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 ―――――真白の雪が、広げた手のひらに降り注ぐ。



 身の芯から凍えるような寒さのせいか血の気の無い小さな唇から漏れるのは、温かみの感じられる白い白い吐息。小さく身を震わせて、彼は首に巻いているクリーム色のマフラーで口元までを指で隠した。


「……寒いな、せき

 思わず、と言ったように呟かれた低い声に、僕は何処かおかしくなって苦笑を漏らす。

「うん、確かに寒いよね。3月なのにこんなに寒いって言うのは、やっぱり地球温暖化のせいなのかなぁ?」

「あー、このままだったら氷河期来るって言われてるんだっけ? …そしたら俺、5秒で凍えて死ぬんだろうなぁ」

「いやいや、もうちょっと頑張ろうよ」

 特に意味も無い他愛の無い会話をしながらただ、僕達は帰路を辿る。積もりきらない微妙な雪のせいで、何時もよりずっと寒い。いっその事積もってしまった方が暖かくなるのに、なんてぼやいた所で意味の無い事を呟いた。

 彼―――海神わだつみ叉名さなは、僕の幼馴染みである。

 『幼馴染みにしては仲良すぎ』とか良く言われるが、物心も付かない頃から一緒に家族同然に育ち、互いの癖や性格、性癖も理解している相手である。家族愛なら兎も角、恋愛感情なんて欠片も発生するわけが無い。

 ……というか、恋愛対象ってないわー。誰が好き好んでこんなへんた「今なにか全てをぶち壊しにするようなコト考えてないかなっ!?」…うるさい、地の文に突っ込むような人外染みたスキルをここで発揮しないでよ。

 ふぅ、と小さくため息をつく。

 しかし何故、叉名は僕が考えていることが解るのか。…あ、さっき自分で考えてたじゃん。癖とか性格とか解っていれば、そりゃそれくらい理解できちゃうね。

「流石幼馴染み」

「いきなり何の話かな!?」

 話しかけるなら会話をしようよ…とため息混じりに言う叉名であるが。忘れてはいけない、先に僕に話しかけてきたのは君であることを!

「……えーっと、真に聞き辛いんだけど。出来れば言わずに置くべきだろうし俺としても無視しておきたいんだけど、でも幼馴染みとしては聞くべきだと思うから聞くよ。……そのドヤ顔は、何なのかな…?」

「それだけ言い辛そうに申し訳なさそうに引き伸ばして言うってことは、本当に心の底から僕に引いているんだね!!」

いっその事直接言ってしまえよ! と膨れっ面で叫べば、はいはい可愛い可愛い、と適当に流され歩調が合わず置いていかれた。

 苛立ちとか恨み言とかが色々内で燻ぶり始めるが、取り合えず一つ。


「―――――僕を置いてくな、誤魔化すな――――っ!!!!」


 雪は儚く脆い白さを持ったまま、僕らへと降り注ぐ。塞がれる視界は何かの予兆のようであったが、そんなことに気づく筈も無く、先を歩いてゆく叉名を追って走っていった。

 息を切らしてやっとのことで追いつけば、余裕が在るのか立ち止まって僕を振り返り微笑む、幼馴染みの笑顔。待ってもらってやっと追いつくとは、どれだけ体力が無いのか、と自分に突っ込みを入れつつ、足を止めて荒い息を整える。

 ある程度治まって顔を上げれば、意地悪そうな叉名の顔。やけに整っているそのムカつく顔に拳を入れようとしたが、身長が足りなくて断念した。っいや、これは別に僕が身長低いわけじゃなくて、こいつが高いだけなのだ。……畜生、身長縮めっ。

「全国の身長が低い皆々様に謝れ!」

「…どうして俺は俺自身にはどうしようもない理不尽なことで怒られているのだろうか。…というか、皙は身長とか気にしなくていいと思うんだけど。だってほら、


 ……女の子って小柄な方が可愛いじゃん?」


 ――――――え、もしかして僕を男だと思ってた読者とかいるの? 失礼な、どっからどう見ても隙の無い美少女ぶりですよーっだ!

 …あ、自分で考えながら悪寒がしてきた。僕が美少女とか有り得ないですね、ほんと。冗談でももう言うのは止めよう、自分の精神衛生に関わる。あと、自尊心。

「小柄な方が可愛い? 小さな女の子が可愛いんでしょ? 流石、ろりこ「そのはなしどこまで引っ張るかなぁ!?」叉名うるさい、近所迷惑」

「誰のせいだと「う・る・さ・い」…はい、了解今すぐ黙ります」

「よろしい」

 突っ込み体質なのは仕方ないとしても、急に叫ぶその癖は本当にどうにかすべきだと思う。確かにさっきからついつい無意識に幼馴染みの性癖を暴露しそうになってはいるが、別に聞いている人も居ないのだから、変態性のひとつやふたつ、口に出してもよいではないか。

「…ねぇ?」

「今俺は何を問われているんですか? 答えによっては俺の信頼性に関わる気がひしひしとするんですが」

 何があったのか、疲れたように問い返してくる叉名。何があってそこまで疲労しているのか甚だ疑問であるのだが、優しい幼馴染みはこれ以上傷に塩を刷り込むような心無い真似はしないのだ。あえて聞かないことにする。

 …あそこで欝のように呪文みたいな言葉を唱えてる叉名? 無視しといていいよ、そのうち自力で復活するから。

「チッ、残念イケメンめ…」

「不意打ち来た!? え、何で。今全然それ系なこと一瞬たりとも考えてなかったよね!? 何でいきなりその台詞が口から出てくるのさ!!」

「あ、ごめん。ついつい何時もの癖で本音が…」

「何時もそんなこと思ってたの!?」

 驚きもどうやら一入だったらしく、仰け反るようなオーバーリアクションで応える叉名。…なにそれ面白い。

「でさ、叉名」

「何?」

「……どうして復活したの?」

「え、復活して欲しくなかったの…?!」

 意外な事実。しかしそれは叉名だけだ。

 と、まぁ閑話休題それはともかく

 肩を並べて(と言っても身長の差が大分有るが)歩く僕達は、そんなやり取りを経て、道路を挟んだ向こう側に家が見えるところまで到達する。

 僕達の家は幼馴染みのセオリー道理に隣り合っているので、必然的に叉名の家も目視することが出来るわけだ。そしてその叉名の家に一人の男性が入っていくのが遠目に見え、「おじさん、出張から帰って来たみたいだね。おばさん喜ぶだろうなぁ」と僕がそう言えば、「じゃあ今日は皙ん家と合わせて鍋パーティーかな」と叉名は苦笑した。

 鍋パーティー…甘美な響きだ。叉名のお母さんである刹那おばさんは、現在は給食センターで働いているが昔は大手の旅館に勤めていた調理師である。そんな彼女の料理は絶品で、寒いなかの鍋といったら……考えるだけで涎モノだ。

「早く帰ろっ」と歩道橋の階段を駆け上がれば、「そんなに急ぐな…ほら、こけるぞー」と後ろから有り難くないお言葉を頂く。それに「大丈夫だよー」と、のっそり階段を上がろうとしているであろう叉名に答えようとした瞬間、後ろから驚愕したような声が聞こえた。

「うわっ、何だコレ!」

 不意打ち同然だったそれは、僕を驚かせるには十分で。慌てて叉名を振り返ろうとした僕の足は縺れ、バランスを崩す。そのまま正面から落ちようとした僕の目と、縋るような叉名の目が交差した。

 互いに、意識もしないまま極自然に、僕達はお互いに向けて手を伸ばす。

 叉名の足元に広がるのは、記憶を軽く掠めるだけの、見覚えの無い円形と文字の並ぶ複雑な文様。それに若干の疑問を持ちながらも、落ち続ける事実は変わらなくて。

 手が届く、そう、多分お互いにそう思ったと同時に、掴もうとしたその手が、通り過ぎた。


『え……?』


 それは、どちらが発した声だっただろう。もしかしたら、二人同時に言ったのかもしれない。けれどやっぱりどっちが発したかの区別も良く付かなくて、意識が一瞬真っ白になった。

 そして、頭や身体がぶつかり合う、鈍くて思い衝撃。上か下か右か左か白か黒か、視界も気持ち悪いほど歪んで、訳がわからなくなって、意識が混濁する。

 ……嗚呼、思い出した。

 叉名の足元に広がっていた、見覚えは無いのに何処かで見たことがあるような文様。あれは確か、友人に借りた漫画に大分違うけれど似たような物を見かけたことがある。確か名前は―――――魔方陣。

 それも、あの複雑さからして召喚用のものではないだろうか。

 それがどうして叉名の足元に広がっていたのか。と、次に思考が行き着くのはその疑問。…確かに、幼馴染みは色々なことに精通しているステータス持ち、ハイスペックである。

 しかし、しかしだ。叉名はどこかの王道のように鈍感属性を持ち歩いていないし、馬鹿ではあるが正義の味方、というような性格でもない。そんな彼に勇者が務まるか?

 しかも一緒に帰っていたのはチートな脇役少年でも、復讐心のある脇役主人公でも、快楽主義者な親友君でもなく、少しS気があるだけの普通な少女であるところの僕である。そんな叉名が、まさか召喚されるなんて――――――――…

 そこまで考えて、答えにたどり着かないまま、僕の意識は闇に落ちた。起きようとした身体がやけに重く感じたその理由さえ、考えようともせず。





せ「―――と、いう訳で始めちゃいました連載」

さ「続けられる筈もないのにね」

せ「全くだよね、作者の執筆中作品見てみな? 投稿したくせに削除して、ネタばかりの墓場になってるから」

さ「…なんでこの作品、途中で飽きると知りながら投稿してんの?」

せ「連載書く練習だってさー」


「「こんな作者ですが、よろしくです」」


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