謁見
遅くなりました。すみません。
全て仕事が悪いんです……。
いや、ダメですよね……仕事のせいになんかしちゃ……。
立ち止まり、軽く見上げた大きな扉は周りの壁よりも白が濃かった。所々に施された精緻な細工からしてここまでの空間との明確な区切りを感じられ、その拵えは扉の向こうがここよりも特別な場所なのだと言わんばかりの威圧感を放っていた。
その左右に全身鎧に白いマントを纏った直立不動の騎士が立っていて、片方にフレアさんが何やら伝えていた。
しかし白にそこまで拘るのはやっぱりアレか?清廉とか潔白とかを主張しちゃってる感じなのかね?別にいいけど逆に胸焼けするぞここまでくると。
とかなんとか考えていると、ゆっくりと扉が内側に開き始めた。
なぜか勝手に緊張し始める身体に小さく苦笑する。
なんかこんなとこまで来ちゃったけど、やっぱ俺は俺なのなぁ……庶民丸出しだわ。
扉が開き切るとフレアさんはそこで一礼してから歩を進めた。俺もマネして中に入ると、そこはまぁ~なんというか絵に書いたような謁見の間であった。
生成色ではなく扉と同じ白がその大きな空間を満たしていた。
人が4、5人ほど並んで歩けるくらいの青い絨毯が入り口から玉座まで伸びていて、玉座は三段ほど高い位置にあり、その背に白地に女の人っぽい絵が金糸で刺繍されている大きな垂れ幕が壁に架かっている。
玉座には金ピカで宝石の散りばめられた王冠をした腹が出て、禿げているフレアさんと同じ祭服を着たじいさんがそこだけなぜかもっさもさの髭を撫でながらこちらを睥睨していた。
じいさんの左右に祭服とは違った白地に青い線が走っている軍服的なものを着、上半身を肩まで守る白銀の鎧とマントを着けた騎士が二人、その下の段にそれぞれおっさんとおばさんが配置されている。
絨毯の左右外側には結構な数のこれまたフレアさんと同じ恰好をした老若男女が立っており、共通しているのはこっちを見る目がみんな愉快な感じではないということだ。
玉座から少し離れたところでフレアさんが跪き、頭を垂れたのを見て、俺もその後ろで同じことをした。
「面を上げよ」
低めの、威圧感が滲み出ているような声が頭上から降ってきたのを機に俺とフレアさんがそのままの態勢で顔だけじいさんの方に向いた。
俺はてっきりこの王様っぽいじいさんがしゃべるのかとおもっていたのだが、そうではなく横に立つ壮年で銀髪の騎士が代わりに話をするようだ。
「ユズリハ殿、発言を許可する。ここまでご苦労であったな」
「いえ、とんでもないことでございます。苦になるようなことなど一つもありませんでした」
「そうか、それでその後ろにいる方が?」
「はい、救世主様であられるアキツ様でいらっしゃいます」
フレアさんに向かっていた銀色の目線が俺の方に移り
「お初にお目にかかるアキツ殿。私は近衛騎士団団長のサンリール・カイラスである。そしてこちらにおあすのがこのセイリス国の王であり、教教皇であらせられるアドルフ・シュタイン・グレーテス様でいらっしゃる。くれぐれも失礼のないようお願いする」
お願いするって言われてもなぁ……まぁここは適当に返事しとくか
「あ、は……」
「まだ発言は許可していない!!」
「!?」
鋭い怒声が身体を突き抜け、場が一瞬で凍る。
学校の先生に怒られるとか親に怒鳴られるとかそんなものは比べものにならない程の衝撃と敵意のようなものが向けられ、反射的に言葉を飲み込んでしまう俺。
教皇が軽く片手を挙げると、それを見た団長が頷き
「発言を許可する」
かかっていた圧力が消える。
っておい、完全に関係性は向こうが上なんですねそうなんですね。
話違くねぇかぁ!?と思いつい女々しくも反射的にフレアさんを見ると心配そうにこちらを見ていて視線があってしまい、慌てて視線を外す。
一応俺のことを心配してくれているようだが、見てるだけでこの状況でさっきのフリードさんに対してみたいに反論しないということは彼女の中でもこれは仕方ないってことなのだろうか?もしくは出来ない状況なのか。いずれにしてもあんまり彼女もアテにはできないなぁこりゃ。
どうすっかなぁ~と、心の中で頭を傾げていると
「何か発言したいことがあったのではないのか?」
と今度は発言の催促である。ため息が出そうだ
「え、はぁ、すいませんでした」
そんな気の抜けた俺の返答に右眉をピクッとさせる団長殿
「アキツ殿、貴殿は自らに課せられた命題をお忘れではないだろうな?」
今度は説教ですかそうですか……ってん?命題?なんぞあったっけかそんなん?
「かの魔神を倒し、世界に平和をもたらすという命題を!!」
高らかに宣言されたソレを茫然としたまま受け止める。
「……」
呆ける俺
「……」
余韻に浸る団長
……しかしやっぱり
「そういうことになってるんですねぇ……」
「は?」
俺のなんとも言えない感想に満足げだった表情が崩れる団長殿。
視界に入る全ての人間の頭の上に「?」マークが浮かんでる。
いやまぁなんとなくそういう感じだとは思っていたけどまさかホントにそうだとは。俺、戦闘とかマジ無理よ?実は古武術やってるとか特殊部隊出身とか全然ないし、物凄い頭の回転が速くて戦略とか戦術とか思いついたりするのも無理だしね?そういう設定皆無よ?
「き、貴殿はソルン様より遣われし救世主なのではないのか?」
なかなかにパンチの効いた状況らしく、団長殿も立て直すのが大変そうだ。
「いやまぁ、多分そうなんだと思うんですが、特にこれといって説明受けてないんですよねぇ」
俺以外の人たちに戦慄が走る。元々重かった空気がさらに重くしかもピリピリしてきてる気がする。
「では、きで……」
「カイラスよ」
嗄れているが力強さを感じる声が聞こえた。
団長殿が何か言いかける前に王様?教皇様?まぁーじいさんでいいか。じいさんがそれを止めたのだ。
「教皇様?」
「ここからはわし自ら問おう」
一瞬怪訝そうな顔した団長だが
「御意」
すぐに一礼して場を譲った。
場の雰囲気がまたさっきとは違ったものになり、雑音が一切なくなる。
「ふむ、救世主よ、では汝はなぜこの場におる?」
周りに人がいるのにそれを感じさせない一対一感に股間の辺りが引き締まった。
まぁ~もう後戻りもできないし、出たとこ勝負をするしかないしで雰囲気も相まってこっちの腹も瞬時に括られる。
めんどくさくなって開き直っただけともいうが。
「いや~勢いと流れでこうなってしまったって感じですかね」
「きさっ」
俺のふざけた口調に団長が一歩出かかるが
「よい」
「しかし」
なおも引き下がらない団長に視線を向けるじいさん。
「失礼しました」
下がる団長。おぉさすが。
「では新たに問おう、汝は我らがために魔神を倒し、世界を救うことは可能か?」
「無理でしょうね」
じいさん以外の心がざわめき、空気が揺れる。
「それはなぜか?」
ブレずに淡々と聞いてくるじいさんに周りとの違いを感じ関心する。
「その魔神とやらがどんな存在であったとしても多分めちゃくちゃ強いんですよね?知ってると思いますが、俺ってそこそこ運動神経はよくなってますが、戦闘能力皆無ですからね」
「……汝はなぜ救世主に選ばれたのだ」
「さぁ~?」
「ソルン様は何も告げずにそなたをここに遣わしたということか?」
「あぁ、なんか言われたような気もするんですが、結局よくわかってないままここに来ちゃった感じなんですよね」
「ふむ」
少し考える素振りを見せるじいさん。
「では今一度聞く、汝は魔神を討ち滅ぼすことに協力してくれる意志はあるか?」
「やっぱそういうことになりますよねぇ」
俺は考える素振りすら見せず
「正直ないですね」
じいさんの視線が鋭くなり、俺の言葉の意味が浸透すると共に周りからの動揺と、怒りの感情を乗せた雰囲気が場を覆っていく。
と、次の瞬間
「ア、アキツ様!」
え、勝手に立っちゃっていいの?
「はい?」
「そ、それは……ま、真にございますか?」
フレアさんが、若干震えながら不安を顔に貼りつけたかのような表情で聞いてきた。
正直助かった。この態勢でいるのもなんかしんどかったし。
「え?あ~そりゃまぁいくらなんでもこのタイミングで嘘はつきませんよ」
立ち上がりながらそう答える。
「な、なぜですか!?アキツ様は救世主様でいらっしゃるのに!?」
フルフル揺れる瞳に苦笑する。
「俺は救世主じゃないんですよ」
その答えに「えっ」と声を漏らし、目を見開くフレアさん。
「俺はただの一般人です。な~んか色々誤解されてここにいるだけの」
「う、嘘です!!ソルン様のご神託にも!!」
そんなの認めないって感じに俺の言葉を塗りつぶそうとするフレアさん。
「あぁ、まぁ、神様にも間違えってのはあるんじゃないですかね?だって俺、マジで戦闘とか無理ですし、特別な力っぽいものも持ってないですよ?ちょっと運動神経がいいだけのただの子供が救世主ってありえなくないですか?」
まぁ~ちょっと男らしくないけど、嫌なもんは嫌だしね~。
「そんな……そんなはず……え?」
ん?
目の前で光が弾けた。




