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リナリア

1.


「暑い!!!」


 そう叫ぶと私の額からは汗が垂れ流れ、隣にいる幼なじみは少し慌ててかばんからノートを取り出して、パタパタ仰いで私に風を送った。


「なんで慶は汗かいてないの?」


「んー夏が好きだからかな?」


そう言って穏やかに微笑む顔に余計イライラして、私は無言で歩き始めた。


 私は、すぐに日に焼けて肌がヒリヒリするし、動かなくても暑い夏が大嫌いなのだ。


「里奈ちゃん、そんなに暑いならかき氷食べに行かない?今日お祭りあるんだよ」


「かき氷!!!」


その一言を聞いて、一瞬で機嫌が直る私は本当にゲンキンだと思うけれど、お祭りのあの喧騒も嫌いではない。



2.


 祭の会場に付いて真っ先にいちご練乳味のかき氷を慶に買ってもらった私は、それはもう上機嫌だった。


「里奈ちゃん、おいしい?」


にこっと笑いかけてくる慶に頷き、奢ってもらったお礼を言おうとすると、たまたま近くにいた同じ学校の友達が私達に気がついた。


「里奈ちゃんまた慶くんといるの!?デート?」


「そんなんじゃないよー。ただかき氷食べに来ただけだって!」


「お似合いだけどなぁ」


「まさかー!」


女子独特の会話に、慶は入ってこれないようだった。

やはり学校の制服姿のまま祭に来ると目立つのか、と少し反省して、気恥ずかしさを紛らわした。



3.


「ごめんね」


 友達と別れて、すぐに慶に謝られたので意味がわからなかった。


「何が?」


「里奈ちゃん、ああいう風に冷やかされるの嫌いでしょ?」


慶はどうやら、私の機嫌がまた悪くなることを心配しているようだった。


「かき氷くれたし、別に大丈夫」


 私は思わず笑ってしまった。わがままな私は、友達が多い方ではないし自分の悪い所だと自覚している。

そんな私のことをなんで心配しているんだこの人は。

そう思って慶を見上げたら、


「あ、金魚すくいやりたい?」


目の前にある屋台の金魚すくいをしたいから見られたと慶は勘違いしたようだった。今更お礼を言うのも恥ずかしいからとりあえず頷く。



4.


 自慢ではないが、私は自他共に認める不器用ガールである。


3つ目のポイに穴を開けてから、屋台のお兄さんは1匹サービスしようか、と提案してきたがそんなお情けの金魚なんか欲しくない。


悔しくて慶を見上げたら、隣にしゃがんで小さな赤い金魚を狙い始めた。


「わっ、難しいね!」


2つ目のポイに穴が開いた慶は、笑っていた。

勉強も運動もできる彼にもできないことがあるのかと驚いたけれど、2人して1匹も釣れないなんて。

金魚すくいは諦めることにしたが、私達は家に帰るまで笑いあっていた。



5.


「里奈ちゃん、おはよう」

 高校生にもなって、私は朝が苦手なので慶に起こしにきてもらっている。


「うぅーおはよ」


「里奈ちゃんに良いもの持ってきたよ!」


寝起きで声が掠れている私とは違い、慶は朝からテンションが高かった。


「良いもの?」


目を擦りながらなんとか慶の方を見ると、慶は小さなブーケを持っていた。


「駅前の花屋さんにあったんだ。リナリアっていうんだってさ」


「リナ?」


「里奈ちゃんの名前が入っているし、しかも別名がヒメキンギョソウっていうんだよ!」


寝起きの頭に、早口の慶のセリフはあまり入ってこなかったが昨日金魚すくいに失敗したから、金魚に似た花を買ってきたということがなんとなくわかった。


「じゃあ、早く着替えて学校に行こう」


いつも通りの穏やかな笑顔で私の頭を撫でる慶を部屋から追い出して、私は制服に着替えて髪をとかしながらリナリアを見た。


確かに、金魚のしっぽのような形をした小さな花が可愛らしい。


「ん?」


花束をまとめているゴムの先に紙がくっついているのを見つけた。

どうやら、花の名前が書かれているようだ。



『リナリア(別名:ヒメキンギョソウ)』


 ポップ体の文字が可愛い。

慶は男一人で花束を買って、恥ずかしくなかったのか。


花屋の店員さんとのやり取りを想像して微笑ましく思ったのも束の間。

紙の下の方にさりげなく書かれていた花言葉に、私は思わず制服姿のまま枕に顔を埋めていた。






【花言葉

リナリア→僕の恋に気づいて下さい。】

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