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2/―Ⅲ




「できません」

「―――――は?」


 にっこり、という擬音語が聞こえてきそうなほどの笑顔を浮かべて四天王の一人―――ロッテローレはそう言った。

「え、今何て言いましたロッテさん?」

 俺はもしかしたら幻聴かもしれない、と淡い期待を胸に抱きながら、もう一度そう問い返す。ロッテはそんな俺の微かな期待を叩き潰すように、懇切丁寧な説明を開始する。

「ですから、先程から言っている通り魔王様の身体には魔力を体内に留め巡回させる器官が存在しておりません。異世界人でもこちらに来た時点でそれらの問題は解決される筈なのですがどうやら魔王様の身体は例外だったようで、現在魔王様の身体は体内外へと侵入してくる魔力の全てを遮断する性質となっており―――――…」

「……結論から言うと?」


「つまり魔王様には魔法を使うことが出来ません」


 きっぱりと、一筋の光すら残すことなく粉砕された希望が、ガラガラと音を立てて崩れていく音が聞こえたような気がした。ひくり、と苦笑い気味な表情が引きつって、口角が痙攣しているのが自分でも判る。

 ……ファンタジー世界に来ておきながら、魔王様とか言われておきながら……それでいて魔法が一切使えないと言うのはどんないじめっすか?

 もしかして俺って神様に嫌われているのだろうか…と真面目に悩み始める俺を見かねたのか、ロッテローレは恐る恐るフォローをする。

「大丈夫です、魔王様はわたし達が護りますからっ」

 ……ごめん、それフォローじゃないよ。トドメっていうんだよ、知ってる?

 今は皙の、女の身体ではあるが、俺の心は男のものなのだ。女に守られるほど男の矜持に関わることはない。……本当に神様って俺のこと嫌いなんじゃなかろうか。今魔王だけど。この世界の神様のことは知らないけど。

 …泣きたい。

 嗚呼、ここに皙が居たら『泣け』とか答えておきながら無言で優しく慰めてくれるんだろうな。皙って素直そうだけどそういう所は強情で不器用だから。とか、確実に現実逃避だと言われる思考に嵌る俺であったが、そんなことをしていても意味が無いだろうと暗い考えは振り払って、指を一本立てつつ真剣にロッテローレに提案をしてみる。

「俺、魔王止めたほうが良くないか?」

「何言ってるんですか魔王様。召喚は最終手段なのですから、召喚して現れた魔王様は、強くは無くても知性に富まれていたりと、魔王様に至る素養が御ありなのですわ。…魔王様がどの分野に才能があるのかはまだ不明ですが、魔王様として召喚された以上魔王をやめることは出来ませんし認められません。」

 あれ? 今気づいたんだけど俺ってもしかして、現実世界に帰れないの?

 …死ぬまでずっと魔王様?

 いやいやいやいや、流石にそんなこと……無い…よな?

 …うーん、どうなんだろう。

 気づいてはいけないことに気づいてしまい、否定してみるもその自信は直ぐに紛失した。結局疑問が晴れる様子は無いのだが、ここで聞いてみるのも恐いもので、俺は早々その思考を放棄することにした。とりあえず生き抜いて皙を見つけてから考えよう。考えることの大半は皙に丸投げするつもりだけど。

 しかし魔法が使えない、かぁ…。俺の身体…じゃなくて皙の身体だけど、何というか…使えないなぁ。

 ――――――そこまで考えてから、ふと思いつく新たな疑問。

 …ロッテが言っていた魔力を溜める器官って、身体にあるのだろうか?

 この身体ではどうしようもない問題の話だが、もしかしたら、の可能性もある。仮説では有るがその通りであれば、元の身体に戻ったら魔法が使える…かもしれない。だが確率的に言えば大きい筈。……俺の身体にも魔力を溜め込む…長いな、魔力官でいいか。その魔力官が存在していない可能性もあるが。

 とりあえず今わかったのは、元の身体に戻れば魔法が使えるかもしれないことと、今の身体で魔法が使えないとなれば他の方法で身を守るしかないということ。ならば何で身を守ろうかな、と考えていれば、ふいにロッテがとんでもない事を呟いた。

「それにしもても体内外の全ての魔力を遮断、ですか…」

 恐い体質ですね。というロッテに「何で?」と返せば、少し困ったように彼女は答える。

「“魔法”とは創造主の意思を反映して、魔力に形を与えたものです。だからいくら“魔法”という形を取っていても、元は魔力の塊でしかありません。魔王様の体質はそれらを全て無効化してしまう能力があるわけですね」

「…簡単に言って下さい」

 ちょっとそこ、ため息吐かない。仕方ないじゃないか、俺はそんな魔力とか無い世界から来ているのだから、いきなり色々説明されても脳が処理しきれない。

「つまりはですね、魔王様には魔法による攻撃、および魔力を使用する攻撃は効きません」

 魔力を纏った物理攻撃は別で、物理攻撃だけは通用しますが。そう言って、ある意味魔王様の身を守るには最良な体質かもしれません、と続けた。そりゃそうだ、魔法が効かないなんてそんな人外染みたスペック、早々あるはずも無い。攻撃なんて、物理さえ防げたらほぼ無敵ってことじゃないか。

 …これは思いもよらぬ方向で身を守るものが決まったな。剣や槍、弓などで攻撃されるとしたら、使い勝手が良く身を守りやすい武器での戦い方。



 ―――――――剣技くらいしかないじゃないか。






 果たして叉名は魔法が使えるようになるのか否か。

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