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羨望のアトラス  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第1章 アトラスへの挑戦
7/19

嘘と葛藤

 舵も壊れ、風を受ける帆もない。船としての役割はただ海に浮かんでいるという事だけだ。

 風を受けても全く進まなかった船は嘘のようにゆっくりとだが西に進んでいる。


 親父達の船に乗り移ってからすでに2ヶ月が経とうとしている。今頃、宰相のクビが飛んでいるかも知れないと思うと申し訳ない気持ちになるが、どうする事もできない。

 考えても仕方がない。“道はある”という親父の言葉を信じて希望を持つしかないのだ。


「ふーっ」


 既に何回振ったかわからなくなった剣を降ろし一息つく。金や銀などの煌びやかな装飾が施された剣は無駄に重く、素振りにはもってこいだ。


「いつもわるいな。こんな上等な剣を素振りなんかに使わせてもらって」


 そう言って持ち主のプリシラに剣を返す。


「熱心なんですね。よかったらずっとこの剣を使ってもよろしいんですよ?」


「いや、自分のがあるから大丈夫だ。それに剣を振るのは他にする事がないだけで、昔は剣を持つのも嫌いだったんだ」


 2つとも嘘だ。プリシラの剣は重くてバランスがわるい。ハッキリ言って実戦では使い物にならないだろう。かと言って騎士剣は弱々しく斬り結べば簡単に折れてしまいそうだ。どちらも実戦では役に立たないだろう。

 そして、素振りをするのは暇なだけではない。屈強な船乗りや兵士が死んでいるのだ。実戦をした事もない俺が生き物を斬ることができるのか不安で、何かしていないと落ち着かないというのが本音だ。


「嘘ばっかり……」


 アリスが俺の嘘を見透かしたように言う。こいつは昔からそうだ。俺の事はなんでも知っているという態度を取りたがる。


「ランスが頑張っているのはプリシラにいいところを見せたいからよ。昔からそうだわ。頑張っている時は格好つけたいだけで、何もしてない時は陰でコソコソ努力するの」


 間違った解釈ありがとうございます。


「私にいいところを?」


「そうよ!絶対そうに決まってる!」


 何を怒っているのかアリスがピリピリして突っかかってくる。プリシラはなんの事だかわからない様子でキョトンとしている。


「勝手に言ってろ。それよりもお前はちゃんと魔法を使えるんだろうな?使ってるとこ見た事ないが?」


「し、失礼ね!も、もちろん、つ、使えるわよ!」


 えぇ!?えぇぇえ!?今のはマジだろう!?絶対使えないっぽい返答だったぞ!?こいつ大丈夫か?


「お嬢さん方。盛り上がっているところ悪いが何か見えますぜ。こっからじゃ遠くてよくわからねぇが森が見える」


 折れたマストの半ばに登っていたウッズが声をかけてくる。俺は前を凝視するが、確かに岩壁の下に緑のようなものが見えるがハッキリと森とは認識できない。


「アリス、出番だ。遠くを見れる魔法があったろう?使ってみてくれ」


 言われるとアリスはローブに括り付けていたポーチから本を取り出す。


「え、えーっと。あった、これだわ。世界の(ことわり)我が魔力をもって覆さん。鷹の眼は遥か遠くを見渡し、我が眼に宿る力となれ」


 どうやら詠唱はうまくいったようだ。アリスがウッズの指差す方向を凝視している。


「触れば他の人間にも見えるようになるんだよな?」


 前に学校の授業で見せてもらったことがあったため、俺はアリスの肩に触れようとする。


「ダメ!私にしか発動しないの!今触られると魔法が消えちゃう」


 触れようとした手を慌てて戻す。魔術士の技量によって発動の効果が違うのかもしれない。


「で、何が見える?」


「海岸……。それと小さな森……。何か建物も見えるわ」


 どうやら陸地で間違いないらしい。普通の視力では確認できないくらいだ。この速度での移動では半日以上かかるかもしれない。


「プリシラ。このまま進めば半日程で陸地らしき場所に辿り着く。船乗り達に休憩と食事を摂るように指示を出してくれ」


「はい?休憩と食事ですか?」


 プリシラがおうむ返しのように尋ねてくる。


「親父達も同じ場所に着いたなら戦闘はあそこで起こったはずなんだ。万が一に備えておくのが無難だろ?」


「あ!そうですわね!わかりました!」


 プリシラは近くにいたウッズに声をかける。アリスは魔法に集中しているため、その他の船員にもプリシラ自ら声をかけに走る。船乗り達も隊長としての能力は皆無であると認識しているが、王族でありながら分け隔てなく接することができるプリシラは皆に好かれている。


「行ってきましたわ!」


 プリシラが息を切らしながら戻ってくる。新たな展開にワクワクしているのだろう。目が輝いている。俺には血なまぐさい展開しか予測できないが……。


「どうだ?アリス。何か変わったもの見えるか?」


「ううん。今のところ人影も何も見えないわ」


「そうか。じゃぁ、俺達も少し休憩しよう」


「待って、何か変わるかもしれないし……」


 と意地を張るアリスの肩を掴み魔法を解除させる。


「あっ!何するのよ!」


 解除された事に腹を立て、再度魔法を発動させようと本を取り出す。こいつはムキなると突っ走るタイプなのだ。


「ダメだ!今は休むんだ。この船はまっすぐ進んでいる。なるようにしかならねぇ。そうなった時に死にたくなかったら休め!」


 本を取り上げいくらかキツイ口調でたしなめる。アリスは唇をぎゅっと結び目に涙を浮かべて俺を見る。


「わ、わるい。ちょっと言い過ぎた。だけど、わかってくれ。魔術士はお前しかいないんだ。いざって時に魔法が使えなければ皆困るんだ。だから頼む。今は休んでくれ」


「わかったわよ……。でも、本は返して。それがないと私は……」


 ダメなんだから。と小さな声で続けた。先の見えない不安があるのか、アリスはアリスなりに葛藤しているのだ。わるいことをしてしまったな……。


「さぁ!最後の昼食は豪華にしましょうか!」


 気まずい空気になってしまった俺達に気を遣ったのかプリシラが明るく話しかける。


「最後とか、縁起でもねぇ」


「あ!そうでしたわね!私としたことがうっかりしてましたわ!」


「あははは。プリシラはホント天然……」


「天然ですか?なんだか美味しそうですね!」


「あはは。そういうところ!」


 いつの間にかアリスの涙は消え甲板は笑いに包まれていた。








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