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2/―Ⅱ


 今回はガイジ(保護者)から見た皙の話。番外に近い。


 だから短いです><






「――――――坊主?」


 話していた声が徐々に小さくなって、とうとう完全に聞こえなくなった。それを背中に感じながら馬を操っていたガイジは、ふと背後の荷台を見る。

 坊主、と彼が呼ぶ少年は荷台に積まれた藁の上に寝転がって、眠っていた。一応それ売り物なんだがなァ。と、ぼやきつつもガイジは少年を起こそうともせず、王都へ伸びる道筋を辿る。

 眠る少年の顔は、穏やかであどけないものだった。目が覚めていると、解けることの無い無意識な警戒のせいで少年の美麗な顔立ちが険しく見える。しかしこうして眠っていると、やはり少年が子供なのだということをガイジは再認識していた。

 ―――――二ヶ月前、森の中で雪に埋もれて死にかけていたのを拾った少年。セキと名乗った彼は、目を覚ましたその日に言った発言どおり、世界の知識というものを一切知りえていなかった。

 無知、というのとも違う。少年には“考える”という能力が確かに備わっているし、それならば周囲のものだけで大抵のものが理解できるだろう。しかし実際に彼は何も知らず、極当然として扱われている常識さえも驚いてみせ、そして好奇心がそそられたのか基本的に無表情な顔を輝かせた。

 ……モノを知れる環境に無かった? 否。少年は世界の常識は知らないが、それ以外の教養は受けているようで、一般庶民よりもずっと高度なそれから考えれば、そんなことはありえない。

 ……そもそも彼は何故雪の中で死にかけていた?

 逃げ出した?

 捨てられた?

 はぐれた?

 …何もわかりはしない。当人であるセキも自分の状況が良く解っていないらしく、何らかの事情があるならそれらしくしろ、とついカイジが呟いてしまうほどに無防備で危機感が無い。警戒はしている癖に楽観的なのか、のほほんとしている姿は小動物を思わせた。そしてそんな彼を放って置くことが、何だかんだでお人よしだと回りに称されるガイジが出来る筈も無く、こうしてここまで面倒を見てきているのである。

 決して二ヶ月という期間は長くは無かったが、ガイジは確かにこの少年を気に入っていた。……旅に出ると言われ、最初の行き先が王都だと聞いた途端、わざわざ後回しにしていた仕事を最優先に予定を組み替えるくらいには。

「それに、黒髪……か」

 そう呟きながら、ガイジは少年と、少年が言っていた少女のことを思い出す。

 この国にはあまり黒髪の人間は居ない。それも瞳まで黒い“双黒人”と呼ばれる彼らのような人間なんて、珍しすぎて高値で奴隷売買され、買われた後も飾りとして大切に扱われるほどである。一部では魔王を思わせる色からか嫌悪する者も居るようだが、実際魔王とも魔族とも何の関連性も無い突然変異だと証明されているので迫害されるほどでもなかった。

 ……ただし、狙われる。

 先ほども言ったように、双黒は高値で取引される。他国は兎も角、法で奴隷売買が禁止されていないこの国には、奴隷商人がいるのだ。だからガイジは珍しい色を持つこの少年に身を守る術を教えてきたのだが……余りにも危機感が無さ過ぎて心配なのである。

 はぁ、と一つ吐くため息。背後から「おばひゃんのごひゃんはおいひ……」ともう何を言っているのかも分からない寝言が聞こえ、苦笑する。そして黒髪といえば、と街で聞いた新しい噂を思い出した。噂、と言っても情報屋の間でまことしやかに流れているものであるが。


 ―――――魔族側がどうやら新しい魔王を召喚したらしい。


 前魔王が勇者に倒されて50年。そろそろ新しい魔王が就任するだろうとは囁かれていたが、どうやら次代魔王の継承で相当揉めていたらしく、人間側としてはすっかり油断していた。しかし魔王の右腕を務めていた四天王が痺れを切らしたらしく、魔王となる者を召喚するという形で納得させたらしい。そして二ヵ月ほど前に召喚されたらしいのだが……その噂ではこう囁かれていた。


 ―――――召喚された魔王は、黒い髪と瞳を持った幼い少女だそうだ。


 誰が見た、とかそういうことは不明のため信憑性は皆無なのだが、ガイジはもしかしたらこの話は真実かもしれない、とそう思っている。何故ならば少年の話を思い起こせば、新魔王である少女の特徴が…少年の語るものとぴったり一致するのだ。……しかも少年が現れた時期と召喚された時期も重なると来た。

 少年が実際魔王であるその少女と関わりがあるかどうかは不明であるのだが、なんとなく、と言えばいいのか。ガイジはきっとそうなのだろうと納得している。

「黒髪だけじゃぁなく色々面倒がありそうだな、坊主は」

 ぼつり、また一つ呟かれた言葉。

 呆れたような口調で面倒くさそうにそうガイジは言ったが、髪を手で撫で付けるその顔は、小さく綻んでいた。





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