チューリップ
毎日毎日「好きだ!!!」 と言われ続けて、いい加減にしてほしいと腹を立てる主人公とそんな態度を取られてもなんのその!でなかなかへこたれない一途な男の子の物語。
ちなみにその男の子は、『カーネーション2年後』に出てくる橋本歩の弟、橋本郁の設定です。
時と場所を考えずに、主人公に愛を伝え続ける郁とツンツンした態度で断り続ける主人公。
そんな彼らは周りから見たら…?
まさかのラスボスが存在します(笑)
1.
私は、中学3年生の女子にしては身長が高くて大人っぽい外見をしているし、何かと冷めている性格だった。
だから、高校生や大学生にナンパされることにも慣れていたし、それをあしらうことにも慣れていた。
そんな中、同じクラスの橋本郁という男子は私に対して今日も懲りずに言う。
「お前が好きだ!!!」
2.
またか。
今年初めて同じクラスになってから、実は入学式の時に一目惚れをしていたのだと告白されたので、この光景はいつものことなのだ。
しかし、クラスメイトがいようが学校の中だろうが関係なく言い寄ってくるので、私は恥ずかしくて仕方がなかった。
「いい加減にしてよね!」
「私は、優しくて背が高くてお金持ちのイケメンがいいの。あんたなんか願い下げよ」
首を横に向けて、冷たく言い放ついつも通りのこの流れ。
4月から毎日毎日言い寄ってくる郁は、ナンパをあしらうように振る舞ってもなかなかへこたれることはなかった。
3.
学校から帰って、友達の結衣をファストフード店に呼び出す。
『いい加減、郁とのこの関係を断ち切らないと』と思い、私は結衣に相談することにしたのだ。
「郁がしつこい」
ファストフード店独特の、氷で薄まったジュースを飲みながら愚痴を言うと
「見てて微笑ましいけどなぁ。毎日郁くんの話聞くしさぁ」
結衣は私の横顔を見ながら答える。
「毎日毎日しつこいから郁の愚痴を言っているだけよ。いい加減早く諦めてほしいわ」
ずずず、と音を立てて一気にジュースを飲み干し、いらつく気分のままポテトに手を伸ばす。
へにゃんと曲がるポテトに余計いらいらして、一気にかじりつく私の横顔を見たまま結衣は、
「たしか、橋本くんの家って花屋さんだよね?」
とてものんびりした口調で話し、少し間を置いてから
「…いいこと思いついた!」
と満面の笑みを見せた。
4.
「お前が好きだ!!!」
翌日も、郁は懲りずにやってきた。
そこで、昨日の結衣が思いついたという作戦を実行することにした。
**********
「ほら、花屋さんの息子なら花言葉とか詳しいんじゃない?」
結衣の癒し系な満面の笑みを思いだす。
「たしか、赤いチューリップの花言葉って【望みなき愛】だったよ!」
**********
「これが私の気持ちよ!」
私の答えをやっと言うことができた。
そう思い、目の前で子犬のようにくりくりした瞳で見つめてくる彼に、赤いチューリップをあげた。
5.
『やっと懲りたかしら?』
勝ち誇った笑顔で郁を見たら、顔を真っ赤にして固まっている。
「…マジで?」
「なによ」
上目づかいでこっちを見てくる郁はやっぱり子犬みたい、なんて思いつつ、昨日と同じ満面の笑みで拍手をするジェスチャーの結衣が見えてしまった。
「結衣…?」
「うーん…照れてるだけで、嫌がってるわけでもないから焦れったくてねぇ?」
赤いチューリップの花言葉が【愛している】そして、黄色いチューリップの花言葉が【望みなき愛】であると知ったのは、郁がにやけながら私に抱きついてきてからだった。
「端から見てたら両想いなのはバレバレだったよ〜」
なんて、いつも通りのんびりした口調で話す結衣の言う通り、一途で無邪気なこいつのことを実は意外と好きなのかもしれない、と気づいてしまって私もチューリップのように赤面してしまった。
結衣に騙されたのには驚いたが、自分でも気がつかなかった私の気持ちに気づき、確かに郁との曖昧な関係を断ち切ることができたのだ。
結衣は私より遥かに大人だった。