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アンノウン  作者: ラウス
8/21

殺人はいけません

長らくお待たせしました

「殺人っていけないことですよね」

「……代理人、何だいきなり……」

「いえ、唐突に思いついたんで。ほら、あのジャックっていうのが以前自分を殺人鬼と称したでしょう」

「ああまあ……アタシも人を殺したことはあるけど、殺人はいけないことだろ」

「ところでリリスさん、今まで何人ほど殺しましたか?」

「細かくは覚えてないけど大体千人くらいかな」

「そうですか、私は六十億人くらいですかね」

「嘘だろ」

「さてね」




*****




 ランド村の村長、ジョック・ハリスワードは久々に夜の道を歩いていた。


 散歩、というわけじゃない。件の魔獣騒動について色々村の長として始末があるのだ。


「全く……あのバカ息子め、少しは手伝わんかい!」


 小声で叫ぶ。ランド村の夜は早く、皆もう寝付いているからだ。


 ジョックは眠たそうに欠伸をし、目をこする。


 今日はもう早く帰って寝よう。そう決めて、歩く速度を速めた時、



 ――チリィィインっと、透き通るように綺麗な鈴の音がした。



「……? なんじゃ?」


 夜遅くに鳴った鈴の音を不思議に思い、音の鳴った方向を見た瞬間。



 ――ジョックの額に小さな穴が開いた。



 それは小さな小さな、直径二センチにも満たない穴。

 しかし、額に開いた穴はジョックの命を奪うには十分すぎるほど大きな穴だった。


 しばしの静寂のあと、ただの肉塊となりはてた元ジョックは静かに地面に倒れた。




*****




「やあカズマ、昨日ぶりだね」

「……よぉ【絶望神デスペイアー】、出来れば逢いたく無かったよ」


 そいつはいつもの格好で、いつもの笑顔で、手に漫画本を持って自分の前に現れた。


「連れないこと言うなよ、トモダチだろう?」

「友達じゃねぇよ」

「トモダチだよ、その証拠に君は僕に敬語を使わない」

「……友達じゃない、親友だ」

「シンユウ……やめろよ、照れる」


 照れると言いながら、そいつは顔を赤らめない。笑顔から、表情を変えない。


「ところでカズマ、僕今百二十五回目の絶望を味わってるんだ。慰めてくれない?」

「早いな……昨日百二十四回目の絶望を味わったとか言ってなかった?」

「僕は【絶望神】だからね、絶望を味わうのも絶望から立ち直るのも慣れてるのさ」


 ついでに絶望を与えるのもねー、っとそいつは全く表情を変えないまま言う。


「ところでさあ」

「ところでさあ」


 そいつと自分は、同時に声を出した。互いに互いを、指差して。


『アンタ誰だ?』




*****




 代理人、起床。


「……何だ? 今の夢……」


 まあ意味不明な夢は置いとくとしよう。もう内容も大半を忘れたし。


 寝巻にしてた桃色のシャツを脱ぎ、黄色いシャツを着る。


 今日はいつも通り宿の朝食を食おうか、それとも久々に何処か別の食事処に行こうか……。


 しばらく考え、結局いつも通り宿で食べることにした。


「……? なんか騒がしいな……」


 二階から降りると、ガヤガヤと騒がしい喧騒が聞こえた。


 今は大体午前六時くらいだ、こんな時間から喧騒が聞こえるとは……珍しいな。


 っと、代理人が思いながら外に出ると、めちゃくちゃ人が集まってた。


「な……なんですかコレ?」

「代理人!」


 代理人がうろたえてると、人ごみを掻きわけてリリスがやってきた。


 続いてリリットや宿のおばさん、リオとスズがやってきた。


「村長が、殺された!」

「あ、そう」


 何だそんなことか、と代理人は欠伸をし、宿に入って行った。


「ちょ……! 待てよ代理人! 死んだんだぞ? 殺人事件だ!」

「だって、そろそろ死ぬと思ってたんですよ、誰かが」

「……は?」

「私のいる世界で私の身近の人物で誰かが死なないことはありえない、時期的にそろそろだと思ってましたよ」


 まあ村長が殺されたのは想定外でしたが、と代理人は無表情で言う。


「それに……私は代理人、誰かの代わりの人間です。誰でも無いけど誰にでも成れる、そんな人間です」


 代理人の顔は後ろ姿のため見えない。


「私は、私には成れない」

「そんなこと……」

「あります」


 リオが絞り出すように言った言葉を遮るように代理人は断言した。


「――誰でも、嫌いな人間の真似はしたくないでしょう」


 代理人の言葉に一同は押し黙る。


 そんな中、リリットが口を開いた。


「じゃあ、僕から依頼します、代理人さん、実は僕村長を殺した犯人探ししようと思ってたんですけど代わりにやってもらえませんか?」

 リリットのセリフに、代理人は薄く笑う。


「そうですか、仕事なら仕方ありません。犯人に絶望を味わらしてあげましょう」

「お願いします」


 リリットは笑いながら言う。

 本心では、村長の仇を討ちたい代理人は見透かしたように。


「あ、ただし報酬はもらいますね」

「ええいいですよ、幾らですか?」


 そうですね、と代理人は顎に手を当てる。


「肩たたき券でお願いします」


長編スタート

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