大日本デストロイ 放火魔篇
主要人物
鈴木 蘭……肉食系女子。
神谷 暦……イケメン眼鏡。
東京 AM11:09
私の名前は、鈴木 蘭。
普通の女子中学生だった。
自己紹介の時に散々、『どっちが苗字?』とか『蘭ちゃんじゃないの?』とか笑われてしまうのだけど、気にしない。これは私が生まれる前にガンで死んじゃった父方のお婆ちゃんが、徹夜で考えてつけてくれた名前だからだ。
好物は何を隠そう、焼肉! もう好き超好き、愛してる。特に神戸牛は私の王子様。キングオブ関西。さらわれちゃってもいいくらい好き。
特にこの、たっぷりのった油を網の上で蒸発させて、かぐわしい香りを放ちつつ見目麗しい艶姿へとお色直ししていく様といったら……。
ああもうダメ、辛抱たまらんわ! よだれの海ができちゃうよ! 世界の中心で肉を叫びたい! あいらーびゅー! あいにーでゅー!
「うわー! いいニオーイ! いいニオーイ!」
歓喜の渦が言葉となって私の喉から迸り、店内に響く。お母ちゃんは赤くなって「こら」と注意を飛ばし、周りのお客さんは微笑ましい表情になる。そして対面の席のお父ちゃんが誇らしげに胸を張り、白い歯をみせた。
「嬉しいか? そりゃ一ヶ月ぶりだからなあ……感動もひとしおだろうよ。よーし、お父ちゃんが丹精こめて育てたこの記念すべき一枚目は、あーちゃんにあげちゃおう! ほれっ、むさぼりつけ!」
「えーっ! いいのお父ちゃん? 好き好き大好き超愛してる、抱いて!」
小皿の上に降り立った神々しい物体を見つめ、ごくりと唾を飲み込む私。
しがない貿易会社のサラリーマンであるお父ちゃんは、ボーナスがでると決まって家族サービスとして、近所の焼肉屋さんに連れてってくれるのだ。いつもは厳しい教育ママ然としたお母ちゃんすら、こういう日はいつもより甘くなる。一人娘の私に普段から大甘なお父ちゃんは、さらに激甘に。
だから私は、このかけがえのない団らんのひとときが大好きだった。ああ、私ってなんて幸せな家族のもとへ使わされたエンジェルちゃんなんでしょう! なーんて、この世に生まれた喜びを実感できちゃう時間だからだ。
ねえ、神様。私を二人のところへと導いてくれた偉大なる主よ。
私はちゃんと、大事にしてたよ? ありふれた日常を、ささいな喜びを、ぜったい粗末にしないよう生きてきたつもりだよ?
ほんと言うとあなたの事、あんまり信じてなかったんだけどね? 少なくともそこらへんの、人生を早々と諦めて半分死体になりながら、親の脛を骨までしゃぶって自堕落に生きてるような若者よりか、よっぽどあなたをありがたがって毎日暮らしてたつもり。
なのに、ねえ、どうして取り上げちゃったのさ?
「いっただっき、まぁー」
私が目一杯の感謝をこめてベイベーをお迎えすべく口を開けた瞬間、日本時間にして午前11時11分、世界の終わりは始まった。
赤い光と爆音が、決して広くない店内を一瞬にして呑み込んだのだ。途方もない衝撃が周りにあるもの全てを蹂躙して、上下左右に揺さぶってゆく。もちろん私は、何が起きたのかわからなかった。ただ、隣の席のお母ちゃんがとっさに動いて、私に覆い被さってきた事だけは、はっきり覚えている。
おそらく、ほんの短い間だけ、気を失っていたと思う。
次に目を開けた時、柔らかくて焦げ臭いものに上からのしかかられて、床に倒れる自分に気づく。それはお母ちゃんだった。体の後ろ半分にメラメラ波打つ炎を纏い、聞いた事もないような悲鳴を上げてもがき苦しんでいた。抱き締めてくる両腕に万力みたいな力がこもる。痛い、痛いよお母ちゃん。
私はたまらずその腕を押し退けて、お尻を床に擦り付けながら後ずさる。
そしてようやく、店内の様子を確認できた。
阿鼻叫喚の『火炎』地獄が、目の前に広がっている。
店員さん達もお客さん達も、誰もがみんな火だるまになって絶叫し、踊り狂っていた。中にはとっくに全身が炭化して、物言わぬ真っ黒な塊となって横たわる人もいる。人だけじゃない。壁や天井、席や調理場、あらゆるものが真っ赤に燃え上がっているのだ。
火の元と推測できるのは、全てのテーブルに備え付けられた、炭火焼きの七輪。お肉様という人類の至宝を炙って熟成させていた幸福の炎が、今や巨大でおぞましい姿へと転じ、生ある者達に牙をむいているようだった。
混乱する暇もなく、押し寄せてくる息苦しさに、ごほごほむせた。
同時に、空間じゅうに充満する匂いが鼻孔をくすぐる。吐き気を催すほど濃厚で、どうしようもなく芳醇な、肉の焼ける時の香り。
一番近くの机の横で燃えているのは、紛れもないお父ちゃんだ。既に肉体の半分以上が赤黒いベールにより覆い隠されており、輪郭さえ判然としない姿だけれど、なぜかはっきり認識できる。いつも穏やかで優しい父が、野獣にも似た激しい呻き声を上げながら、床をのたうちまわっているのだった。
(なにこれ!? なにこれ!? なにこれ!?)
声が出せない代わりに心で叫ぶ。視界のほとんどを覆い隠す黒煙が、気道をじりじり焼くのがわかる。
「おおおおおおおおおあああああああああ」
「うあうううううううううううううううう」
お父ちゃんとお母ちゃんがこっちに手を伸ばす。人間でない別のモノ……ゾンビか何かになってしまったかのように、一心不乱に、私を求めてくる。
助けを、求めている。
それを理解した瞬間、恐怖以外の全ての感情が消し飛んで、気付けば私はたった一つの出口に向かって駆け出していた。
股間から下がびしょびしょに濡れていたけれど、気にもならない。
私は逃げた。大好きな家族を見捨てて、自分一人の命を何より優先して。
残酷だと思うだろうか。だけど、あなたならどうする?
教えてほしい。私はどうするべきだったのだ? 場にとどまって、家族と一緒に焼け死ぬべきだっただろうか? 状況を打開して二人を助けるうまい方法を考えるべきだったのか? どちらにせよ、この時の私にはまともな判断力など残ってなかったし、何が正解だったのかなんて今でもわからない。
とにもかくにも、この日の出来事が、私の見た『始まり』だった。
外に飛び出した直後、私の身を案じて声をかけてくれるような人は、一人として存在しなかった。というよりも、誰もそれどころではなかったのだ。
出迎えたのは、店の中と何ら変わらない地獄の光景。
雷雲が空を覆い、豪雨と突風が商店街に吹き荒れ、コンクリートの地面が唸りを上げてひび割れてゆく。錯乱する人々がアーケードを抜け出すべく、幼い者や弱い者、年老いた者や不自由な者を置き去りにし、あるいは押し退けながら、我先にと逃げ惑う。冷静を保つ人間などいない。皆が獣同然だ。
つまりは、それだけの事が起きていた。
ずっと後になってから知ったのだけど、あれこそがのちに『複合災害』と称される一連の天変地異の、ほんの先触れだった。
その日を境に、地震、台風、津波、竜巻といったあらゆる自然災害がごちゃ混ぜになって、日本全土を同時多発的に襲ったのだという。
それだけでも信じがたい未曾有の事態だが、先に待ち受けていた真の異常現象に比べれば、生易しいとさえ感じられるほどだった。
致死率100%の奇病や、未知のゾンビ化ウイルスの蔓延。
どこからともなく現れたUFOによるアブダクションや、太古の時代から目覚めた巨大怪獣による大量破壊。
念動力や発火能力などを身に付けた超能力者達の誕生と、その能力の突発的な暴走。
エトセトラ、エトセトラ。
なんというかもう文字にするのも馬鹿馬鹿しいと思えるくらい、不条理で荒唐無稽で奇々怪々で無茶苦茶な、今まで空想上のものとして扱われてきた超自然の出来事が立て続けに発生したのである。日本政府単独では当然ながら対応できるはずもなく、国内はまさしく混乱のるつぼに陥った。
各種インフラの麻痺によってライフラインは途絶し、全体の人口が五割に激減するほどの死傷者数を記録して、溢れかえる避難民の救済の目処も立たぬまま時だけが過ぎていった。もはや中枢としての機能を果たせなくなるまで追い詰められた内閣の御歴々が、どういう対策を講じたかというと……。
ぶっちゃけ、トンヅラこいた。限られた身内や、戦後から国の象徴として君臨していた『王族』と共に、国外逃亡してしまった。思慮も分別も権力もあるはずのいい大人が、責任を放棄し、国民を見捨てたのである。最後にこの絶望的なニュースを報じたキャスターは、『それでは皆さんさようなら』と涙を飲んで、画面から消え去った。それきりテレビは映らなくなり、ずっと砂嵐のままだ。おいてけぼりを食らった私達国民の、心の風景と同じに。
もっと色々できたはずだろ、どうしてそこでやめるんだそこで。
米国にでも国連にでも泣きついて同情をひけば、支援くらいしてくれたろうに。まぁもっとも、御上はいつでも大事な事は何も報せず、内々で全てを片付けてしまう物。小市民は大局の起こす大きな流れには逆らえない。別に今に始まった話でもないと私は自分を納得させ、無人の我が家を後にした。
とりあえずお腹すいたなと、他愛ない気持ちを抱きながら。
最初の地獄から一ヶ月が経過しようとしている。目に映る形の『災厄』がやっと落ち着きを見せる頃、日本という国はもう、跡形もなく滅び去っていて。
そして、幕が開く。
法律も道徳もない、暴力と無秩序のみが跋扈する、血濡れの時代の幕が。
※ ※ ※
PM13:35
ここは、廃墟と化した街には今やどこにでも転がっている、廃オフィスビルの一室だ。私はそこをねじろにしていた。電気はとっくに死んでいるので薄暗い。地震の後で放置されたらしく、崩れたコピー用紙の束やら倒れたデスクトップのディスプレイやらで床は散らかり放題。
日本が滅亡しても、当たり前だが冬は来る。薄く安っぽい毛布(本当は毛布じゃなくて小さめのカーペットだ。トイレの前に敷いてあった)にくるまって肌寒さに身震いしつつ、窓辺に腰かけた。眼下には粉雪舞い散る景色が広がり、かつて歩行者天国とも呼ばれていた交差点が一望できる。今ではだだっ広いだけの、ひび割れた道路だ。渡る人間がいなくなったら、歩行者地獄とでも呼ばれるようになるのだろうか? とか、しょうもない事を思う。
珍しい事に部屋には灯油式ストーブが設置してある。
ここを冬越しの住みかとして選んだ、最大の理由。
暖をとりたいが肝心の燃料がつきかけている事を思い出し、私は動く事への気だるさを感じながらも、ストーブの横にある小型の灯油ボトルを手にした。
だいぶ残り少ないから大事に使わなければ、と頭によぎったその時だ。
「おはこんばんにちわっしょいしょーい!」
気合い(?)一喝、いきなりドアを蹴破って、黒スーツに身を固めた眼鏡のイケメンが押し入ってくる。似通った服装の男女の群もぞろぞろと続く。
「ふぇ? あんたたち、だれよ?」
最近寝不足だった私が、重くなりかけていた瞼を見開いて聞くと、イケメンは胸を張って会釈する。燕尾服ではないけど、どこか執事めいた雰囲気。
「だいたいわかりませんか? ヤクザですよ! 腐道組の神谷という者でございます!」
はー? 堂々と名乗っちゃうかな普通? あそっか、もう警察も機能してないし隠す必要ないのか。ふろうどぐみ……って、確かアキバの片隅で細々とやってた場末のグループだ。主に同人誌の印刷所とかを経営してたっけ。
やな時代になったもんね、調子のった連中が途端に幅きかせ始めるとか。
「んな事より聞けください! 先日うちの事務所で火事があって大勢焼け死んだんですがね! 若いモンが現場を立ち去るアナタのお顔を見てるんですよ! ってな訳で、犯人かどうかの真偽はどうでもいいから疑わしきはチョンパしてこいとのお達しを受け、本日お邪魔した次第でございますコラ!」
丁寧さと粗暴さが雑じった変な口調で、神谷はまくし立てた。彼が片手で何らかの合図を送ると、背後に控える部下とおぼしき男女が、一斉に動く。
連中が懐から出した拳銃の、無数の銃口が、こっちに狙いを定めてくる。
私は、思いっくそ小馬鹿にした顔を作ってやった。
「あらら、いいの? 撃っちゃうの? ほんとにやるの? 後悔しない?」
忠告したからね私。
「今さら命乞いしても無駄無駄無駄ァーッ! やーっておしまいっ!」
神谷が腕を、ぶんと振る。引き金が弾かれ、銃声が鳴り響き、私は蜂の巣になって壁に吹っ飛ぶはずだった。
でも現実に起こった事は、そうじゃない。
爆音と炎をあげて吹っ飛んだのは、奴らの拳銃と、それを握っていた手の方。ちぎれとんだ指がバラバラと宙を舞う。
さらに次の瞬間、神谷は目を丸くして硬直し、可哀想な神谷の部下達は、たちまち恐慌状態となって悲鳴をあげる。爆発の後も炎は勢いを緩めるどころかどんどん成長し、腕を駆け登り、全身へと燃え広がったからだ。連中は火だるまになって転げ回り、生きながら焼かれる地獄の中で悶え苦しんだ。
「な……ンですかイッタイこりゃあ!」
驚愕の面持ちを真っ赤な明かりに照らされながら、神谷は叫ぶ。一方の私と言えば、全身からこみ上げる愉悦を抑えられず、だらしなく口角がつり上がるのを止められない。炎が人間の皮を炙り、脂肪を蒸発させ、肉を焼いていく様子を眺めているだけで、ひりつくような快感が脳髄を支配していく。
そして何よりもこの、鼻孔に届く甘美な香り。
ああ、いいニオイ、いいニオイ。
媚薬でも吸っているみたいに、気持ちが蕩けてゆく。私は熱にとらわれ、灯油ボトルを持っていない方の手で、無意識に局部を弄っていた。
「私の力は発火能力。とは言え、んぁっ……近くに火種がないとダメなタイプの出来損ないだけど……ふっ、くぅっ……」
言葉の合間に堪えきれない喘ぎが混ざる。
そう、これは、あの日に目覚めた私の力。発現と同時に暴走し、焼肉屋さんを火炎地獄へと変えて、お父ちゃんとお母ちゃんを焼き殺した力だ。
この事実を理解した時、私は気が狂いそうだった……。
というか、もう既に狂ってしまってるのかも。だって変でしょう? 普通ならトラウマになってもおかしくないはずなのに、今でも焼肉が好きで好きで仕方ないんだから。お肉様の焼けてく香りが、芳醇を通り越していやらしすぎて、夢中になって『いたし』ちゃうくらい心酔しちゃってるんだから。
「おーい! オナりながら説明してんじゃねえですよー!」
怒声を飛ばす神谷の突進に、私は押し倒されて、マウントを取られてしまう。肉弾戦に持ち込まれては、抵抗できようはずもない。こっちはせいぜい『発火させるだけ』の半端な超能力者。おまけに、鍛えているというわけでもないから、体の出来は一般的な中学生よりも遥かに『やわ』ときている。
「ははっ、何が超能力だ凡人なめんな。ようは燃えるもん近づけなけりゃ、ただのお子様って事でしょうが!」
神谷は腰から解き放ったボーイー・ナイフを、私の腹に迷いなく突きおろす。冷たさが皮膚を突き抜け、筋肉と脂肪をかき分けて掘り進み、激痛が体の芯を襲う。痛い、怖い、気持ち悪い。乱暴に捻りながら引っこ抜かれた鋭い刃先が、今度は私の決して厚くない乳房を抉る。お願い胸はやめて! いや!
「死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ死ね」
弾むような言葉と共に、リズミカルなテンポを乗せて何度も何度も刺しては抜き、抜いては刺す。傷口が増えるたび、ふきあがる鮮血の柱も増える。
意識が……遠く……視界が……かすむ……。
何も考えられなくなって、痛みも次第に消えていく……。
ピクリとも動かなくなった私を見下ろし、神谷は安心してか、ニヤリとして立ち上がる。血走った目で荒い息継ぎを繰り返し、ナイフを手中で弄ぶ。落ち着いてくると視線を動かし、扉際の床を睨んだ。炭化してプスプスと黒煙を放ち、異様な焦げ臭さを漂わせる焼死体の数々に、大きく舌打ちする。
「……はっ、はあ……くそが、来世では火遊びは大概にしましょうね? それにしてもこのお子様、大事な部下をよくも散々……! 親父殿になんと詫びをいれればいいのだど畜生め。指二十本ですめば運がいいところか……!」
「ねえ……おにいざ……ん。ぎい、てよ……わ、だし……ね? ……うぶっ」
こみ上げてくる血ヘドのせいでうまく喋れず、私は何度もむせぶ。それでも人生の最後に、誰でもいいから、言葉の通じる相手に気持ちを伝えたい。
「じむしょ、焼いちゃって、ごめんね? でもね私……ひと、焼き殺してる時……やきにくみたいないいニオイ、かいでる時ね……また会えてる気がしたんだぁ……おとお、ちゃんや、おかあ、ちゃんに……。二人ともさ、私のせいで、まるこげになって死んじゃって……やきにくや、つれてってくれたのにねぇ……。あれがさいごに見た両親で……すごく焼き付いちゃったのね? だから私にとって……炭になったらだれでも、お父ちゃんお母ちゃんなの……」
「黙れ異常者。意味がわからん」
神谷が無表情で言い捨てる。さっきまで黙って耳を傾けてくれてるみたいに見えたけど、間違いだったや。あは。
何もかもがどうでもよくなった私は、ガクガクと震える手を頑張って動かして、ポッケからマッチを取り出す。何とかこすって、火をつけた。
マッチ売りの少女を気取って、走馬灯を思い浮かべる。
いつも楽しみだった焼肉屋での団らん、私に甘かったお父ちゃん、私に厳しかったお母ちゃん、私に焼き殺されて真っ黒焦げになった二人……。
お願い、マッチの火。私を二人と同じにしてよ。
強く念じると、頼りなかった種火は大きく膨張し、私の体を呑み込んだ。
焼けていく、燃えていく。焼肉みたいに。
嬉しい! 私は今、この世で一番大好きな食べ物に変わってくんだ。放火魔になった時点で決めてた、最後に火をつけるのは私自身にって。
ああ、なんて幸せな気分。他ならない自分の肉体から放たれる、夢にまでみた素敵な豊香に包まれながら、私の喉は歓喜の叫びを上げる。
「いいニオーイ! いいニオーイ! あははははははははははははははは」
私の名前は鈴木 蘭。
普通の女子中学生だった。
※ ※ ※
「なんだこいつ、勝手に自分に火葬かましてくれやがりましたですよ」
神谷は勝利の愉悦に浸り、ゆっくりと焼けただれていく少女を見下ろす。
そこで彼はふと気付く。自分のスーツが、何かの液体でぐっしょり濡れている事に。
うわ汚ぇ! と顔をしかめた。
この女、さては漏らしてやがったな! 股がってめった刺しにした時に!
「あーあ最悪ですねぇ。高かったのに染みになったらたいへ……ん?」
独り言を中断し、鼻をひくつかせる。液体から臭う独特の刺激臭は、尿のアンモニアのそれとは明らかに性質が異なっていたのだ。神谷が何気なく視線をおろすと、同じ液体が、彼自身の足元に大きな水溜まりを作っている。次に目に入ったものは、少女の右手の側に転がる、小型の灯油ボトルであった。キャップが外れ、中身が空になっている。
「え~えぇ~っっ?」
神谷が間の抜けた声を発した直後、燃え続ける少女の体がびくんと反応した。胎児にも似た体勢をとって横向きに転がると、灯油の水溜まりに自らの炎を乗り移らせる。
まるで巨大な人型のマッチのように。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
男の断末魔を聞く者は、誰一人として居なかった。
いかがでしたでしょうか。
最後まで、いやちょっとでもご覧になってくださった方がいらっしゃれば、最大限の感謝を捧げます。
ご意見ご感想は絶賛受け付けております。というか、ほしいです。
今後も同じメインタイトル、同じ世界観のオムニバス(ものによっては続き物になります)を不定期に投稿すると思います。こんなキャラ出せば? とかこんな話書けば? といったご要望がもしございましたら、ぜひおしらせください。ストーリーに取り入れます!
ここからはこぼれ話というか裏設定ですが、登場人物の中には私が影響を受けたアニメやドラマや映画などのパロディ? オマージュ? なんていったらいいかわかりませんが、とにかく、モチーフにした元ネタのキャラが存在します。ぴんときた人は、それを探してみてください。で、あとで、山田ぁ、お前このキャラパクリやないのんか、おおーん? とかツイッターで話しかけてくだされば、冷や汗かいて喜びます。
長文失礼致しました。今後とも宜しくお願いします。