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羨望のアトラス  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第1章 アトラスへの挑戦
16/19

セシリー・サーストン

「サーストン卿、実に愉快だと思わんかね?」


 街道脇に設営された天幕の中で、顎髭を蓄えた禿頭の中年の男が下卑た笑みを浮かべ、クチャクチャと肉を食べながら肥えた腹を揺らす。

 およそ戦闘などできそうにもない体型に纏う鎧は、装飾過多な上、あちこちが窮屈そうで紐で縛ったハムのようだ。

 そんな男に話しかけられたサーストン卿は、小さく舌打ちをし、冷たい目で男を一瞥する。男と似た鎧を纏っているが、こちらは無駄な装飾が全くなく、小柄な女性ではあるが引き締まった身体は正真正銘の騎士を思わせる雰囲気がある。金色の長い髪は後ろで綺麗に纏められ、髪と同じ色の眼は鋭く男を見据えている。


「ゴブリンやオーガなど使役して、小さな村を囲むことがそんなに愉快でしょうか!?」


 上司である男に対して語気が荒くなったことにハッと

 するが、男はそんな事を全く気にした様子がなく話を続ける。


「半年前、この村で飲まされた辛酸をそっくりそのまま返してやろうではないか!より恐怖を与え、より惨忍な方法でな!エルフ共が、このアラン・ウェズリーに恥をかかせた事、後悔させてやる」


 半年前、アラン・ウェズリー率いる帝国騎士団は脱走した奴隷を追ってエルフの村へとやってきた。50人からなる隊は指揮官であるアランの主導の下、数十人のエルフを虐殺した。

 小さな街や村で帝国が行なっているいつもの行為であった。殺されるか捕縛されるかどちらかの選択肢しかなかったエルフ達だったが、何処からともなく現れた人間達によって帝国騎士団は壊滅し、指揮官であるアレンも命からがら帝都まで逃げ延びてきたのだ。指揮官としては全くの無能ぶりであったが、アレンに罰が与えられる事はなかった。そればかりか、より多くの兵を与えられ汚名返上の機会まで与えられた。


「ギッヒッヒヒヒ。ウェズリー殿、下等なエルフ共に今こそ鉄槌を下してやりましょうぞ」


 天幕の中には2人の騎士しかいなかったはずだが、角の暗闇から黒いローブで身を包んだ長身の影が現れる。


「あぁ、期待しているぞ。サマトス」


 と、短く答えるアレンは、さほど気にした様子はないが、もう一人の騎士セシリー・サーストンは眉をひそめ、不快感を露わにする。


(一体なぜ、こんな輩が帝国騎士団に出入りしているのだ……)


 男のローブから覗く手は、骨と皮だけであり、時折、光が当たる顔は髑髏のようで、表情までは窺い知ることができない。サマトスはリッチと呼ばれている悪に手を染めた魔術師の成れの果てだ。


「少し気分がすぐれない。私は外に出ています」


 セシリーはそれだけいうと踵を返し天幕の外に出ようとする。


「ギヒッ。若いお嬢さんには刺激が強すぎましたかね」


 後ろでサマトスが小馬鹿にするような態度をとるが、セシリーは気にせず天幕の外へと出た。


(王は何を考えていらっしゃるのだ。リッチやゴブリン共と手を組むなど……)


 あちこちから聞こえてくる悲鳴やオーガの雄叫びに顔をしかめる。


「こんなことをして何になるというのだ。全く以って馬鹿馬鹿しい」


「口に出てますよぉ。あたしが密告者だったらどうするんですかぁ?」


 セシリーに向けて物陰から、場違いな間の抜けたような女の声で話し掛けられる。セシリーはさして驚く様子もなく何者かに答える。


「お前が帝国の間者であれば、私の首など数十は跳んでいるな」


「確かにそうですけどぉ。もう少し気をつけた方がいいですよぉ?」


「サクヤ、村の様子はどうだ?」


「うーん。何とか持ち堪えているみたいですけどぉ。オーガが暴れ回っちゃってぇ、全滅するのも時間の問題かなぁ?」


 セシリーは「ふむ」と顎に手を当てて思案する。


「頼みがある。生き延びている村人達になるべく安全な脱出経路を教えて回ってくれないか?」


「えー。それって“はいにんこうい”って言うんですよぉ?バレたら“りょーじょく”されちゃいますよぉ」


「なに、お前だけ危険な目には合わせないさ。私も出る!」


「あー。セシリー様と二人で“りょーじょく”されると思うとサクヤ“こーふん”してきちゃいましたぁ。どこまでもご一緒しますぅ」


「頼んだぞ」


 セシリーの言葉に「はーい」と軽く返事をして物陰にいた何者かは音もなく消える。

 本来であれば上司であるアレンに許可を得なければならないが、間抜けなアレンは気付くはずもないと算段する。


「そもそも、これは正当な戦いではないのだ。こんな事が許されるはずないっ!」


 セシリーは独り言ちると脚を早め村へと向かっていった。








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