謁見2
召喚されちまったものはしょうがないしとりあえず生きれるだけ生きてみようかな。
そんな風に思い始めていたのださっきまで。
あの女神のことや、この世界にきてからの扱いの雑さとか、そもそも俺に関係ない世界じゃねぇかふざけんなバカヤローってことで魔神討伐なんぞにやる気が出るわけがないのだが、まぁ~戦闘面ではない部分でなんか協力できることがあるならしてもいいかなぐらいには考えてた。
それもあのじいさんと話してるうちに段々と嫌になった。
俺は高校生の頃に謎体質を発現させてから場の空気や他人の顔色に敏感に反応する卑屈な奴になってたと思う。それはまぁ良い風に言えば他人の感情の機微を察知する洞察力があるってことになるのかもしれない。
だけどここまでじゃなかった。周りの人間達が浮かべる悪意とか侮蔑とか動揺とか敵意とかがちょっとした仕草を感じ取っただけで流れ込んでくるのだ。まぁ~被害妄想なだけかもだけども。
とはいえそんなん感じちゃったらやる気出るわけねぇだろ。ってのが一つ。
んで、さらにそこから掘り下げるとだ。
当然っちゃ当然なんだが、これは俺の身体じゃない。
俺は俺のカタチをした別の何かになってしまった。
より深くそれを確信してしまった時、俺は初めて自分の死ってものを実感した。
自分がすでに終わった人間だということに気が付いたら不思議とこの世界での生に対して執着心のようなものが薄れてきた。
それはつまりこの世界がどうなろうとどうでもいいっていう思いが強まるってことなのかもしれない。
そうなると、もうこの場にいること自体がめんどくなってきて、放っておいて欲しい気持ちでいっぱいだったが、まぁーそんなわけにもいかなそうなんだよなぁ……。
瞼の向こうで光が収束するのを感じ、恐る恐る目を開くとフレアさんから後光が射してた。
いやまぁーここが元いた世界なら「何を言ってるかわからないと思うがry」ってな感じだがここはファンタジーときめく異世界なわけでよくあることなんだろう。
と思ったのも束の間、周りに視線を移すと俺とフレアさん以外のここにいる全ての人間が床で平伏していた。
こりゃどうもよくあることではなさそうだなぁ……と思い冷や汗が額から滲み出始めた頃に
「時貞さん!!なんでそんなこと言うんですか!!!」
「……へっ?」
「だから!なんで!この子達を助けようとしてくれないんですか!?」
後光が射してる以外フレアさんはフレアさんに変わりないはずなのだが、口調が変だしこの子達……?
「……あっ」
まさか……
「あのクソ女神?」
あ、しまった
「……え?」
フレアさんもといクソ女神が驚きの疑問符を浮かべた瞬間に周りからの視線が集中する。主に怒りやら敵意やら殺意やらが籠められたそれらが。
「クソ女神……?ひ、ひどいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!時貞さん!!そんな風に私のこと思ってたんですかっっっ!?」
……。まぁーもういっか。
「いやそりゃそうだろうよ。俺、ここに召喚される前になんて言った?」
「むぐ……」
「その感じだとちゃんと覚えてんだな?確信犯なんだな?そりゃお前当然俺の中でお前がクソ女神に位置づけられるだろうよ」
お、泣きそうだ。
「だっ……」
「いい加減せんかぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ひうっ!?」
いきなりの怒声に俺じゃなく女神のほうがビクッとたじろぎ、俺はというといい加減こいつらのこの感じにそろそろイライラしてきていて、声の方に視線だけ向け、無反応でいた。
声を上げたのは教皇のじいさんの横で平伏していた銀髪の団長を名乗ったおっさんだ。
「貴様!!我らが母であるソルン様に対し、なんたる狼藉!!跪き、頭を垂れんかバカ者がぁああああ」
「え、いや……」
「知らんがな、あんたらの価値観を俺に押し付けるなよ。俺は別の世界のしがない大学生でしかなく、勝手に救世主だとか言われてここに連れてこられただけなんだぜ?あんたの言うことを聞いてやる義務なんぞこっちにはこれっぽっちもないんだよ」
「なっ!?」
完全に開き直った俺に対し絶句するおっさんの顔が笑えた
「と、時貞さん……」
「まぁーそちら側もなんか色々切羽詰まってて大変なんだろうけど、俺は関係ないわけだからさ。今からでも遅くない、俺をあるべき状態に還してくんないかな?」
「……」
俺の言葉を聞き、下を向く女神
「……」
「……はぁ、仕方ないですね」
お、今度は駄々捏ねずに素直に聞いてくれるのか?
「こんなことは本当はしたくなかったんですが……」
ん?
次の瞬間、身体がビクンと跳ね、全身に強烈な痛みが走った
「あ?……ぐあぁあああああああああああああああああああああああああああ」
例えようのない痛みに自分の身体を抱きしめ、その場に倒れこんだ俺は、その場でのたうち回る。
「ごめんさい、でも、この子達のためにはこうするしかないんです」
泣きそうな顔をしつつ苦しむ俺にそう言う女神
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ」
もはや絶叫しか上げられない俺
「時貞さん、この子達のため、魔神と戦ってください」
その言葉と共に痛みが薄れていき、さっきまでの激痛が嘘のように一切感じなくなる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
静まりかえる場。だけど周りから感じるのは愉悦や嘲り。
「時貞さん、お願いします」
いやまいったね、そうくるかよ。この身体はさながら孫悟空の頭の輪っかと同じようなもんになってるってことか。
確かに効果的ではある、さっきの痛みを思い出しただけで身体が震えるし、泣きそうになる。さすがに元いた世界じゃこんな拷問は受けたことないから心が折れそうだわ。
「時貞さん」
よくある話だが、救世主と書いてドレイと読むって感じなわけね。はいはいそーですか、そーですか。
「舐めんなバーカ」
「はぁ……」
俺に向かって、右手を翳す女神。足元から這い上がるようにして激痛が全身を貫く。
「ぐあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「私もこんなことしたくないんです!!お願いですから言うことを聞いてください!!」
ふざけんな!ふざけんな!!ふざけんな!!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「時貞さん!!」
許さねぇ!許さねぇ!!許さねぇ!!!
痛みに朦朧とした意識の中で、だけど俺は絶対の怒りと拒絶を手放さなかった。
「こんなの絶対認めるかぁあああああああああああああああああああああああああああ」
「え?」
「くそがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
絶対の意思を声に乗せ、咆哮する俺
同時に、身体の内から外に衝撃が突き抜け、身体大きく弾ける。
「嘘……こんなこと」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
再び痛みが消える。不思議と意識ははっきりしている。思考も冷静だ。
全力で逃げるか?いや無理だろ。おそらくあの痛みはいつでも発動可能だ。奴隷の首輪をなんとかしなきゃどうにもならない。いっそここで舌噛んで死ぬか?そんなんで簡単に死なせてくれそうにもないだろ。
「と、時貞さん」
床に倒れ、荒い息遣いのまま声の方に目を向ける。
「魔神を倒してください。そうすればその後はあなたの自由を約束します」
はっ!自由を約束ね……。信用できるかよそんなもん。クソ女神が。それにお前はやっぱり勘違いしてる。
父親にも母親にも何にも返せず死んだ俺がなんでこんなクソ野郎共のために生きなきゃいけない!!自分自身のことも含め、この世界に俺の守りたいものなんぞ何もない。どんな目に遭おうと俺はこの世界では生きてやらない!!
襲ってくるであろう痛みに備え、身体を固くする。絶対の意思を固めて目を瞑る。
「はっ!絶対に嫌だね!!」
……。
俺の悲鳴とのたうち回る姿を期待して静まりかえる周り。
……。
……。
怖い、あの激痛が、いつくるのかがわからず、全身から汗が噴き出る。
……。
……。
……。
恐怖に支配され、息が荒くなっていくのがわかる。
……。
……。
……。
……?
……ん?
なんだ?
あのこの世のモノとは思えない痛みがこない。
そのことに安堵しつつも、代わりに不信と不安が胸に去来する。
若干ざわめきだす周り。
え、何これ、どうなってるん?
恐る恐る目を開ける俺。
目の前には俺に両手を翳し、むんむん唸っているクソ女神。
辺りを見回すと、何が起こってるのかわからず戸惑いの表情を浮かべるクソ野郎共諸君。
……。
「……ふむ」
静かにゆっくり立ち上がる。
「罪の痛み!罪の痛み!」
なんかボソボソ言ってると思ったら、まさかそれ魔法とかの詠唱的なもんじゃないだろうな。マジでふざけてんなぁーこいつ。
「さて」
俺の声に反応して、こちらに目を向けるクソ女神。
「ばぁぁぁぁぁぁぁぁか!!!」
振り向きざまにダッシュ!!!