第14話 「不安と矜持と願望」
「・・・それで、結局マリアも付いて行くということで一旦落ち着いたんだけど。俺としてはマリアには安全な所にいて欲しいし。でも、ラウンジには行きたい。ビケルの頼みっていうのもあるし。なあ、どうすればいいかな。ユアン」
「はあ・・・」
俺の話を聞いたユアンは、深いため息を吐いた。
父上の部屋で解散となった俺は、ひとまず状況を整理しようと師匠に説教を受けていたユアンの元に来た。未だ血は足りていないらしくユアンはベッドに座っているが、顔色は悪くない。
「アロンの娘か。父親に似て頑固そうなやつだな」
師匠は面白そうに俺の話を聞いていた。
「アロンさんを知ってるんですか?」
「アロンは俺が軍隊長の時の部下だ。優秀なやつだったから、俺が推薦して第4エリアの領主に就任した。しかし、あのラウンジに入れるようになったとはな。アロンの娘は一度内部に入って状況は分かっている。連れて行ってもいいんじゃないか?」
「でも・・・」
確かに、一度も中に入ったことのない俺たち3人が行くよりも、マリアが来た方がいいのかもしれない。少しだけだとしても、内部に入って無事に帰ってくることが出来ているのだ。
ただ、頭で分かっていても、気持ちが追いつくものでもない。
「シュラ。お前は、何が不安なんだ?」
「え?」
ユアンを見ると、真剣な表情とかち合った。
「マリアがケガをすることか? それとも、マリアを守れないと後悔するかもしれないことか?」
「俺は・・・。マリアを、守れないかもしれない。力を付けた。強くなった。でも・・・確実なことなんてない。何があるか分からない。・・・何があっても絶対守るとマリアに誓える勇気が、俺にはないんだ」
そうだ。守るだ何だの言った所で、出来るか分からないくせに。出来ると確信を持って言う勇気もないくせに。
俺は、佐藤紡だった頃と何も変わってないじゃないか。口だけで、何も行動できなかった。誰も助けることが出来なかったあの頃と。
「シュラ。俺は何だ?」
「え?」
俺の目の前にいるのは。
「ユアン。ユアン・メイスン。チキナーで、俺の親友で、仲間で・・・」
「そうだ。俺は、お前の親友だ。仲間だ。お前が1人では出来ないことも、俺が手助けをすると8年前に決めた。お前に誓った」
8年前。初めて会った時、ユアンは俺に言った。
『俺もお前の力になる』と。
「お前の力は1つではない。お前が不安になるなら、俺は何度でも誓ってやる。お前がマリアを守りたいなら、俺も一緒に守ってやる。シュラ。俺はお前の力になるよ」
ユアンが目の前に拳を突き出してくる。
8年前と同じだ。あの時、俺は何て答えた? こいつの何を信じた?
ユアンと出会って、一緒に過ごして、その信頼は変わっていない。むしろ大きくなる一方だ。ユアンは強い。剣術だけではない、頼ることが出来る強さがある。いつでも、俺の味方でいてくれる。
ユアンがいてくれるだけで、俺は望む俺になることが出来る。
「ユアン」
俺は安心して拳を突き出した。
「頼りにしてるよ」
俺たちの拳がコツンと重なった。




