祝福
城に招待状が届いた。
“拝啓 秋涼の候
皆様には益々ご健勝の事とお慶び申し上げます。
この度、私達は結婚する事となりました。
つきましては、日頃お世話になっております皆様に
感謝の気持ちを込めてささやかな小宴を催したく存じます。
ご多用中、誠に恐縮では御座いますが何とぞ
ご臨席賜りますようご案内致します。
海辺の国の王子 森の姫”
といった内容だった。
はぁ、行きたくない。
けれど、仮にも自分の娘だ。
世間体というものもある。
仕方なく、海辺の国に豪華な贈り物と共に向かった。
「お母様、お久しぶりです」
真っ白なドレスを着て優雅に一礼する姫。
その隣にはシルバーのタキシード姿のお世辞にも格好いいとは言えない男性が立っていた。
「ご結婚おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
心にも無い言葉を吐く。
「ありがとうございます。今日は楽しんで下さいね」
嬉しそうに微笑んで去っていく姫。
それから、式が始まった。
「お母様、これを食べてみてアップルパイよ。私が作ったの」
式の後のパーティーでは何故かよく絡んでくる姫
「そう、美味しそうね。1つ頂くわ」
切り分けてあるアップルパイをフォークで刺して口に入れる。
あ、美味しい。林檎の甘さが凄く良い。
何度か咀嚼して、飲み込む。
すると、身体が電流を流したように痺れ、フォークが手から滑り落ちる。
苦しい。息ができない。
「はぁ、はぁ…はぁ…、はぁ…」
立っていることが出来ず、床に座り込む。
「だ、大丈夫ですか、お母様」
苦しい、
「はぁ…はぁ…はぁ」
苦しい
心配そうに覗き込んでくる姫。
「お母様、お母様。誰か、誰かッ、お母様が……」
朦朧となっていく意識の中で最後に私が見たのは、
ニタリと口元を歪めた娘の姿だった。