始まりの街
遅くなりました。すみません。
これはホント、勘でしかないんだが、このまま普通にあの門から入ったとして何も問題なく通り抜けられる気がしないんだが、おまえらはどう思う?
「……」
寂しい。
☆☆☆
頬を撫でていく風、優しく降り注ぐ陽光。
ポカポカの陽気に不純物ゼロを感じさせる空気の香り。
こういうなんでもない自然の情景を、感覚全部で感じ取れるような時にちょっとした幸せを感じるのは俺だけじゃないと思う。
が、今はそんなハイキング気分には到底なれない。
草原地帯には街道が伸び、行き交う人々で賑わっている。
俺はそこから逸れ、その様子をポツンとあった岩場の影から覗いているといった状況です。
それまで経由した宿場町とは違い、俺が求めていたでかい街……いやもはや都市とも呼べるそれが見えてきた時には、やっと休めるかと思った。が、そんな単純にコトは運ばなかった。
元居た世界の日本とは違い、そこは城壁で囲まれていて、何やら門みたいなところを色んな人が通り抜けてるんだが、それらをチェックする役目を負ってるっぽい兵士さんみたいなのがいるのさ。
これはそのまま突入するわけにはいかないんじゃねぇかと時貞は時貞は思ってみた。というわけなのですよ。はい、ごめんなさい。
にしてもどうするかなぁ。もしあのチェックしてる奴をどうにかできたとしても中がどうなってるのかよくわからんから無事に入れるかわからないし。
城壁周りをグルッと一周して他の出入り口とか探そうかとも思ったけど、城壁の上にも見張りが居るから、不審者よろしく下手にウロウロして警戒されたら元も子もないし。
万が一職務質問的なことになったら完全に終わるしなぁ。
強引に飛び越えるのも同じ理由で却下。見つかったら言い訳なんかできる状況じゃないだろうし。
……。
あれ?これ詰んだ?
「……はぁ」
一通りウダウダ考えて、集中力が切れたところでため息と共に空腹と眠気が一挙に襲ってきた。思考がだんだんと焦りとイライラに支配されてくる。
こりゃあかんな。とりあえず夜まで仮眠しよ。眠気がなくなるだけで思考も少しはまともになるだろ。
☆☆☆
夜半、暗闇の中空を大岩が駆け抜ける。
見張りの人間が気づくことができないほどの駆け足で、流星のごとく突き進み、そして……。
巨大な街を覆うその城壁全体が揺れた。何かが爆発したかのような轟きが全ての住民の耳に届き、街は一瞬にして昼間の如き明るさを取り戻す。
そんな街の片隅。ソレと比べれば小さな小さな何かが、朽ちかけてボロボロの小屋に落ちた。
「うはぁ、着地失敗した」
ほぼバラバラになった木造の小屋の中で身体を投げ出しながらつぶやく俺。
中に人いなくてよかったぁ。こんなアホみたいなオチで人をぺしゃんこにして殺すとか嫌すぎるもんなぁ。
立ちあがりながら、埃を払う。薄暗いが街の外と比べれば全然明るい。運よく周りに人もいないし、一か八かって感じだったが、ラッキーだなこりゃ。
とはいえ、はてさてこっからどうするかなぁ?
とゆっくり悩んでる暇はなさそうだった。よく見るとここは塀に囲まれた誰かん家の敷地内っぽい。ってか目の前に家あるし。このボロ小屋は多分物置的なものなんだろうな。
まだ家の中の明かりは点いていないし、人が来る気配もないが、早々にお暇した方がよさそうだ。
この世界に来てから何度目になるかわからない心の中でのごめんなさいをしてから、塀に飛びつく。そーっと向う側を覗くと、石畳の路地があり、幸いにも人がいなかった。
すぐさま、飛び越え、とりあえず人の気配と光の少ない右に歩き出す。
歩きながら、この後どうするか考える。
とりあえずは生きることにしたわけだから、まずは衣食住の確保だよなぁ。んでここに来るまでで、この世界も貨幣経済で成り立ってるのは知ってる。ってことは金を稼がねばならんのだよ。
住所不定無職、身に着けているものは汚れちまった悲しみとジャージと肩掛けの紐でぶら下がってる水筒のみ。髪はボサボサ、ヒゲはボーボー。
「……」
詰んだか?
いやいや、諦めたらそこで試合終了だ。ここにだって力技だがなんとか入れたし。
……はぁ、生きることって大変なことだよな。日本で生きてた時とはまた別の方向性でそんなことを実感する。
その後もアレコレ考え、結果、もういっそ死んじゃおっかなぁ。と再びうなだれながら歩いていると、背後から近づいてきた何者かから何かが振り下ろされる気配を感じた。
咄嗟に前に跳びながら振り返る。
木の棒を振り下ろした態勢になってる小汚い男が目の前にいた。
「ちっ」
舌打ちと共にこちらにもう一度襲い掛かってくる
「なんなんだよ」
袈裟掛けに振り下ろされる棒を左手のみで受け止める。
「なっ!?」
驚愕の表情と異臭。こいつくっさ!?
「いやいやなんの用だよ?見てわかるだろ。俺、金なんて一切持ってないぞ?」
問答無用で向うが蹴りを放とうとしたので、触りたくないけど胸をちょっと強めにドンっと押す。
思ったよりも後ろに飛んだ男は、そのまま背中から地面に落ちた。
「ぐうぅ」
その瞬間、俺の周りから何人かの気配が遠ざかるのを感じる。
周りを見回すと、なるほど薄暗くてわかりずらいが、木や藁で出来たほったて小屋や石造りの小さい家が密集してる感じで、なんとなく汚い感じの場所だ。そういやあの男同様なんか臭いし。これはあれか、スラム街的なとこに入っちゃったって感じか?確かに人の少ない方、静かで光の少ない方へと思って歩いてきたからなぁ。
でもまぁーいいチャンスかな?
男に近づくと、俺に気が付いた男が怯えた表情で俺を見た。
いやいやあんたの方が見た目は怖いからね?……多分。
目の前でしゃがむ。
「基本なんもする気ないから怯えんな。俺の質問に答えてくれればいい。ただ、答えなかったり、嘘ついたとわかったら」
石畳を強めに殴る。陥没。俺つえー
「ひぃ」
「わかったな?」
小刻みに首を縦に振る男。
「んでさ、なんで俺を襲ったのよ?マジで意味わからんのだが。さっきも言ったがどう見ても金持ってなさそうだろ」
「め、珍しい服を着ていたからはぎ取って売ればいくらかになるだろうし……」
このジャージ目当てかぁ。まぁー確かにこいつの来ているボロ布と比べればいくらかマシかもなぁ。嘘ではなさそうだが
「おいおい目の泳ぎっぷりが半端ないぞ?ちゃんと最後まで言えよ?」
さらに倍率床ドン!
「ひ、ひぃぃぃ、す、すいませんすいません!!奴隷屋に売っちまえばとぉぉぉぉぉぉ」
うははーい、マジかよ。この世界奴隷いんのか。しかも道歩いてただけで攫われて売られるとか超こえーじゃねぇか。世紀末に生きてるなぁー
「なるほど、あぁーはいはいそんなに怯えんな。別になんもしねぇーって言ってんだろ」
両腕を顔の前に掲げ、身体を丸めるようにして全身で怯えを表現するクサ男。
「はぁー、普通に自業自得のくせになんなんだオマエは。まぁーいいや次の質問な。もう3度目だが、俺は金がない。手っ取り早く金を稼ぐ手段とかこの街にあるか?もちろん合法でだぞ?例えば日雇いの仕事とかそんなんのことだ」
少しずつ腕を下げながら恐る恐ると言った感じでこちらに視線を向けるクサ男。しつけーなこいつ。お前なんかに触れたくないんだから殴るわけねぇだろが。
「そ、それなら斡旋屋にい、行けば」
ほぉーなんとも怪しげな響きだな
「何それ?」
「いや……え?斡旋屋は仕事を紹介してくれるところで……」
ふーむどうやら少なくともこの街では結構常識的なことなのかもな。
「ふーん、そこに行けば仕事がもらえて金が稼げるんだな?」
「は、はい」
「そかそか。どこらへんにあるんだ?」
「あ、えっと……5番街に行けば」
ほぉー区画分けされてんのか。割とありがたいな。でも
「わりぃな。俺、今日この街に来たばっかだから5番街とか言われてもわかんねぇのよ。どっち方向か指さしてくれる?」
「ひゃ、ひゃい」
軽い悲鳴をあげ、おそるおそるといった態で、俺から見て右側を指すクサ男。ホントならこいつに案内させてもいいんだが、こんだけ怯えてる姿見ると滲み出る哀れさでもういいかなとか思ってしまう。それにこいつ臭いしな。一緒に歩きたくねぇよ。
俺?俺もまぁー多分臭いと思うけど、道中で川とか井戸があれば水浴びとか洗濯してるよ?だからこいつほどじゃないと思う……思う。
「んじゃまぁーこれに懲りたらあんま悪いことすんじゃねぇぞ?」
そう言いつつ立ち上がる。正直、もしここがスラム街的な感じで治安があんましよろしくないのなら、なるべく早く離脱したい。俺、つい最近までただの大学生ですからね?まぁー今は元救世主で泥棒で住所不定無職だが……。あ、やめようこれ。泣いちゃう。
「へ?いや……え?はぁ……」
怯えと戸惑いで俺の話を聞いてるのか聞いてないのかよくわかんない返事をするクサ男。
「あと、お前、臭すぎだよ。ちょっとは身体洗え?んじゃな」
そう言って、軽く手を挙げながら、クサ男の指さした方向にある道へ歩きだす。
見えないが、背中越しにポカーンという空気感を感じつつ。
☆☆☆
さて、ちょっと早歩き気味でクサ男を信じて歩いていると、だんだんと街の風景が変わってきた。
饐えた臭いがふわっとしていたのがなくなり、道自体が綺麗になってきた。
建物も一つ一つが大きくなって同じ石造りやレンガ造りでも、しっかりしたモノになっているように感じる。家の窓や玄関には花が飾られていたり、落ち着いた感じのカラフルな色の建物があったりして、見ていてちょっと楽しい。年季を感じるが、それも風情という感じになってくるから不思議だ。
が、そんなどこか気品や落ち着きのようなモノを感じる街並みとは裏腹に、街は慌ただしい雰囲気に包まれていた。
スラムとは違い、ちらほらと街灯があるため、普段もそこそこ明るいのだろうけど、そこらじゅうの建物からも明かりが漏れ出ているため、夜とは感じさせない明るさだ。
人も結構外に出ていて、ご近所さん同士やらなんやらがオロオロしながらしゃべっていたり、なんか兵士みたいなのが走っていたりする。
まぁーでもそりゃそうだよね、城壁に岩刺さってるんだもの。
しょーがなかったとはいえ、ため息がでる。絶対バレたらまずい。なので、行動は慎重にせねばな。
っというわけで、街が落ち着くまでしばらくこそこそ見つからないようにしよう。「5番街の斡旋屋ってどこにありますか?」とか聞ける雰囲気じゃねぇし。しかも俺今、あくまでどちらかというとだけど、クサ男に近い状態なわけだし。
何がどうなってあいつらに捕まることになるかわからんしな。
とかなんとか考えつつ、目立たないように細い路地やら建物の影とかでひっそりすること数時間。空が白み始め、だんだんと明るくなってくると、街も徐々にだが落ち着きを取り戻し始め、日常にもどるべく準備をしだした。
半袖シャツにジーンズでワイルド感あふれるおっちゃんに
「すみません、道を尋ねたいのですがよろしいですか?」
フンワリしたスカートにブラウスなキャピキャピ系金髪女子の2人組に
「HEY!そこのNOWでYOUNGなGIRL達!ちょっと道を教えてくれないかい!?」
ワンピース着た黒髪幼女へ
「ふえぇ……道がわからないよぅ」
ってな感じで斡旋屋を訪ねて三千里。ついに来ましたこの時が。
いやぁー無視されたり、ゴミを見るような目で見られたり、ドン引きされたり色々あって心は傷だらけだけど、生きてればいいことあるよね?そうさGOING MY Wayさ!
あぁー死にたい。
クサ男が言ってた斡旋屋は正式名称をシュルデガルド斡旋商会というらしく、そこそこでかく、レンガ造りで3階建ての立派な建物に大きく看板が出ていた。
人の出入りも結構頻繁で、期待も膨らむが、不安も同じぐらい膨らむ。
大丈夫かこれ?こんな恰好で入ったらつまみ出されんじゃないのか?と躊躇するくらいには結構ちゃんとしてる感じなのだ。
う~ん、まぁーでも、今のところ他に選択肢ないしなぁ。行くだけ行くしかないでしょ。
そう思い、意を決して両開きのドアを開く。
中も綺麗な感じで整っており、カウンターで仕切られ、窓口が5つほどあった。
銀行みたいだな。そんな印象を受ける。
壁には掲示板があり、そこに紙が見やすいように並べて張られている。それを何人かが眺めているので、あれに人員募集してる仕事について書かれているのかもしれない。
俺は入り口から空いている窓口に向かった。
「すいません」と声をかけると、
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件ですか?」
と白いブラウスに黒のタイトスカートといった「なかなかわかってるじゃないか」といった感じの金髪ロングな美人さんが軽く顔をしかめられながら対応してくれる。
死にたい。
「仕事を探してるんですが」
「当商会のご利用は初めてですか?」
「はい」
「失礼ですが、他の商会や互助組織などへ登録はされておりますか?」
他にもあるのかこういう感じのとこ
「いえ、してないです」
「かしこまりました。では、まず当商会へご登録していただきますが、よろしいでしょうか?」
「あ、はい」
おぉー意外とすんなりいくんだな。ちょっと拍子抜けする。
「まず、こちらの用紙に可能な範囲で結構ですので、ご記入ください」
「はい」
お姉さんが紙と鉛筆をこちらに差し出す。
あれ?俺って字とかどうなってるんだ?
恐る恐る紙を手に取り、それを見る。
名前、年齢、住所、出身地、現職(前職)、身分を証明できるものの有無、技能もしくは特技
上から各項目はこんな感じ。おぉー読める読める。
でも読めるとして書けるのか?鉛筆を持って試しに自分の名前を書こうとしてみると、脳内に字が浮かんでくる。うわぁきめぇ。確かにありがたいが、この感覚気持ち悪すぎる。
軽いめまいと吐き気を感じつつ、名前を書こうとし、止まる。
これ、本名書くの微妙だよなぁ。フレアさんとかの名前ってどっちかというと元の世界の欧米風だったから俺の名前って珍しい部類だろうし、結果あいつらに伝わったらすぐバレるよなぁ。
んじゃどうするかなぁ。うーん、もうめんどいし「トキ」でいいか。なんか世紀末覇者の弟みたいになってるが、超好きなキャラだったし逆になんかいいわ。
ちょっと謎のウキウキをしつつ、名前と年齢を書く。おぉートキってこんな字なのか。にしても書ける項目少ねぇ。前職に救世主とか書いてやろうかな。
「すみません」とお姉さんに声をかける。
「はい」
「この技能もしくは特技ってどういうものを書けばいいんですか?」
「そうですね。例えば、体力があるとか、計算ができるといったものでも結構ですし、中級以上の理術を行使できる、戦闘技術やその経験がある、料理や建築の知識があるという、より専門的なものでももちろん結構です」
「わかりました。ありがとうございます」
中級以上の理術かぁ……多分魔法的なものだよなぁ。ここに召喚された時最初に見たアレと俺の恥ずかしい失敗の光景が蘇る。
理術っていうのかぁ。俺、中級どころか初級も使えなさそうなんだが大丈夫だろうか。初級が使えても特技にならないということは……?ま、まぁー今は置いとこう。
んじゃここは、体力がある、計算ができる、でいいか。
もう一回見直して、「できました」と言い、お姉さんに渡す。
「ありがとうございます」と受け取りお姉さんが内容をチェックする。
「それでは、登録にあたっていくつか注意事項と商会規則についてご説明いたしますが、よろしいでしょうか?」
そんなのもあるのか、結構ちゃんとしてんなぁ~。
「はい、お願いします」
まとめてると
・基本自己責任だから、問題起こすなよ?
・最初の3回の斡旋については試用期間として賃金低いぜ?
・信頼度評価ってのがあって、評価度は0が最低で3が最高。評価度が上がると報酬の良い仕事が斡旋されるぜ(ちなみに0は試用期間中のみの評価度、試用期間終われば自動的に1になる。あと、評価基準はヒ・ミ・ツ)
ってな感じでした。
一通り聞いて、問題なければ同意書にサインしろってなり、サインをする。
「それでは、手続きをさせていただきますので、そちらにおかけになって、少々お待ちください」と部屋の中央に何個かある木製のベンチに手を向ける。
「はい、よろしくお願いします」と言ってから、ベンチに向かい座り、人心地。
ちょっとうつらうつらしてきたぐらいで「トキ様」とカウンターから声が掛かるが、最初は自分のことじゃないと無意識に思ってしまったようで、シカトしてしまい。ムっとした感じでお姉さんがこちらに呼びに来てくれた。すいません。
「それではこちらが労働者証となります。派遣された現場で担当責任者の方に見せる必要がありますので、紛失しないようお願い致します。もし紛失された場合、再発行には費用が掛かりますので、お気を付けください」
そう説明され、渡されたのが名刺くらいの大きさのアルミっぽい感じの金属板だった。8桁の数字と商会の名前と俺の名前が表示されている。右上に穴が空いているからそこからヒモを通して首にかけることもできそうだ。
「わかりました」
「以上で手続き完了となります。現在ある案件につきましては、あちらの掲示板でご確認いただき、希望案件がありましたら、案件書をこちらにお持ちください。あなたの労働が幸いにつながることをお祈りいたします」
台詞はなんか良さげだが、無表情で言われても微妙なんですけど。
心の中で苦笑しつつも「ありがとうございます。これからよろしくお願いいたします」と伝え、軽く頭を下てから掲示板の方に向かう。
さぁーお仕事がんばろー!!




