第3話 「俺だって譲れません」
「駄目に決まっているだろう!」
俺が父上の荒げた声を聞くのは人生で2度目だ。
「お願いします! 俺たちに旅に行かせてください」
ユアンが俺の隣で頭を下げてくれる。
「ユアンやサンが行くのを反対しているのではない。俺はシュラが行くのに反対しているのだ。大体、学校はどうした?」
「学校は今年卒業試験を受ける予定です。そして俺はそれに受かるだけの強さは得ることが出来ました。だから、サンとユアンと一緒に旅に行かせてください」
「シュラ。何度も言うようだが、お前は王子だ。国を継ぐ者に強さは必要ない。それでもお前を学校に行かせたのは、お前の意志に負けたからだ。だが、旅に行かすのは別だ。学校を卒業するなら、城に帰ってきて王子としての勉強をしなさい」
どれだけ言っても、父上の許しは下りない。ということは、母上の許しはもっと下りないだろう。
「反対されようが、俺の意志は今回も譲れません」
「なぜ、そこまで旅に出たいんだ。友だちならたくさん出来ただろう」
「それが、俺の使命だからです」
「お前の使命はバリント国の王様になることだ」
俺は困ったような表情をするユアンとサンを見た。魔王のことを言うわけにもいかないが、言ったところで信じてくれるものでもないだろう。
「国王様。意見するようで申し訳ないですが、シュラはまだ14歳です。もう少しだけ、私たちを好きにさせていただけませんか?」
俺は別に王様を継ぐ気もないが、いずれは継ぐということを見せておかないともっと譲ってくれないだろう。
「サン。俺は元々シュラには国を継ぐ勉強しかさせる気はなかったんだ。いつ始めても早いということはない」
サンが父上にばれないようにため息を吐く。父上のあまりの強情さに参っているようだ。
「シュラ様。どうして、城に戻ってこられたのですか?」
「え?」
部屋の隅に控えていたリュンの方を向く。リュンは真剣な顔で俺を見ていた。
「カーナ様に何も言わずに学校を卒業した後、旅に出ることも出来たはずです。嘘を吐き通せばね。でも、あなたたちはそれをしなかった。なぜですか?」
「……俺は、王子なんて嫌だと思っていた。国を継ぐ気もなかった。でも、父上や母上に育ててもらって、学校にも行かせてもらって。その愛情を無下にして旅に出ることは出来なかった。俺はちゃんと父上と母上に旅に送り出してもらいたかったんだ」
俺のわがままを聞いてくれる父上と母上には本当に感謝している。だから旅に出ることを報告しないという選択肢は俺にはなかった。旅に出ることが危険を伴うと分かっているからこそ。
「カーナ様。シュラ様はちゃんと成長しておりますよ。城の外で学ぶことも、シュラ様の力にしっかりなっておられるようです」
リュンはかすかに笑って父上の方を向いた。リュンが俺を素直に認めるなんて珍しい。
「リュン。お前の言いたいことは分かった。だが、世界は危険が多い。城や学校に守られてきたシュラに何が出来る」
「シュラは、学校でもトップクラスに入る実力を持っています。俺が保障します!」
「俺は、ユアンとサンのことも言っているんだ。ロトの優秀さのおかげで、第5エリアは平和に保たれている。だが、第4エリアは違う。まだ争いは続いているし、この国以外にも行くと言うのなら、もっと危険なことに遭うかもしれないんだ」
「では、チャンスを与えてはどうでしょう?」
リュンが隅から俺たちのもとまで来る。
「私とシーク。そしてミッヘル。私たち3人とシュラ様たちで試合をします。そこで、シュラ様たちがカーク様の認めるだけの力を示せたら、旅に出るのを認めたらいいのではないでしょうか」
現軍隊長であるミッヘルは言うまでもなく、元軍隊長のシークも、俺の護衛も任されていたリュンも相当強い。勝てたら、とまで言わなかったのは、リュンの気遣いだろう。
「分かった。リュン、手加減はするなよ」
「もちろん。全力をもってお相手しますよ」
リュンが笑みを浮かべて俺たちを見る。その笑みに、俺たちは背筋を凍らせた。
もしかしなくても、俺たちに諦めさせるために提案したのか。