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第10話 盗賊村長


 ドアが開くと、宿の婆さんがお盆を持って入ってきた。


「お夕飯ですじゃ」


「わーい!」


「腹減ったッスよ~」


 さと子とボウズはさっそく料理の前に陣取り、俺は「ありがとな」と声をかける。


 婆さんはペコリとお辞儀をして部屋を去った。


「パンとシチューッスか。まあ、携帯食よりマシかなぁ」


 そうブツブツ言いながらもシチューをすするボウズ。


 俺もいただくとする。


「むっ……」


「玲斗さま?」


 なるほど、これは……睡眠薬か。


「うっひょー! このシチューうめえッス……ぐーZzzz」


 対面のボウズが見事にひっくり返った。


 遅かったわ。


「たしかにコイツはウマい。なあ、さと子」


「にゃ、にゃ……」


 ちなみに俺にはこの類の薬は効かない。


 鴉丸家の修業では、あらゆる毒を毎日少量ずつ食して耐性をつける……なんてこともフツーにやってたからな。


「うーん、なんか眠たくなってきたなあ……」


 俺はさと子と目を合わせながら横になった。


 すると、言いたいことが通じたらしく、さと子も「にゃーン」と言って横になる。


 妖怪であるさと子も、人間用の睡眠薬など通じるはずがないのだけどね。


「ぐー」


「……」


「ねむねむニャンコだにゃーん……」


 こうしてしばらく横になっていると、ドアが開いた。


 薄目を開けて見ると案の定、婆さんではなく、先ほどの四人組である。


「くっくっく。よく眠っていなさる」


 赤ら顔の中年が笑う。


 痩せた瓜顔がボウズをつつきながらいった。


「問題ないようだな。ちょうど村長がお帰りだ。オレは報告してくるから、そいつらを牢屋へぶち込んでおいてくれ」


「おう」


 瓜顔は去った。


 残るは小柄坊主と、無精ひげ大男と、赤ら顔中年の三人である。


「やれやれ……モヒカンは炭鉱奴隷かな?」


「だろうな。いいガタイだから高く売れるだろう」


「猫耳はそういう趣味の貴族に高く売れるだろうが……こっちの男はなあ」


「安いだろう」


「銅貨1枚ってところだな」


 言いたい放題いいやがる。


「よし、運ぶぞ」


 そう言って赤ら顔の中年男が寄って来た時。


 俺はコイツの奥襟を取り、そのまま背後へ回った。


「な……!」


 同時に、さと子は大男をネコパンチでノックアウト。


「うっ! うぐぅ……」


「ニャニャーン!」


 驚きおののく小柄な坊主頭。


 さと子はそのまま小柄坊主の背後へ回り、首根っこを捕まえた。


「な……なんだオマエら!」


「眠ってなかったのか!?」


 意識があるのは二人。


 でも、一人いれば十分だな。


 俺はポッケから催眠用の護符を取り出して、「ほら、これを見ろ」と後ろから中年の男の前に差し出した。


「ひい、ふう、みい……」


 数秒で、中年は目を回してその場に倒れ込んでしまう。


 彼のポッケにナイフが入っていたので、そいつをスっと抜いてみる。


「さあ。案内はオマエだ」


 俺はひとり残ったチビ坊主へナイフを向ける。


「ひッ、ひイ……」


「今度はインチキ宿じゃねーぞ。ボス……いや、村長ってヤツのところへ案内しろ」


 ◇



「こ、ここですぜ……」


 チビ坊主は、村のはずれの家の前で立ち止まった。


「ここに村長ってヤツがいるんだな?」


「……へえ」


 よく見ると、他の家よりも柱も太く、頑丈そうだ。


 俺はチビ坊主に猿ぐつわをし、両手足をふん縛って転がすと、家の窓からそっと中を覗いた。


 暖炉に火が灯り、趣味の悪い虎の毛皮の絨毯が敷かれた部屋が見える。


「村長。冒険者どもを捕らえましたぜ」


 さっきの痩せた瓜顔の男だ。


 ヤツの前には、スキンヘッドに傷のある男が座っている。


「そうか。よくやった。女戦士ライラは?」


「へえ。牢屋で寝てましたが、先ほど目を覚ましました」


「よしよし、連れて来い」


 スキンヘッドに命じられると、瓜顔は部屋を出て行った。


 しばらくして戻ると、ヤツは鎖を引いていて、後ろから手枷、足枷を嵌められたライラがやってくる。


「くっ……どういうことだ? 手錠を外せ! 誰だキサマは!」


 金髪を振り乱して暴れる女戦士。


 スキンヘッドや瓜顔、そして周りの連中は、「ケッケッケ……」と愉快そうにほくそ笑んでいた。


「申し遅れました。ワシはここの村長をやっておりますガイゼンといいます」


「村長だと? 村長が何故こんなことを……?」


「クックック。この村も、元は普通の村だったんですよ。かなり過疎が進んでほとんど人は住んでいませんでしたがね。しかし、数年かけてジワジワと移住者が現れましてな。今では百人弱の人口まで盛り返してきている」


「それがなんだ」


「気づきませんか? その移住者が、すべて盗賊だったのですよ……お前が探していた、な!」


 村長のガイゼンは慇懃な態度をヤメ、「がはははは」とスキンヘッドを光らせた。


「そ、そんなことが……」


「ふふふ。オレたちも、宿屋の婆さんもグルさ。メシに眠り薬が入っていたんだよ」


「……くっ。卑怯者!」


 瓜顔の男に噛みつかんとするかのように暴れるライラ。


 村長はそんな彼女の顎を無造作につかみ、言った。


「くくくッ。いかにお強いライラさまだろうと、その手枷足枷は魔法封じの魔道具だ」


「なんだと!?」


「強化魔法を使えない女戦士に、鉄の枷を引きちぎる力はあるまい。このままおめえは奴隷市送りよ。が……まあ、とりあえず今晩はオレたちが遊んでやるとするか」


「ひゅー」


「さすが親分!」


 ライラを囲んでいく盗賊たち。


「やれやれ……」


 外から眺めていた俺は、ため息をつく。


 だいたい状況はつかめた。


 もういい。


「これくらいかな……?」


 俺は霊力を魔力に変換する。


 ライラまで巻き込んでしまったらイヤなので、コントロールして……


 衝撃魔法を放った。


 ――どん! バキ……メキメキ、バキイイ……!!


 衝撃で、村長の家の太い柱が折れ、壁がひしゃげ、窓枠が吹き飛び、屋根が大きく傾いた。


 一瞬のうちに半壊である。


「やりすぎですニャ(汗)」


「いけね……」


 でもまあ、角度的にライラは無傷なはず。


「ひー!」


「な、なんじゃこりゃあ」


 一方、盗賊どもが半壊した家から外に出てくる。


「よお。ご苦労さん」


「何だキサマ!」


「あ……てめえらは! 眠っていなかったのか!?」


 瓜顔の男が俺とさと子に気付いた。


「くそ、てめえの仕業だな? 野郎ども、出て来い!」


 ――ピイイイ……!


 同心が吹くような甲高い音の笛が鳴る。


 すると、他の家からも一斉に盗賊が出て来た。


 百人弱はいるか。


「観念しろ!」


「いやあ、すまんすまん」


「ぁあ!?」


「今さら謝っても遅えぞ!」


 なんか勘違いしているようだ。


「すまんが殺してしまうかもしれない。コントロールがまだ難しいんだ」


「へ……?」


 衝撃魔法。


 一発で二十人ほどが吹っ飛ぶ。


「な、なな……」


「……そんな」


 こりゃ便利だ。


 霊力では人を殺傷できないからな。


 でも、やっぱりコントロールが難しい。


 死んじゃいねえだろうが、ニ、三人、腕や足がひん曲がったヤツがいる。


「でも、先ほどよりはコントロールできていますニャ」


「マジ?」


「はい。イイ練習になりますね」


 セーラー服のリボンを揺らしてほほえむさと子。


「じゃあ、ここは俺に任せてライラを頼む」


「ニャ」


 さと子は返事をすると、ネコのように素早く走っていった。


「よし、もう一発……」


 衝撃魔法。


 今度はもっとコントロールできて、十人ほどが倒れたのみだった。


 次は七人、その次は四人だ。


 よしよし。


 だんだんコントロールのコツがつかめてきたぞ。


「怯むな! ヤツの魔法の威力が減ってきているぞ」


「疲れているんだ!」


「かかれー!」


 なんかまた勘違いして突っ込んでくるけど。


 バカばっかだ。


 しょうがねえなあ。


 次は十人ほどでコントロールして、少しビビらすか。


 そう思った時である。


「動くんじゃねえ……!!」


 ドスの効いた声が村に響く。


 振り返ると、盗賊村長ガイゼンがこちらを睨んでいた。


 ヤツはスキンヘッドを光らせ、ライラへ向けてナイフを突きつけている。


「レ、レイトさま。私にかまうな!」


「黙ってろ! ケケケ……降参しな。女の顔に傷が入るぜ?」


「やれやれ」


 俺はため息をついて言った。


「オマエは自分の立場がわかっていないな」


「あ?」


 スキンヘッドの表面に、ツツーと汗が滴る。


 そう。


 盗賊村長ガイゼンの喉笛に、さと子のナイフのような爪がかかっていた。


「俺の式神だよ。オマエのナイフが髪一本ライラに近づけば、その喉笛から血が噴き出ることになる」


「……わ、わかった。わかったよ」


 ガイゼンの手からナイフがこぼれた。


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