第21話 「外見は伊達ではない」
外から見えていた塔は、頂上が雲に隠れて見えなかった。階段を上がって2階へ、と思っていたのに、階段の終わりはいくら経っても見えてこない。
ぐるぐると連なる螺旋状の階段を上がって、もう1時間になる。
「これ、どこで終わるんだよ」
「さあ。もし、外から見えていた部分が全て階段だとしたら、まだまだかかるよね」
「はあ。考えただけで嫌になってきた」
ため息を吐いて振り返っても、上がってきた成果を考えると戻る気にもなれない。
「ん? どうしたの? ユアン」
先頭を歩いていたユアンが立ち止まり、それに従って俺とサンの足も止まる。
「なんか、おかしくないか?」
「おかしい・・・?」
「・・・とは?」
何かを思案するユアンに、俺とサンは同時に首を傾げた。
「マリアやアルパは中に入ったんだよな? こんな階段だらけで、あいつらはどこまで行ったんだ? あいつらの体力で頂上まで上がったとは思えない」
「途中で引き返したんじゃないのか?」
「いや。それはないだろう」
俺の考えをユアンは易々と打ち消した。
「アロンさんが、俺たち、わざわざ力を持った子どもである俺たちに依頼したってことは、何かあるって知っているからだ。そしてそれは、一度中に入ったマリアから報告されたはずだ。だから、マリアも2階以上は危険だと言っていた。あいつらの行ける範囲の場所に、得体の知れない何かがあったということだ」
「ということは、この階段は・・・」
「ああ。何らかの魔法による幻覚かもしれない」
俺たちは一様に上を見上げた。魔法かもしれないと理解しても、上には階段が続いているだけだ。
いや。待てよ。
「あのさ、ビケルが言ってたんだ。2階以上に大人が入れなかったのは魔法ではないって。もしかして、これも魔法ではないんじゃないか? 魔法以外の力が・・・」
「魔法以外の力?」
「ああ。もしかして、界力か?」
「は?」
俺とユアンの声が重なり、サンに視線が突き刺さる。
「界力ってなんだ?」
「俺も初めて聞いたのだが・・・」
「え? 知らなかったの? 私、昨日言ったよね。あいつらと話しておけって。てっきり、あいつらに聞いてると・・・」
そういえば昨日そういうことを言ってたな。
「いや、その、あいつらっていうのが誰か分からなかったというか」
サンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
果たして、怒っているのか、呆れているのか。
「はあ・・・。神様の子どもたちのことだよ。アン、ドゥ、トロワ、キャトル、サンク。シュラはともかく、ユアン、お前も・・・え?」
「え?」
「え?」
サンが思わず言葉を止めて見つめた先に、俺とユアンは揃って目を向けた。
「なにこれ・・・」
サンが絶句するのも分かる。
一面壁だったはずの階段の内壁に穴が開き、中には空間が広がっている。
「さっきまではなかったよな・・・?」
ユアンが恐る恐る中に踏み込む。それに付いて入ると、部屋の全貌が明らかになった。
天井が霞むほど高く、円柱型の部屋の壁は金色の小さい繭のようなものがびっしりと敷き詰められている。
そして真ん中には、人が1人入っても余りそうなほどの大きな繭が佇んでいた。
「マリアたちは、もしかしてこれを見たのか」
「何かに反応して部屋が開いたのか? だとしても、一体何に・・・」
「言葉だとしたら、神様の子どもたちの名前・・・。ただ、それをあいつらが知っているとは思えないが・・・」
部屋の細工に疑問を浮かべながらも、俺たちは少しずつ繭に近づく。
形状は卵みたいな形だが、おそらくその触感は柔らかい。
「シュラ。どうするこれ・・・」
「そうだな。とりあえず・・・」
『何で眠っているんだろう』
「誰だ!」
突然聞こえた声に、反射的に手は腰の剣へと向けられた。ユアンはいつでも飛べるように羽根を立ち上げている。
俺たちが繭を睨んだ瞬間、繭から衝撃が放たれた。




