨らませて不満そうにしていたが、プリシラを守るという言葉に気を良くしたらしい。


「そ、そうよね!敵が見えたらここから私の魔法で倒せるしね!」


「あぁ、変なのが来たら遠慮なく倒してくれ。頼りにしてるぞ!」


 ちょろいアリスは「任せて!」と胸を張る。ホント大丈夫かな……。


 縄梯子を使い、俺達は上陸した。いつ襲ってきても対処できるよう抜剣したまま浜辺を歩く。

 砂浜から僅か数十メートルの位置に簡易テントが立っているため、取り敢えずはそこを目指す。歩いていると砂の感触に混ざり固いものを踏む感触が伝わってきた。それを拾い上げて確かめてみる。


「骨だな……。人間の骨に見えるけど、大きさからして子供か?」


「こっちにもあるぜ」


「こっちもだ」


 船乗り達の足下にも骨があったらしく、それぞれが拾い上げる。頭蓋骨を拾ったウッズが言う。


「こりゃぁ、人間の骨じゃねぇな。船に積んであった骨と同じだ」


「ここで戦闘があったんだな。人間の骨がないところを見ると親父達は死んだ仲間を船に載せて、物証としてこいつらの死体も載せたんだろう」


 残念ながら船はフィーブスに辿り着く事はなく、俺達が乗る事にになったのだが……。

 充分に警戒しながらテントへと近づく。気配は感じないが、念には念を入れ剣先で入り口を開ける。


「誰もいないな……。これは……」


 寝床にしてたであろう枯れ草に混じり一本の短剣を見つける。手に取った短剣を見つめウッズが何かに気づく。


「こりゃぁ、王都で売ってる物と同じですぜ。ここに鍛冶屋の印が入ってる。錆びもそんなにあがってねぇし、古いもんじゃねぇな」


「なるほど。やっぱりここに親父達の調査隊が居たのは間違いないみたいだな。狭そうな陸地だけど、どこに行ったんだ?」


「ランスさん。こっちに来てくれ」


 別のテントを見ていた船乗りに呼ばれる。


「ここに字が書いてあるんだが、読めねぇんだ」


 見つけた船乗りがテントに書かれた文字を指差す。


「こりゃぁ、俺達の文字にも似ているが敵の文字か?俺にも読めねぇな。古代文字とかだったら魔術士の嬢ちゃんが読めんじゃねぇか?」


 船乗り達が口々に読めないと話すが、俺だけには理解できた。ごめんなさい……。親父の汚い字です……。


「“森の奥の洞窟に行く ここには敵はいない”って書いてある」


「すげぇな!兄ちゃん読めるのか!?」


「騎士はこんな難しい文字の勉強もするのか!」


「さすが、騎士様だ」


 船乗り達が俺を褒め称える。ホントごめんなさい……。


 親父の遺したメッセージは信用してもいいだろう。この陸地には敵はいない。野性味溢れる男で、そういう事には敏感だったからだ。


「この場所は安全みたいだ。船に戻って上陸してキャンプを張るように伝えて来てくれ。俺は森に入るがウッズは一緒に来てくれるか?」


「おぅ!」とウッズが返答し、俺達は森の中へと入る。残りの2人は船へと向かった。

 間も無く陽も落ちるだろう。それまでに念のため森の中も確認しておかなければならない。


 森に入ってすぐに小さな泉と畑を見つける。しばらくここで生活していたのか、元々住んでいた生き物が作ったのか生活するには不便はなさそうだ。

 森の中も割と整備されていて、人が歩いたような道を見つける。壁が近いため、森の奥行きも200メートルほどと推測できる。警戒しながらで遅い速度ではあったが、僅か10分ほどで壁の手前まで到着する。今まで故郷で見てきた壁とも、海沿いに見てきた壁とも違う。そこには幅5メートルはあろうかという穴がぽっかりと口を開けていた。


「こりゃぁ、すげぇ!壁に穴があいてらぁ」


 ウッズが口笛を吹き感嘆の声をもらす。小さいとは言ってもフィーブスの国土はここより何百倍も広い。それでも、壁に穴なんてなかったし、登れる坂なんてものもなかったのだ。それが、故郷より小さな陸地に壁の謎に迫れる穴が空いているのだ。普段からやる気のない俺でも興奮して、今すぐにでも中に入ってみたいという衝動に駆られる。


「どうする?中に入ってみるか?」


 その気持ちはウッズも同じなのか、少し声が弾んでいる。


「いや、今日は止めておこう。戻ってみんなと話してから考えないと」


「そりゃそうだな。こんなデカイ穴が逃げる訳でもねぇしな」


 俺達は来た道を戻り、キャンプを設営中だった仲間に合流した。戻るとすぐにプリシラとアリスが駆け寄ってくる。


「どうでしたか?洞窟があると聞きましたけど」


 早速、プリシラが目を輝かせて尋ねてくる。


「あぁ。歩いてすぐのところにデカイ洞窟があった」


「まぁ!ステキ!冒険が始まるのですね!」と手を合わせ感動を表す。


「お母様は!?」


「親父が遺したメッセージがあった。ここで暮らしたのは間違いないと思う。シャーロット様の痕跡は見つけれなかった……」


 俺の言葉にガックリとうなだれるアリスだが、すぐに顔をあげて話し始める。


「ランスのお父さんが生きているなら、きっとお母様も無事よ!すぐに見つけるんだから!」


「そのことなんだが……。俺は1度フィーブスに戻ったほうがいいと思っているんだが……」


「なぜですの!?」

「なんでよ!」


 詰め寄る2人に「後で話す」とだけ告げ、キャンプ設営に参加した。











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