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ダンスなんて出会い系だよ! step3

 ジン、レベル1。

 クラス、ソシアルダンサー。

 VS 灼熱のバーニンたかし、レベル28。

 クラス、Breakin'。


 【CoM】のダンスアリーナ、予約状況を示すブッキング掲示板に映る次の対戦カードは明らかに不釣合いなのだろう。

 どうみても勝負にならないレベル差。しかもそれなりのチームリーダー対ニュービーのペーペー。どんな因縁が? バトルになるのか? しかもソシアルダンサーって? そのクラス、実在したのか……。死にスキル乙。あんなクラスマジでキャラメイクするやつがいるとは思えない、つまりバーニンたかしが経験値稼ぎのために捨てキャラを調達してきたに違いない。ポールダンサーと並ぶピーキーなスキルがマニアにはたまらない云々。おい聞き捨てなんねーなポールダンサーイケてるって、いやいやだって柱がないと戦えないってどんだけ! やんのか! おう受けてたってやる! バトルスタート! しまった柱がない!

 と多少のいざこざはあれども、基本的には全てダンスで解決というのが不文律らしく、あまり険悪なムードは見られない。

 パリっとしたタキシードに、原色まだら模様、極彩色のネクタイを締める。

 ネレイアからひとつだけ借りた、『舞器』(ブキ)。


「アクセサリ部位装備舞器ブキ『シルクのソレイユ』。【パッション】が少しだけあがりますから、今のジンでも多少は踊ることが可能なはずです」

「とはいえ、とてもかなうとは思えませんが。このレベル差では普通」

「大丈夫です。勝機は存在します」

「ネレイアさんだって、さっきは絶対勝てないって、笑ってた……」

「勝機がなければ、あなたを推薦することはないでしょう」


 相変わらず無表情で。

 

「そりゃあ、さっきの打ち合わせ通り、チームバトルでネレイアさんが戦って、僕は端っこでリズムだけ取っておく、というようなパターンであればいい勝負はできるかもしれませんが」

「チームバトルではありませんよ」

「げ! ……いや失礼。いや、なんで? 勝てるわけないでしょー……ですよね」


 また、ニヤリと笑われた。目が笑ってないのが怖い。


「そもそも、ひとりで、社交ダンスで、一体どう踊れっていうんですか! 勝てるっていうんなら、どう踊れば勝てるのか、教えてくださいよ!」


 思わず、声を荒げてしまう。

 さっきみたいな無様なことはイヤだ。みっともない。紳士とはもっとスマートで、優雅で、かっこよく、それで……。


「……私には、ダンスのことはわかりませんが」

「そんなはずは」

「私には【パッション】がない。だから、最小限の動きしかできない。それでも、勝つ方法はあります」

「それは……」

「あなたは、ダンスを知っているはずです。だから、踊れる。私には完璧なリズムしかない。あなたには、なにがある?」

「僕には……」


 習ったことを完璧にこなす能力か? そんなもの、ネレイアの完璧なリズム取りには遠く及ばない。自分で完璧とかいっちゃっても全然嫌味にもならない。それくらい一目でわかるくらいには、練習を積んできたつもりだ。

 ダンスのキレ? そんなもの、【パッション】とやらが少ないこの体では思うように発揮できるものだかどうか。

 わからない……わからない……。頭を抱える。ダメだ……ダメすぎる……。女性に乱暴な言葉づかいとかもダメだし……

 学校の屋上でのことが思い出される。

 いや、ダメじゃないこの程度。みっともない、恥ずかしい、あれ以上ダメなことがあるか? ない! 断言できる。ダンスバトルだっていうのに立ちすくんでまったく動けなかったことはどうだ? 大したことない! あれに比べれば全然ダメじゃない!


「わからないけど、とにかくやってみます」

「ええ、行きましょう」



--------------------------------------------------------------------


 ちょっとした格闘技の競技場のような、二階観客席に囲まれたステージ。

 灼熱のバーニンたかし陣営のチームメンバーを始め、友人知人のプレイヤー、あとはこのスーパーハンデマッチに単純に興味を惹かれたやじうまだろうか。結構アリーナ観客席は人が入っており、相変わらず小競り合いなんかも発生して熱気に包まれている。

 なんだか、懐かしい。

 あのころはこんなに雑然とはしていなかったけれども。

 ダンスで他人と競う。白熱するギャラリー。いまはジンの応援団はたったひとり。


「OKメーン、よくビビらずに来れたもんだぜHey、ひとりで社交踊れんのかNey?」

「……わからない」

「Oh……ガッカリさせんなよちょいとオマエがオマエ don't know ったらオマエ殿はどちら殿 y'know? どうせDanceなんざ出会い系エンタなんで女の子と巡り合って女の子巡って戦いあってOK? Oh yeahってもんじゃね?」

「バカな……そんな気持ちでダンスに取り組むなんて不純だ」

「ガール&密着な社交ダンスの不純さ、っつーとしょっぴかれんじゃねーっての Hu巡査さーん?」

「……社交ダンスをバカにするなよ」


『Dance Battle... Ready?』


 言葉では埒があかない。

 灼熱のバーニンたかしは姿勢を低くし、腰から上半身を捻って構える。

 装備フェイズ。ジンは首に「シルクのソレイユ」を装備する。大丈夫、40度の熱があるみたいに体は重いけど、これで動ける。バーニンたかしもチェーン、ベルト、サングラスなどを取り出し、既につけていたサングラスと取り替える。

 

「失礼、たかしさん?」

「灼熱のバーニンたかしだっつってんだろうが」


 律儀に返答を返すバーニンたかしに、思わず笑みがこぼれる。


「……僕はやっぱりダンスが好きだ。イヤイヤやってたときもあったけど、バーニンたかしのダンス、熱かった。派手で、荒っぽいけど、どんだけ練習したんだ? っていうくらいのエネルギーがあって。ネレイアのダンスだって、ダンスがわからないひとのダンスじゃない。キレイで、繊細で、クリスタルのような。緻密で、工芸品みたいで。どっちも、感動した」


 あまり、感情を揺らすのは紳士的ではないと思っていたが。


「感動したっていうか、正直羨ましかった! なんで僕は踊れないんだ、動けないんだ、足が動かなくて、なんで! なんで参加できないんだって、悔しくて、悔しくて、でも……紳士たるもの、悔しいとかマイナスの感情は持つべきではないって思い込んでた」

「Do you どうしたやぶからぼうに Ya!」

「……いや、なんでもないけど、感謝してるってことです」


『Battle... Start!』


「今度は、一人だけでは踊らせませんよ!」



--------------------------------------------------------------------


 およそ5分のダンスバトルが終了した。

 もう、体は動かない。

 ダンスに対する情熱があれば体は動くっていうから、途中から真の情熱に目覚めて本来のキレを取り戻すのかなー、なんて甘い考えがなくはなかったけれども、やはりそんな都合のいい話はなくて。


「テメー……俺を当て馬に、But 当て牛にしやがったってことか……」

「とんでもない暴れ牛でしたね……いやもう、疲れた……」


 ひとりでは社交ダンスはやっぱりできなかった。

 だから、ジンはバーニンたかしをパートナーにみたてて踊ったのだ。ラテンダンスの中で唯一、男性リーダーが主役となる踊り、「パソドブレ」で。モチーフは「闘牛」。

 ヒントはネレイアのダンス。相手の荒々しさをも吸収して自分の力とする踊り。そこに「絶対に勝つ!」という意思、闘う意思を生のまま込めた。

 

 序盤はバーニンたかしのダンスをよく観察した。エネルギーに溢れた動き。全身の筋肉の躍動。両足を振り回す動きはまるで猛牛の二本の角のよう……。

 そこからはパソドブレだ。パートナーと組み合わなくても踊ることができる振り付けばかりを選んだ。次にバーニンたかしがどんな動作をするのか必死で読み取り、リズム感、押し引きの呼吸が食い違わないように振り付けを必死でチョイスした。

 『二人で踊ること』。それがジンの出した結論。自分のダンスの長所。二人でないと踊れないのではない、二人で踊ることに特化した能力。


「ジン、お疲れ様です。見せてもらいました、あなたのダンス」

「ネレイアさん、ネクタイありがとうございます、なんとか……」


 ネレイアが悠々と傍らに立つ。バーニンたかし陣営も、チームメンバーがわらわらとバーニンたかしの周りに駆け寄ってくる。サングラスのまなざしは一様にジンを睨みつけているようにも見える。それも当然か、彼らのチームリーダーを暴れ牛扱いして、あしらってみせたのだ。いい感情があるわけもない……。


『Results!』


 結果が発表される。

 灼熱のバーニンたかし……正確性:28、芸術性:45、印象性:67。

 ジン……正確性:16、芸術性:85、印象性:67。


「勝った……! 勝った!」

「やりましたね」


ウォォォォォォォォォッ


「こいつはマジか…… like a magica……」


 沸き立つアリーナ。採点を見上げるバーニンたかし。

 バーニンたかしのチームメンバーたちが、顔を真っ赤にしてジンに突っ込んでくる。まさか報復……? もう一歩も動けないぞ?


「う、うわ……ちょっと」


 バーニンたかしを除いたグラサンの一団は、地面に座り込むジンの襟首を引っつかむと、無理矢理立たせ、両手首を握りつぶすかのように持ち上げ、拘束した。


「いたいいたいいた、いたいたい、ちょっと、あの、やめて、すいません」

「うるせえ! あんなクールなダンサーがよ……ダサいこといってんじゃねぇ!」


 パーン!

 掲げられたジンの手を、平手で叩いていった。

 ハイタッチ。


「最高だったぜ!」 パーン

「ザコ扱いしてすまねえ!」 パーン!

「やりゃあできんじゃねえかボーイ!」 パーン

「バーニンたかしが芸術45点も取ったの初めてだぜ! ありがとよ!」 パーン!!


 そして最後に、ゆっくりと立ち上がるバーニンたかし。いや、ダンサー『灼熱のバーニンたかし』。荒い息をつきながら、無言でジンの前に立つ。


 パーン!!!!!

 バーニンたかしの鍛えられた右手がジンの手のひらを打った。


「いってぇ……ッ」

「……帰るぞオメエら! 今日はあとチーム練10本! そう俺たち……」

「「「最強! 灼熱Burnin'Crew'z!!!!!!」」」イェアァァァァ ヒャッホォォォゥィ


 そのまま、バーニンたかしはチームメンバーを引き連れてアリーナを去っていった。ジンとネレイアはふたり、その黒尽くめの集団を見送って。どちらともなく、顔を見合わせた。


「ジン、これが『出会い』というものですね」

「出会い系、じゃなくてね」


 バーニンたかしのダンスを隅々まで観察して、味わって。長所に圧倒され、それでも勝つために短所を探り、そこにつけこんだ。でも、だからこそわかったこともある。

 大技に賭けるバーニンたかしの信念。それを支える上半身のボディバランスとパワー。特に腕力。そのために練習量が犠牲となったであろうステップワークの弱さ。それが全てバーニンたかしの歩んできたダンス人生と練習量、ダイナミックな技でみんなを魅了したい、派手好きでサービス精神旺盛、でも細かいことは嫌い、というバーニンたかしの内面を表しているかのようで。


「ジン、これだけのレベル差のバトルに勝利したのですから、レベルアップしているはずです。舞器を外してみて、体は動作しませんか?」

「あ……本当ですね、一気にレベル3になってる」


 簡単なタンゴのステップを試してみる。体は相変わらず重いが、ネクタイをネレイアに返した後でもなんとか体は動く。覚えている通りに。


「ジン、なかなか運動効率のよい体捌きをしていますね」

「そんな褒められ方したことないですが……こう見えても結構大会ではいいところまで」

「私は、ありとあらゆるダンスを知りたい。次回また、社交ダンスを教えてもらってもかまいませんか?」

「いや、それは。……僕なんかではちょっと力不足ではないかと」


 ニヤリ。

 目は笑っていないネレイアの口の端が、くいっと軽く釣り上がる。その手には、極彩色のネクタイがひらりひらり。


「ジン、私は一方的に借りを作るのは嫌いですが、一方的に貸しを作るのはもっと嫌いなのです」

「ぐ……」

「さっき『僕は大会では結構いいところまでいっててねハハン』と言いました。それを聞いての判断ですから、恐らくジンはそれなりに上手いものと予測されます」

「聞いてるし……」


 BEAT/rythmation システム内でのフレンド登録を行い、メッセージ交換可能な関係に。フレンドリスト隣のコンタクトリストには対戦履歴。そこには灼熱のバーニンたかしの名前も残っている。

 【CoM】中心地、クラブマーキュリーの休憩所で横になり、ログアウト手順を実行する。



10、9、8。だんだん、意識がなくなります……。


(バーニンたかしにも、また今度……連絡してみるか……)


7、6、5……あなたは元通り目を覚まします……


(ネレイア、変わった人だ……でも教えないと……なにからやろっかな……)


4、3……



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 自分専用のパーソナルターミナル端末からメールをチェックしながら、室内にAR投影された本棚、机を叩いて教科書、ノート、携帯を学校指定の革鞄に放りこむ。それから忘れないように『社交ダンス初歩の初歩』。本棚から検索してカバンに入れる。『アレの初歩の初歩』とかいう名前でデータベース登録してあるからなんの本かと思ったぜ……危ない危ない。

 松葉杖を確認しながら、チェックするメールはどれもこれもスパムスパムスパム。「当選しました!」「あなただけに秘密の」「リベンジ依頼:オマエに負けて以来オレマジイライラーイラーイ」削除削除おっと保存。クローゼットから吐き出されてくる制服とカバン。カバンの中身は最低三回は見直すのが僕のクールなポリシー。オーケーメーン、ちゃんと社交ダンス入門書がカバンの中にメーン。ラップというのは本当によくわからない。


「うわ……キモッ。シンプルにキモッ」


 半開きの扉から妹の茶々がつぶやく。まぁ、わからなくはない。今日はなんだかそんな気もする。


「トモダチがいないからしょうがないぜマイシスター」

「えっ……何認めてんの、キモすぎ……」


 毎朝の、儀式だと思っていたけれど。



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「紳士ー! おはよ!」


 本日も通学路で合流するウォーキングひまわり。クラスメイトの佐波アミさん。


「おはよう」

「お、松葉杖ウォーキングながら読書とはなかなかハイレベルな……え! ジンくんジンくん、その本、社交ダンス再開するの? 足、治った?」

「いや、ちょっとね、勉強だけでもしておこうかと」

「げ、なんかジンくん、変……?」


 わざとらしく後ずさるアミ。そんなになにかいつもと違うだろうか?


「変とゆーか、普通すぎて、なんかつまんない……」


 そうかな? そうかもしれない。

 常に紳士っぽく振舞いたいという気持ちは変わっていないけれど。それよりも、自分の紳士さだけを大事にするんじゃなく、相手のことを知る、知って行動を合わせる、というのも結構楽しい。ただ用意されたパートナーと用意された振り付けを踊るのではなくて。その楽しさを知ってしまったからだろうか。


「最近、真の紳士とは、みたいなことについて考えてるからかな」

「し、真の紳士! なにそれ、興味あるあるある!! もしかしてあれ? 紳士留学とかしちゃってイギリスの真・紳士学校とかでSランク紳士とかってバッジ貰っちゃうと紳士の中の紳士を更に超えた紳士、ゴゴゴ真・紳・士! なん、だと……紳士の『紳』の字が『神』になっている……ドドドみたいなそういう社会制度があるんですか!?」


 よくよく見ているうちに、わかってきたことがある。

 アミさんは、話しかけてはくるけれど、僕という人間に興味があるわけではないのだ。「紳士」を自称する変わった生き物に興味があるだけなのだろう、たぶん。紳士学校かーすごーい絶対先生は全員ロマンスグレー! ヒゲ! ハンケチを忘れた者は廊下に立ってなさいモナムー……! とかはしゃいでいる彼女からすると僕なんかは眼中になく、単に僕から出てきた「紳士学校」というキーワードに興味があるだけ。

 変に意識して紳士ぶっていた空回りな自分。くるくる廻るアミを冷静に、軽い笑みとともに眺めながらジンはつぶやく。バカだ、僕は。とんだバカ紳士だ。


「じゃ、ジンくん、またね!」

「また」


 軽く手を上げてアミを見送る。

 カバンにしまっていた『社交ダンス初歩の初歩』を取り出し、ページをめくる。

 タンゴがいいかな、それともサンバ? ネレイアの姿勢のよさをイメージしながら、10種類のダンスをあれこれ思い浮かべる。やはり第一印象のワルツだろうか……?

 笑ってしまうくらい青い空。本を閉じたジンは、ひとりで校門をくぐる。



 大丈夫。僕は、変われる。



10年以上前、一緒にキャラクター原案を練ってくれていた友人たちに感謝します。

あの頃を思い出しながら、その後の成長全て乗っけて、せっかくなので空想科学祭2011に参加しました。


見ててくれますか?


「全然ちゃうもんなっとるやんけ!」


そういうものですね。

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