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プロローグ

よろしくお願いします

『来たれ!!』


 頭の奥の方で響く厳かな喚び声。


『その聖なる力で我らを救いたまえ!!』


 次第に歪む自分の周りの空間。


『異世界の勇者よ!!!』


 足元の地面に魔法陣のようなものが浮かび上がり、そして……




「あ、そういうの大丈夫で~す」




 瞬間、限界まで膨らんだ風船が割れたような音が耳を叩き、今まで自分を包んでいた幾つかの不可思議現象が全て消える。


 残ったのは謎の独り言を急に発した男……つまり俺だけがその場にポツンと突っ立ってるだけだった。



☆☆☆



 大学からの帰宅途中、急に襲われた謎の現象。


 夕方、閑散とした住宅街だったからよかったものの、もし繁華街や電車の中だったらと思うと背筋が寒くなる。


 なんせいきなり独り言をなかなかの大声で発していたのだ。完全に頭のおかしい奴だ。俺がそんな奴見たら、とりあえず必要もないのに近くの角を曲がってそいつを回避しようとする。


「はぁ~~……」


 思わずため息が出る。


(いい加減なくなんないかなぁ……コレ)


 ダメ元でそんなこと考えながら、俺は寮に向かってトボトボ歩き始める。


 丁度、高校に入学したあたりからだっただろうか、月1ペースぐらいで俺の脳みそは謎の声を発するようになってしまった。


 同時に襲われる様々な不可思議現象。


 周りには見えない豪奢な扉が現れたり、俺以外の人間が周りから急に消えたり、時が止まって見えたり……。そういったことに襲われ始めた。

 当然、初めの頃はかなり取り乱し、必死で助けを求めて拒絶の言葉を叫んだものだ。


 そんでまぁ~、俺の高校時代はまさに灰色のモノと化したわけで……。俺だって好きな女の子と下校したり、二人乗りしたりしたかった……マジで泣ける……。


 閑話休題。今となってはその謎の声やら現象やらに慣れ始め、その捌き方もベテランの域に達してるといえる。

 とはいえ、結局は独り言の多い変人と周りには認識されちゃってるわけなんだが……。

 声出さなきゃいいじゃんって?そりゃ試したさ。結果はつまりそういうことなわけで……。拒絶の意思をきっちり声に乗せて発さないとちゃんと消えてくれないらしいのですわ……。なんでしょうねこの仕様は……完全に俺を社会から孤立させようとしている意志が垣間見えるんですが……。


 ちなみに拒否んなかったらどうなるのかは今だに試したことがないからわからない。今さらもうあれらを受け入れる気にもなれないし、なんか怖いからこれからもこんな感じなんだろう。


「はぁ……もうなんか人生めんどくせぇなぁ……」


 そんな風にすら感じ始めちゃってる今日この頃……秋津時貞19歳、今日もなんとか生きてます。




☆☆☆




 じりりりりりりりりりりり~


 6畳一間の和室にいつも通りの朝が来る。


「ん~……」


 手を伸ばして目覚まし時計を止める。


 もぞもぞと少しずつ身体を動かしながら布団から起き上がり、その場で伸びをする。


「ふぁぁ~」


 軽くパキパキいう節々が心地良い。


 俺の朝は早い。なんせ深夜2時起きだ。  


 共用の洗面所で顔を洗ってからテキパキと準備を整え、販売所に向かう。


「おはざ~っす」


「お~う」


 販売所にはすでに何人か従業員が居た。


 適当に挨拶して缶コーヒーを飲みながら自分の作業位置で待っているとトラックが販売所の前に止まった。


 今日の朝刊の束を販売所に運び入れて仕事が始まる。


 俺はいわゆる新聞奨学生というやつで、販売所の寮で住み込み、新聞配達の仕事をしながら大学に通っている。

 すでに俺の故郷で俺は変人というか狂人として定着してしまっている。俺だけでなく、家族も限界だったと思う。

 だから形振り構わず東京に出てきた。


 俺のことを誰も知らない場所でやり直すために……。


 まぁ~結局あんまり変わらないんだが……でもあそこにいるよりも今の方がまだマシではある。


 だから多少辛いことがあったとしてもがんばれている。



 そんなことをフと考えながらスーパーカブに乗って新聞を配っていると……


『力を貸してください……』


 またっ!?ってか運転中は勘弁……うわっ!?


 一瞬、『声』に気を取られ、角から出てきたタクシーに対応しきれない。


 おいぃぃぃぃぃぃぃ!!優先道路こっちだろうが!!!一時停止ちゃんとしろよぉぉぉぉぉぉぉ!!


 思いっきり突っ込み、俺だけ空中に投げ出される。


 ため息を吐く父、泣く母、そんな映像が頭の中を過ぎる……つまりはまさかの走馬灯……。


 そして来る暗転。




☆☆☆




『力を貸してください』


 ゆっくりと浮上する意識。


『どうか……あなたの力で……』


 見てるわけでも聞いてるわけでも触っているわけでもない。


 ただ、確かに感じるその存在と紡がれる願い。


『私の子ども達を救ってください』


「……」


『……』


「……」


『……あ、あの……』


「……」


『すみません……出来れば何か……反応をいただけるとうれしいのですが……』


「え……?あっ!それ俺に言ってんですか?」


『そ、そうですよ!!当然じゃないですか!!』


「いや当然て……見ず知らずの謎の声の人に急に力を貸してくださいとか言われて、当然のごとく受け答えできるわけないじゃないですか。ってか貴方はどなた様?ここはどこ?そして俺は今どうなってんの?」


『あうぅぅ……そ、それもそうですね。ごめんなさい……。えと、私はソルンと言います。一応あなたの世界とは別の世界で神として祀られている存在です。ここは私の界……お家みたいなところです。そして貴方は貴方の世界で亡くなって魂だけの状態でここに召喚されています』


「……」


『……』


「……」


『……なんでまた無反応になるんですか!?』


 心なしか涙声。


 だが泣きたいのは正直こっちだろ。


 説明されても全く分からないこの状況ってなんだ……。


 ただ実際、多分俺は死んでんだろうなぁとは思う。タクシーに突っ込んで頭から地面に落ちたとこまでは覚えてる。んで、今の俺は自分の身体が無いのだけはわかる。


 ってことは、呑み込むしかないんだろうなぁ……どうしようもないもんなぁ。


 俺個人のことだけにならまぁ~どうにか諦めも着く。事故で死ぬなんてのは別にそう珍しいことでもないしな。ただ今回の場合はなぁ……。


「俺に話しかけている貴方はいわゆる神様で、しかも俺の生きていた世界とは別の世界の神様ってことで、ここはあなたのお宅なんですよね?」


『はい!』


 なんか声が弾んでる……。理解してもらえてると誤解して嬉しくなってるんだろうか。


「いやいや、言いたいことはたくさんありますが、まずは俺が死んだ原因にあなたが一役買っちゃってるんで……そこんとこホントふざけんなって思ってます」


『えぇっ!?そ、そんな……すみません』


「いやすみませんとかじゃなく、俺を生き返らせることとかできないんでしょうか?一応現世に未練あるんですが」


『うぅ……すみません……無理です』


 再びの涙声。


 なんか俺がいじめてるみたいになってるなぁ……。ってかやっぱ生き返るのは無理か……。


 すまん、父さん、母さん。何にも返せず死んじゃいました。


 ため息交じりの苦笑い。生きてるときの俺の癖が魂だけになっても出てくる。


「はぁ……まぁ過ぎたことと出来ないことをここでグチグチ言ってもしゃ~ないんで、次にいきましょうか。それで、なんで別の世界の神様が死んだ俺を自分の家に呼んだんですか?」 


『ぅぐ……ひぐ……』


 なんか完全に泣いてるし……めんどくせぇー。


「慰めませんよ~?とりあえずそろそろこの状況も飽きてきたんで、とっとと話進めてもらっちゃっていいでしょ~か~?はい深呼吸~」


 えぐえぐ言ってる神様が落ち着くの待ち、話を聞く。


『あぅ……ごめんなさい。えと、私の世界で私の子供たちが危機に瀕しているのです。なので、助けてほしいのです』


 ……。


「ヤです」


『えぇ!?なんでですか!?』


 まぁ~仮にこの神様が俺の死の原因の一端じゃなかったとしても


「そんなめんどくさそうなことなんで俺がしなきゃなんないんですか」


 もっとそういうのが好きそうな奴にその役振ってやれよ。俺は断固拒否。


『貴方しかいないのです!!』


「えぇ!?まさかの展開!?」


『あなたの魂の格は神である私と同等、いやそれ以上なのです。本来であれば、様々な苦行や修行を経て自己の魂の格を少しずつ上げていくものなのですが……貴方の場合は生まれた時から神以上。なぜそんな存在がイチ人間として世界の中でふつうに生きていたのかはわかりません……ですが、貴方の魂に私が用意した器があれば、あなたは私の世界で強大な力を持った存在として転生することができるのです。そしてその力をもってして、私の子供たちを助けてほしいのです!!』


「あ、そういうの大丈夫で~す」


『えぇっ!?』


「いやそんな驚かれても……そりゃそうでしょうよ」


『え、でも……貴方しか……』


「いやいやいや、そんなん知らねーですよ。見ず知らずの貴方の子供たちをどうして俺が助けなきゃなんないのですか」


『うぅ……』


「それじゃ、もういいですか?この後、俺の魂がどうなるかは知りませんが、そろそろあるべき場所に帰してください」


『……ダメです』


「……は?」


『ダメです!!!』


「……」


 こ、こいつマジか。


『あなたを救世主として召喚するってもうあの子たちにも言っちゃったんです!!だからダメです!!』


「……おい」


『それにたくさんの人の命が繋ってるんですよ!?助けを求めている人をあなたなら助けることができるんです!!どうにかしようと思うのが人の道ってものでしょう!?』


 あまりの言い分に俺の中で何かが切れた。 


 こ、これは仕方ないよねぇ~


「ざっけんな!!あんたホントに神!?好き勝手何言ってんだ!!!!知らないっつの!!!!!そんなに言うならあんたがやればいいだろうが!!」


 出来うる限りの怒声を出来うる限りの大声でぶつけるように言葉を発する。 


『ひぅっ……』


 震える空間。怯える神と怒れる俺。何この図……。


『私だってそうできればそうしたいけど……神という存在として定着してしまった私は世界の中で生きることはできないことになってるんですよ……』


「それにしたってそっちの都合でしょうが」


 例え俺の魂を消滅させるとかそんなことになるとしても断固として拒否だ。

 俺が生きていたのはあの世界で、生きたいのもあの世界しかない。


『ど、どうしてもダメですか?』


「どうしてもダメです」

 

『うぅ……なら、仕方ないですね……』


 ふぅ、やっとか。マジでこいつ神か?なんという駄々っ子ぷりだよ。


 とか思ってると、自分の中心から急に熱が生まれ、それが俺の知覚を支配する。


「え?あ……なんだ?」


『貴方には私の子供たちの救世主になってもらいます!!』


 おいおいおいおいおい!まさか強制的に送る気か!?


「おい待て!!ふざけん……」


『行ってください!!!!!!!!!!!!!』


 膨大な熱と光に包まれる感覚を覚え、俺の意識は再び暗転した。





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