1話「とりあえず忘れさせて下さい。」
宜しくお願いします!
私のいるこの世界は、作られた世界だ。
私、ルリアナ・フォン・アムベーノは所謂「乙女ゲー転生」というものをしたらしい。
……ごめんなさい、可笑しくなってる訳じゃないのです。えっ、やめてっ、石を投げないで!どうせ作り話をするならもっとオリジナリティーを出せって?仰る通りです。ただね、本当なんだよ!主人公だよルリアナって!どうしよう!
え?とっとと本題を話せって?分かってるよ。
これは、私が誕生日を迎えた日の事である。
「ルー。お誕生日おめでとう!」
「あいあとぉ!」
たくさんの料理が並び綺麗に飾られた部屋で、桃色のワンピースのようなドレスを着て真っ直ぐな髪を編み込んでもらっていわゆるお誕生日席と呼ばれる真ん中の席に座った私を家族と友達が囲む。裏表なく、単純に慈しむ皆の笑顔に幼い私も笑う。
この世界では誕生日と言えば、家族と親しい友達で祝う大事な日だ。
「ルー、ほら」
「あいっ!」
「うふふっ」
突然口に放り込まれた新しい味に笑みをこぼすと、私の口にスプーンを突っ込んだ張本人であるお母様が笑う。うん、美味しい。
「んんっ!?」
突然口元をぐいっと擦られ、驚いてそちらを見るとこの場にいる有一の同世代、私の幼馴染みであるグラス・ヴィネフィセント・ラート略してグラスの姿があった。見慣れたきらきらとした銀の瞳に、何の表情も浮かんでいない顔を数秒見つめると、私はすぐそっぽ向いた。しかしそこは流石幼馴染み。そうなる事を分かっていたように私の顔を押さえつけ、ぐいぐいと口を拭く。
「いぃやぁ!」
「ははっ」
そんな私達を見て可笑しそうに笑ったお父様に恨みがましい視線を向けると、私はグラスの腕を抜け出し熊のような何かの玩具で遊び始める。それをにこにこと見つめながら、お父様はお母様を振り替えって言った。
「そろそろケーキを持ってきたらどうだい?」
「そうね、あなた。」
食事も進みそろそろデザート、という雰囲気の中聞こえたケーキという単語に、私はあっという間に機嫌を直しついでにそれまで遊んでいた熊のような何かのおもちゃを放り投げお母様に駆け寄った。
「あらっ、ルーったら。それにしてもあなた、ルリアナってケーキ食べてもいいのかしら?」
「大丈夫だよ。な?ルー。」
ケーキを食べられないかもしれない危機を肌で感じて、騒ぎ立てる私を見て皆が笑う。笑うんじゃない!ケーキは乙女の見方だ活力だ!特にお母様とお父様は顔を見合わせて、クスクスと可笑しそうに笑っていた。
「まったくもう……ルーはケーキが好きねぇ?」
「そうだな。」
「太っちゃうわよっ!」
「はは、まだまだ早いだろう。」
和やかに交わされる会話はきっと、他愛もないものだったのだろう。二人とも微笑みを絶やさず、楽しそうに笑顔で話していたのだから。ただ、私は太るというワードに激しく衝撃を受けた。
(太る……?太るってなんだろう……太る……ふとる……肥える……フトル?あっ!)
私は思い出した。太るという言葉に感じる激しい拒絶感。ルリアナというこの名前。そして何より、この世界。
私が前世でプレイした、乙女ゲームの世界だ。
こうして私は、思い出してしまったのだった。
私、いや斎藤美桜は男同士がゴニョゴニョする要するにBとLがつくアレが大好きだったこと。しかしそれよりも乙女ゲームと呼ばれる恋愛シュミレーションゲームが好きだったこと。そして死ぬ間際、事故死だったため大事なお宝を隠さず部屋に堂々とおいてあり、きっと見付けた母親に苦笑いで捨てられたこと。ここがそのお宝の一つであった乙女ゲーム、「恋の魔法でドッキドキ!~秘密の学園生活~」というイタいタイトルのゲームの世界であること。
全部、思い出してしまったのだった。
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