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親愛なるN嬢へ捧ぐヴェリテ・ミエンヌ

作者: 白州藍樹

親愛なるN嬢へ

 拝啓

 桜の薄紅も散り終えてすっかり新緑に塗り代わりましたね。先日お会いしたときから春の色も増しましたが、最近はいかがお過ごしでしょうか。学校がお忙しいのは聞き及んでおりますが、くれぐれも風邪など召されませんように。貴女は何でも頑張ってしまいそうだから、友人としてはとても心配なのです。たまにはきちんと休んでね。

N嬢とはほとんど旧知のようにお話しさせていただいているけれど、本当は未だ、出逢って数月も経たないのですよね。出会いは四角い画面の中で、こんなご縁があるなんて、前にはまったく存じていませんでした。こんなに仲良くなれると思っておりませんでしたし、その場所に居る他の子たちと同じ一人だと思っていたのです。最初、挨拶を交わしたのはどちらからだったでしょう。私はそういうことは苦手だから、たぶん、貴女が声をかけてくれたのでしょうね。それから少しずつ、お話しをしていくようになったのでした。あの頃の私は今より騒がしかったはずなのに、付き合っていてくれて嬉しかった記憶が今でも淡く、残っております。

 さて、今日このたびは、向こうのお返事に綴りきれなかったことを正直に申し上げたく、こうして洋筆を取らせていただいた次第なのです。こちらに認めることで嫌われてしまうのならそれでも構わないと思えるほど、貴女が特別なことを知っていてね。

 いつも安逸なお返事ばかりで本当はどうなの、とおっしゃいましたね。本当は、言ってしまえば、私は、好きな子には意地悪したくなってしまうのです。上手くして、優しいひとをこんなふうに心配させてしまいたくなるのです。お友達には優しくしなさいと教わって、綺麗な言葉をお使いなさいと刷り込まれて、背く考えも浮かばなかった私は、特別なひとには意地悪することしか残せなかったのでした。大切だと思えば思うほど、他のことと同じように扱うのが勿体無いのです。でも渡せる感情がそれしか残っていないから、気心知れるとつい、手のひらを反して扱いたくなってしまうのです。大切なものほど壊したくなるの。大切なひとほど、傷つけたくなるの。私の為に不安になって、私の為に悩んで、私の為に困って欲しくなるの。だって、心を奪えている感じが致しますでしょ。想われていると、思えるでしょ。こんなふうにしか誰かの気持ちを量れないのは、もしかしたらとても寂しいことなのかもしれません。ひとはみんなひとりと言うけれど、私は誰かに気づいて欲しいし、一人っ子であることすら、時折孤独に思うのです。

 こんな自分を変えたくっているのです。大事なものを、大事なひとを、きちんと大事に出来るようになりたくて、色々考えては試して、失敗して、また迷ってばかりなのです。だから、大好きなひとが優しいと、気も遣うの。傷つけたくなんかないし、意地悪したくもない。貴女がくれるのと同じだけの友愛を、貴女にも返したいの。その為にお返事も時間を掛けなくちゃ出来ないし、悩んだ分そのお返事は作り事染みてしまうのでしょう。それが貴女を不安にさせていることを、今回の件でやっと気づけたのだけれど。これは私の問題で、きっと仲良くなればなるほど巻き込んでしまうものだと思うのです。

 ごめんなさい。けれどもし、それでもいいと言ってくれるなら、どうか変われるまでその不安ごと受け止めていて欲しいの。これは私の我儘です。私が今正しい場所に居られるのはN嬢のおかげです。よく冗談めかして言うけれど、案外N嬢は本当に天使なのじゃないかしらと幾度となく思うの。そんな貴女にこれ以上甘えるのは心苦しくもあるのですけれど、どうか、甘えさせてくださいませんか。支えていてくださいませんか。真夜中に寝台の中でうずくまって耳を塞いですべてを投げ出してこのままで居たいと思うとき、N嬢からのお返事を読み返しては夜明けまで、過ごすのです。

 ここに綴ったものが私の本当です。いつも空想ばかり描いているから、本心を著すのはそれよりもずっと下手なのだけれど、出来るだけ素直に認めたつもりです。こんなに惨めで退屈で、して欲しいことばっかりで、乏しいものが、ただ、本当なのです。それでも知って欲しくて、かけがえのない貴女には解って欲しくて込めた想いが、ほんの少しでも伝わっておりますように。

 読んでくれてありがとう。

 千日紅の咲くころにはきっとまた会えることを心待ちにして。

                                敬具

 

 追伸

N嬢からのお返事は砂糖菓子(コンフィズリィ)も同じなのです。疲れたときにも、愉しいときにも、ひと欠片食めば幸福なのです。念入りに紡いでくれる貴女の文字がね、私は、実は、本当は、大好きなの。


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