2/―Ⅳ
あれ…?
これ何文字だろう…
まぁいいや、七部目です。
「“点火”」
手を広げ力のある言葉を唱えれば、手のひらに生まれる小さな火。少しの風でも揺らめいて消えそうなそれを見て、僕は満足したように一つ頷く。これでどうだっ、と言わんばかりに勢いよくガイジの方を向けば、合格だと一言そう告げられた。
…頬が緩む。基本ポーカーフェイスな自分だが、これは抑えられない。しかしそれはやっぱり仕方の無いことであろう。だってこれでやっと、僕は中級以上の魔法を教えてもらうことが出来るのだ。
一度は憧れたことのある魔法。…嬉しくなるのも当然といえよう。
――――――――僕がガイジに魔法を習い始めたのは、知識やサバイバルと同じ二ヶ月前。魔法のことを軽く教わって、例としていくつかの力ある言葉が挙がった。その中の一つを何気なく呟いた瞬間、目の前にあった机が木っ端微塵に吹き飛んだのである。それはもう、炎を噴出しながら綺麗に砕けておりましたよ、はい。
僕が唱えたのはどうやら爆発の魔法だったらしく。それを言いながらこめかみをピクピクさせ、眉間に皺を寄せていたガイジの表情はきっと一生忘れない。
そういう訳で、下手に力ある言葉を唱えさせたら周囲が危険だと、僕は力のコントロールを義務付けられたわけです。だから本当は僕の意思では無いんだよ。嬉しいけどさ。
コントロールというものもなかなか難しかった。何故か森を焼失させかけた火の初級魔法や、辺り一帯を氷の世界に閉じ込めかけた氷の初級範囲魔法、水を浄水するだけの筈なのに原子まで還元した水の初級魔法、護身の筈が雷雲を呼んだ雷の初級魔法、風を吹かせるものなのに何故か真空になった風の初級魔法……それ以外の初級魔法も試したが、暴走したり暴発したり……初級魔法すらまともに扱えないこの身を正直呪った。周囲への損害が大きすぎる。巻き込まれた一般人死ぬよ、間違いなく。
自分の力とは叉名の身体であるせいか到底思えなかったし、正直いって自分の身体だったとしても借り物の能力としか思えないだろうが、折角貸してもらえた力だ、扱いきれなくて持て余すなんて勿体無いとしか言いようが無い。使いこなせばどれだけの戦力になることか、と思いながら訓練を積み重ねた結果、漸く今日、風にあおられて消えてしまいそうな火をともすことが出来たのである。
――――――最初は……うん、本当に酷かったんだよ。点火するだけなのに物体がウェルダンまで焦げたり、燃え尽きて水に放り込んでみてもまだ燃えていたり、爆発したり、暴発したり。
努力が実ったって言葉は、きっとこういうときに使うんだね。
僕、努力なんて嫌いだから、ここまで頑張ったのは初めてだけど。
「一応他の初級魔法も確認してから中級いくか。…しかしお前、万能型だなぁ」
よし次は中級中級、と喜んでいると、後から付け足された言葉に首を傾げる。…万能型? もしかしてこの世界って属性の偏りとかあるタイプの場所なのだろうか。
「普通、属性っていやぁ一つ二つが大抵なんだが」
…想像通りでした。
でも余りガイジが驚いて変に思ってる様子が無い辺り、色々な属性が使える人が少なくとも存在するのであろうことは確信できた。おおっぴらにさえ言わなければ、そこまで警戒する必要は無さそう。
そこまで考えて、僕の脳裏に浮かぶのはちょっとした疑問。
「ねえガイジ。そういえばだけどさ、属性っていうのはどんなのが有るの?」
火属性・水属性・風属性・雷属性・地属性が基本で、派生属性として水属性から氷属性が発生することは知っている。しかし初級魔法を教えてもらったのもこの六つだけで、他のものは危険だからと教えられなかったのである。
ガイジは少し考え込むようにしてうなっていたが、「まぁ、ある程度コントロール出来るようになったし…危険はないか」と呟いて説明を始めてくれた。
「基本の属性が火・水・風・雷・地の五つだってぇことは教えたよな?」
「うん」
その辺りはさっきも考えていたし覚えているので、素直に頷く。
「そんでその派生として氷属性までは教えてた筈だ」
「うん、その通りだよ。…派生って他にもあるの?」
その口調だとありそうな予感がするが。
「ある。…しかしまぁ……はっきり言っておくが、危険なんだよ。これ以降の属性ってえのは」
坊主の場合呪文何となく唱えただけで発動してただろ? と続けられ、うん、と答えると、それが一番やべーんだわ、と告げられた。
「コントロールが身についてねぇと、発動した魔法は大抵暴走する」
それには確かに頷ける。正直耳が痛い話しだ。
「んで坊主に教えた属性はまだ暴走しても抑えたり救いようがあるんだが…他のは暴走したらどうしようもねぇんだ。今教えてんのも暴走の恐さ知った上で下手なことはしねーだろってぇ信用の上だからな」
信用されてたんだ、僕。初耳。
と、ぶち壊しにしていた思考を振り払って、ガイジの話に集中する。ちゃんと聞かないと後で痛い目見るのも僕自身だからね。
「まず派生だが…火からは浄火・業火など、風からは気候、雷からは神雷、地からは植物、ってぇまだまだあるが基本属性から変化した属性のことだな」
……おぉ、なんか派生属性格好いい。練習すれば僕も使えるようになるだろうか。しかしどれもこれも…確かに名前からして、暴走したら甚大な被害を与えそうだ。
「それで次が基本とも派生とも違う、特殊属性ってぇ呼ばれる属性だ。その代表と言いやぁ光・闇・空間・時・創造で、他にも破壊・無・名なんてモノもある。特殊属性は大体が生まれながらにして持ってることが多くてな、幼い内から周囲に被害を与えるもんで国が保護してることが多い。」
歴史に残っているのを挙げると毒属性とかな、あれは本当ひでぇわ。とからから何でもないように笑うガイジとは裏腹に、僕はガイジの話を聞いて背筋が寒くなった。
…歴史に残ってるって…どれだけ酷い被害を出したんだ毒属性…。
「まぁ他にもあるっちゃ有るんだが大抵古き時代に消え去ってるからこんなもんか」
よし、座学終わり。実技行くぞー。と荷物から離れていくガイジを追いかけて、僕も荷馬車を離れる。正直盗難とかが心配だが、前に聞いたら魔法で結界のようなものを張っているらしい。実際何も盗まれていないので効果はあるようだ。…っつーか、何気にガイジって実力ある気がするんだよね、この間聞いたんだけど他の商人は結界を張るために結界石を使用してるらしいんだけど、ガイジってそんな道具使ってるようには見えないの。
…僕も使ってはいないけどさ、借り物だしね。
「“水”“息吹”“衝撃電流”“石”“冷気”」
初級魔法を重ねて唱えれば、現象が続いて起こる。それらが全て本来の呪文の通りになっていることを確認し、ガイジを見る。
じっと観察をしていたガイジは顔を上げると、満足そうに頷いた。
「…よくこの短期間でコントロールを身に着けたもんだ、よくやったな」
思わず、といったように伸ばされて、僕の髪をわしゃわしゃとかき乱す大きくてごつごつした働く者の手。恥ずかしくてこそばゆくなると同時に、その温かさに父のことを思い出した僕は、忙しさに身を任せて忘れていたポッカリと開いた穴を、思い出してしまった。
…泣いてしまいそうだった。