4話「ええぇ!?」
そういえば、何でお母様はルーク様のお家に行く用事があったのだろうか。特別面識が深いわけでもないし、元々爵位的にも上の筈なのに、何故。
帰りの馬車に揺られながらお母様に聞いてみると、にっこりといい笑顔で爆弾を落とされた。
「ルーとね、ルーク様は婚約したのよ!」
えぇぇぇ!?何それ初耳!でも確かにゲームではルリアナとルークって婚約関係だったわ!突然のことに処理しきれず固まった私を見て意味が分からなかったと思ったのかお母様はわざわざ将来結婚するってことよっと付け足しをしてきた。分かってるよ!分かってたけど、いざ自分がその立場に立つと、ずっと釣り合わないってぐじぐじしてたゲームヒロインの気持ちが分かるわ!どうしよう嬉しいんだか焦るんだかよく分からない。プレイしてるときにちょっとイラついて本当ごめんね!
「まぁまだ先の話だから大丈夫よ!」
固まったまま冷や汗を流し始めた私を見て流石にヤバいと思ったのだろうお母様が中途半端なフォローをいれてきたが私はそれ以降ずっと婚約という二文字が頭のなかでダンスしていた。え?何ダンスかって?コサックとかじゃないかな(適当)。
その後、急にルーク様とはどうなのかとにまにましながら聞いてきたお母様の追求を子供だからわかりませーんのノリで何とか乗りきった私は、ただ遊んでいただけなのに感じる妙な倦怠感と共に家に着いた。
「お帰りなさいませ。グラス様がお見えです。」
一応伯爵家なので整列して待っていたメイドさんたちに迎えられ、いつも何故か若干目をそらしてしまう、その完璧な角度に折られた背中からいつも通り目をそらした。だって何かこう、萎縮しちゃうっていうか、俗に言うとビビるんだよ!小市民でごめんなさい!
それにしても告げられたグラスがいるという言葉に首を傾げる。はて、何の用だろうか。グラスが家に来るのは親同士がこう貴族特有のゲスい仲なため珍しくないが、一人で来るというのは珍しい。いつもはお父さんかお母さんと一緒に来るのに。メイドさんはヴィネフィセント様がお見えですじゃなくてグラス様がお見えですって言ったからそれはつまりそういうことで。
「どうしたんだろ。」
一人呟きながら、誰もいないほこり一つ落ちてない廊下をペタペタと足音をならしながら自分の部屋に向かって歩く。どうせまだ子供だからグラスは自由に出入りが許されているのだ。
「グラス、入るよー。」
ノックもそこそこに、ドアを開け中に入る。グラスは部屋に入ってパッと見、どこにいるのか分からなかった。
「そんな所でなにしてるの。」
「別に。」
別にって何だ。私の大事なぬいぐるみズコレクションに埋もれて何をしている。
「これ、可愛い。」
そう言って彼が指差したのは、丁度彼のお腹の上辺りにあるペンギン(のようなもの)のぬいぐるみだ。ほほう、お主お目が高いな。それは私もかなりに気に入っていて毎日一緒に寝ている、ってそんなことじゃなくて。ぬいぐるみ、好きなのか。
「そうでしょ?」
思いっきり胸を張り、ここぞとばかりに自慢しておく。といっても3歳児の胸などつるんぺたんという効果音が相応しくグラスがこれに反応するようだったらおまわりさん待ったなしだったのだが。あ、グラスも同い年か。
「眠い。」
私がyesロリータnoタッチの法則について考えている間に、グラスはこっくりこっくりと船を漕ぎ始めていた。……寝るのかよ!
「お昼ね、する?」
丁度ベットもあるしそんな提案をしてみれば、首を縦に降るイエスの返事が帰ってきた。グラスはしょうがないな、もう。一応伯爵家と侯爵家、爵位も一個上のはずなのに、いつもいつも予想外の自由っぷりを発揮してくるから私はグラスの事を同い年の弟ぐらいに思っている。え?精神年齢?余裕で二桁上いきますが何か。そーゆーこと言っちゃだめ。
そうこうしてる間に、グラスは私のベッドによじ登り、既に眠りについているところだった。すやすや寝ている妙に綺麗な寝顔をのぞきこむ。わ、まつ毛長いな羨ましい。お肌つるつるだし。そういえばグラスも意外と綺麗な顔してるかもしれない。まぁ乙女ゲームの登場人物だから当たり前か。プレイしてて、急に不細工が出てきたら驚くもんね。
その後、寝顔を見ていたらいつの間にか寝ていた私にそっと毛布を掛ける使用人の姿があったとかなかったとか。
2015 3/1
グラスの年齢と文の可笑しい所を修正させて頂きました。混乱させてしまった方、大変申し訳ありませんでした。