六
無言さんは部屋の隅にあるデスクへ歩み寄り、中から紙の束を取り出す。
「これが今回の作戦の資料だ」
「ありがとうございます」
渡された資料をぱらぱらとめくりながら、記憶していく。
「ここの地図って、いつのものですか?」
「帝国が一番最後に発行したものだ。街に落ちていた旅行雑誌から模写した」
「そうですか」
口調が堅苦しい。無言さんは本当にオレ達の事を信用していないようだ。
資料を置き、こちらも預かってきた資料を差し出す。
「これはオレと千夜の事が詳しく書かれた資料です。本人すら知らない情報も載ってると言われ、見てもらってわかるとおり、封を開けていません。この資料に書かれている内容は本来門外不出のもの。そして、オレ達二人に資料の内容を教えるか否かは無言さん、あなたの自由だ、と伝えるように言われました」
「……ふん、なんとも大公らしいやり口だな」
「全面的に肯定します」
早苗さんらしいが、やり方が汚い。当の本人にこんなことを言わせるなんて、協力しないと潰すと暗に言っているようなものだ。
オレから渡された資料を置き、無言さんは再びソファに座る。それをみて、同じようにオレもソファに座った。
「やれやれ、小僧達を信用しないと、俺の命が危ないようだな、クソッ」
「安心して下さい。オレも千夜も裏切ったりはしませんから」
まだ命は惜しい。
そんなオレの気持ちを汲み取ったようで、無言さんは苦笑いをする。
「――さて、俺は小僧達の秘密を知ったわけだ」
「秘密って程ではないと思いますけどね」
「あいつがここまでさせるんだ。それ相応のものだろう」
過大評価し過ぎですよ、と。オレが言う。
過小評価し過ぎだ、と。無言さんが言う。
結局、どっちもどっちなのだろう。
「で、知ったからどうしようと言うんです?」
「俺について、少しだけ話してやろう。誰にも言っていない事実だ」
すぅ、と。
空気が緊張する。
唾を飲み込み、姿勢をただす。