第6話 「ただの親子喧嘩っぽい」
「兄上! 次の任務は?」
ユアンが部屋を出る前に、師匠の部屋をあとにした俺たちは、リュンの部屋の近くまで戻ってきた。
「さっきは静かにしていて偉かったな。ニコラ。お前なら、次の任務も果たせるかもな」
ニコラはすっかり俺の言った任務をする気でいる。
「次は、リュンとサンを見に行くぞ。喋るなよ」
「うん!」
ニコラの返事を聞くと、俺はリュンの部屋を少し開けた。サンとリュンの横顔が見える。
「お父様。何で、あんな提案したの?」
「言っただろう? チャンスを与えるって」
俺はこの2人が仲良く話しているところを見たことがない。今も、怒っているわけではないが、和気あいあいといった感じでもなさそうだ。
「そんなの、お父様には何のメリットもないじゃないか」
「お前な。私がメリットだけで動くと…」
「思っているよ。昔から、そうでしょ」
もしかしたら、俺の知らない出来事が、2人の間にはあったのかもしれない。
「全く。嫌なところだけ私に似てきて…」
「そう育てたのは、お父様でしょ」
相変わらず、サンの言動はリュンの悩みの種らしい。
「サン。私があの提案をしたのは、お前たちに諦めさせるためだ。子どもだけで、旅をするのは危ないに決まっている。そんなのを許す親がどこにいる」
「だから、それを許してもらうために力を示せばいいんでしょ。私たちはもう、お父様たちが思っているような子どもじゃないよ!」
「16歳なんて、まだ子どもだ。シュラ様に至っては、まだ14歳だぞ」
「私たちの力も知らないくせに」
「知らなくても、親だから分かる。それに、私とシークとミッヘルだぞ。お前たちが相手になるわけないだろう」
普通の親子喧嘩を見ているみたいだ。
「そんなこと、誰も思っていないよ」
「は?」
リュンにあんな呆気にとられた顔をさせることができるのは、娘であるサンくらいだろう。
「ユアンもシュラも、シーク兄とミッヘルに勝つつもりでいるよ。もちろん私だって、お父様に勝つつもりだよ」
サンの挑発は、確かにリュンの逆鱗に触れたらしい。
「親への口の利き方をもう一度教える必要があるな?」
「親だけど、今は敵だよ。なめていたら痛い目を見るのは、そっちだよ。お父様」
サンとリュンの間を、冷ややかな空気が流れた。
「兄上。サン姉さん、こっち来るよ」
「あ。ニコラ、行くぞ!」
サンが出てくる前に、俺の部屋までニコラと戻ってくる。
「兄上。サン姉さんとリュンって仲悪いの?」
どうやら、子どもの目にも仲が悪そうに映ったらしい。
「兄上も詳しいことは知らないけど。仲良くはないんだろうなあ」
「家族が仲悪いって悲しいね」
まだ子どもだからという理由では片付かないほど、俺の弟は純粋で優しい。
「大丈夫だ。兄上が何とかするからな」
「うん!」
ニコラに笑顔が戻ったのは良かったが、あの2人の仲は試合が終わらないことにはどうしようもないだろうな。