アリス
「ランス・ウォーレン!5等騎士に任命する!」
王宮の中庭で騎士士官学校と魔術学院の合同卒業式が行われ、自分の名前も呼ばれた。貴族や大商人の子息達は4等か3等に叙勲されるのだが俺のような下級騎士の息子は最下級の5等だ。俺は前に出て士官学校の校長から騎士剣を受け取る。
親父達の調査団が出発してからすでに1年が経っていた。生存は絶望的と思われ親父は3等騎士、エリスマンは名誉1等騎士に特進している。国としてもさっさと終わらせて無かったことにしたいのだろう。俺は親父達が死んだとは思っていない。帰って来ないだけで、何処かで生きていると思っている。
「アリス・エリスマン!宮廷魔術士に任命する!」
幼馴染の名前が呼ばれる。魔術学院に入学していたのは知っていたが、王都に来てからは一度も話した事はなかった。ひょっとしたら向こうは俺が王都にいる事も知らないかもしれない。
赤い髪を母親と同じように後ろで1本に束ねており、それが歩く度に揺れる。子供の頃は馬の尻尾のようだとバカにして掴んだりからかったりしたものだ。ユラユラと揺れる尻尾のような髪を見ているとついつい笑いがこぼれてしまう。声に出したつもりはなかったのだが、一瞬こちらを睨めた気がした。
儀礼的な卒業式が終わり、寄宿舎へと戻る。近いうちに王都のどこかの詰所か辺境への配属が決まるだろう。
「ちょっと!」
王宮付や近衛騎士団などというのはエリートしか選ばれない。考え事をしながらダラダラと歩いていると後ろから声がかけられる。振り向くとアリスが走ってきたのだろうか、息を切らして立っていた。
「よぉ、アリス。久しぶりだな」
面と向かって顔をあわせるのはアリスが魔術学院に入学したとき以来だから約2年ぶりになる。俺の軽い挨拶に気を悪くしたのか顔を真っ赤にさせ怒っているようだ。
「よぉ、じゃないわよ!なんでこっちに来てるのを教えてくれなかったのよ!」
「なんで教える必要があるんだ?ガキの頃のままじゃないんだし、見つけれなかったお前がわるいんだろう?」
正直なところはこの1年は遊んでる暇も出掛けたりする暇もなく、会いになど行けなかっただけだ。ひたすらに勉強と鍛錬ばかりだったのだが、剣に関しては親父の鍛錬に比べると優しすぎて手加減するのが大変だった。
「どうせ面倒くさいとかいった理由でしょう!?」
「まぁ、そうかもな。好きに解釈しろよ」
「変わらないわね。そのどーでもいい感じ。面倒くさがりのランスがなんで騎士なんかになったのよ」
「もう17だ。無職でブラブラしてるわけにはいかないだろう?お前の母さんが推薦状を書いてくれたしな。それに、親父達も帰って来ないんだ。自分で稼ぐより仕方ないだろ?俺は剣しか習ってないし……」
「そうね……。17歳にもなって無職で、すねかじりじゃね……。え?お父さんが帰って来ないの?」
何を言っているんだこいつは……。もう1年も前の話だろ。
「親父だけじゃない。一緒に行ったシャーロット様だって帰ってきてないんだぞ?」
「2人で何処に行ったの?まさか!?駆け落ち……」
駆け落ち……。なくはない。シャーロット様がどう思っていたかはわからないが、少なくとも親父はシャーロット様に好意をもっていたはずだ。好きな子の気を引こうとするガキのようだったからな……。
「調査だよ。1年前にアトラスの壁の調査に出発したまま帰って来ていないんだ。お前は聞いてなかったのか?リスリーも知っている事だぞ?」
「お兄様からは変わりなしという手紙しか来なかったのに。壁の調査に1年も……。そんな……」
アリスの表情に影がさし目からポロポロと涙を落とす。卒業式が終わって帰路につく若い騎士や魔術士が何事だとこちらに注目する。まるで俺が泣かせているようだ。
「死んだと決まったわけじゃない。俺は生きていると思っている。あの親父達が簡単に死ぬわけがないだろ」
「そ、そうよね!お母様と野獣みたいなランスのお父さんさんが死ぬわけないよねっ!」
立ち直り早!しかも他人の親を野獣とか……。
「よし!」
両手の拳を握り気合いを入れるような仕草をする。
「何が『よし!』なんだ?」
「はぁ!?決まってるじゃない!志願するのよ!調査団に!調査団の募集は私も見た事あるわ。学院にも貼り出してあるもの」
「そ、そうか。アリスが決めたんなら俺は止めねぇ。頑張って来いよ」
「何言ってるの?調査団には騎士が必要なのよ?あなたと私の2人で応募するに決まってるじゃない」
「はぁぁぁああああ!?」
俺の大声が木霊する。先程よりも多くの人々が俺達に注目していた。