アザレア
いつもより年齢が高めの主人公ですが、精神年齢はいつもより低めです(笑)
1.
「寒い…」
慌てて手元のブランケットを手繰り寄せて縮こまる。
秋になり、肌寒くなってきたので布団なしでは眠れない。
こんなに可愛い大事な奥さんが寒がっているのに、隣にいる旦那の大地は背中を出していびきをかいている。
うるさい。実にうるさい。
眉間にシワを寄せながら、大地の背中にも毛布をかけてあげて少しだけ溜め息をついた。
2.
私と彼は、中学生の時の同級生だった。
始めはサッカー部のくせに色気がなくて無駄に声と身体がでかい奴と思って相手にしなかったんだけど、体育の授業中にケガをした私を楽々と保健室に運んでくれて
「鈴ちゃんを運んでいいのは俺だけでしょ?」
なんて笑顔で言われてはい!堕ちました。
その時から交際を始めて、高校を卒業してすぐに結婚したんだけれど、お互いのことを知り尽くしていることもあるし、大地の仕事が忙しいこともあって最近きちんとした会話をしていない。
いつも主導権を握る強気な私だけど、本当は寂しいのに。気づけバカ。目の前の広い背中を睨みながら、私はいつしか眠りにおちていた。
3.
数時間後に、目覚まし時計のベルの音で目覚めた。
起き上がりすぐに横の大地を確認すると、珍しく彼は目覚めていた。
「おはよう」
一言かけると大地は無言で私に抱き着いてきた。
「どうしたの?」
昔から変わらない笑顔で彼は「おはよう」と返事して、理由を話さなかった。
「変なの〜」
照れ隠しで笑いながらキッチンに移動する。
今日は大地の好きなハンバーグと卵焼きをお弁当に入れてあげよう。
大地は朝早くから仕事だけれど、私は昼から仕事なので午前中はゆっくりできる。
大地を見送った後、家事を一通り終えて私も仕事先へ行く準備をする。
今日の大地は朝からいやに機嫌がよかった。そんな彼の笑顔を思い出して、私も機嫌がよくなる。
今日は帰りが早いって言ってたから久しぶりに豪華な夕食でも作って二人で食べよう。
4.
仕事先についた途端、職場の人に「鈴ちゃん機嫌いいね!」と言われてしまった。
どうやら無意識のうちに鼻歌を歌っていたみたいなのだ。いい歳こいてなにをやってるんだと焦ったけれど、
「その調子で接客がんばってね!」
なんて言われたらもっと笑顔になっちゃう。
仕事が終わった後、夕食の買い出しに出かけた。
夜まで大地の機嫌がいいと嬉しいな。今日は久しぶりに二人でご飯を食べれるから、朝考えていたように豪華な夕食にしちゃおう。
豪華な夕食と言っても、大地は肉を出しておけば喜んでくれるしなぁ。彼の笑顔を思い出して、思わずまた鼻歌を歌い出してしまい、近くにいた試食販売のマネキンさんに笑われてしまった。やっぱり私って大地より単純!
5.
食材を選ぶのに手間取ってしまい、いつもより家に帰るのが遅れてしまった。
玄関を見たら大地の靴があるから彼はもう帰宅していることがわかり、慌てて「お腹すいたでしょ!?」とドタドタ家の中に入っていくと、大地がソファーでうたた寝をしていた。
今の仕事を成功させたら出世できるかもしれないって言っていたから、本当に疲れているんだろう。
彼の寝顔を久しぶりに見たらなんだか安心してしまって、布団をかけてあげてからほっぺにキスをしてあげた。
大地が起きる前に、自称豪華な料理を作ってあげよう。
6.
お気に入りの鼻歌を歌い、もうすぐ夕食の出来上がりってところで大地が目覚めた。
「鈴ちゃんおかえり〜」
目を擦りながら良い匂い〜ってつぶやく大地の髪はすごいことになっていて、思わず私は笑いだした。
「寝癖ひどいよ!あとスーツも着替えてこないとシワになるよ!」
大地はにこにこしながら着替えに行って、私はその間に食卓に料理を並べた。
「あーこの匂いはグラタンと鶏肉のソテーだね!」
大地の相変わらずでかい声が聞こえる。嗅覚鋭いなオイ。
「そうだよー!早く戻っておいでー!」
「はーい」
スーツからスウェットに着替えるのに、いやに遅いなと思っていたけれど、戻ってきた大地を見て私は絶句した。
「なんでスーツからスーツに着替えたの?」
7.
大地は声と身体はでかいけれど、少し天然なところがある。
寝ぼけてやらかしたなって思って、私はまた笑いだした。
「大地…また着替え−−−」「鈴ちゃん。」
私が話し終わる前に大地は真剣な顔で私の顔を覗きこんできた。
「なに?」
まだ笑いが止まらない私は、大地の目を見て彼が何やら真剣な話があることに気づいた。
「鈴ちゃん、今日は何の日でしょうか?」
今日?
ぱっと日付を思い出せなくて、カレンダーを見る。今日は11月22日。
11月22日!?
「け、結婚記念日」
なんということ!今更思い出して、私は顔面蒼白になる。
そんな私を見て、今度は大地が
「俺ね、ケーキ買ったからご飯食べた後ケーキも食べよう」
と寂しそうに言った。
あーだから朝から機嫌がよかったのか!
妻としてこっちがやらかしたわーと思い、私はしょんぼりしながら夕食を食べる箸を進めた。
8.
夕食中、大地が何度も
「最近きちんと話してなかったから忘れるのもしょうがないよ!」とか「今日の夕食が豪華だから、それだけでも嬉しいよ!」とか励ましてきて、いたたまれない気分のままケーキを食べた。
このケーキは、前にテレビで映ってて食べたいって私が騒いだケーキだ。
そんな些細なことまで覚えてくれてる大地をちらっと見ると、まだ何かにやにやしていた。
「何よ」
「ほっぺにクリームついてる」
クリームをごしごし取りながら
「なんだか今日は大地に負けた気分だわ」とつぶやくと、大地は満面の笑みで足元に置いていたらしい花束を取り出した。
「可愛い花!」
思わず見とれていると、大地はこほんと咳ばらいをして
「今日で付き合って10年。結婚してから5年記念日です。この花束をあげる」
私の腕を引っ張って、花束を持たせる。
なんだか感動してメッセージカードを見ると
【アザレア→あなたに愛されて幸せです】
涙が止まらなかった。
やっぱり私って大地より単純!
「私も同じ気持ちだよ」素直にそう言って、久しぶりにしたキスの味は少ししょっぱい味がした。
久しぶりの執筆でしたが、いかがでしたでしょうか?
誤字、脱字、感想なんでもお待ちしています。