8話「衝撃的大事件っ!」後編
「ルリアナ様!これはどうするんですか!」
「ぎゃっ!」
黙々と服を整理していると、後ろから若干おこなメイドさん、ちなみにユリという、が怒鳴り付けてきた。
「あっ、それは思いでの品だから分けといて……ひいっ!」
「何度それを言ったと思ってるんですか!」
そう言ってバッと手で示された一角には、小さい頃どうしても自分の部屋に置いておきたいと言った髪止めやおもちゃのネックレス、他にも謎のぬいぐるみなどまぁ言ってしまえばガラクタだ。けど、私にとっては一つ一つが思い出がつまった物で、どれもこれも持っていきたくなってしまう。
一応家も貴族と呼ばれるお家だから私の学園行きにはメイドさん一人がついてきてくれる。といっても持てる荷物には限りがあるし、何よりなんちゃって寮生活なのであまり大荷物は良くない。今から行くボルリス学園は貴族専門の学校を吟ってはいるもののでろんでろんに甘やかしてはこないし普通に持ち込み制限も連れていける従者の制限もあるし。それにぶっちゃけ今私が迷っている物は不要物で、しかも既にいくつかラインナップ後だからこんなに怒られているのだ。
「うーん」
私が答えを出しかねていると、あまりの待ち時間の長さに呆れ果てて様子を見に来たグラスが部屋の混沌とした様子を見てなにこれ、と呟いた。
「丁度いいところに!」
無理矢理グラスの腕を引っ張って部屋に引きずり込み、ガラクタの数々を指し示す。
「この中の3つ、どれ持ってったらいいと思う!?」
そう聞くと、グラスはしばらく迷ったあとふいふいふいと3つの品を指差した。ふむ、鏡と、ネックレスと私達3人の幼い頃の絵ね。中々いいセレクションではないか。
「分かったわこれを持ってく。」
そう言って他の物を別のメイドさんに渡し、選んでもらった三点を鞄に突っ込む。それまでの迷いっぷりから急に決めたからかグラスが少したじろいだ。
「本当に……」
「本当にそれでいいのかって?いいよ。だってグラスが選んでくれたのだもん!」
長年連れ添った幼馴染みのラインナップだ。きっとどれよりも私達の思い出がこもっているものだろう。それに私も正直それにしようかな~って思ってたところでしたし。
だからいいんだよ、と笑顔でうなずくと、グラスも微かな笑顔を見せて頷いた。えへへ。
「ほらルリアナ様、出発までもう20ルンもありませんよ!」
メイドさんに怒られ手伝われながらなんとか荷物をまとめ終えて、外に出るとまだ出発まで10ルンもあった。ふふん、意外と私やるんじゃない?あ、本職の方々のお力ですねさーせん。調子のってすいませんでした。
「ルー!」
私を呼ぶ声に、はっと振り替えるとそこにはお兄様とお母様が立っていた。
「もう行くの?」
「そろそろ。」
お母様に髪を撫でられる。すると横からお兄様も手を伸ばしてきた。
「病気に気を付けてな。」
「ありがとうお兄様」
「しっかりやるのよ。」
「分かってるわお母様。」
一応私のお別れ会的なものは昨日の夜やったのだけれどやっぱり出発直前となると今までの思い出が込み上げてきた。
「っ……」
泣きかけた私にお兄様が苦笑して、頭を撫でてくれる。優しくしないでお兄様。もっと泣いちゃいます。麗しき兄妹愛を発揮する私達をお母様は泣く気配のない目で見守りながら背後の屋敷を振り替えってため息をつく。
「それにしても……貴方たちのお父様は出てこないつもりかしらねぇ?」
そうなのだ。ここまで家族が感動のお別れをしているのに、お父様ったら来る気配がない。全くどうなっているのか。娘の門出だというのに。
「まぁ……頑固な人だから……泣き顔は見られたくないんだろう。」
ぽふぽふと私の頭を撫でくりながらそう呟いたお兄様。最近本格的に後継ぎ修行を始めお父様と一緒にいる時間が長くなったからか妙にしみじみしとる。泣き顔?お父様が?あははまさか。
冗談だと思って笑い飛ばした私を、お母様とお兄様が妙に生ぬるい目で見つめてくる。え?冗談でしょ?
「ルリアナ様!お時間ですよ!」
ユリに呼ばれて、お母様お兄様と最後の別れを済ませそちらに走りよる。そこには、屋敷の使用人さん達がずらりと並んでいた。
「ルリアナ様お元気で。」
「あっちでは腹壊さねぇようになお嬢様。」
「大きくなられましたね……」
「もう木登りなんてしちゃダメですよ。そんなに運動神経がいいわけでもないんですから」
……ちょいちょい挟まれる辛辣なコメントは何なの。木に登ってたのはもう三年以上前の事です!失礼な従者たちに笑みを溢しながら最後の挨拶を済ませると、私は今度こそ馬車に乗り込んだ。
「皆、じゃあね!元気でね!」
馬車の窓からも乗り出して手を降ると皆ハンカチで目を押さえるでもなく慌てて私に戻るよう手で合図をして来た。子供じゃないんだから落ちるわけないでしょ!そんな事をしていると後ろからぐいっと引っ張られ、無理矢理座席に座らされる。誰だ今グラス様グッジョブとか言った奴。
「そういえば、グラスはお別れとかしなくていいの?」
「昨日の夜に済ませた……」
へー。やっぱり男の子の家族は淡白なのだろうか。家もお兄様の時はそうでもなかったし。っていうかあんまり派手なのはお兄様が嫌がったのか。でもまぁ確かに、お母様は別としてグラスのお父様が別れを惜しむ姿って……意外とありそう。あのダンディーなおじさまにしっかりやりなさい。とか言われたら違う意味でしっかり出来なさそうだ。
それからの道中はもっぱら穏やかに進み、私が爆睡しかけた所で目的地に到着した。寝ぼけ眼を擦りながら馬車から降りる。下で手をさしのべていたグラスの手を取りながら降りると、辺りも同じような新入生仲間で溢れていると言うのに何故か私達は注目の的だった。
「まぁ、あの子中々格好良くありません?」
「そうねぇ。」
垣間聞こえた上級生のお姉さまの囁き声に、思わず辺りをきょろきょろと見回す。え?誰?誰のこと?
「さらさらした銀髪も美しいですし、それに何よりあの綺麗な透き通った瞳。あれも銀色かしら?綺麗ねぇ」
え?銀の髪で銀の目?それってもしかして……グラスのことですか!?マジですか!?改めて周囲を見回すと上級生のお姉さま達だけではなく同年代であろうお嬢様もきゃあきゃあと黄色い声をあげている。まぁ確かにグラスは普通から見たらイケメンの部類だし綺麗な顔してるなぁとは思っていたけれど!そっか。イケメンって騒がれる方なのか。全く意識したことなかった。
これだけ騒がれてるのに等の本人はガン無視である。というか上級生の人を睨んでいるような気すらする。こらこら止めなさい。気づいてないの?と聞くと別に、という回答が返ってきた。それはあれですな。気付いてるけどめんどくさいからスルーするって奴ですな!?うわぁ……リア充め!罪作りな男め!心の中で罵ると、ん?とでも言いたげに首をかしげられた。何でもないです。
そのまま若干の居心地の悪さを感じながらボウリス学園の門を潜ると前方から何やらついさっきまで、というか現在進行形で聞き覚えのある黄色い声援が聞こえてきた。え?なに?また新しいイケメン!?
ひょこひょこ首を動かしていると前からザザーッ!と人垣が割れていく。これは……リアルモーゼや!慌てて新参者の私達も脇にそれようとするがグラスが全く動こうとしないせいで出遅れた。こらっ、空気読みなさいっ!ほらっ!ぐいぐいと引っ張るも完全に出遅れ、私達は割れた人垣に囲まれあっという間に超目立つポジションになってしまった。えっえっ。
おたおたしているうちにリアルモーゼを作り出した張本人が前方から歩いてくる。ああっ!何かごめんなさいっ!
「……ルリアナ?」
え?
「ルーク、様?」
目の前に立つその人は、一年前に旅立った懐かしいルーク様その人だった。
また出てくるかもしれないサブキャラネタ。
ルリアナ親父
ガリート・フォン・アムベーノ
外交用キャラのせいで厳しく厳格だと思われいるが、実際は子供達、特に娘が大好きなただの親バカ。妻だけがそれを知っている。