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羨望のアトラス  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第1章 アトラスへの挑戦
12/19

少年隊

 血は点々と森の奥まで続き、10分ほど歩いたところで消えた。道はまだ続いているが、ここがゴールなのか、あるいは流す血がなくなったのか……。

 風に草木が揺れ音を立てる。時折、獣や鳥の鳴き声が聴こえてくるが、人の気配はなかったはずだった。


「ウッズ、わるい……。囲まれた……」


「はぁ!?嘘だろ!?人の気配なんてまるでなかったんだぜ!?」


 俺達が存在に気付いたためか、今度はわざとらしく物音を立てたりしてくる。複数で狩りをするときの手法に似ている。獲物が気付いて逃げた先に待ち伏せしているという狩猟方法だ。だとすれば、待ち伏せしているのは武装している人物で、追い込み役は軽装なはずだ。

 俺は素早く剣を抜き茂みに斬りかかる。相手何かもわからないため本当に斬るつもりはない。

 草が寸断され、人影が動く。思った以上に速い。


「出てこいよ!俺はここから動かねぇぞ!」


「ちっ」という舌打ちが聴こえ、斬りつけた茂みの近くから人影が現れる。両手にククリナイフを握り出てきた人影は小さく、痩せ細った身体は透き通るように白い。金髪の髪に宝石のような蒼い眼をした、まるで人形のような10歳くらいの男の子だった。決定的に違うのは、その尖った耳だけが俺達と違う種族であるのを示している。

 囲まれていたのは確かだったようで、あちこちの茂みから人影が現れる。

 出てきた人数は全部で男女5人。その全てが同じような年代の子供だった。


「なんだ?ガキじゃねぇか」


 ウッズが子供達をみて構えていた斧を降ろす。俺も剣を鞘に納め敵意がない事をアピールする。


「すまない。危害を加えるつもりはないんだ。ちょっと人を捜してただけなんだ」


 最初に出てきた少年に話しかける。俺の言葉を聞き、少年は眼を大きく見開いて仲間達に何事かを話し始める。が、少年達が使用する言葉は俺には全く理解出来ない。


「参ったな……。ウッズ、こいつらが何言ってるかわかったりしないか?」


「んーー。どっかで聞いた事はあるんだが……。すまねぇ

 俺にもわからねぇ」


 言葉が通じないためなのか少年達は一層警戒を強めてしまい、今にも斬りかかって来そうな体勢になってしまった。俺は再度敵意がない事をアピールするために両手を広げて笑って見せる。


「なぁ、頼むよ。俺達はあっちの海から登って来て、女の子達を捜してるだけなんだ。見つけたらすぐに帰る予定……つぅ!」


 やってきた方向を指差そうと左手を前に突き出した瞬間に左手に激痛が走る。小さめの投げナイフのようなものが刺さっていた。


「おい!大丈夫か!?」


 ウッズが心配して駆け寄る。どうやら横にいた少女が投げつけたようだ。少女の顔は恐怖で歪んでいる。


「クソッ!ガキでも容赦しねぇぞ!」


 ウッズが再び斧を構えて少年達を威嚇する。元冒険者で海の荒くれ者から発せられる怒気はかなりのもので、少年達は一歩後ずさる。


「待ってくれ!大した怪我じゃねぇ」


 俺はウッズを手で制し斧を降ろさせる。ウッズは「おいおい。でもよぉ」と言いながらも渋々と斧を降ろす。

 敵意剥き出しだった少年達の表情に変化が表れる。ホッとしたような表情に変わり、戦闘態勢も緩む。なんだ?急にどうした?と訝しげにしていると突然、背後から声がかけられた。


「お前たちは何処から来た?この森を奪いに来たのか?」


 俺達と同じ言葉だが、どこかたどたどしさが印象に残るその声は俺のすぐ後ろから聴こえた。後ろを振り向くと俺と同じくらいの年齢だろうか?金髪で耳の尖った1人の青年が立っている。

 言葉が通じる事に安堵するが、すぐに恐怖へと変わる。


 全く気づかなかったのだ。気配も足音もなかった。しかし、青年は俺のすぐ後ろ、手が届くいつでも殺せる位置に立っていた。


「答えろ。お前たちは帝国から来たのか?」


 帝国?何処の話だ?


「す、すまない。帝国が何処にあるのかわからない。俺達はアトラスの壁を登って来たんだ。女の子を捜しに……」


 青年の顔が怪しいものを見るような表情に変わる。


「壁を?登った?嘘を吐くな。あの洞窟にはゴブリン共の集落があったはずだ。お前達ごときでは登って来れるはずがない。それに半年前に入り口は消えている」


「本当の話なんだ。今は洞窟にも海岸にもゴブリンはいない。入り口は誰かが幻覚の魔法で見えなくしているだけで今も存在しているんだ。俺達は女の子を見つけたらすぐに帰るつもりなんだ」


「2人の女は預かっている」


「本当か!?すぐに帰るから返してくれ!礼もする!」


「ダメだ。お前たちは帰さない」


 青年はそう言うと合図のように軽く手を振る。周りを確認しようとした瞬間に何かが背中に刺さる。それほど痛くはなかったが、すぐに力が抜け立っているのがやっとの状態になる。


「何を……」


 ウッズが地面に倒れこむ。見ると少年達が筒のようなものを口に当てている。吹矢か!?


「ほぅ……。だが、寝ていろ」


 俺は倒れまいと踏ん張っていたが頭に衝撃が起こり、俺は意識を失った。




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