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カーネーション2年後

『カーネーション』の2年後の話です。


主人公の名前が判明いたします。


通学路にあった花屋の息子で、後輩の橋本歩(はしもと あゆむ)との、新たな物語。

1.


 私は、今も彼が最期にくれた白いカーネーションを持っている。


 正確に言うと枯れたら嫌だったので、押し花にして加工して、しおりとして持ち歩いているのだ。


 依が亡くなった後も彼のことが忘れられなくて、私は涙をたくさん流した。


 私は高校を卒業した後も、通学路にあった花屋に通っている。

依がこの花屋によく通っていたという話を、後から依の母親に聞いたからだ。




2.


「はなにらさんこんにちは!」


 花屋で依の月命日に手向ける花を選んでいたら、いきなり声をかけられた。

白い歯を覗かせて、無邪気に笑いながら声をかけてきたのは、この花屋の息子の橋本歩だ。


 橋本は、私の母校の高校に通う3歳年下の後輩だ。

 授業中に倒れて亡くなった依の死は有名で、それを知っている彼は、最初は私を哀れむ目で見ていた。


 しかし、ある日いきなり


「貴方の名前はなんていうんですか?」


と声をかけてきたのだ。


 家でも学校でも、私は人と話すことはなくなっていたので、そんな陰気臭い私に声をかけるなんて物好きな奴だと思ったのと同時に、少し嬉しかったのも事実だ。




3.


「花村あかりといいます。」


 橋本の目を見ずに、そっけなく答えた私の声は久しぶりに人と話した緊張からか、掠れていた。

だからかわからないが、


「はなにらさん?ですか?」


橋本はよくわからない聞き間違いをしていた。

なぜ、村をニラと聞き間違うのか。


私は、久しぶりに笑顔になった。


「はなにらさん、笑うと可愛いですね!」


橋本は、今と同じ笑顔を見せていた。




4.


 それから、私は週に3回はこの花屋に顔を出すようになった。


 花を見ること、花の匂いを嗅ぐことが私の心を落ち着かせる。

 そして、何も考えずに話ができる橋本に会えるのを、楽しみにしていたからだ。


「はなにらさんは、前と比べたら明るくなりましたよね」


 橋本は、2年近く通う私の名前を、断固として覚えない。


「はなにらじゃなくて花村よ!」


いつも通りちゃんと訂正をしても


「はなにらさんは、はなにらさんですよ」


そう言って、また白い歯を覗かせる。


 この脳天気男は、私のことをなぜか「はなにら」と呼び続ける。理由はわからないけれど。




5.


 ある日いつものように花屋に行くと、


「はなにらさん、じゃのめ菊っていう花を知っていますか?」


橋本が、私の顔色を伺うように聞いてきた。


「じゃのめ菊?普通の菊とは違うの?」


 私は、花は好きだけれどそこまで詳しくはなかったので、橋本に質問を投げかけた。

橋本は、なぜかほっとしたように笑って少ししてから小さな花を持ってきた。


「これが、じゃのめ菊です。」


 まるで小さなひまわり。

第一印象はそれだった。


「はなにらさんにあげます。」


 橋本は、私にじゃのめ菊を握らせてから、思い出したように小さな紙を渡してきた。




6.


 その日は橋本と特に会話をするでもなく家に帰った。


 2年近く花屋に通い続けて初めてのことだったので、私は驚いていた。


 橋本は、私にじゃのめ菊を渡して何がしたかったのか?そして、じゃのめ菊と共に渡された紙。


 家に帰る前に気になって、小さな紙を広げてみた。


「はなにらさん。よかったら、じゃのめ菊の花言葉を調べてみてください。」




7.


 家についてから遺品としてもらった依の花言葉の本を開く。


そして、じゃのめ菊について調べようと目次を見るとじゃのめ菊よりも先に「はなにら」というページが目についた。


「はなにら?」


橋本が私を呼ぶ名前。


 私は、まずはなにらの花言葉から調べることにした。



【花言葉

はなにら→悲しい別れをしたね】



 すごい。まさしく私のことだ。

橋本も、初めて名前を聞いた時にはなにらと聞こえて、ピッタリすぎるこの名前にさぞ驚いたことだろう。



 そして、じゃのめ菊についての花言葉を調べて、私は目を見開いた。


【花言葉

じゃのめ菊→でも俺だけを見てよ】


 依が亡くなった時に私の涙は枯れたと思っていたが、あの時とは違う感情の涙が流れてきた。


 『依、私生きていくよ。

貴方の後を追って死にたいと何度も思ったけれど』


 私は、意外と泣き虫なんだと思いつつぐしゃぐしゃの笑顔のままこれからも先へ進んでいこうと思った。

 依のことは今でも大切だけれど、橋本のおかげで前向きに生きていくことができたあかりちゃん。


 依は、空の彼方で笑って見つめてくれていることでしょう。

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