第12話 「逃げなかったらこうなりました」
然魔法の賢者級スカーライト。
実際に見るのは初めてだが、その威力は人魔法の賢者級を扱う友から聞いている。
「こんな大物を隠していたとはな。手を抜く気満々だったってことかよ」
「そういうわけではありませんが。さて、終わりにしましょうかね」
どうせ、俺が王子様だから本気になれないなんて思ってたんだろうが。
ただ本気になられたらなられたで困ったな。さて、あの空で渦巻いている氷の大群をどう受け止めようか。
というか、あいつ俺を殺す気か?
「ケガで済む程度には手加減したいと思いますが。シュラ様。降参をする気はありませんか?」
困ったように眉を曲げたミッヘルを見て、俺の気持ちは決まった。
2本の剣を持ち、目の前で交差させる。
「降参なんかするかよ。ユアンもサンも。俺の、俺たちのために懸命に戦ってくれたんだ。俺が逃げてどうする。俺はもう、戦うことから逃げない!」
「そうですか。では、行きますよ」
「ああ!」
「シュラ様! 危ない!」
構えた剣に力を入れた瞬間、か細い女の子の声が耳に届いた。
俺とミッヘルが驚いた隙をついてその子は目の前に飛び出してくる。
「え?」
すでにミッヘルの法力によって放たれた氷の矢は俺たちの方へ向かっている。
というか、このままだと俺の前にいる謎の少女に当たる。
これはまずい。確実にまずい。
「ちょっ!」
俺は少女の首元を掴んで守るように抱きしめた。
その瞬間に合った目は、かすかに昔の面影を思い出させる。
「お前、もしかして・・・」
「バカ、シュラ! 気を抜くな!」
突如聞こえた馴染みのある声にふと我に返ると、俺の前に立った男性が氷の大群を掻き消した。
「良かった。無事か、二人とも」
「ビケル!」
メビウス学園の友人、ビケルは魔法を無効化できる。その力のおかげで助かったのか。でも、確か第4エリアに里帰りしていたはず。
「お久しぶりです、シュラ様。娘がご迷惑を」
申し訳なさそうな顔をして訓練場に入ってきたのは、第4エリア領主、アロン・ヒュート。数年の時が立ち、イケメンにさらに拍車がかかっている。
この人がいるということは、この子は本当に。
「もしかして、マリア・・・?」
「シュラ様、ごめんなさい。危ないと思ってとっさに身体が・・・」
8年前に出会ったきり、会わなかった俺の初恋の相手。その想いは今も変わってないし。なんなら綺麗になりすぎて眩しい。
勝負の邪魔をされたことなんて気にならない。むしろマリアを抱いているというこの状況をどうすればいい? 離したくない。でも、このまま抱きしめていたら俺の理性ももたない。
「あの、シュラ様?」
「あ、ああ。マリア。久しぶりだな。ケガがなくて良かった」
マリアを立たせて身体を確認する。
「勝負の邪魔をしてしまい申し訳ありません。国王様も、こんな大事な時にお伺いしてしまい・・・」
「それはよい、アロン。お前が突然来たということは何かあったのだろう」
父上の真面目な表情を察し、俺とミッヘルはすでに剣を片付けている。
「ええ。ビケル」
「はい」
俺のそばにいたビケルが、父上の前に足を進める。
「私の名前はビゲル・ジュゲッカ。父の代理でお願いに参りました。我がジュゲッカ家とモース家の争いの解決にシュラ様のお力を貸していただけないでしょうか」
深く頭を下げたビケルの言葉は、父上に渋い顔をさせた。




